人里離れた、森のなか。
森は、動物と人間の世界のさかい目。
考えごとがあるときは、その境界線を歩きながら、木の実が落ちる音、風が凪ぐ音、落ち葉を踏みしめる自分の足音に耳をすます。
北海道の下川町という、まちの9割が森に囲まれたこの土地に、わたしが足を踏み入れてからずっと問いつづけていることを、反芻しながら。
「“編集”って、なんだろう」。
誰も答えを知らない。教えてくれるひとだって、誰もいない。
でも、だから、おもしろい。
ダイナミックに変化する北海道の大自然に見守られながら、ここで何ができるのか。どう生きるか。
果てしない編集の大宇宙へ飛びこんだ編集者・立花の、ポツリ、ポツリとこぼす、考えごとと、ひとりごと。
***
冬の朝は、起きたらまず玄関前の除雪から始まる。その雪をなんとかしないと外に出られないからだ。
さらには、公道にはみ出た自分の敷地の雪を処理しないと、ご近所に迷惑がかかる。
ほとんどのひとが、お金を払って町内の事業者さんに定期的な除雪をお願いしているけれど、ゾウくらい大きい除雪機は小回りがきかないため、自宅前の除雪は手作業でやる必要がある。
たかが除雪、されど除雪。
その家で暮らしているひとの性格が、如実に出て、おもしろい。
例えば、どんなに雪が吹きすさぼうと、コンクリートが見えるまできっちり除雪をする住宅もあれば、多少の積雪なら放置して、ひと一人が通れるくらいのスペースだけささっと除雪する家もある。
几帳面、根気の良さ、おおざっぱ、きれい好き……
血液型なんかよりも、除雪のようすを見るほうが、ずっとそのひとの性格が分かるような気がする。
地域を知るとは、そこで暮らすひとを知ることだと度々思う。
それは「ひととなりを知る」ということでもあるけれど「人々がどういう生活習慣を営んでいるか、なぜその習慣が生まれたのかを知る」ということでもあると、個人的には思っている。
けれど習慣というものは、暮らしの切実さから生まれた無意識の産物であり、本人が特別だと思っていないことがほとんどだから、なかなか表に出てこない。
除雪だって、その一つ。毎年のことだし骨が折れるしお金もかかる。地元のひとたちは、冬が来るたび、雪が降るたび、「あーまたか」と、うんざりしていることだろう。
それでも雪がない地域で生まれ育ったわたしには、ただの除雪であっても、マイナス30度にまで下がる寒冷地でどうやって人々が暮らしているのかを知る大事な要素であるなと思う。
「どんなことでも自分でやってみないと気が済まない。本当の意味で理解するには自分も体験したい」という性癖(?)に駆られて、今年はへっぴりごしになりながら、自分で除雪をしている。
取るに足らないと思われている何気ない生活の一部でも、ひととなりやこの地域ならではの暮らしの一端を、感じることができるから。
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