今、都会にいながら地域のことを考え、都会と田舎の関係性を捉え直す場が生まれています。それが今年の5月からスタートし、「灯台もと暮らし」で密着取材をしている地域共創カレッジ(以下、カレッジ)です。
カレッジの前半の締めくくりとなる今回は、IT企業やアーティスト、さらに町にとって必要な働き手を誘致し、過疎地でありながら注目される徳島県神山町を訪問。地域を案内してくれる講師は、株式会社リレイションの代表・祁答院弘智(けどういん ひろとも)さんです。
神山町は今、どんな動きが起こっているのか? 知っておくべき7つの「スポット」、会いたい「ひと」を訪問し、神山町での暮らしや働き方を知ります。
神山町訪問のスケジュール
1日目
- 9:30~11:30 神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス・WEEK神山視察
- 11:30~13:00 昼休憩ランチ(535(ごみさんく)の弁当/オーダーメイド靴屋「リヒトリヒト」へ・神山塾卒業生 田中泰子さん訪問)
- 13:00~株式会社プラットイーズ・えんがわオフィス、Sansan株式会社訪問
- 18:00~夕食 Café on y va(カフェオニヴァ)
2日目
- 9:30~ 共創プロジェクトブレスト、地域訪問振り返り
- 12:00~ ランチ、徳島駅送迎解散
都会の仕事もできる「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」
閉鎖された元縫製工場を改修したコワーキングスペース「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」。非常に広い館内には、3Dプリンターとレーザーカッターが導入され、ものづくりができる「Kamiyama Makerspace」が併設しています。
新しい神山町の宿「WEEK神山」
「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」の向かい側には、2015年7月に宿「WEEK神山」が誕生しました。徳島の木材を使って建築しているというWEEK神山は、左手に食堂、右手の宿泊棟があります。
部屋から望める山川の景色も美しいですが、宿泊すると、野鳥の声と鮎喰川のせせらぎで目が覚めるそう。贅沢ですね!
WEEK神山は、「働き方」や「食」を主としたテーマで、ワークショップの企画・開催や、オーガニックの町として、地産の食材を生かした食事を提供しています。
隣接する「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」では地域外からのひとが訪れます。7月には『COURRiERJapon(クーリエ・ジャポン)』編集部も訪問。新しいもの・ことが生まれそうなワクワクする、地域の交流の場となっています。
地元食材を使った「535(ごみさんく)」のお弁当をいただきます!
祁答院さんの会社・リレイションが運営する雇用型職業訓練『神山塾』。卒業した塾生たちの中には、神山町に根を張り、自分の生業をつくっています。そのひとつが、地元食材を中心に使用した日替わり弁当屋の「535(ごみさんく)」。
この日のお弁当はナスと厚揚げ、きゅうりとトマトの浅漬け、ぎっしりと実がつまった、肉厚だけどさっぱりとした豆腐ハンバーグがおいしかったです。
Yusan Pizzaをはじめ、有機野菜を使った料理を食べられるお店が多い神山町。僕は、神山町に滞在するだけで胃腸の調子が良くなり、身体が元気になることもしばしばです。
オーダーメイドの靴が盛況。「LICHT LICHT(リヒトリヒト)」を訪ねる
一見、町の工場に見えるこのお店。実は手づくりの靴屋さんなのです。
「LICHT LICHT」というお店のご主人である金澤光記さんは、愛知県出身。奥様の出身が徳島県という縁があり、神山塾に入塾しました。神山町で暮らしているうちに「靴を売る」ということを学んだという金澤さんは、タイミング良く物件を紹介してもらったそう。創業補助金の制度を利用して、店を開業。お話をうかがったときの受注状況は、約半年待ちというほど盛況っぷりでした。
他店への卸しや外注をしないリヒトリヒトでは、神山の店舗まで足を運んでくれたひとのオーダーメイドの靴を、月に10~15足前後、丹精を込めてつくっています。
神山で暮らし、神山に生きる人々のドキュメンタリー映画を仲間とともに製作|田中泰子さん
「LICHT LICHT」の金澤光記さんに引き続き、移住者のお話をうかがいに来ました。
