「灯台もと暮らし」も参加・運営する、暮らしをもっと楽しむためのコミュニティ「SUSONO(すその)」では、毎月イベントをおこなっています。

4月下旬には、「ほぼ日刊イトイ新聞」を主宰する糸井重里さんをゲストに招き、トークセッションを開催。聞き手はSUSONOを運営している作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さんです。

前編はこちら:働くことのおもしろさはキャッチボールにある─糸井重里×佐々木俊尚が考える「働くこと」(1/2)

プレゼンテーションは本当に必要なのか?
ひとは8時間も集中して仕事をし続けられる?

「働くこと」の常識を、二人の視点からいま一度見つめ直した本イベント。

後編は、明日から役立つ「生産性を高めてチャンスを掴む」ためのヒントを載せています。

犬や猫とひとが親しくなる写真投稿アプリ「ドコノコ」や、「SUSONO」。糸井重里さんも佐々木俊尚さんも、現状にとどまることなく、「やってみる」を続けてきています。

佐々木俊尚 糸井重里 SUSONO イベント

僕らも、まずはできることから糸口をつかんでいきましょう。

時間をかければ「価値のあるもの」ができるわけではない?

糸井重里(以下、糸井) 働くことを、みんなは人力で水車を回すようなことだとか、封筒の宛名貼りをすることみたいな、「時間をかければ生産量が増えること」って思い込んでないですか。

佐々木俊尚(以下、佐々木) 時間単価の業務ということですね。

佐々木俊尚

佐々木 俊尚(ささき としなお)

1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。著書に『新しいメディアの教科書』(ちくま新書)、『多拠点生活のススメ』(幻冬舎plus+)、『広く弱くつながって生きる』(幻冬舎新書)など。電通総研フェロー。SUSONO運営。総務省情報通信白書編集委員。東京長野福井の3拠点を移動生活中。

糸井 商品の生産に組み込まれた労働が価値だという「労働価値説」を、額面通り採用しているわけです。

そうやって生産したものが市場に出たときに、売れずに余っちゃったら、倉庫に残るだけ。時間をかけてできるものの価値って、本当はあまりないんですよね。

糸井重里

糸井 重里(いとい しげさと)

1948年生まれ。コピーライター。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。広告、作詞、文筆、ゲームやアプリの製作など、多岐に渡る分野で活躍。1998年にウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設してからは同サイトの活動に全力を注いでいる。近作に『思えば、孤独は美しい。』など。

佐々木 何が売れるかって、そもそもわからないですよね。事業計画を立てて物をつくっても、売れないケースのほうが多い。

結局倉庫を圧迫するだけで、自分で自分の尻尾を食って生きながらえる構図になっている。

糸井 つまり、開発にかかった自分の給料分を稼ぎ出せていないこともあるわけで。

佐々木 そうですね。

糸井 ひとは自分の努力を時間で測って「仕事をしたんだ」と安心したがる。だから、あることについて「10日間考えたんだ」って言うと、仕事をした感じがするんだけど、考えただけじゃあ仕事になってないわけです。

10日間考えただけで何も形にしていないひとは、その会社に居候しているようなものですよね。

でも、なんにも考えていないのに急に思いついた商品が当たったりする。これはラッキーだったものに食わしてもらってるわけじゃないですか。

佐々木 ええ、そうですね。

糸井 やっぱり「時間を売る」という、商品としての「時間」が成立しちゃったから、時間をかければ生産性が高まると、勘違いしているんだと思うんです。

ここに集まっているのは、クリエイティブなホワイトカラーの方ばっかりだと思うんですけど。

ホワイトカラーのひとたちがどのくらい労働時間を無駄にしているかっていうのも、もう答えがあるんです。なんだと思いますか?

佐々木 なんでしょうか。

佐々木俊尚 糸井重里 SUSONO イベント

糸井 プレゼンテーションですよ。つまり、アイデアを出すのに必要なコストの8倍くらいの時間と頭脳を、プレゼンテーションに当てているんです。

アイデアの全部を人気の出るものにしようとして、プレゼンテーションして、いくつも案を出して、ダメだったらまた出して。

根性がないとか、マーケティングが足りないとか言って、今度はマーケティングのお金までかける。それでも結局、できあがるものの多くは普通なんです。

一般的な会社でも、部長の決裁を得るためには、相手を説得するためのデータも含めて集めてこなきゃならないわけです。

「こういうデータを用意しておけ」とか、「これ調べたんだろうな」っていう。一週間のうちの8割くらいはそういう仕事をしてるんじゃないでしょうか。

佐々木 (参加者のなかに)うなずいてるひともけっこういますけれども。

糸井 ちょっと手を上げてください。そういう気がしますっていうひと。

会場 (手を挙げる人、多数)

