自分は今、どこにいるんだろう。
これから先、どこに向かって歩いていけばいいんだろう。
そう心がざわめくのは、目の前にある大切なものを見失っている瞬間なのかもしれない。私が都心から地域に引っ越して、気づかされたことのひとつです。
毎日の通勤に使っている道から、今日はとびきり美しい夕焼けが見えて。なんとなく通い始めたカフェで、「いつもありがとうございます」と微笑まれて。自分が元気に過ごしていると知るだけで、よろこんでくれるあのひとがいて。
本当に大切なものは、日常にあるはずなのに。
ふと見下ろしたときに今の自分が立っている足場がもろく見えて、足もとまでぐらぐら揺らいでしまう。
どうしたら、目の前にある大切なものを見失わずにいられるんだろう──。
「それまでは見過ごしていた日常に、目を止められるようになったの」
私が引っ越した先、滋賀県長浜市で「日常にある宝もの」を大切にしているひとに出会いました。
それが今回の主役、「長浜ローカルフォトアカデミー」のみなさんです。
地域で暮らすひとが発信の主体
写真家であるMOTOKOさんがはじめた「ローカルフォト」とは、写真によって地域を元気にするまちづくりのこと。長浜市をはじめ香川県小豆島など、全国各地で広まりを見せています。
地域を発信するといえば、美しい光景や観光地が取り上げられることがほとんど。でもその風景があるのは、受け継いできたひとがいるからなのです。
そのようなひとの存在に光を当てるのは、外から訪れるプロのカメラマンではありません。
カメラを持つのもカメラを向けられるのも、そこで暮らす「ひと」。これがローカルフォトの大きな特徴です。
これまで見落としていた新たな魅力に気づく。おとずれたことがないひとが、足を運んでみたいと思う。
一枚の写真が、「地域を見つめなおす」きっかけになる。
ローカルフォトでは、その可能性を想いながら今日もシャッターを切り続けています。
ローカルフォトの活動が滋賀県長浜市でスタートしたのは、2016年夏のこと。
「長浜市でもローカルフォトをやりたい」と市民が声をあげたことをきっかけに、「長浜ローカルフォトアカデミー」として幕を開けたのです。
それから2018年度までの3年間、ローカルフォトの普及に尽力しているMOTOKOさんと堀越一孝さん、カメラを使った地域の活動を支援しているオリンパス株式会社、そして長浜市が連携して活動を続けてきました。
市内在住のプロジェクトメンバー10数人が、年に複数回の講座と写真展への参加、そして日常的なSNSでの発信に取り組んでいます。
「なぜシャッターを切るのか」を考える
琵琶湖の北東に位置する滋賀県長浜市は、人口約12万人。
古くからの交通の要衝であり、戦国時代の史跡が市内に点在しています。南北を通る「北国街道(ほっこくかいどう)」では、かつての宿場町の趣が受け継がれてきました。
ゆたかな伝統や文化と、外から入ってくる新しい文化との共存を模索する。
そのような器の大きさとしなやかさが受け継がれている街。それが長浜市なのです。
- 都市と地域のキーマンがつながると何が生まれる?「CREATORS CAMP」のはじまり──滋賀県長浜市×東京都台東区【前編】
- 町の発展を支えるクリエイターの「発信」と「流通」とは?──滋賀県長浜市×東京都台東区【後編】
今回は、「長浜ローカルフォトアカデミー」がとらえる長浜市の姿を追ってみました。
2018年12月9日(日)、冬のはじまりのような寒さとなったこの日のテーマは「人物のポートレート」。レクチャーを受けた後に撮り歩きをし、地域で暮らす「ひと」を撮影します。
参加者のほとんどが、ローカルフォトアカデミーに継続して参加してきたメンバー。活動がスタートした3年前はカメラの使い方を知らなかったメンバーもいたそうですが、今では個人で撮影を依頼されるほどに。
この日は、MOTOKOさんから写真を撮るときの心構えのお話からスタート。
