子どものころ、多くのひとが一度は通る“ごっこ遊び”。そのなかでも、私も好きだったのはままごと遊びで、本格的なままごと用のおもちゃを見つけたら、胸がときめいたのを覚えています。

宮崎県小林市で、家族で建具屋さんを営む川﨑建具店さんがつくる「木製ままごとキッチン」は、かつての私のような子どもたちと、その親御さんに絶大な人気を誇っています。老若男女に愛される、木製ままごとキッチンの評判は日本全国へ広がり、小林市ふるさと納税の返礼品としても人気です。2016年8月31日には法人登記をし、社名も川﨑建具店から川﨑クラフト株式会社と新たになりました。

なぜそこまでままごとキッチンに注目が集まるのか。秘密を探りに川﨑さんの工房のお邪魔し、お話を伺ってきました。

家業の起死回生をかけた「木製ままごとキッチン」

── これが「木製ままごとキッチン」ですね!

川﨑 賢広(以下、川﨑) はい。ちょうど最近まで、制作のピークでしてちょっと散らかっているんですけれど……。

── お忙しいところ、お時間をつくっていただきありがとうございます。

川﨑 いえいえ。このレッドが、さっきできたばかりです。

木製ままごとキッチン
木製ままごとキッチンのデラックスハイタイプ(レッド)

── かわいいですね、表面がなめらかでスベスベです。

川﨑 色は全部でウォールナット、ピンク、レッド、ホワイト、ナチュラルがあります。木目調のウォールナットとナチュラルが人気が高いですね。

── 楽天の「ホビナビ」という通販サイトにはじまり、とても注目を集めていると伺いました。あと、小林市のふるさと納税の返礼品としても、注文が殺到中とか。

川﨑 そうなんです。2014年に市役所の方から返礼品としてぜひつくってほしいとお願いがあって。地元である小林に貢献できるならと思って、ふるさと納税にも参加したんですが、まさかこんなに注文があるなんて始めた当初は思ってもいませんでしたねぇ。

── もともと建具屋さんで、お父様と家庭用の木製品をつくっていらっしゃったんですよね。

川﨑 はい。2008年に、高校の同級生が僕の娘の出産祝いに、ままごとキッチンに似たおもちゃを贈ってくれて。その時に同時に「こんなものをつくってみたら?」と提案してくれたんです。

当時、既製品の木製ドアが主流になってきて、建具店としての仕事が激減してしまっていました。経営が苦しくなっていたことも鑑みて、友達がそうアドバイスしてくれたんですね。

── 家業の起死回生もかけていたのですね。

川﨑 最初は「ままごとキッチンって、そんなに需要があるのかな?」と思いましたし、今までやってきた仕事とつくり方が違いますから半信半疑でしたけれど、試しにつくってみたら、すぐ人気に火がついたんです。

川﨑賢広さん

サンタになった気持ちでつくり続けた

── 以前つくっていたものと、ままごとキッチンに対して、つくるときの意識やこだわりというのは変わりましたか?

川﨑 もう、完全に変わりましたね(笑)。今までは親父と仕事をしていたので、「やっておけ」と言われたことを、言われた通りにやればいいと思っていたところも、正直どこかにありました。でも、ままごとキッチンはですね、自分で始めた商品ですから。同じものづくりでも、責任感と情熱が増しました。

パッと見ではあまり分からないんだけど、出荷当初から比べると、少しずつ改良も加えてきているんですよ。

── たとえばどんなところでしょうか。

川﨑 オーブンの扉ですね。オーブンというと、上が開いていて手前に引いて開けるタイプの扉が多いと思ったので、ままごとキッチンにも同様の扉を取り付けたんです。

でもこれだと、小さな子どもたちが引いて開けた時にパタンッと足の甲の上に扉を落としてしまうということが分かって。ちょっと重みがあるので、大人にとっては大したことなくても、子どもたちにとっては結構痛いだろうなと思ってですね。そこで、扉が床と平行に、フラットになるくらいで止まるようにストッパーを付けてみました。すると今度は、開けたあとの扉の上に物を落として壊してしまうとか、子どもたちが上に乗ってしまうという話を聞いて。

改良されたオーブンの扉
改良されたオーブンの扉

川﨑 その後、子どもたちが遊べて壊れにくい構造を探して扉を横開きに改良しました。横開きなら足の上に扉が落ちてくることもないですし、扉の上に子どもたちが乗ってしまうということも、最小限にできるかと思ってですね。留め具は丁番ではなく、回転ピンを入れました。少し強めに押しても、回転ピンなら壊れにくいので。

── 子どもたちは予期せぬ使い方や遊び方をすることがありますもんね。

川﨑 はい。だからクレームや、お客様からの声が届いたら、なるべく取り入れてすぐに改善してきました。おかげさまで、最近は喜んでいただけることが多くて、僕もうれしいです。

