ここは、都会の喧噪から引き離された知る人ぞ知る老舗スナック。
夜な夜な少なの女性が集い、想いを吐露する隠れた酒場。
確かに近年、女性が活躍する場は増えて来たように私も思う。
自由に生きていい。そう言われても、
「どう生きればいいの?」
「このままでいいのかな」
「枠にはめられたくない」
私たちの悩みは尽きない。
選択肢が増えたように思える現代だからこそ、
多様な生き方が選べる今だからこそ、
この店に来る女性の列は、絶えないのかもしれない。
ほら、今も誰かが店の扉を開ける気配。
一人の女性が入ってきた……
連載 今を生きる女性の本音「かぐや姫の胸の内」
第26回目は、フリーランスのデザイナー、アートディレクターの「おぎゆか」こと、荻原由佳さんの登場です。
── こんばんは。あら、とても若い子ね。いらっしゃい。
おぎゆか こんばんは、あまりひとりでこういうお店には来ないんですが……ここに、座ってもいいですか?
── もちろんよ、お座りなさい。お仕事は何を?
おぎゆか フリーランスのデザイナーと、アートディレクターをしています。屋号は「hakka design」。hakka(ハッカ)には3つの意味を込めていて。火をつける「発火」、技術で課題解決をするひとたちという意味での「ハッカー」、それからミント系のお菓子が大好きなのでハッカ飴などの「ハッカ」から連想して、この屋号にしました。
── 失礼だけど、今おいくつ?
おぎゆか 25歳です。
フリーランスになったのは社会人3年目の時で、つまり……2016年夏の終わりなので、つい最近の出来事です。毎日試行錯誤で必死ですが、充実していて楽しいです。
── ふぅん、いいわね。ハッカ好きなら、うちでは自家製ジンジャーミントティーの、レモンとはちみつ添えがおすすめなの。今夜はとても冷えるから、暖かいものをお出しするわね。
おぎゆか アルコールが得意ではないので、とてもうれしいです。大きな仕事が一区切りついたので、なんだかゆっくり誰かと話したくって。ミルクも一緒にいただけますか?
忙しい日々の中で、昔の夢に気が付いた
── 「大きな仕事」ってなぁに?
おぎゆか 株式会社Waseiのコーポレートサイト作成です。Waseiが運営している『灯台もと暮らし』では、じつは以前からロゴやバナー作成の仕事をさせていただいていました。
でも、フリーランスになると決めた時、Waseiの代表の方に「もっと一緒に仕事がしたいです」とお伝えして。そうしたら、「では『灯台もと暮らし』を中心に、ウチのアートディレクターをお願いできませんか?」とご提案いただいたんです。
── あら、そのサイトならよく知ってる……。
おぎゆか ほんとですか? その言葉は「あ、私、そういえばアートディレクターになりたいって思っていたな」と、デザイナーになったばかりの頃の夢を思い出させてくれました。
日々の仕事に追われすぎて、昔の夢のことを忘れてしまっていたみたいです(笑)。すぐに「ぜひ!」とお返事して、担当させていただき今に至ります。
── へぇ。……ねぇ、ところでさっきから言っている「アートディレクター」っていうのは、何のことを指しているわけ?
おぎゆか 簡単にいえば、プロジェクトを進める時のデザインの責任者です。
例えば今回のコーポレートサイト作成なら、Waseiさんの要望を聞くための打ち合わせをたくさんして、考えて、実際にデザインの方向性を決めていく役割、でしょうか。
アートディレクターの仕事は初めてだったので、緊張したし、戸惑いました。でも、やってみるととても楽しかった! それに、実際に手を動かしてみると今までのデザイナー業務がすごく活きているとも感じたんです。
── なぜ?
おぎゆか デザイナーの頃から、アートディレクターの仕事と同じようにデザインに関するヒアリングを大切にしていたから! やっぱりデザイナーの仕事の延長線上にある仕事なんだなって改めて感じました。
憧れの肩書を自ら名乗って名刺に明記してしまったら、もうあとはやるしかない。今は、Waseiの他に「株式会社ドットインストール」「にっぽん てならい堂」などのデザイン仕事を請け負っています。ご縁をいただいた方々との仕事をまずは大切にして、じっくりと経験を積んでいきたいなと思っています。
パソコンが大好きな引きこもり系女子からの脱却
おぎゆか ……とはいえ、デザイナーを目指した具体的なきっかけって、じつはないんです。「昔から絵が好きで」とか言えたらいいのですが、そういうことでもない。
もちろんお絵かきや編み物などのモノづくりは好きだったけれど、どちらかというともともとはパソコンが大好きな引きこもり気質でした。
── いわゆる「リケジョ」ね。
おぎゆか いえ、それは「理系女子」の略称なのでちょっと違います。
── ……?
