編集部が自身のこれからの暮らしを考えるために、理想の暮らしをしている先輩や知識人に話をうかがう連載【ぼくらの学び】。本シリーズはその発展形。“学び”を深め、学んだ対象を“つくる”。「灯台もと暮らし」編集部・くいしんが2017年にもっともハマったもの……サウナ。最近ではサウナに行くだけでは飽き足らず「サウナをつくりたい」という気持ちが芽生えてきました。サウナ文化を広め、最終的にはサウナをつくりたい。それが【サウナをつくる】連載です。
2017年、一部の人々の中で大流行していたサウナ。筆者・くいしんもその熱心なファンのひとりです。
サウナにハマる中でふと頭に浮かんだ「いろいろな地域に取材に行くけれど、大自然の中にサウナがあったら、絶対にまたその地域に行きたくなるな」という思い。
サウナって、つくれるんだろうか──。
サウナをつくりたい──。
日々、サウナに通う中で、そんな思いは日に日に大きくなっていきました。
本連載では最終目標として【サウナをつくる】ことを見据えながら、サウナについて学び、その実現可能性を高めていきます。
第一回となる今回取り上げるのは、「Sauna Camp.(以下、サウナキャンプ)」というサイトの運営メンバーのひとり、大西洋さん。
大西 洋(おおにし ひろし)
1985年、東京都生まれ。立教大学法学部卒。株式会社エイ出版社を経て、現在は保育園の運営をしている。2017年、友人ら3人で「サウナキャンプ」を立ち上げる。好きなサウナは本記事の撮影場所でもある錦糸町の「ニューウイング」。
サウナにハマって性格が変わり、友だちが増え、もともとのキャンプ好きが高じて「サウナキャンプ」というテントサウナ情報の専門サイトを立ち上げた大西さんに「サウナをつくるとしたら、どんなサウナをつくりたい?」と聞いてみました。
サウナにハマって超オープンマインドに
── 大西さんはもともとどういう経緯で「サウナキャンプ」というサイトを始めようと思ったのでしょうか。
大西 サウナにハマったのは、友だちに入り方を教えてもらったことがきっかけで。サウナって知識がないと「サウナ室で汗をかくだけ」と思うじゃないですか。そうじゃなくて、水風呂に入って冷水浴して、温冷交互浴をすることで気持ちよくなるんだよって、今から5年くらい前に教えてもらったんです。
そのあと、タナカカツキ先生の『サ道』を読んで、完全にハマっちゃいましたね。『サ道』で体系的にサウナの入り方を学んで、家の近所のスーパー銭湯でやってみたら、それはもうバッチバチにキマって(笑)。
── はははは(笑)。
大西 こんなやばいものが身近にあったのかと衝撃を受けて(笑)。ものすごくハマりました。
── サウナにハマってから5年くらいで、何か変化ってありますか。
大西 めちゃくちゃあります。サウナを覚えて、ものすごくオープンマインドになりました。
── へぇ!
大西 人間が変わっちゃいました(笑)。サウナに入るようになって気持ちが前向きになって、旅先でもひとに話しかけるような人間になっていきましたね。サウナをきっかけにして、友だちが増えたことが一番の変化かもしれません。先日もロシアのウラジオストクにサウナ(現地では「バーニャ」と呼ばれている)に入りに行ったんですけど、飛行機で隣の席にいた全然知らない銀行員さんと2時間半ずっとしゃべってました。
テントとストーブ、セットで10万円
大西 僕、もともとキャンプが大好きで。年間20泊くらいするキャンパーだったんです。直径5mくらいのデカいテントを買って、7、8人で泊まったりしていました。
サウナにハマっていく中で、どうしても湖に飛び込みたいという欲求が出てきまして(笑)。フィンランドの写真とか見ていると、みんなむちゃくちゃ気持ちよさそうに湖にダイブしているんです。でも国内では、公にお客さんとして入れるサウナ施設で、水風呂として湖に入れる場所って、ないんですよ。
いろいろと情報を集めている中で、海外にテントサウナというものがあると発見しました。値段を見たら直輸入で10万円しないくらいだったので、だったらフィンランドに行くよりも安く済むなぁと思って(笑)。
── なるほど(笑)。それはテントとストーブとセットで10万円くらいなんですか?
