雑誌を開くと知らない景色、知らない人の顔が広がると、そこから雑誌を読む旅は始まります。けれど読み進めていくうち、ふと気づくのです、「あれ、これウチの近くじゃない?」と。

島根県津和野町から発行された地方の文化誌「津和野時間」は、地元の人すらどこだかわからないような景色を切り取り、街を紹介しています。

「津和野」と「あなた」が出会う「津和野時間」

津和野は島根県にある町で山口県との県境に位置する、人口8,000人ほどの町です。かつては小京都とも呼ばれた古き良き町並みが特徴で、山に囲まれた地形です。「津和野時間」は、東京から地域おこし協力隊の一人として津和野町へ派遣された女子大生の発案で、津和野町の町役場の人々とともに作られました。

津和野時間

山や清流にめぐまれた、自然豊かな景色。建物や通りなど、町のあちこちに残る歴史。ゆっくりとした時間。小さな町だからこその、人のつながり。『都会にあるものがなくても、ここにしかないものを楽しもう』という思い。ここには『津和野時間』か流れています。この冊子で紹介するのは、いままでのガイドブックには載っていなかった、地元の人から見た町の姿。だけどそれはほんの一部です。

あなたの津和野のイメージを膨らませ、『津和野時間』を過ごすきっかけになれると嬉しいです。
津和野町公式HPより

外から見た魅力を伝えたい

「地域おこし協力隊」という呼び名に耳馴染みがある方もいるかもしれませんが、今こうした地域活性化のための動きが盛んになっています。そうした流れによって様々な摩擦が起き、問題も山積みですが「津和野時間」の編集部の一人、内谷元(ないたに はじめ)さんにお話を伺うと、地元の人が町興しをする動きは、そんなに活発ではなかったと言います。

津和野時間
日原天文台。本州でも星が綺麗に見える場所。

「今はSNSやブログを通して誰でも情報発信ができる時代です。それでも紙で作ろうと思ったのは、発起人の女子大生のような若い女性に津和野の魅力を伝えたかったから。お茶をしながらじっくり津和野の魅力を感じてもらいたい、発信していることを受け取る時間も『津和野時間』の一部として楽しんでほしいと思って、雑誌をつくりました。」

今まで、大手の旅行雑誌に津和野の名前が載ることは何度かありました。けれど、様々なものがどこでもいつでも手に入るようになったからこそ、そうした観光地は埋もれがちになり、印象に残りづらくなってしまいます。だからこそ『津和野時間』では地元の人ですら分からないようなものや場所をあえて紹介しています。

津和野時間
町のメイン通りでもある殿町通り。通りを歩くのは町の鳥でもある鷺

「津和野町の違った顔を掘り起こすというのは、ずっと地元に住んでいる人だと見つけづらいこともあります。だから他県から招いた人が見つけた魅力というのが、私たちには新鮮に映りました。こういうものを発掘するのは、時間も手間もかかるけど、作り手にも読み手にも記憶に残りやすいものができると思います。」

再発見した地元の魅力を、内谷さんは「隙間を突いたもの」と表現されていました。その土地に根付き、ルーティーンの生活を送るなかで生まれた隙に、実は津和野だから生まれる良さが埋もれていたのでしょう。だからこそ、冊子に載っている写真は「ここ、どこだろう?」とベールで覆ったようなものをあえて選定しているそうです。

津和野時間
津和野で多く見られら石州瓦(せきしゅうかわら)。鉄分をおおく含むため鮮やかな朱色となる。

編集部の方々は、地域おこし協力隊で参加した学生以外は全員津和野町の方々。けれど、冊子をつくることで自分の街に対する見方が変わったと内谷さんは仰ります。

「もう見慣れてしまっているもの、聴き慣れているものを改めて見直すということは、何かきっかけがないとなかなかできません。ですが、『津和野時間』を作ることになってからは、パッと見たら良さはわからないけれど、じっと見つめていると突然うつくしさが際立ってきたり、愛おしくなったりする景色が、この町にもあるんだと気づくことができました。」

津和野時間
町を流れる日本一の水質を誇る高津川。カヤックなどの川遊びも楽しめる。

初めは、雑誌にするほどのネタがこの町にあるのだろうかと心配だったという内谷さんたちですが、実際に取材や撮影を進めていくうち、ページ数に入りきらないほどのネタが集まったといいます。

「津和野時間という名前には、自分が過ごす津和野での特別な時間を届けたいという気持ちが込められています。同じ景色を見ても、いいなと思う人、思わない人がいるように、津和野での過ごし方は人それぞれです。『津和野時間』が、一人ひとりの津和野での時間に厚みを与えられればうれしいです。」

かつては小京都と呼ばれ、アンノン世代にもてはやされた津和野町。ですが、一過性で終わらない魅力が「津和野時間」にはぎゅっとつまっています。雑誌にも載らず流行にもならない、見つけた人だけの津和野を、探しに行ってはいかがでしょうか。

津和野時間
秋には色鮮やかな紅葉が楽しめる。朱色の瓦と山の紅葉の共演は自然が織り成す絵画のよう。

この本のこと

津和野時間
価格:無料
販売エリア:西本日本を中心に、一部首都圏でも配布
発行部数:7000部
企画・デザイン:津和野時間編集スタッフ一同
取材・原稿:津和野時間編集スタッフ一同
写真:津和野時間編集スタッフ一同

「津和野時間」編集部の方々
制作メンバー:左から、永田千絵(ながたちえ)、青木利久(あおきとしひさ)、俵志保(たわらしほ)、内谷元(ないたにはじめ)、吉永光男(よしながみつお)、石川葉子(いしかわようこ)
■参考:「津和野時間」PDFを公開中

ほかの「本」の記事はこちら