今はふるさと納税の影響もあり、年間通して売れているけれど、以前はクリスマスが一番の繁忙期だったんですよ。

── クリスマスプレゼントとして贈る方が多かったんですね。

川﨑 そうです。クリスマスだと24日までに絶対届けなくちゃいけなかったし、しかも北海道とか遠いところからも注文をいただいていたので、残業してつくり込みました。遅れるわけにはいかんですからね、半分僕がサンタのような気持ちでした(笑)。子どもたちのクリスマスプレゼントが遅れるわけにはいかんなぁ、と。

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── お父さんやお母さんが、ままごとキッチンを贈り物にしたい気持ちはとても分かります。

川﨑 一応、ままごとキッチンの対象年齢は2歳からだけど、インテリアとして使いたいというひともおるみたいで。出産祝いにも、買われる方もいます。

木製なので、絶対壊れないという保証がないから、小さい子だと使い方が分からず、ちょっと無茶したりするんですけど。でも、子どもたちが大きくなったとき「ここがヘコんでいるのは、あの時叩いたやつだ」とか「ここに落書きしたのは、3歳ぐらいの頃やったねぇ」とか思い出してもらったり、自分の孫に、ままごとキッチンを受け継いでくれたりしたら、いいなぁと思っています。

1年間で800台を手づくり。次にやりたいこと

── 素人目に見てもていねいにつくられているのが分かります。

川﨑 細かい工程をあげると100くらいに分かれていてですね、機械ではつくれないんです。それは自信があります(笑)。もし機械化して形になったとしても、木目が揃わなかったり、ヒビを見落としたりすると思うんです。ものづくりにおける人間の力って、機械の精密さに勝つと思うんですよね。素材とか、つくるものによりますし、時間はかかるけど。そういう職人技が、最近見直されて、評価されてきている気がしてですね。

── そうなんですね。でも確かに、つくるひとの顔が見えるものとか、思いを込めたものを使いたい、選びたいというひとは多い気がします。

川﨑 10年前、20年前と比べると職人さんが、重宝されている気がします。

── ままごとキッチンも、川﨑さん以外に、つくっていらっしゃる職人さんがいらっしゃるんですよね。

川﨑 はい。今まで親父とふたりでやっていた時とは、また違った雰囲気で、勉強になりますね。家族でやっているときには、阿吽でできたことも多かったんです。

でも新しく入ってもらった従業員の方とかは、ちゃんとコミュニケーションを取らないと、お互いの気持ちが分からない。当たり前なんですけれどね。こっちの求めるクオリティとか意見を押し付けても、まいっちゃうだろうし、そのへんの調整は難しいですね。

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川﨑 あとはやっぱり、仲間が増えたことで心強さはすごく増しましたよ。自分が他のことをやっちょっても、同時進行で別の作業が進んでいるという状況は、すごいありがたいと思っちょって。だからこそ、うちで働くことで、みんなより良く暮らしていければいいなぁと思います。そういう職場にしたいなと。

近所のひとたちから、「川﨑さんちで働いているひとたちは、みんな元気で楽しそうに仕事やっちょんね」って思ってもらえるような場所にしたいです。

── ままごとキッチン以外に、新しくこういうものがつくりたいという思いはありますか?

川﨑 作業スペースを広げたいなぁとは思っていますね。ここは、親父が1人で仕事をするためにつくった工場で、ぼくが生まれた年にできたから、もう40年経ちます。当初親父だけだったのが、今は4人で作業していますから狭くて。

川﨑建具店の工場。川﨑さんのお父様の手づくりの作業場には、いろいろな工具が並ぶ
川﨑建具店の工場。川﨑さんのお父様の増築された作業場には、いろいろな工具が並ぶ

川﨑 暑かったり寒かったりしますし、作業中にすれ違うのも困難でですね。しかも、ままごとキッチンも結構大きいもんで、これをストックする場所があったらいいなぁと思うこともありますね。

── たしかに、これをストックしておくのは大変そうです。

川﨑 つくったらどんどん出荷しているから、10個以上溜まることはないんですけどね。だいたい年間800台くらいつくっていますね。

── 800! ぜんぶ手作業だということを考えると、本当にすごいですね……。

川﨑 今年はもっとすごくて、7月末の時点で500台つくっていました(笑)。おかげさまで、今年は例年よりさらに、ふるさと納税の返礼品として注文してくださる方が多いみたいです。

現状でも回ってはいますが、ままごとキッチンは木製なので、欲を言えば湿度や光の量を調節できる環境がほしいんです。湿気が多いと木が膨れたり、乾燥するとヒビが割れやすくなったりするので、きちんとした保管場所がある方が品質を保てるんですよね。

でもまぁ、歴史が詰まった慣れ親しんだ工場ですからね、最後の悪あがきじゃないけど、ここでできる限りつくり続けたいなと思っていますよ。

(この記事は、宮崎県小林市と協働で製作する記事広告コンテンツです)

お話をうかがったひと

川﨑 賢広(かわさき たかひろ)
家族経営の工場「川﨑建具店」の2代目であり、木工職人。2008年から木製ままごとキッチンの制作・販売を開始。後にホビナビのSHOP OF THE YEAR 2013の受賞に貢献。日本全国から注文が殺到中で現在では発送が1、2ヶ月待ち。木製ままごとキッチンは、小林市ふるさと納税の返礼品としても人気。詳しくはこちら

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