【島根県海士町】特集を組んできた『灯台もと暮らし』。現在、武蔵野大学と株式会社巡の環が協働で行う「海士ゼミ」の密着取材をしています。テーマは「都会と田舎の新しい関係を考える」。学生たちと共に、座学や、フィールドワークを交えながら、2015年6月から2015年11月の約半年間に渡って海士町の未来を探ります。
思考し、計画し、行動、そして発表する場を用意された、次世代を担う若者たちの想いはいかに? 講師を務めるのは、武蔵野大学の明石修(以下、明石)准教授と、株式会社巡の環(めぐりのわ)取締役の信岡良亮(以下、信岡)さんです。

講義一覧

第1回:地域活性化への4層のフェーズ

地域活性化への4層のフェーズ

信岡良亮(以下、信岡) 地域の現状をきちんと把握するために、まず知っておきたいのは「地域活性には4層のフェーズがある」ということ。あくまでもぼくの仮説だけれどね。

イメージはつくかな? つまり、持続可能な仕組みを持った地域になることを町づくりの目的とすると、それを達成するまでに4つのフェーズがあるということなんだ。

具体的に4層のフェーズを見ていこう。(数字は信岡さんの肌感覚です)

  1. 困って動けない段階:80%
  2. なんとなく動きはじめた段階:15%
  3. 動きがいいスパイラルをつくっていける段階:5%
  4. 持続可能な仕組みになる段階:0%

人口減少が続き、田舎では過疎化が進む日本社会では、今いろんな地域がそれぞれの未来を明るくしようと努力しています。たとえば、B級グルメグランプリの開催や、ゆるキャラのブームは、その代表と言えるよね。

「各地域が新しい動きをはじめた」という報道が広まってきているけれど、何をしたらいいのかわからなくて困って動けない地域が、全体の80%くらいのイメージ。なんとなくでも「はじめよう」と動きはじめた地域は、15%ほど。活動が螺旋階段を上るように、いい流れをつくっている地域は5%ほどだけ。でも、持続可能な仕組みを実現した地域は、まだ存在しない。

というのも(4)は、ひとつの地域だけで成立する話でもないからなんだ。

地域の課題=「私」という、ひとりひとりの心の集合体

信岡 地域の未来を切り拓くために動くうちに、「私」という個人の人生を、地域と重ねて考えることができると思う。多くの人は、自分の人生に真剣に向き合っていない気がするから。そういう人が80%くらいなんじゃないかな。人生に向き合い、自分らしい道を歩みはじめてもがいている人が15%、その歩みを進めて、心に素直に生きるというサイクルをつくっている人は、全体の5%くらいだと思う。

試しに、騙されたと思って、1~4のそれぞれのフェーズの言葉の前に、「自分の人生を切り拓こうとして」と入れてみてほしい。自分の人生に置き換えて考えたとたん、1~4のどこに自分が当てはまるか、イメージしやすくなるんじゃないかな。

ぼくがこう考えるようになったのは、地域活性化のモデルとして海士町を紹介するときに、講演で訪れた地域によって話の聞き方の雰囲気がまったく違うからだった。

(1)の地域で話すと、「他の地域だからうまくいくんでしょ?」って素通りされる気がして、とても寂しい。自分ができない理由ばかり探しているようで。

(2)の地域に行くと、「自分たちの地域も何かやろう」と考えてくれる。でも、何をしたらいいのかわからない……と戸惑っている雰囲気。(3)の地域では、ぼくが話をすると「やりたいこと」「できること」を話しはじめて、どういうところなら自分たちが実現できるかという会話が生まれるんだ。

ぼくが同じことを話しても、地域によって当事者意識の持ち方は千差万別なんです。地域の課題は、「私」とシンクロしていることが伝わったかな? 多くの地域の課題だといわれている悩ましい形があるとすれば、それは「一人ひとりの心の集合体」だと思うんだ。地域をよくするためには、まずは自分の心をちゃんと覗いてみることが大切です。

そして自分自身を「なりたい未来の自分」へ変えていけると、ひとりの変化が「動けずに困っている地域を動かす」ための、ひとり分のエネルギーになるのではないだろうか。

──第2回に続きます。

(イラスト/Osugi)

【島根県海士町ゼミ】講師陣について

信岡良亮さん

講師:信岡 良亮(のぶおか りょうすけ)
取締役/メディア事業プロデューサー。株式会社巡の環の取締役。関西で生まれ育ち同志社大学卒業後、東京でITベンチャー企業に就職。Webのディレクターとして働きながら大きすぎる経済の成長の先に幸せな未来があるイメージが湧かなくなり、2007年6月に退社。小さな経済でこそ持続可能な未来が見えるのではないかと、島根県隠岐諸島の中ノ島・海士町という人口2400人弱の島に移住し、2008年に株式会社巡の環を仲間と共に企業。6年半の島生活を経て、地域活性というワードではなく、過疎を地方側だけの問題ではなく全ての繋がりの関係性を良くしていくという次のステップに進むため、2014年5月より東京に活動拠点を移し、都市と農村の新しい関係を模索中。【募集中】海士町でじっくり考える「これからの日本、都市と農村、自分、自分たちの仕事」

明石教授

ゼミ主宰:明石 修(あかし おさむ)
武蔵野大学工学部環境システム学科准教授。博士(地球環境学)。京都大学大学院地球環境学舎修了後、国立環境研究所に勤務。地球温暖化を防止するための技術やコストをコンピューターシミュレーションにより明らかにする研究に従事する。その一方で、環境問題の解決において技術的対策は対症療法に過ぎず、社会を真に持続可能なものにするためには、社会や経済の仕組みそのものを見直す必要があるのではという問題意識を持つ。2012年に武蔵野大学環境学部に移ってからは、おもに経済的側面から持続可能な社会の在り方について研究を実施。物的豊かさをもとめる人類の経済活動は肥大化し、本来あるべき地球のバランスが崩れてしまった今、もう一度自然や地域コミュニティに根ざした社会をつくりなおす必要性を感じ、そうした場としてローカルな地域での暮らしや経済に関心を持っている。

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