「私が好きなものを組み合わせたら、こういうお店の名前になりました」。東京の杉並区と武蔵野市の境目に位置する本屋さん「青と夜ノ空」の店主・中村克子さんはおっしゃります。元編集者の中村さんが、より読者の生の声に近づけるよう、憧れていたイベントスペース兼本屋さんをオープンしたのは、2014年10月のこと。
もし私が本屋さんを開くなら、どんな名前をつけるだろう?
そんなことを考えながら、厳選された本を眺めていると、中村さんの“好き”が店内からやさしくあふれてくるようです。
編集者時代から憧れていたリアルな場所
── 私は以前、東京の西荻窪(以下、西荻)に住んでいたのですが、このお店は西荻窪駅とお隣の吉祥寺駅の、ちょうど中間地点にあるんですね。前を通りかかったことがあるだけで、入店するのはじつは今日が初めてです。
中村克子(以下、中村) そうなんですか。ありがとうございます。ここは、以前は骨董屋さんだったようですが、空き物件になっているのをタイミングよく見つけて、「青と夜ノ空」をオープンすることに決めました。
── 西荻は骨董屋さんや古道具屋さんが多いですものね。
中村 店内で使っている家具の一部は、西荻の古道具屋さんで購入したものですよ。
── そうなんですか! 町のなかで経済が回っているのが西荻の特徴だと、よくうかがっていたので、納得です。
中村 西荻は個人で経営しているユニークなお店が多いですね。色々とお世話になっているお店もあり、とても心強い存在です。
── 2014年にオープンとうかがったのですが、出店までの経緯をもう少し詳しく教えていただけますか。
中村 本屋を開く前は、編集者として長年働いていました。扱うテーマも幅広く、何でも屋さんみたいな部分もありましたが(笑)、編集の仕事はそれはそれで楽しかったんです。
── 編集者の方が本屋さんに転向するというのは、親和性が高そうだし、仕事の経験知識が活かせるように思います。
中村 選書をするときに、編集者として仕事をしてきた視点が活かせる部分もあります。両方とも本や雑誌を扱う仕事ですが、制作する側と売る側という仕事のスタンスが違いますね。それに、じつは本屋をやるというのは後付けで、本当は多くのひとが集まる場所をつくりたいという気持ちが先にあったんです。
── それはどうしてですか?
中村 以前から、イベントやワークショップに参加するのが好きで。蔵前にある「アノニマ・スタジオ」さんってご存知ですか? アノニマさんが開催している料理教室やトークイベントなどに、時々参加していたんです。「青と夜ノ空」では衣食住をテーマにした本を中心に置いていますが、いろんなイベントに参加していたことが、今の選書の仕方に影響しているかもしれません。
── イベントスペースに本を置くということは、はじめから考えていたわけではない、ということでしょうか。
中村 五感で感じられる場所をつくりたい、と思っていましたが、そこに知識を補填できる本があれば、もっといいなと思って。前職を通して、本が持つ影響力や、ひとによって解釈が変わる奥深さは感じていたので、イベントと本の相乗効果があるといいなと思って、本も仕入れることにしました。結果、いまは本屋さんと銘打っています。月に数回、イベントもやっていますけれどね。お店としては、本にもイベントにも均等に力を入れています。
いいものは新しくても古くても売れる
── 窓が大きくて、白壁の店内に光がたっぷり入ってくるから、とても明るいですね。誰かの部屋に来たような心地がします。
中村 ありがとうございます。そういうふうに感じていただけると、とてもうれしいです。
── 「青と夜ノ空」さんでは、衣食住をテーマに選書されていると、さきほどおっしゃっていましたよね。衣食住というと、幅広いテーマな気がしますが、選ぶポイントはなにかあるのでしょうか。
中村 まず、日々の暮らしを豊かにしてくれるような内容かどうかという点です。その本で表現したいことがきちんと表現されているかどうかを確認します。それと、表紙やデザインも選ぶポイントです。いい本はトータルで見てしっかりとしたつくりになっていると思います。最終的に選ぶのに迷った時は、自分が好きかどうか、読みたいかどうかで判断しますね。
── いわゆる大型書店やチェーン店では扱っていない、リトルプレスや豆本などもありますね。こういうのはどうやって見つけてくるんでしょうか。
中村 きっかけは、お店をオープンする前に行ったTOKYO ART BOOK FAIRというイベントでした。そこに出展されている本は、ほとんどがリトルプレスだったり自費出版だったりで、主流な販路では手に入らない本がたくさんあったんです。そこで掘り出しものやお気に入りを見つけて、お店で取り扱うようになりました。最近では自分でリサーチするだけでなく、リトルプレスを制作している人から時々、売り込みがあることもありますよ。
お店のお客様のなかには、リトルプレスをまとめ買いされる方もいらっしゃいます。リトルプレスの魅力は、つくり手の表現したいことがダイレクトに表れているところだと思いますね。
── 今のお話を聞いて、誰かの部屋に来たように感じるのは、中村さんの好きなもので溢れているからかもしれないと思いました。
中村 あはは、ありがとうございます(笑)。でも、古本の買取もしているので、すべての本が私の選書というわけではないんです。あえて、新刊も古本も一見では分からないように混ぜて配置しているんですけれど。お客様が持ってきてくださる本は、どれも私も好きな雰囲気のものが多くて、うれしいです。
── どうして混ぜているんでしょう?
中村 いい本であれば、古くても新しくてもあまり関係ないのかも、と思って。たとえば子ども向けの絵本の『いないいないばあ』(童心社)は、46年前に発行されてから何百万部も売れている、超ロングセラーです。世代を超えて読まれている本のひとつですね。古典なんかもそうですが、見た目の状態さえ最低限整えてあげれば、いい本は新旧に関係なく売れるだろうと思います。
“好き”かどうかが大事なポイント
── イベントとも本も、中村さんの“好き”が投影されているのが、とても大事なポイントなのだと感じました。今後、やりたいなと思っているイベントなど、あれば教えていただけますか。
中村 もうすこし、本関連のイベントを増やしたいなと思っています。以前、吉祥寺の夏葉社さんという出版社の島田潤一郎さんをお招きしてトークイベントを開催したのですが、好評だったし、貴重なお話をうかがうことができました。ここは本屋だし、著者の方をお招きしたり、先ほどの話にあった、リトルプレスのつくり手さんとイベントを開催できたら、と思っています。
── 本関連のイベントであれば、ますます相性が良さそうですね。
中村 あとは……リトルプレスやそのつくり手さんを見ていると、自分でもつくりたいなあと思う気持ちが、ちょっとわいてきます。
── お仕事のキャリアがありますから、すぐできそうですね!
中村 そうですね、売る場所もあるので、こっそり置いて(笑)。でも、具体的に何を自分でつくるかって、テーマまでは決めていないんですけど……もう少しテーマが固まったら、動き出そうと思っていて、考え中です。
── できたら、ぜひ拝見したいです。楽しみにしています。
お話をうかがったひと
中村 克子(なかむら かつこ)
大学卒業後、出版社や編集プロダクションにて雑誌や広報誌などの編集制作を手がける。人が集まることができる場所を持ちたいと考え、学生時代より馴染みのあった吉祥寺、西荻窪で物件を探す。2014年10月より「青と夜ノ空」をオープン。
このお店のこと
青と夜ノ空
住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町5-6-25
電話番号:070-1403-6145
営業時間:12:00~20:00
定休日:水曜日
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