8月7日、東京に、日本各地から地元の名産品を持って、地域の猛者たちが集まってきました。
彼らが集結したのは「ふるさと甲子園」というイベント。全国から満を持して、とっておきの逸品が一堂に会する、ちょっとしたお祭りです。その数、55団体で約100種類! 有名どころもあれば、初めて聞く名前のご当地グルメまで、よりどりみどりです。
全国から、人気の映画・ドラマの「ロケ地」55団体が大集合!当日は、世界に誇る「わがまち自慢」「ご当地グルメ」「特産品の販売」を通してふるさとをアピールし、一般来場者の皆様の投票で「行きたくなったふるさとNo.1」を決定します。(ふるさと甲子園公式サイトより)
甲子園、という名のとおり、各地域のお国自慢をしながら、自分たちの自前の素材を生かした食をアピールし、しのぎを削ります。そして、来場者たちは、どのグルメが一番だったのかを投票でき、最終的な「行きたくなったふるさとNo.1」を決定するという催し。
ご当地キャラや、三重県津市のクイーン、クイーン淡路、など各地のべっぴんさんに加え、町役場の方々総出で東京に乗り込んできているブースもありました。
応援するなら「静岡県」、でしょ?
ここまでたくさんあると、どれを応援しようか迷ってしまいます。ぜんぶ食べ比べて「推しメン」を選ぶのは、胃袋がいくつあっても足りなさそうなほどの充実ぶり……。そこで、もとくら編集部を代表して、この記事を書いている立花実咲の出身地・静岡県を勝手に応援しようと決めました。
静岡県は、東京から1時間と少しで行くことができ、日本一の霊峰富士がそびえ、海と山に挟まれた自然も豊かな土地。初代B級グルメチャンピオンの「富士宮やきそば」や、「ヤマハ株式会社」や「株式会社タミヤ」など、ものづくりの企業の本社もある素晴らしい県なのです。応援することに対して、何か異論はございますか?
……が、しかし「静岡県と言えば、お茶と富士山」なんて、もはや誰もが知っている。
今回はいくつかの、静岡県の風土を活かしたご当地グルメが「ふるさと甲子園」にやって来たようです。そのなかでも、立花が今回注目したのは、静岡県河津町の「河津わさび丼」と、三ヶ日町の「三ヶ日ローストビーフ」のふたつです。
おいしさと辛さで涙ぐむ「河津わさび丼」
山と駿河湾にはさまれた、伊豆半島にある河津町。人口約7,500人という、小さな町からやって来たのは「河津わさび丼」。おろしたてのわさびを、炊きたてのほかほかごはんと、細かく削ったかつおぶしの上にちょんと乗せ、お好みの量の醤油をかけて、かき混ぜていただく、シンプルなご当地グルメです。
河津町といえば、河津桜の名所で、春になると全国から桜を見に多くの観光客が訪れます。けれど、春以外の季節は、静まり返る町。一過性のものではなく、季節に左右されずに河津町を盛り上げるなにかを探していたといいます。
そこで見つけたのが、わさび。静岡県には、ほかにもわさびが採れる地域がありますが、河津町は天城連山と呼ばれる原生林があり、その山が育んだ湧水のおかげで、わさび田がつくられ、名産地のひとつになっているのです。
ぱっと見ただけでは、本当に簡単な、おうちで食べられるご飯、という感じ。ですが、わさびの鼻に抜けるさわやかな香りと、キツすぎないツンとした味わいは、新鮮なわさびならでは。どこかほんのりと甘みもあり、美味しさのあまりかきこんで食べそうになりますが、わさびの味わいもじっくり楽しみたい一品です。
この河津わさび丼は『孤独のグルメ』というドラマで一躍全国にその名を広め、以降はわさび丼を目指して河津町を訪れるひとが後を絶たないといいます。けれど、そうした盛り上がりも、外部だけではすぐに熱が冷めてしまいます。河津町の一部ではなく、町に暮らす人々が、河津わさび丼に誇りを持つことができて、はじめて名産品と呼べるのです。
外へのアピールよりも、今は地元の人々に河津わさび丼の魅力を知ってもらうこと。それが課題であり、目標と言えそうです。
循環する食のサイクルから上質なお肉を「三ヶ日ローストビーフ」
河津町が、静岡県の東部、伊豆半島なのに対して三ヶ日町は、静岡県西部の町。浜松市にある三ヶ日町は、三ヶ日みかんの名産地。静岡の温暖な気候を活かした、甘み豊かなみかんが、すでに全国へ展開されています。
けれど、「ふるさと甲子園」に出陣したのは、みかんではなく、ローストビーフ。三ヶ日牛と呼ばれるブランド牛の、ランプ肉という、やわらかいモモの部分を使ったお肉です。
この三ヶ日牛は、三ケ日のみかんを食べて育った牛。その牛肉に、甘酸っぱいみかんソースをかけていただくのですが、肉の旨味がソースで引き出されて、ほんのり香るみかんの香りが、ますます食欲をそそります。
その秘訣は、三ヶ日牛の飼育方法。温暖な気候と、緑豊かな山々に囲まれて、牛たちはストレスなく、のびのびと育ちます。そして、牛たちのごはんは、名産品の三ヶ日みかん。みかんの生産で、出荷されなかったB級品のみかんを無駄にすることなく、健康な牛のお肉は旨みも凝縮されていくため、一石二鳥です。
さらに、牛たちの堆肥はみかん育成の肥料となり、三ヶ日牛の飼育環境のなかで、うまく循環するようになっているのが大きな特徴です。すでに地域に根ざしている、みかんという素材を十分に生かすと同時に、ローストビーフという新しいグルメを作り出す。そのプロセスに、ほとんど無駄がなく、地域と食をつなぎあわせている良いお手本になりそうです。
現在でも品種改良中という三ヶ日牛。ベテランから若手の酪農家、5名を中心に三ヶ日牛が育てられ、これからご当地グルメというだけでなく、地域の名産品を生むロールモデルのひとつとして、注目が集まりそうです。
「ふるさと甲子園」で知る地元の一面
静岡県というと、東西に長く、さらに東海道が走っていることから、関東と関西の文化のグラデーションが作られているエリアでもあります。そのため、一言に静岡県、と言ってもご当地事情も盛り上がり具合も違いますし、生活文化も少しずつ異なっています。
もとくら編集部・立花は、静岡県出身でしたが、河津わさび丼も、三ヶ日ローストビーフも、恥ずかしながら食べたことがありませんでした。静岡県出身といっても、エリアは東部にあたる富士市。同じ静岡県であっても、東部地域内に関心がとどまってしまいがちでした。
「まさか自分の出身県から、こんなものが登場しているとは!」と、県外の人々の注目度の高さから、こちらが気づかされることも、たくさんありました。
こうした催しが、東京都内で盛り上がりを見せるのも、各地域の風土に根付いた食への期待が高まっている証拠。各地から上京してきた人々が、地元の食や、自分の出身地の新しい試みをも知れる、よい機会かもしれません。
ちなみに、「ふるさと甲子園」の投票結果により、「河津わさび丼」が準グランプリに選出されました! 拍手! 静岡県民として、うれしいやら恐縮やら……。こうしたイベントでの盛り上がりが、その日限りではなく、少しずつ地域への活力を送るピストン役になると、これからの地域への目の向け方も変わってきそうです。
来年も開催されるとすれば、次回こそは、打倒・兵庫県淡路島!