おぎゆか 初めてサイトをつくったのは小学生の時。埼玉出身なのですが、県内で引っ越しをして、前の学校の友だちと何かつながっておく方法はないかと考えて、自分のサイトを運用し始めたのがウェブ制作の原体験です。
一方、ファッションや接客にも興味があったので、高校卒業後は文化女子大学の造形学部に進学しました。服飾を学ぼうかと思っていたのですが、途中で私は洋服をつくるよりも、ファッション雑誌の方に興味があるんだなと気が付いて。
最終的にはグラフィックデザインを専攻して、学生時代にWEBサービスのベンチャー企業でアルバイトを経験。それ以後、個人でのデザイン仕事を請け負うことが増えました。
── あら、かわいい。
おぎゆか デザインをすることが想像以上に楽しくって、大学卒業後はFICC inc.に就職することに。それまでは、あんまりひとつのことを長く続けられない性格だなと思っていたけど、唯一パソコンの前に座ってデザインすることだけは、まったく苦に感じられなかったんです。
── これだったらやれる!と思えることに出会えたのね。
おぎゆか はい、デザイナーなら続けられそうだ!と。あとは、何が適しているのか、いろいろとトライしてみなきゃって。業界内でジャンルを変えて、二度転職。ファッション、コスメ、暮らし系……とやってみたけれど、私は暮らし系コンテンツが、じつは一番好きなんじゃないか? と思いました。
あと、トレンドや流行が好きだと思いこんでいたけれど、日本の良さを教えてくれる「にっぽん てならい堂」や「灯台もと暮らし」に出会ってから、民芸や手仕事にも今まで以上に興味を持つようにもなりました。
世の中には、今まで私が目を向けていたことよりも、もっときちんと知らなければいけないことがあるんじゃない?って気持ちが芽生えたんです。
── へぇ、それはなんだか良いことね。
おぎゆか こんな感じで少しずつ気持ちが変わっていって、自分のやりたいことも、好きなことをやっているひとたちがいるところも、なんとなく分かってきたし、気が付いたら自然とフリーランスになろうかって考えていました。
時折、「25歳で独立するなんてすごいね」と言われます。でも、私はそんなに気負っていなくて。むしろ、そうやって言われて初めて「私、なんか思い切りの良いことをしてしまったのかな?」なんて考えるくらいです。
── いいと思うわ。気負いすぎず、目の前のことにひとつずつ向き合っていく、あなたの柔らかい雰囲気が好きよ。
こっちがいいかも?の感覚を大事にしたい
── 何か、目指したいひとや、理想はある?
おぎゆか うーん、よく聞かれるのですが、じつはまだよく分からない……というのが正直な気持ちです。
たとえばかっこいいなと思うのは、関西から福井県に移住した20代7名によるデザイン+ものづくりユニット「TSUGI」さんのように、跡継ぎ不足で困っている伝統工芸の分野をデザインで手助けする方々だとか、リトルプレス「髪とアタシ」を作っている「アタシ社」のミネシンゴ・カヨコさんなど。ミネ夫妻を知って、パートナーと一緒に働くのも魅力的だなって初めて思いました。
おぎゆか でも、いつもガチガチに目標を決めずに、ふんわりとした意思を持って、「あれ? あっちの方がいいかも? それともこっちかな?」っていう感じで、ゆるーく人生を決めてきたから。これからもそうじゃないかなぁという予感がします。
今までも、そういう方法が一番良い結果をもたらしてくれていますしね。
おぎゆか 力不足なこともたくさんあるけれど、フリーランスになって魅力的なひとやプロジェクトに出会える可能性がぐんと増えました。引きこもりだった頃の私のままなら、たぶんこんなにひとと関われていないと思う(笑)。
── ふぅん、いいじゃない。
【かぐや姫の胸の内】明日月に帰ってしまうとしたら
── 最後にひとつ聞かせて……。かぐや姫は月に帰ってしまった。もしあなたが、明日月に帰らなければいけないとしたら、最後の日は何をする?