就職してから過ごしてきた北海道で暮らし続けるか、母がひとりで暮らす実家の徳島に戻るか、「白黒つけなきゃいけない」と移住前に考えていたと言う、田中泰子さん。
「迷っているんだったら半年間、神山で迷ってみたら?と言ってくださって」
偶然イベントで出会った祁答院さんの言葉を受けて、田中さんは徳島にUターンしました。個性豊かな神山塾3期生とともに、神山町での暮らしが始まりました。
「地域に入って見ると、暮らしの名人ばっかりで。おじいさん、おばあさんから知恵や技術を受け継いで、子どもたちに引き継ぎたいと思うようになりました」
これがきっかけで「聞き書き」をはじめ、その活動を神山塾生であった仲間が映像化、それが一本の映画となりました。町内の各地区の公民館などをめぐり、神山で暮らし、神山に生きる人々のドキュメンタリー「ある日森で、、、」の上映会を開催したところ、約700人の住民が映画を鑑賞したそうです。
「なにか特別な技能を持っていなくても、一生懸命ここで働こうとしてみんなと関係づくりしていけば、必ず生きていく道が開ける。ふつうの人間でも、移住してきて暮らせるひとつのモデルになりたい」と田中さんは語りました。
「えんがわオフィス」訪問・株式会社プラットイーズ
地域の子どもたちや住民はもちろん、地域外から訪問客がたえない「えんがわオフィス」は、築90年の古民家を改修した、株式会社プラットイーズのサテライトオフィスです。主な業務はTV放送や4Kコンテンツのアーカイブ業務。
「BCP」という言葉を、聞いたことはありますか?
Business Continuity Planの略で、企業が自然災害や火災、テロなどの緊急事態に直面したときに、事業資産への損害を最小限にとどめながら、事業を継続するための方法、手段を決めておく計画のことです。
もし東京でなにかあったとき……。
東京・恵比寿にある本社の業務を神山でもおこなえるようにする「BCP」対策のために、同社はえんがわオフィスを開設したそうです。
神山町は光ファイバー網を整備しているので、通信速度は東京都心の数倍なんだとか。IT企業がサテライトオフィスを開設する大きな理由ですね。
クラウド名刺管理「Eight」のSansan株式会社を訪問
木材と土壁で建てられた古民家のなかに、際立つガラス張りの空間。ここはSansan株式会社のサテライトオフィスです。名刺管理サービスを提供する同社は、2010年10月にオフィスを開設した、サテライトオフィスの先駆け的な存在だと祁答院さんは説明します。
古き良き建築物と新しいテクノロジーをどちらも生かしたオフィスはなんとも心地よい空気感。思わず、ハンモックに飛び乗りたくなるほどでした。ここサテライトオフィスでは、同社の社員が常時リモートワークしています。
1日目はここで終了!18時からは「Café on y va」(カフェオニヴァ)」で夕食をいただきました。
地域訪問振り返り・受講生それぞれの共創プロジェクトとは
地域訪問の初日は、「神山温泉」で汗を流したあと、宿へ戻りました。
そして迎えた、2日目の朝。実際に地域の“今”を知り、見ることで、受講生それぞれが都会と田舎の新しい関係をつくる「共創プロジェクト」を考えます。
「自分の形をつくっていきましょう。自分の大好きなこと、得意なこと、やってみたいこと、気になること、人生のテーマ……。なんでもいいので、3つ書きだしてみてください。
その活動の舞台は、どこですか? 思いつくだけ書いてください」と、受講生に問う祁答院さん。
五島列島にUターンして宿の開業を考えている、受講生のハッシーこと長谷川雄生さんの3つのキーワードは、五島列島、手、仲間の手。活動の舞台は「東京→神山→五島列島」。そして五島列島でつくりだす研究所は、「自分の居場所研究所(仮)」。
こんなふうに、受講生それぞれがご自身のテーマを深く掘り下げる時間となった地域訪問。ぼやけていた思考の輪郭がはっきりしてくると、あとは実行するのみ! 東京で座学をしている時間よりも断然、みんなの表情が明るくなっていきました。
なお、この地域訪問がきっかけとなり、ハッシーさんは五島列島の魚を使った料理や地酒をふるまうイベントをWEEK神山で開催しました!
自分のテーマで研究所を。活動していこう!
こうして無事、トラブルもなく地域訪問を終えることができました。町を案内してくれた株式会社リレイションのスタッフのみなさん、カレッジ受講生のメンバーで記念撮影。
穏やかな空気が流れる神山で自分の心を向き合い、感じ、考えたことを忘れずに、今後のご自身の活動に生かしてほしいと思います。