徳島県神山町で草木染め職人の瀧本染昌さんにインタビュー中、お子さんを連れたお客さまが来ました。ご友人の定岡俊祐さんです。海外を旅した経験から導き出された地に足のついた暮らしとは、価値観を明確にすることからはじまると言います。
地に足をつけるとは、自分で価値を決めること
── 定岡さんも、瀧本さんと同じく神山町で暮らしているとうかがっています。こちらでの生活をふまえた上で、定岡さんにとっての地に足のついた暮らしを教えていただけますか。
定岡俊祐(以下、定岡) 一言で言うなら、自分の価値観に正直に生きること。かな。好きなことや美しいもの、自分が信じているものに対して、どれだけ素直に生きているか。雑誌のランキングを参考にしたり、流行っているからって理由で自分にとっても価値があるっていう相対的な価値観ではなく、自分で判断して、自分で価値を決めるってこと。
今の世の中は、社会や法律だったりモラルや常識だったり、流行や相対的な価値観だったり、地の上にいくつもの層があって、時としてその層は地すべりを起こすよね。昨日までは「良い」とされていたことが、いきなり「悪い」ことになったり。でも物事の本質って、そんなにコロコロ変わっていくもんじゃない。だからこそ、社会的な風潮や流行や常識の上に立つんじゃなくて、それらを全部踏み抜いて、地すべりを起こさない自分の中心にちゃんと立つことが大切だと思うよ。
俺が地に足のついていると思う人たちは「これが良い」と思う自分の価値観を信じて、やりたいことを追求している人たちばかりだね。
── 定岡さんご自身は、地に足がついていると思いますか?
定岡 俺は旅をしていた時間が長かったから身体は移動していることが多いけど、地に足はついているという感覚があるよ。
── なぜでしょう?
定岡 自分で判断して、自分で価値を決めることを旅を通じて学んだからかな。移動や、宿、全てに言えること。例えばアジアだと買い物なんかで値段の交渉をするんだけど、そこで、その品物が自分にとってどれくらい価値があるか考えなきゃいけない。もちろん相場や情報も大事だけど、俺にとっての1,000円と、誰かにとっての1,000円は同じ価値ではないから。日本だと値札がついているから、買い物は楽だけど、自分で判断して価値を決める機会は奪われてるよね。
これから豊かさの基準は、生み出せるエネルギー量
── 旅をすると、たしかに自分で決めなきゃいけないことが山ほどありますよね。お金の価値についてはどうでしょうか?
定岡 お金ってものすごく便利だし、何かを比較するものさしとしてもわかりやすいよね。ただ、みんなお金に頼り過ぎたり、信じ過ぎたりしているように見えるよ。
俺にとってもお金はもちろんとても大事。だけど絶対的なものじゃない。生きていくのに必要なエネルギーの全体の中の一部分としてとらえている。ご飯を食べたり服を買ったり、暖房をつけたりするために、ストレスをためて一生懸命デスクワークをしてお金を稼がなくても、自分で野菜を作ったり、服を作ったり、暖をとるために山に薪の木を切りにいったりするっていうお金を使わない方法もある。そっちの方が、生きることに直接的に働きかけることができるしね。
今の社会は「どれだけ大きなエネルギーを使うことができるか」が豊かさの基準になってるよね。けど、これからの時代は「どれだけ自分の使うエネルギーを自分で生み出せるか」が豊かさの基準になると思う。少し昔と比べて個人が扱うエネルギー量がものすごく増えていて、膨らんでいかないと継続できないシステムになっているでしょ。経済優先の社会を成り立たせるために、テレビもパソコンも車も一人一台なきゃだめな社会を作っている。
だけど俺はその方法はもう限界が来ていると感じてる。社会のシステム的にも、人や地球にとっても。だって化石燃料を掘り続け、森林を伐採して、大気を汚して、水を汚して、地球の恵みを消費する一方だもの。要するにエネルギーが循環してないんよ。
その結果は、異常気象や土砂災害、原発の事故や大気汚染の問題、自殺率なんかの形で誰の目にも明らかに現れているでしょ? そろそろ俺たちは少しずつでもスローダウンして、エネルギーを地球に還元していく方向に向かう必要と責任があると思うよ。
だからまずは、一人ひとりが自分が生きるために本当に必要なエネルギーの量をちゃんと知ること、判断することがとても大切だと思う。電気や熱、食や自然、人とのつながり、音楽やアートもそう。その上で、自分で生み出せるエネルギーのことも考えていければいいね。
(後編に続きます。)
■後編:【徳島県神山町】自分らしく生きたい人へ。幸せに暮らすために、ワクワクする実験をしよう
お話を伺ったひと
定岡 俊祐(さだおか しゅんすけ)
1978年生まれ。岡山県出身。大学卒業後、アジアを中心に音楽とモノづくりしながらの旅暮らし。子どもの妊娠をきっかけに、美味しい空気と水がある場所を求めて2010年に神山移住。天然石のアクセサリーを作ることを生業とし、神山の仲間とバンドを組んで音楽することを生き甲斐とする。妻と子ども2人と一緒に、薪と天然水で山暮らし。
インタビュー音声はこちらで公開中!
・有料オンラインコミュニティnote「灯台の管理人」
[1][取材音声]自分がより良くなるための実験をして100点をめざす
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