【島根県海士町】特集を組んできた『灯台もと暮らし』。現在、武蔵野大学と株式会社巡の環が協働で行う「海士ゼミ」の密着取材をしています。テーマは「都会と田舎の新しい関係を考える」。学生たちと共に、座学や、フィールドワークを交えながら、2015年6月から2015年11月の約半年間に渡って海士町の未来を探ります。
思考し、計画し、行動、そして発表する場を用意された、次世代を担う若者たちの想いはいかに? 今回は9/7~9日にかけて海士町を訪問して実施したフィールドワークを終えて、海士町と都市の違いは何だったのか? 学生たちの生の声を聞きました。
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- 【島根県海士町】巡の環が目指す、江戸時代の藩邸をモデルにした「島の大使館構想」:第3回
講義一覧
- 講義をはじめる前に
- 序章:「海士ゼミ」に参加する君たちへ
- 第1回:地域活性には4層のフェーズがある
- 第2回:君たちは「プランB」をつくっていく世代だ
- 第3回:「人間関係を重視する」「物事を進めていく」力の両方をインストールしよう
- 第4回:「モノ」や「お金」に心を乗せて「あなたに」贈ろう
何もないからこそ、何でもできて、何でもある
今回、海士町を訪れて「ないものはない」という精神に学ばされました。「ないものはない」にはふたつの意味があります。
ひとつは、「なにもない」という意味、ふたつは、「ないということがない」つまり「なんでもある」という意味です。何もないからこそ、何でもできて、何でもある。「自分たちで考えて、つくってしまおう」という姿を、実際に海士町で働く方々を見て感じることができました。
これを東京で置き換えて考えてみたとき、東京は何でもあるのに、何も使ってないのではないかと思いました。これから生きていくうえで、あるものをどう使うべきか、自分には何が本当に必要なのか考えなければならないと思います。
(服部健一)
Iターン者が挑戦できる理由とは
海士町では誰かが何か新しいことを始めようとしたとき、地域で一丸となってそれを応援しようという気風があるように感じました。もちろん、Iターンの方々が地域の方々との交流を欠かさなかった努力の結果でもあるとは思います。それでもやはり地域全体の一体感を感じました。
他の地域よりは「外から来た人が行動を起こしやすい」のではないでしょうか。また、田舎・自然に飢えた若者や新しいビジネスを始めたい人を、巡の環や役場の方々が上手くキャッチして、気持ちと行動を結びつける役割を果たしている。こうした役割を担う存在が他の地域には欠けているのだろうと勝手に想像しました。
しかしながら、どの地域でも海士町のやり方が正解というわけではないと思います。地域おこしに正解はなく、それぞれの土地にふさわしいやり方があるのだと改めて実感しました。
(廣嶋一暁)
仕事と私生活が一体となった生活
私自身が得た印象として、都会では仕事が賃金を稼ぐための作業になりがちで私生活と分離しているように感じますが、海士の人々は仕事と私生活が一体となった生活をしているようです。また人が多すぎないことで、自身の仕事での活躍が実感でき、やりがいにつながるのではないかと考えました。
(寺崎宏希)
地域が元気になるときに必要な原動力とは
地域が元気になろうと大きく動き出すときには、共通の意識が地域全体にあることに気づきました。
ひとつ目は「危機感」があること。「この先の自分たちの暮らしはどうなるのだろう」と共通の危機感を住民が持つことで、行動を変えていく、チャレンジしてみる気を起こさせるのかなと感じました。
ふたつ目は、「繋がっている意識がある」こと。一つひとつの行動に対して「これはまわりまわって○○さんのためになる」という意識があると、先を見越していてかつ、具体的なつながりが分かり、行動に意味が出てくる。意味ある行動を一人ひとりがおろそかにせずに取り組んでいる様子をうかがいました。
このふたつの意識は海士町に限らず、地域が元気になるときに必要な原動力になりそうです。
(福本明花)
仕事は楽しむことが第一であり、お金は二の次
海士町で仕事をしている人たちは、仕事を楽しんでいました。それは仕事は楽しむことが第一であり、お金は二の次ということ。
