つらいことや思い通りにならないことがあっても、楽しめることが大切──そう語るのは、高校時代に写真に出会い、大阪の専門学校で写真を学んだ後、地域のさまざまな職場で働くマルチワーカー×写真家として海士町で暮らしている太田章彦(おおた あきひこ) さん。
前編に引き続き今回は、海士町暮らし3年目を迎えた太田章彦さんが島で学んだことを踏まえて、これからIターンを考えている人へのメッセージをいただきました。諦観力とポジティブさは、表裏一体だということがわかります。
島に住んでから習得した、あきらめる力
── 今回太田さんにお聞きしてみたかったのが、地域での失敗談です。やっぱり失敗というのは、仕事においてもそうですけど、外には出にくい話ですよね。
太田 だったら、「島あるある」を話してもいいですか(笑)?
── ええ。そういうの大好物です。
太田 いくら「ないものはない」と言えど、僕はインターネットで買い物ができないと生きていけないんです。
── はい(笑)。同じくです。
太田 でも離島なので、送料が高い。だから、ついまとめ買いをすると、うっかり高額になってしまいまうことがあります。
── え、そんなに高くなるものなんですか?
太田 ひとつの商品あたり1000円くらいのときがありますからね。まとめ買いをしても、発送元がバラバラなら、なかなかエグイことになりますよ(笑)。
── 一方で海士町だから経験できるような、素晴らしいこともあると思います。
太田 ありますよ。定置網漁の漁船に乗っているときに、定置網にダイオウイカが掛かってまして。それほど大きなダイオウイカではなかったんですけど、それでも僕より大きい。とっても興奮してしまって、船上で、すかさずダイオウイカと並んで写メを撮りました。心に残る体験ですね。
── 海士町で3年も暮らしているからこその経験ですよね。これまでの暮らしを経てみて、地域の魅力ってなんだと思いますか?
太田 うーん……、「思い通りにならないところ」ですかね。
── はい。
太田 この言葉の理由は、自然環境に因る部分が多いと思います。たとえば時化でフェリーが欠航した際には仕事が休みになったり、荷物を送ることができなくなったり、荷物や人が来れなくなったり、様々な生活の場面でどうしようもない「あきらめ」を迫られる場面があります。
── 自然には勝てないという、諦観ですね。
太田 そう、島に住んでから習得した心の持ち方なんです。
── あきらめる心の持ち方を、得たということでしょうか?
太田 そうです。これを習得すると楽観的になれます。たとえばフェリーが欠航したら、○○しなくては……といった対応力が増します。そして天候が荒れたら、もしかしたらフェリーが欠航するかもしれない。だから今日のうちに○○しておこう……といった回避力が増します。ざっくりまとめると、不都合なことが起こっても乗り越えられる力がつくんです。たぶん、僕だけですけどね(笑)。
うまくいかないことがあっても、それこそが「いい」と思える心を持て
── 海士町には尊敬している人はいますか?
太田 いますよ、宮崎雅也さんです。
── 大学時代に海士町を訪れてから、漁師と板前になるために民宿に弟子入りし、現在はその民宿である株式会社たじまやの経営を任されているんですよね。
太田 そうです。海士町のことを調べれば必ずと言っていいほど名前が出てきますよね。Iターン者の中でもよく取り上げられる宮崎さんですが、そんなことはどうでもよく、ただ一人の人として、自然の変化を楽しんでいる様子や、やわらかい性格をとても尊敬しています。
── そういう先輩がいるなかで、太田さんが考えるご自身と、町の未来の理想姿について教えていただけますか。
太田 町の理想の姿は、新たな価値観を生み続ける島。変化し続ける島。というのも町を維持するためには、時代との関わりを持ち続けて、柔軟に変化し続ける必要があると思います。そのために「よそ者、若者、ばか者」との交流が、未来でもずうっと続いていたらいいな、と思います。
── その交流が続く町で、太田さんご自身は、町内でどのような役割でいることが理想の姿でしょうか?
太田 写真という軸を持って、地域における何かを担っていたい。ずっと大切にされる、地域に馴染んだ、或いは地域の指針のひとつになる写真活動ができる役があるなら、それをしていたいですね。
── もしなければ……。
太田 そのときは、役を作ってやります。
── 太田さん、かっこいい。熱いです。さいごに、これからIターンで地域に入ることを考えている人へのアドバイスをお願いします。
太田 もちろん「地域でやりたいこと」も必要ですが、何でも楽しめるということが大切です。どこで暮らしていても、うまくいかないことやつらいことがあります。でも、そこがいいんじゃない?って。「むしろイイ」「もはや最高」と思える心を持ってほしい。
── なぜですか?
太田 冬に漁師をしているときは、とんでもなく痛いくらいの冷たい風雪に吹かれながら、太陽が昇る前の暗い海で仕事をします。そのときは「うおぉ、なんて寒いんだ。温泉入りたい……」と思うのですが、でも待てよ、と。
── はい。
太田 この辛さ、この時期のこの職場じゃないと体感できないことだろう、と想像すると、急に、この極限に寒い状態が楽しくなる。気づけば寒さを忘れている自分がいるんですよ。そういう経験があって、うまくいかないことや、つらいことのなかにも大切なことがあるのかもしれないと思うようになりました。
太田章彦さんの作品はこちら
「Blowin’ In The Wind」
「Stranger Of Island」
「残るか、残らないか」が僕が写真をする上であらゆる要素の基準になっています。
今取り組んでいる作品も僕が残さなかったら、誰もこのテーマを残さないだろう、という思いで制作しています。
そして、テーマとの関係性を考えると、僕しか撮る人はいないだろう、という使命感を持って制作しています。
それでも「残るか、残らないか」はわからないので、確信を得るまで作品を制作し続けようと思います。どのような被写体が残るか。
どのような時間・記憶・気配が残るか。
そして、どのような事を残したいか。僕は、僕にしか撮れない物はなにかをいつも考えています。
引用:http://akihikoota.com
編集後記
肩の力が抜け、自然な笑みを浮かべる太田さん。事実を素直に受け入れられる力が、この人の魅力なのかもしれないと感じました。彼の言葉を聞いていると、自分が幼く感じてしまう。彼が持つ諦観がそうさせるのかは、正直ぼくにもわかりません。しかし、全体を通じてどこか「あきらめ」があるようで、でもその事実を受け入れた人だけが放つポジティブさというものがあるのだろうと思います。
お話をうかがった人
太田 章彦(おおた あきひこ)
1989年生まれ。海士町観光協会・マルチワーカー/写真作家。島根県出身。ビジュアルアーツ専門学校・大阪の写真学科を卒業後、祖父母の住む島根県浜田市弥栄町に移住する。そこで限界集落について作品制作を始め、「豊かさとはなにか」をテーマに作品発表(Nikon Juna21)。その後、島根県の隠岐諸島のひとつ海士町へ移住。「仕事」と「暮らし」と「写真」について考える。2015年6月にエプソンイメージングギャラリー「エプサイト」で個展「Stranger of islamd – 海士」を開催予定。
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