都会の喧噪から引き離された知る人ぞ知る老舗スナック。
夜な夜な少なの女性が集い、想いを吐露する隠れた酒場。

確かに近年、女性が活躍する場は増えて来たように私も思う。

自由に生きていい。そう言われても、

「どう生きればいいの?」
「このままでいいのかな」
「枠にはめられたくない」

私たちの悩みは尽きない。

選択肢が増えたように思える現代だからこそ、
多様な生き方が選べる今だからこそ、
この店に来る女性の列は、絶えないのかもしれない。

今日は、まだ日が明るいうちに会っておきたい女性がいる。
夜はライブだと言うから、店を出て彼女のもとへ。

連載 今を生きる女性の本音「かぐや姫の胸の内」

第24回目となる今回は、ピアノロックバンド「ENTHRALLS(エンソロールズ)」ボーカルの、井上佳子さんの登場です。

井上佳子さん

── こんにちは、お久しぶり。

井上 佳子(以下、けいこ) お久しぶりです。

── この間は、新譜を送ってくれてありがとう。聴いたわ。アルバムを、出したのね。歌うことをやめないでくれて、よかった。私はあなたの歌声が好きなのよ。

けいこ ありがとうございます。いろいろあったけれど……やっとアルバムという形で世に出せるようになりました。

── タイトルは、「TEXTURE,MOISTURE」。なんだか潤っていそうな名前ね。……ねぇ、聴いていて思ったの。あなたはどうして歌うのだろうって。

けいこ きっと、歌うことが好きだから。

── じゃあ、歌は、誰に向けて?

けいこ たぶん、自分に。自分に似た人に聞いてほしくて。誰かのために歌っていると言いたいけれど、私は上手く気持ちを話せないから、いろんなことを歌に込めているのだと思います。

── ふぅん。今回のアルバムは、なんだか前のあなたの歌と、少し違って聞こえたの。夜はあなたがライブだというから、今日は散歩をしながら、話を聞かせて頂戴な。

浮かんでくる言葉たちをかき集めて歌詞を紡ぐ

── ねぇ私はずっと昔、あなたのように歌い手になりたいと思っていたの。だからあなたの仕事にとても興味がある。いつも、どうやって曲をつくっているの? 歌詞も曲のベースも、あなた自身がつくると聞いたわ。

けいこ 何も考えないで、まずはピアノの前に座ります。私は小さい頃からずっとピアノを習っていました。「ENTHRALLS」もピアノロックバンド、と謳っていて、ピアノは欠かせない存在です。

歌い手の中には、まずメロディーを考えてから歌詞を添えていく、というひともいるし、その逆のひともいます。私は完全に前者のタイプ。まず曲を書いて、その後にぱっと出てきた歌詞を、直感で当てはめていく。弾き語りの形で一旦完成したら、メンバーに聴いてもらってアレンジしてもらって、という流れです。

── 今回のアルバムも、つくり方としては今までと一緒?

けいこ えぇ。でも、意識的に前向きなことばを取り入れたいと思っていました。ひとつ前のアルバムの「ねむれない夜に」は、もうしんどくてしんどくてたまらない、という状況を歌った曲が多かったんです。だから変えたいな、と思って。

── なぜ、前向きにしようと?

けいこ たぶん、私自身がすこし変わったから。

切なさが創作のすべてだと思っていた

ENTHRALLS
(画像:ENTHRALLS公式サイトより)

── どんなふうに、変わったの?

けいこ 私は生来、ものすごく内気なんです。歌うことは昔から好きだったけれど、今でもライブで人前に立つときは、吐きそうになるくらい緊張します。

生きるひとはすべて、切なさや寂しさを持っていると思っていて。それは、親だろうと子だろうと、その時幸せだろうと、立場、状況に変わりなく。そして私の場合は、それが創作の原動力になっていると思っていました。

でも今回のアルバムを作っているときは、今までと感覚が違ったんです。

── なぜかしら。

けいこ 最近、多くの「別れ」を経験したからだと思います。

でもそれは全部、悲しいばかりじゃなくて、「幸せになるための選択」だったんじゃないかと、人生で初めて思えたんです。

井上佳子さん

けいこ 正直に言えば、それらを意識して曲を書き始めたわけではありません。けれど、ピアノに向かって曲を作る時、どうしてだか今までにない感じの、明るい言葉たちが溢れてきて。

