自分の人生に何か違和感がある……そんな悩みを抱えていたのは、島根県海士町にある株式会社巡の環(以下、巡の環)で働く岡部有美子さん。新卒から約10年間、東京のIT企業に勤めていた当時は、気がつけば毎朝9時から夜の11時まで働きづめ。いつしか自分の暮らし方に疑問を持つようになったと言います。
自由大学での出会い
岡部有美子(以下、岡部)さんは、自分の暮らしを変えるために東京の自由大学に通います。自由大学とは、暮らし方や日本文化、働き方などの時代が求める様々なテーマで、自ら考え、自ら行動する姿勢を育む学びの場。岡部さんは「自由に働く学部」で、現在勤務している株式会社巡の環の創業者、阿部 裕志(以下、阿部)さんと出会いました。
「『くらし・しごと・かせぎ』のバランスを取りながら暮らす、という阿部の話は、とても心に残りました。また、海士町はまちおこしの成功モデルとして外から見ると輝いている地域のように見えます。しかし、実際に巡の環の研修を通じて足を運んでみると、島内では、島の未来に対する強い危機意識がありました。自分たちの弱さを認めながらも、島の強さを作っていこうとする様子が魅力的でした。
そこで海士町のファンになり、研修から帰った後も巡の環が東京で行っているAMAカフェ(*1)などのお手伝いをするようになりました。そうした活動に触れるうちに、巡の環の求人募集があり、声をかけていただきました。」
そして現在は、株式会社巡の環の広報業務や地域づくり・教育事業などに携わっています。
(*1)AMAカフェ:島根県隠岐郡海士町の食材を用いた料理など海士の魅力を全国に届け、旬の食べ物やそこに集まった海士ファンの方々との出会いを楽しむ一日限定カフェ
海士町で充実した日々を送る岡部さんが、都会から移住し、島での暮らしをスタートできた理由はどこにあるのでしょうか? ご自身は、自分が気になる人に二度、三度会いに行ったからだと語ります。
「あるとき、会いたい人には二度、三度も会いにいけという言葉をくれた友人がいます。何もかもうまくいかないときがあって、ふと、自分にとっての会いたい人リストを思い返したとき、思い出したのが、くらし・しごと・かせぎの話をしてくれた巡の環の阿部でした。巡の環の研修を通じて、阿部に会いに行った二回目がターニングポイントとなって、島で働くことになりました。」
未来がこの手の中にある感覚
転職先が巡の環で、働く場所が島だったのは、たまたまだという岡部さん。働く場所にこだわりはない代わりに、やりたいことがふたつあるそうです。
「ひとつ目は人が行動するキッカケ作りです。一歩前に踏み出せずにいた人が、行動を起こすことで目を開く瞬間を見ることが好きだからですね。巡の環が取り組んでいる地域づくり・教育・メディア事業はどれをとっても、人が行動するキッカケを作れると思っています。」
「ふたつ目は未来の仕事を創ること。高校生の頃、将来の夢を作文に書けと言われても、書けませんでした。でも当たり前だと思います。大人になって経験したIT系のアプリの企画をする仕事なんて、私が高校生の頃にはなかった。だからこそ次世代の子どもたちには、仕事は創れるものだと体現していきたいです。私が海士町でチャレンジしていることも、今まで存在していなかった仕事だと考えています。」
実際に海士町で働いてみて、「楽しいですよ」と語る岡部さん。なぜなら、未来を自分たちで作っている感覚があるからだといいます。
「海士町での暮らしは、『未来がこの手の中にある』という感覚があります。なぜかというと、海士町に対していい意味での危機意識を持っている人たちと、セクターを超えて対話ができるからです。
この島では毎日誰かがどこかで、この島の未来について話し合っています。その場所は、飲み屋やスナックであったりもします。それが島の人やU・Iターンの人、あるいは観光客でも関係ありません。
みんなで島の未来を考えたうえで仕事をしているから、海士町の未来を作っている感覚がものすごくある。それがとても楽しいですね。」
心の中で会いたいと思っている人に一度会ったからといって、人生に劇的な変化が起こるわけではありません。しかし、深く知りたいと思える人には、時間と労力を惜しまずに、二度三度会いに行く。なぜなら、その人に会いたいと思った理由を発見していくことができるからでしょう。自分が惹かれるものに触れるということは、自分自身の心の内に問うことなのかもしれませんね。
「会いに行く」という行動が、人生の次のステップに進むきっかけになるのではないでしょうか。
お話をうかがった人
岡部 有美子(おかべ ゆみこ)
地域づくり・教育事業コーディネーター/広報 埼玉県熊谷市出身。中央大学総合政策学部卒業後、IT企業に勤務。2015年1月に、人が行動するキッカケづくりと未来の仕事づくりの新たなステージとして、巡の環に入社。島の人たちと飲みながら、島の素材を使った新しいおつまみのレパートリーを増やす日々。
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