大西 そうですね。セットです。サウナストーンを別で買うんですけど、僕が買ったときはテントが8万くらいで、石が2万くらいでした。ほとんど日本には情報がなかったのですが、買ってみて、試行錯誤しながら初めて実際にやってみたのが本栖湖(もとすこ)です。
── 富士五湖のひとつですよね。
大西 そうそう。水質がすごく綺麗な湖なので、そこでやろうと。実際にテントサウナをやったら、まあ最高で。本当に、むちゃくちゃ気持ちよかったです。
それで、僕自身日本に情報がほとんどない中でテントサウナを始めて苦労したんです。テクニックやハウトゥーがほとんどなかったんですね。これは「もしこの先、テントサウナを始めるひとたちがいたら、情報を欲しいだろうな」と思って、サウナキャンプというサイトを始めました。
【サウナをつくる】としたら
── 今回は【サウナをつくる】という連載の取材です。大西さんにとっての理想のサウナ像を聞いてもよいですか。
大西 圧倒的に、薪がよいと思います。薪サウナをやるべきでしょう。
── 薪。
大西 大前提として、サウナの熱源は「電気・ガス・薪」が主です。サウナ先進国であるフィンランドでもそうなのですが、都市部はほとんど電気式なんですね。扱いが楽だし煙も出ない、要するにお手軽という理由で。
電気やガスは便利なので日本でも海外でも普及していますが、サウナの源流を辿っていくと、薪に辿り着くんです。薪焚きのサウナって、国内で入れるところは10軒もありません。だからもしできるのであれば、薪のサウナをつくるのが理想ですね。
もうひとつ思うのは、日本のサウナの空間デザインって、まだまだおもしろいことのできる余地があると思っていて。フィンランドやエストニア、ドイツのサウナの写真を見ていると、明るさや広さ、しつらえとか、惚れ惚れするくらいカッコいいんですよ。
── 日本のサウナはそうではないですか?
大西 日本は、お風呂文化が強すぎてサウナにそこまで凝る必然性がなかったんでしょうね。温泉だと、めちゃくちゃオシャレな空間の施設もありますけどね。
キングオブサウナ「スモークサウナ」
── 日本の場合は、そういう工夫がサウナじゃなくて温泉に向けられるんですね。
大西 日本では建築としてカッコいいサウナ空間というのは、なかなかないですよね。そういう建築的にも魅力的な施設があったら嬉しいです。
日本って、サウナにテレビがあるじゃないですか。あれって日本だけで、世界中どこ見てもないもので、よくも悪くも独自の文化なんです。今はだんだん、フィンランドやロシアといったサウナ発祥地の情報が国内に入ってきて、サウナ文化が変化している真っ只中だと思うんですね。
日本にまだないサウナ文化で言えば、もうひとつ理想的なサウナの種類があって。それが「スモークサウナ」です。
── スモークサウナ? 聞いたことなかったです。
大西 ふつうの薪サウナは煙突が付いていて、排気しているんですけど。スモークサウナは、煙突がないんです。僕もサウナ祭りで初めて体験したのですが、スモーキーな香りを楽しむこともできて、熱も柔らかく感じて最高に気持ちよかったです。
サウナの中に大きな炉があって、そこで薪をガンガン焚く。サウナ内に煙が充満するのですが、煙自体がものすごく熱を持つんです。
人が入る前に火を落として小さな隙間から少しずつ煙を逃がす構造です。8時間とか薪を焚べ続けるので、煙がサウナストーンや建物全体を温めて、ちょっと換気したくらいではビクともしないくらい強烈に全体が熱くなるサウナなんです。
── へえ、すごい。体験してみたいですね。
大西 フィンランドでは「キングオブサウナ」と呼ばれています。これを日本で一般向けにつくれたら、めちゃくちゃおもしろいです(笑)。
テントサウナの魅力は自然と一体化すること
大西 やっぱり僕も、いつかプライベートサウナが欲しいなって思います。それは、ロシアに行ったときにお借りしたプライベートサウナの快適さや自由度の高さにすごく感動したことが大きいんです。
自分が好きな温度に調整して、何時間でも楽しめる。その体験が本当に素晴らしかったです。森の中や湖畔にサウナがあって、週末そこに遊びに行くというのは、本当に心の底からやりたいことですね。人生で一番欲しいものと言っても過言ではない(笑)。
── はははは(笑)。
大西 テントサウナの魅力は、火があって水があって木があって石があって風があって、自然と一体化することなんです。
真冬の湖に入るなんてサウナがないと絶対にできないし、火を感じることはキャンプでもできますけど、衣服を取っ払って五感をフルに楽しめるのがテントサウナの楽しみなので。
サウナキャンプとしてはまだまだコンテンツが足りていないので、ハウトゥーをもっと充実させて、「サウナキャンプを見てテントサウナ買ったよ」というひとが増えたらいいですね。僕が知っている限り、サイトを見て、3人のひとがテントサウナを購入してくれているんです。
── サイトオープンから一年足らずで3人も! それはすごいですね。
大西 みんなでテントサウナをして、湖に飛び込む。とにかく、この楽しさを、たくさんのサウナファンやキャンパーたちに伝えていきたいです。
文/くいしん
写真提供/Kohei Soeda
写真/タクロコマ
撮影協力/錦糸町「ニューウイング」
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