海士町で働く人が仕事を楽しめるのは、その人たちが本当にやりたかったことをやるために前職を辞め、海士町に移住してまでも挑戦しようという意思を持っていることと、海士町の役場が挑戦者の人たちに対してサポートできているから。 海士町を訪れて初めてわかることもあり、よい学習になりました。
(渡辺陽介)
海士町の感想を一言で表すと「ずるい」
海士町の感想を一言で表すと「ずるい」。こんなにも自然が豊かなのに周りは海に囲まれて、かつ湧き水が引いてあるからお米を育てられる。そして何より海士に住んでいる人皆が生き生きとして、キラキラ輝いて見えることが何よりずるいと思いました。
東京では決して見ることのできない満点の星空。本当に何もかもおいしい食事。皆さんとても優しくしてくれて本当に楽しく、そして充実した2泊3日でした。
(柏原麻人)
地元の問題や魅力、解決策を知っていることは強みになる
隠岐國学習センターはただ進学の勉強をする塾ではなく、田舎の価値観と都会のビジネススキルを学ぶことを目的としています。参加した夢ゼミでは海士町で働いている方が講師として参加し、地元の小さな問題をあげ、その問題解決のために高校生たちが何をすべきかを提案し、班ごとに発表しました。自分の地元の問題や魅力、解決策を知っていることは、外へ出たときにとても強みになると感じました。
大切なのは、地元の魅力をきちんと理解し、見直し、活かすこと、「島まるごとの総力戦」であるから強いことを今回学びました。島の人々はとても親切で、オープンに私たちを受け入れてくれました。閉鎖的なのは、田舎ではなく、都会の方なのかもしれません。
(坂本果桜)
海士町はオープンな島で、島の人々の温かさに触れた
崎みかんを栽培している方もIターンで、役場のしっかりとした支援体制と地域の方の人柄の良さも相まって、海士町はIターンしたいと思える場所なのだとわかりました。私の中で島のイメージは、外部の者を受け入れない閉鎖的な雰囲気でしたが、実際の海士町はとてもオープンな島で、島の人々の温かさに触れられてとても嬉しかったです。
(田中麻有)
都市にはないものがここにある
海士町で地域の活性化を図る人たちから島の現状、これからの計画、問題点、思いなどの生の声を聞けました。島の未来を自分達の手でつくっている感覚は、人口が多く、社会構造が複雑な都市部では得難い体験だと思います。田舎には「ないもの」が強調されますが、都市にはないものがここにはあると実感できました。
(工藤誠人)
トライしなければ産業と共に島が衰退していくだけ。行動する勇気がとても大切
海士ゼミで定置網、島の海産物を冷凍保存して本土に届けるシステム「CAS」を訪問しました。
「CAS」を見学して学んだことは、海士町の産業が衰退していく中でCASを導入することに反対する人々がいたこと。しかし新しくトライしなければ産業と共に島が衰退していくだけだと、反対する意見を押しのけてCASを始めたこと。行動する勇気がとても大切だと感じさせられました。
(斉藤大嗣)
座学よりも体験型のプロジェクトで学ぶ
私の専攻は取り分け教育です。島の人口を増やすために本土から学生を呼ぶ「島留学」を実施している島前高校の先生と話したとき、とてもびっくりしました。座学の代わりに、高校生に具体的な島や日本社会を良くするための体験型のプロジェクトを積極的に実施しているそうです。
海士町が島一丸となって同じ方向に進める理由は、家族的な雰囲気がお互いに信頼を生み、助け合う文化が育まれている。そのうえ自治体によるサポートが手厚いだからだと思います。
(シュローガル・テオ)
「行ったからこそわかる海士町のよさ」を、いかにして伝えるか
ぼくが海士で学んだことはふたつあります。ひとつはその島がもつさまざまな魅力、もう一つは外部へと伝えることの難しさというものです。ひとつ目についてはきれいな自然、おいしい海の幸など、ただ普通に生活しているだけでも五感に強く訴えかけられる魅力。これにはとても驚きました。やはり普段住んでいる場所とは距離も遠く、また生活スタイルも大きく違うということもあり、「違う世界にきたのでは?」と思わせられるほどでした。
ふたつ目は自分がこの島を他の人にどのように紹介すればいいのかと、考えて外部へ伝える難しさを感じました。魅力はあっても目玉があるわけではなく、また自然が綺麗でご飯がおいしいといっても他にも当てはまる場所はいくらでもあると思います。
