「株式会社 石見銀山生活文化研究所(以下、群言堂)」のお店は、日本のいろいろな地域にありますが、そこで見つけることができる、広報誌をご存知でしょうか。
冊子の名前は『三浦編集長』。群言堂の広報誌で、書いているのは若手のひとり、三浦類さんです。
広報誌であるにも関わらず、群言堂の文字は表紙の右上にぽつん、とあるだけ。しかも名前は『三浦編集長』。その名前に込められた想いとは、いったいどんなものなのか、ご本人にお話を伺います。
三浦さんが入社したから生まれた『三浦編集長』
── 三浦さんには、今回の取材にあたって社員さんと私たちの間でスケジュール調整などをしていただきました。ありがとうございます。
三浦類(以下、三浦) いえいえ、これがぼくの仕事なので。
── 所属としては、広報課になるのですよね?
三浦 そうですね。広報課には、ぼくを含めた3人の社員がいます。
── 三浦さんと言えば、広報誌の『三浦編集長』のことをお伺いしないわけにはいきません。これは会社の広報誌、という認識で間違いないのでしょうか?
三浦 そうですね。季刊広報誌として年に4回発行しています。
── しかも、写真から執筆、編集まですべてお一人でやっていらっしゃるとか。
三浦 はい。毎回、締切ギリギリになって必死に書いています(笑)。
── 三浦さんがいらっしゃる前は、こういった広報誌のようなものはあったのでしょうか?
三浦 定期的な刊行物はなかったようです。ぼくは新卒で群言堂に入社したんですが、もともと書くことが好きで新聞記者を志していました。その話を会長(松場大吉さん)が覚えていて、「広報誌のようなものを書いてみたら?」と提案してくれたところから、『三浦編集長』が始まりました。2014年から刊行していて、もうすぐ春の号が出ます。
── 好きなことが仕事になったんですね。
三浦 事業ありき、というよりは、個人の特技や好きなことを活かせる仕事を生み出して育ってきた会社ですから、こうしてものを書く仕事ができるのは幸せだなあと思っています。ただ、つくっているのはぼく一人なので、いつも「これで大丈夫かな」って模索していますが(笑)。
── 毎回、トップは島根県大森町の風景の写真ですが、どこかに三浦さんが隠れているんですよね。あれも一人で撮影されているんですか?
三浦 はい。どこに写り込むか決めてから、10秒間のセルフタイマーをセットして撮影しています。最初は撮影しているところを町のひとに見られたら怪しまれるか心配でしたけれど、もう慣れました(笑)。
群言堂のお客さまと、自社で働くひとたちに届けたい
── 『三浦編集長』という名前はご自身でつけたのでしょうか?
三浦 いえ、広報誌をつくろうと決めた時に、会長がつけました。
── 一人称はすべて「三浦」で統一されていますね。
三浦 三浦で書こうと、最初から決めていたわけではないのですが、「ぼく」とか「俺」じゃないなと思ったんです。名前に三浦と入っているし、書いているのは紛れもなくぼくなんですが、知ってもらいたいのはぼくのことではなく、大森町のこと。ですから『三浦編集長』では、一人称でも三人称でもないふわっとした「三浦」という人間の視点から、大森町のことを紹介しています。
── 広報誌であるにも関わらず、会社の宣伝ではなく町のことを記事にしているというのがとてもおもしろいです。狩りに行ったときの話や、養蜂の話、あと三浦さんが群言堂にたどり着くまでのエピソードも。
三浦 ありがとうございます(笑)。会長も所長(松場登美さん)も、群言堂は大森町という地域があってこそ成り立っていると考えています。会社の根っこには大森町という町の存在があるんです。『三浦編集長』を見て、大森町に興味を持っていただけたらと思いながら毎号つくっています。
── 事業の宣伝や紹介はありませんが、「三浦類の職場放浪記」という、働いている方のインタビューシリーズはありますよね。「Gungendo Laboratory」の植物担当の鈴木さんや、「他郷阿部家」の瑞さんも登場されていました。
- 参考:【島根県石見銀山・群言堂】何者でもない私が「他郷阿部家」の見習い女将になるまで|大河内瑞
- 参考:【島根県石見銀山・群言堂】ブランド「Gungendo Laboratory」里山発・新たなファッションを切り拓け!|植物担当・鈴木良拓
三浦 そうですね。広報誌という役割も持たせつつ、社内に向けて書いている側面もあります。
うちには今、ぜんぶで150人ほど社員がいますから、社員同士でお互いを知らないひとも多い。『三浦編集長』は各地にある群言堂の全店舗に配布されますから、記事の中で取り上げられれば「こんなひとがいるんだ」と自社を知るきっかけにもなると思うんです。それに、常に顔を合わせているメンバーでも、じつは知らない一面もあると思いますしね。
お客様にとっても「ああ、こういうひとたちが働いている会社なんだ」と知っていただければ、新しいコミュニケーションが生まれるかなと思います。
── たしかに、島根に暮らしている社員さんだけではなく、東京で働いている「gungendo COREDO室町店」店長の六浦さんにも取材されていましたよね。
三浦 はい。店舗スタッフにとって、『三浦編集長』は群言堂の商品のことがほとんど書かれていないので、だからこそお客さまに手渡しやすいみたいです。たとえばラボ(Gungendo Laboratory)のシャツの、染料になった植物のことをお客さまに説明する際、『三浦編集長』に掲載されている植物採集の話を引き合いに出すと、お客さまもイメージしやすくなる。
『三浦編集長』そのものは、群言堂の売上に直接的には貢献できません。でもこれをきっかけにお客さまと話がはずんだり、大森町のことを知っていただけたりすると、一番うれしいですね。
── 読者の方の反応が分かるのは、うれしいですよね。特に反響があった号や特集はありますか?