初めての体験でした。何か変わりたいと私自身が思っていたのだと思います。心の奥底で感じていることが、曲にはやっぱり反映されるものだから。

誰にだって人生の浮き沈みはやってくる

けいこ それまで私は、自分のすべてを誰かと比べて悩んだり妬んだりしていました。私はどうしようもない人間だ。秀でたところなんてない、なんて(笑)。

InstagramやFacebook、Twitter。どのSNSを見ても、みんながみんな、自分を飾り立てて、実際以上にきれいに見せようとしているのがすごくすごく、いやだった。でもそれがなぜいやだと思うかといえば、私自身が一番やっていたことだから……。

「大切にしたいことは何だろう?」

「私にとっての、女性にとっての幸せってなんだろう?」

そんなことを、すごくすごく考えた1年でした。それは、このアルバムをつくっている期間とゆるやかに重なります。

── ふぅん。

けいこ セレブだって誰だって、人生ずっと調子がいいことなんてない。

私は、私以外の誰にもなれない。飾り立てても、比べても何も得られない。

幸せはすぐにはつかめない。けれど、幸せに向かおうとすることはできる。もしかしたら、その道のりが「幸せ」なのかもしれないって思ったんです。

井上 佳子さん

散りばめられた女性へのメッセージ

けいこ 冒頭、私は自分のために歌っていると言いました。それは嘘じゃない。でも、じつはこのアルバムは、女性にこそ聴いてほしいという想いがあります。

誰もが100%、私の歌に共感してくれるわけじゃないと分かっています。けれど、今回のアルバムは、女性なら分かってくれるかも、何か響くものがあるかも、と思って隠したメッセージがたくさんあるんです。

── たとえば?

けいこ うーん……「すばらしいものだけで創れない未来をください」とか。「誰にだって戻りたい日があるけれど 戻れないとわかった時に動き出すように出来てるの」とか。どこに誰が反応してくださるのかは分からないけれど、本音を言うと、随所に、ですね。

アルバムの構成としては、男性目線、女性目線が半々なんです。当初は、性別関係なく曲をつくっていたんですが、ある日突然「MOISTURE」ということばが頭にふと浮かんできて。そこから女性性を強く意識するようになって、結果として女性に向けたメッセージの多いアルバムになりました。

どこかワンフレーズだけでも、もがき苦しんでいるひとに、何か幸せになるためのきっかけや糸口を見つけてもらえたら。

届いてほしいな。遠くて近い、誰かに。

ENTHRALLS「TEXTURE,MOISTURE」
ENTHRALLS「TEXTURE,MOISTURE」(画像:ENTHRALLS公式サイトより)

【かぐや姫の胸の内】明日月に帰ってしまうとしたら

── ねぇ、あなたに聞きたいことがもう2つあるの。あなたが幸せになるために恋愛って必要かしら。

けいこ 必要だと思っています。

── じゃあ、結婚は?

けいこ それは、分かりませんね。まだしていないし、断言できない。

── 私も、まだ分からない。けれど、ひとはきっと一人では生きられないから。やっぱり、「おはよう」や「おやすみ」を、言い合える人は必要だと思うのよ。

じゃあ、最後にもう1つだけ聞かせて。もしあなたが、明日月に帰るとしたら、最後の日は何をする?

けいこ 分からない……歌うのかもしれません。あぁでも、大好きな人たちに、お礼を言って回りたいな。

「明日から私は居なくなってしまうんです」とは決して言わずに。「本当に、心の底からあなたに会えてよかったです」とだけ伝えて、その場を離れられたらいいですね。美しく去りたいなと思います。

── いいわね。殻から出ようとしたあなただから、幸せは前よりきっと近付いた。いつかその歌で、誰かの背中を、そっとどこかで押しなさい。

また会いましょう。それまでずっと、歌い続けていてくれることを願っている。

井上 佳子さん

古傷をやさしくえぐるファルセット+ピアノサウンド「ENTHRALLS」公式サイトはこちら

ENTHRALLS
ENTHRALLS(画像:ENTHRALLS公式サイトより)

(この記事は、Gerbera Music Agency合同会社と協働で製作する記事広告コンテンツです)

お話をうかがったひと

井上 佳子(いのうえ けいこ)
大阪府出身。ピアノロックバンド「ENTHRALLS」のボーカル。作詞作曲も手がける。バンド名の由来は「enthrall= 人の心を奪う、魅了する」。ミニアルバム「PASSAGE」「合法的浮遊」「ねむれない夜に」を経て、2016年11月、念願の初・フルアルバム「TEXTURE,MOISTURE」を発売。TwitterFacebookblog

【かぐや姫の胸の内】多様な生き方が選べる現代だからこそ、女性の生き方を考えたい──