「行ったからこそわかるよさ」を、をいかにして伝えるかが帰ってきた自分たちに必要な力だと思います。
(大森遥介)
【島根県海士ゼミ】概要
今回の舞台である島根県海士町は、隠岐諸島に浮かぶ、人口約2400人の島です。この10年間で、約400名のIターン者が移住しており、地域活性化のモデル地域としても有名な土地。
「海士ゼミ」に参加するのは、東京都江東区の国際展示場駅が最寄りの、都心の大学・武蔵野大学環境学部環境学科の学生12名。全員が、それぞれの希望でこのゼミに参加しています。
教壇に立つのは、海士町に拠点を置く株式会社巡の環の信岡さんと、明石准教授。そして、全体の取材と成果発表の場として、『灯台もと暮らし』編集部が参画します。
「海士ゼミ」スケジュールについて
2015年6月開催の第1回ゼミから、2015年7月開催の第4回目までの講義前半で、まずは基本的な海士町についての知識と、信岡さんが提唱する「都市農村関係学」への理解、そして、地域で活動することへの思考を深めます。
それぞれの関心が定まったら、ゼミ内でチーム分けをし、「体験型」「発信型」など、実際にフィールドワークで行う「計画」を立てます。そして、東京での座学を終えた2015年9月、実際に学生が海士町でフィールドワークを実施。第5回以降の講義後半は、その調査・体験をもとに、チームで研究成果を発表するという流れです。
【第1回:都市と田舎の問題インプット】
- それぞれの興味と問題設定
- チーム分け
【第2〜4回:妄想・チームビルディング】
- チームビルディング
- アイスブレイク
- 自分が島でトライしたいこと チーム内発表
【第3回】
- 状況を妄想 どんな情報がどれぐらい必要か
- 現地で何を聞かないといけないか
- 帰ってからの自分のアウトプットを設定
【第4回】まで終了(2015年8月)
- インタビューのやり方を学ぶ
- 信頼関係をつくりつつほしい情報を聞く方法
【海士町訪問:フィールドワーク(9/7~9)】
- インタビュー、情報収集等
【第5回-8回(9/29, 10/13, 10/27, 11/10)】
- 授業時間外でプロジェクト活動
- 授業時間は相談
【発表会】
【島根県海士町ゼミ】講師陣について
講師:信岡 良亮(のぶおか りょうすけ)
取締役/メディア事業プロデューサー。株式会社巡の環の取締役。関西で生まれ育ち同志社大学卒業後、東京でITベンチャー企業に就職。Webのディレクターとして働きながら大きすぎる経済の成長の先に幸せな未来があるイメージが湧かなくなり、2007年6月に退社。小さな経済でこそ持続可能な未来が見えるのではないかと、島根県隠岐諸島の中ノ島・海士町という人口2400人弱の島に移住し、2008年に株式会社巡の環を仲間と共に企業。6年半の島生活を経て、地域活性というワードではなく、過疎を地方側だけの問題ではなく全ての繋がりの関係性を良くしていくという次のステップに進むため、2014年5月より東京に活動拠点を移し、都市と農村の新しい関係を模索中。【募集中】海士町でじっくり考える「これからの日本、都市と農村、自分、自分たちの仕事」
ゼミ主宰:明石 修(あかし おさむ)
武蔵野大学工学部環境システム学科准教授。博士(地球環境学)。京都大学大学院地球環境学舎修了後、国立環境研究所に勤務。地球温暖化を防止するための技術やコストをコンピューターシミュレーションにより明らかにする研究に従事する。その一方で、環境問題の解決において技術的対策は対症療法に過ぎず、社会を真に持続可能なものにするためには、社会や経済の仕組みそのものを見直す必要があるのではという問題意識を持つ。2012年に武蔵野大学環境学部に移ってからは、おもに経済的側面から持続可能な社会の在り方について研究を実施。物的豊かさをもとめる人類の経済活動は肥大化し、本来あるべき地球のバランスが崩れてしまった今、もう一度自然や地域コミュニティに根ざした社会をつくりなおす必要性を感じ、そうした場としてローカルな地域での暮らしや経済に関心を持っている。
(イラスト/Osugi)
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