三浦 阿部家の瑞さんの記事は、いろんな方からご連絡をいただきました。彼女は今でこそ阿部家の見習い女将としてがんばっていますが、そこへ至るまでには辛い想いもしてきたんです。詳しくはぜひ『三浦編集長』Vol.6を読んでいただきたいのですが(笑)、取材中に彼女のエピソードを聞いていたら、なんだか涙が出てきて。瑞さんもぼくも取材場所の飲食店で泣きながら話しているという、傍から見たら不思議な光景だったと思います。
インタビューが載った号が出ると、同じような辛い想いをした方や、今まさに戦っている方、励まされた方などからお便りやお電話をいただきました。
あの時から、『三浦編集長』をつくる意識が変わりましたね。それまでは完成させることに必死だったけれど、形にしたものがどんなふうにひとに届くかをより想像するようになりました。
大森町という土地があるから今のぼくたちがある
── 瑞さんは私たちもお話を伺いましたが、とてもすてきな方でした。瑞さんは東京から大森町へ移住されたと伺いましたが、三浦さんも移住されたのですよね?
三浦 出身は愛知県です。入社と同時に大森町へ移住してきました。
── ご実家は大森町のような町ですか? それとも……。
三浦 いや、実家はふつうのマンションですよ。だから、大森町での暮らしはすごく楽しいですね。休みの日は鈴木(良拓さん)と一緒に山へ入ったり、地元の方について動物のさばき方を教えてもらったり……だから『三浦編集長』のネタに困ることはありませんね。ぼく自身の経験が、そのまま記事の素材になりますから。
── 三浦さんの暮らしそのものが、『三浦編集長』の題材になるんですものね。楽しそうですね。
三浦 書き上げるのは苦しい作業ではありますけれどね(笑)、楽しいですよ。ぼくのやっていることは、会長や所長の想いをぼくなりの言葉で咀嚼して、発信していくことだと思っています。それが広報課に所属する者としての役割だとも、思いますから。
── 咀嚼して発信するうえで、意識していることはありますか?
三浦 基本的には、会社ではなく大森町を知ってほしいという想いは一貫しています。群言堂は、大森町という土地に支えられてやってこられた会社です。だからこそ、大森町での暮らしが持続可能なものになって、地域に還元できるビジネスをしていこうと決めています。だったら、ぼくが発信する内容も、その後押しができるものがいい。
三浦 大森町での暮らしが会社や個人の日常に根づいていく様子を『三浦編集長』にのせて届けることで、大森町の暮らしに関心を持つひとが増えたらいいなと思っています。もしどこかで見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。そして、大森町に遊びに来てくださいね。
(一部写真提供:群言堂)
お話をうかがったひと
三浦 類(みうら るい)
愛知県名古屋市出身。実家はマンション暮らしだが、幼少期に住んだアメリカや南アフリカで広い一軒家や田舎暮らしも経験する。東京での学生時代に松場大吉に出会い、群言堂のインターンとして大森を訪れたことをきっかけに2011年入社。広報誌「三浦編集長」の制作や取材対応、WEB・印刷物での情報発信などを担当。植物担当・鈴木や阿部家・小野寺とともに狩猟免許を取得するなどして、頻繁に山や海で遊びながら大森暮らしを楽しんでいる。趣味はフラメンコギター。
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