徳島県神山町で草木染め職人の瀧本染昌さんにインタビュー中、お子さんを連れたお客さまが来ました。ご友人の定岡俊祐さんです。より豊かに暮らすためには、仮説と実験を繰り返すべきと語る定岡さん。なぜ実験をする必要があるのでしょうか? 含蓄に富んだ言葉は参考になることまちがいなしです。今回は、前編に続き後編です。
ワクワクする実験が少ないと、自分の輪郭がぼんやりする
── 今の日本には「この仕事は、自分が心から望んでいる仕事ではないかもしれない」と思いながら働く人が少なからずいる気がしています。定岡さんは、このことについてどう思いますか?
定岡俊祐(以下、定岡) 本当にもったいないなと思う。自分の人生の中で仕事をしている時間って長いよね。そこを楽しめないんじゃ、ただ自分の命の時間とお金を交換しているだけになってしまう。そういう人たちの多くは、お金に対する不安や恐怖がベースにあると思う。例えば、「年金もらえないかもしれないから老後のために貯めなきゃ」とか「生活のクオリティを下げたくない」とかね。確かに、それも大事かもしれないけど、やっぱりそれじゃあワクワクできないよね。
── ワクワクしていないと、どうなるんでしょうか。
定岡 自分という人間の形、輪郭がはっきりしない。なんとなく自分のカラーはわかってるつもりだし、考えや思っていることもある。だけど自分がドキドキしたりワクワクするトライが少ないと、自分の形がものすごくぼんやりしていて見えてこない。形が見えてこないから自分のこともよくわからないし、なりたい形になるために何をどうすればいいのかもわからない。
自分らしく生きるためにも、まずは自分の形を知って、らしさを知ることって大切だよね。ありがたいことに、日本ってトライして失敗したら死んでしまうような国じゃない。餓死することはまずない。本当にお金が必要だったら仕事はなんでもあるわけだし。
── そうですね。
定岡 それなら、自分がより良くなるためのトライを多くするべきだよね。もちろん仕事に限った話じゃないけれど。どうやったらより良くなるかなんてわからないから、「こうなればおれはもっと幸せだ」という仮説をまず立てて、実験してみるんだよね。人見知りじゃない方が幸せなはずだから、一日5人、知らない人に話しかけてみよう、とか。俺は表現している時が幸せだから、路上でギターを弾いてみよう、とかね。
たとえ失敗しても次の仮説を立てて試してみればいいだけだからさ。結局トライを邪魔しているものは、自分の人生にあまり関わらない他人の目だったり、自分のどうでもいいプライドだったりするんよね。
自分の価値観がわかると、はじめの一歩が早く踏み込める
── 定岡さんのお話をうかがっていると、もっと気軽にトライしていくべきなのかもしれないなあと思えてきました。
定岡 そうだね。俺も旅は大きな実験室だと思っていたから、いろいろ実験したよ。今だって、そうだしね。ただ、老後はより幸せな自分で楽をしていたいから(笑)。頭も体も心も柔軟で自由に動ける20代、30代のうちに、トライすること、実験すること、失敗することがものすごく大事だね。特に、二度としたくない経験の一度目を、どれだけウェルカムできるかは勝負だと思うね。旅してるとそんな経験だらけだよ。
── 旅で、なにがあったんでしょうか(笑)?
定岡 結構はちゃめちゃな旅をしていたからね(笑)。ハプニングやアクシデントやトラブルがこれでもかってくらい。けど、それって俺にとって必要な学びがあるから起こってることで。必ず「このアクシデントがあって良かった」って着地点があるんよ。その経験によって自分が学んだこと、自分の人生が豊かになったことにフォーカスする。
なにかトラブルが起きても、ただ落ち込んでいたり、誰かのせいにするなんてもったいない。とにかく無条件で現状を受け入れて、その状態から良くなるために自分は何ができるかを模索する。そういう体験の中で自分の形やカラー、美意識や自分の価値観が徐々にわかってくるようになる。そうすると、より良くなるための最初の一歩がものすごく早く踏み込めるようになるんよね。
── 私はインターネットで模索して立ちどまってしまうタイプです(笑)。
定岡 わからないと、みんな一生懸命調べるよね。調べたり人に聞いたり。もちろんそれも大切だし役に立つよね。でもインターネットに載っている情報も人に聞いた話も、他の誰かが見つけた答えであって、自分にフィットするかはわからない。
── 同意です。
誰かが用意してくれた答えを使えば、60点くらいは取れると思う。けど、せっかくだったら0点かもしれないけど100点を目指したいよね。目指してる時点で、過程は100点満点なんだし、その過程が一番ワクワクできるはずだから。
── そうですよね。私も、100点を目指している人が大好きです。自分の軸を持ってワクワクする挑戦をしている人は、ちょっと泥臭くてもかっこいい人だなって思います。
定岡 うん。結局、結果は点で過程は線だから。結果が出たら嬉しいけど点の部分での喜びでしかないよね。それ以上に、過程が大切なんだと思う。自分を裏切り続けて手に入れた結果なんて後味が悪いから。どれだけ自分の色で、自分らしく在れるかを大事にして過程に取り組まないと、他の何かを大事にはできないと思う。
トップ画像撮影:サイトウ リョウ(ryosaito.com)
取材後記
人はなにか大事なことを決める時、誰かに答えを求めたくなります。インターネットで検索もします。立ち止まっている背中を押してもらいたいんですよね。でも聞けば聞くほど、選択肢が増えてどうしたらいいかわからなくなる。
だからこそ、自分のブレない価値観を持って立っていきたい。今日も地に足を着けて。
お話を伺ったひと
定岡 俊祐(さだおか しゅんすけ)
1978年生まれ。岡山県出身。大学卒業後、アジアを中心に音楽とモノづくりしながらの旅暮らし。子どもの妊娠をきっかけに、美味しい空気と水がある場所を求めて2010年に神山移住。天然石のアクセサリーを作ることを生業とし、神山の仲間とバンドを組んで音楽することを生き甲斐とする。妻と子ども2人と一緒に、薪と天然水で山暮らし。
インタビュー音声はこちらで公開中!
・有料オンラインコミュニティnote「灯台の管理人」
[1][取材音声]自分がより良くなるための実験をして100点をめざす
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