おぎゆか えぇ!? 最後の日ですか……? うーん、どうするかなぁ。
あ! 月と地球をつなぐ、通信機器みたいなものが作りたいですね。地球を去った後も、大好きなひとたちとつながっていられるような(笑)。
── その回答は斬新だったわ。なるほど、今の時代のひとはそんなことが考えられるの……素晴らしい発想力ね。
今日はとても楽しかった。20代半ばのフレッシュな気持ちに触れて、私も刺激を受けたわ。また遊びにきなさいな。今度はミント味のスイーツも用意して待っているわ。
お話をうかがったひと
荻原 由佳(おぎはら ゆか)
デザイナー/アートディレクター。1991年生まれ。文化女子大学を卒業後、WEB制作会社に就職。その後女性向け自社サービスを運営するベンチャー企業を経て2016年秋よりフリーランス。株式会社Waseiや株式会社ドットインストール、にっぽん てならい堂等でデザイン・アートディレクション業務に携わる。「衣食住」のものづくりを軸に、WEB・グラフィック分野を中心に活動中。Twitter:@ogiyk_
【かぐや姫の胸の内】多様な生き方が選べる現代だからこそ、女性の生き方を考えたい──
- 【かぐや姫の胸の内】多様な生き方が選べる現代だからこそ、女性の生き方を考えたい―。
- 【かぐや姫の胸の内】「盛り上がってたら盛り上げてた」―サムギョプサル和田―
- 【かぐや姫の胸の内】写真家・周東明美の光と物語のチベット
- 【かぐや姫の胸の内】常に、見晴らしのよい場所を求めています。- 鈴木 絵美里 -
- 【かぐや姫の胸の内】職人の瞳に恋してる - 伝統産業女優 村上真希 -
- 【蔵前】【かぐや姫の胸の内】ごはんとくらし、本を愛する私たちの出版社「アノニマ・スタジオ」
- 【かぐや姫の胸の内】花と草木で私の生きる道を切り開く− 鈴木恵梨佳 −
- 【かぐや姫の胸の内】人生のハンドルは、私の手で握りたい− 長友まさ美 −
- 【かぐや姫の胸の内】大好きな人たちと生きる世界は美しい − 編集者 徳 瑠里香 −
- 【かぐや姫の胸の内】フード・ドリンクユニット「Uchila」から始まる笑顔の時間
- 【かぐや姫の胸の内】心と体が喜ぶごはんで、人の縁を結びたい−「MOMOE」稲垣晴代 −
- 【かぐや姫の胸の内】圧倒的な造形美を、その手に。- 廃材×植物「ハコミドリ」周防苑子 -
- 【かぐや姫の胸の内】誰かの幸せにつながるデザインがしたい- クックパッド株式会社 片山育美 -
- 【かぐや姫の胸の内】自分の"ぽっちり"を知ろう。ヒビノケイコの日々が気付かせてくれるもの|高知県嶺北・土佐町
- 【かぐや姫の胸の内】結果的に誰かを救ったとしても「私が救った」と思うことは永遠にない-「未来食堂」小林せかい-
- 【かぐや姫の胸の内】人生を明るく照らすのはいつだって自分自身-ポルカウスキー陽子 in Kuala Lumpur, Malaysia
- 【かぐや姫の胸の内】生花の美しさと楽しさを、マレーシアに伝えたい|「HIBANA」CEO小倉若葉 in Kuala Lumpur
- 【かぐや姫の胸の内】“バリで生きる”と決めて早17年、私は今日も元気です|「sisiバッグ」生島尚美 in Indonesia, Bali
- 【かぐや姫の胸の内】誰とも比べない、私だけの絵を描いて生きていく|イラストレーター・井上希望 in London, UK
- 【かぐや姫の胸の内】彫刻と食器、好きだからどちらも続けていく|アーティスト 舘林香織 in London, UK
- 【かぐや姫の胸の内】タイ語、ベジタリアン、分かち合い。心に軸を持って新しい世界を拓きたい|大熊あゆみ in ChiangMai, Thailand
- 【かぐや姫の胸の内】鳥取県智頭町に根を張って生きる|田舎のパン屋「タルマーリー」女将 渡邉麻里子
- 【かぐや姫の胸の内】人形劇の本場・チェコで“好き”を追求して生きる|舞台美術家・造形作家 林由未 in Prague, Czech
- 【かぐや姫の胸の内】「幸せ」は誰かに見せびらかすものじゃない|ピアノロックバンド「ENTHRALLS」ボーカル・井上佳子
- 【かぐや姫の胸の内】人生はライブ。諦めた夢にいつか繋がる道もある|フォトグラファー・井上直美 in Sydney, Australia
- 【かぐや姫の胸の内】好きな世界にもっともっと近づくために、気張らずに進みたい|デザイナー・荻原由佳
- 「あれ?気づけば30歳。私、東京で独りだ」人生を切り開くための鎖国生活からの脱却|刺繍作家 kana【かぐや姫の胸の内】
- 【かぐや姫の胸の内】遠回りが正解になる人生だってある。歌のない音楽「インストゥルメンタル」の魅力をもっと広げたい|studio iota label代表・前田 紗希
- 心奪われた美しい街で、「幸せな瞬間」を写して生きる|スペイン・バルセロナ在住のフォトグラファー・カミジオーリ マドカ【かぐや姫の胸の内】