佐々木俊尚 糸井重里 SUSONO イベント

佐々木 多すぎないですか(笑)。ありがとう。

本気の仕事ができる「4時間」とは

糸井 例えばぼくが今、佐々木さんとしゃべってるのは、正直に言えば遊びです。自分が言ったことにうなずいてくれるって、セックスみたいなものじゃないですか。

佐々木 気持ちいいですもんね。

糸井 で、ほかにテレビを見ているだとか、誰かとメールしてるだとか、映画を観ているだとか、歩いている時間が欠かせないわけで。人間の脳がずっとアウトプットできるわけじゃないですから。

そういう意味では、尊敬できるタイプの気のおけない友達としゃべってる間は、生産量はないんだけど、ものすごくインプットしてる。じつは仕事だか遊びだかわからない時間になっているんですよ。

佐々木 たしかに、いろんなアイデアが湧いてきたり、ヒントもらったりとか。

糸井 相手に対するアウトプットにもなっているし。そのコミュニケーションというのは素晴らしい時間だと思いますね。

本当に仕事をやっている間以外の時間を、インプットとアウトプットをしながら、遊びとして使えるかどうかっていうのは大事ですよね。

佐々木 仕事と遊びと分けるのが間違いで、「しそび」みたいな、別の言葉をつくったほうがいいんじゃないでしょうか(笑)。

糸井 実際にぼくは、1日の仕事の時間は、本気でやったら3、4時間以上できないと思うな。佐々木さん、どうですか。

佐々木 糸井さん、すごい鋭いことをおっしゃったと思っていて。僕の仕事の中心は執筆の仕事で、書籍の原稿に向かうんだけど、なかなかすぐには取りかかれないんです。

だいたい3、4時間くらいは本を開いてみたりとか、景色を眺めたり、気が向いたら急に散歩に行ったりだとか、あれこれやって、ようやく書き始める。

ほんとうにキーボードを叩いているのは、おっしゃるとおり3、4時間がせいぜいですね。それ以上、集中が続かない。

佐々木俊尚 糸井重里 SUSONO イベント

佐々木 かといって他の時間に「打ち合わせを入れていいですか」と聞かれると、「いやいや、打ち合わせを入れたら、緊張が途切れちゃうのでできないんですよ」って話をするんだけれども。

糸井 いわゆるホワイトカラーの仕事をしている限り、本当のクリエイティビティを発揮できる3、4時間を確保するために、残りの時間があるんでしょうね。

8時間つくり続けられない。だから、目標は低く。

佐々木 ベンチャー経営者だとか多くのひとが、すごい高い目標をつくっちゃうじゃないですか。そんなに高い目標を立てたって「無理だろう」とか思うんだけど。

でもやっぱり、「目標は高くあらねばならない」という抑圧は、いまの日本社会にけっこう大きいんじゃないかと思っていて。

糸井 昔、宮藤官九郎さんと対談みたいなことをしたときに、「あなたはいいねぇ、目標が低くて」って言った覚えがあるんですよ。

佐々木 普通、誉め言葉じゃないですよね(笑)。

糸井 でも、彼はその都度目の前にあることをやって、今があるわけで。責任感があってものを考えているひとは、目標がどんどん低くなると思うんですね。

だから、とにかく今できることで糸口をつかむところから始めればいいんです。

佐々木俊尚 糸井重里 SUSONO イベント

佐々木 なるほど。失敗しながらもいろんなことをやってみて、そこから拾い上げるという考え方は、すごい大事だなって思います。

僕はこの10年なんでもいいからすぐに手を出して、やってみてうまくいきそうならそのままやり、これはちょっと無理かなと思ったら、やけどしないうちに手を引くということを繰り返していて。

気がついたら100のうち90くらいは失敗してるかな。でも、たまにうまくいくのがあって、それでメシを食えているんです。

糸井 サケの卵ではないのだから、うまくいくものは何万個もいらないと思うんです。

ある程度芽がでているなというものを見つけたら、その芽を自分たちはどう育てていきたいのか──どれくらいの市場規模の仕事になるかという考え方も、ひとつの価値の表し方ですけど、一方で、それほど儲からないけれども、ものすごくいろんなひとが喜びそうだなっていう仕事も、ひとつの価値なんです。

そういう芽がでてきているなら、それはやったほうがいい仕事だと思いますね。

佐々木俊尚 糸井重里 SUSONO イベント

 

前編はこちら:働くことのおもしろさはキャッチボールにある─糸井重里×佐々木俊尚が考える「働くこと」(1/2)

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文・写真/小松崎拓郎