MOTOKOさんが写真を撮る心得のひとつ、「ポートレートはかっこいいと信じて撮れ!」。その思いが、ある青年に大きな変化をおこしました。
MOTOKOさんが長浜市に通い始めた2008年に出会った、ひとりの若き米農家さん。当時は米農家であることを誇りに思えなかった彼が、今では若手農家チームを率いてイベントを開催するまでになったと言います。
米農家として自信と誇りを持てるようになったきっかけのひとつが、MOTOKOさんが「かっこいい」と信じて撮り続けたポートレートだったのです。
思いを込めて切り取った写真が持つ可能性。その予感を感じさせるエピソードに、メンバーも聞き入っていました。
レンズを選んだら、いざ撮り歩きに出発です。
カメラを片手に、「はじめまして」に会いに行く
午後は長浜駅周辺を撮り歩きしながら、「ひと」の取材に挑みました。
食べたことのない名物、話したことがないひと、行ったことのない場所。ローカルフォトのメンバーにとって、撮り歩きは「はじめまして」の連続です。
その出会いのきっかけは日常のすぐ隣に存在していますが、いつもどおりの景色を見ているだけでは気づけないまま。
実際にメンバーのひとりが、ローカルフォトの活動に加わる前は「地域のひととの関わりを持てていなかった」と話してくれました。
近くに住んでいるひとでも話すきっかけがなくて、どんなひとなのかわからないまま。地域にそこまで愛着もなく、ただ住んでいるだけだったと言います。
それが今では知り合いがたくさんできて、「こんなことをやってみようと思って」「こういう写真を撮ってくれない?」と声をかけてもらえるのだとか。
「ローカルフォトに参加する前は地域を外から見ていたけれど、今は一歩踏み込めた」「いいところをたくさん知って関わるひとが増えて、思い入れが強くなった」
その理由は「カメラを持つことで、視点が変わったから」だと言います。
カメラがきっかけとなってそれまでは通りすぎていた存在に目を向けるようになり、日常の中で新しい発見が増えた。美しい、かわいらしい、すてきだと思う瞬間がたくさん目に飛び込むようになった、と。
日常を見つめる視点を変える
MOTOKOさんの提唱するローカルフォトでは、写真の技術を教えることよりも、「なぜ写真を撮るのか」そして「何をどのように見つめるのか」を大切にしてきました。
長浜市をはじめとする各地での活動によって、地域に誇りを持つひとが増えただけでなく、その地域に興味を持って外から訪れるひとも増えています。
全国で「まちおこし」が盛んに叫ばれている今、ローカルフォトの活動が確実に地域を元気にしている理由。
それは、ローカルフォトに参加した一人ひとりが「日常にある宝ものをさがす」視点を養ってきたことにあるのではないでしょうか。
「いつもどおり」の視点では見落としてしまいやすい、目の前にある大切なもの。
でも、視点を変えて「日常にある宝もの」を見つめられれば、自分の日常は大切なもので満ちている。それだけでなく、じつは新しい気づきと出会いの連続でもあるのです。
自分の足もとをたくさんの宝ものが支えてくれている日常が、とてもゆたかだということ。
この現在地さえ見失わなければ、何者にもなれるし、どこへでも胸を張って歩んでいくことができる──。
長浜ローカルフォトアカデミーの活動をとおして、「日常にある宝ものをさがす」視点を持つヒントを教えてもらいました。
宝ものを見つけるヒント
長浜ローカルフォトアカデミー3年間の活動の集大成となる写真展を、大阪、そして長浜で開催します。
写真展の詳細、そしてメンバーが見つけた「日常にある宝もの」はFacebookページからどうぞ。
長浜ローカルフォトアカデミー写真展2019 「ながはま物語」
(1)大阪展
会期:2019年3月8日(金)~14日(木) 10:00-18:00
※日曜休館 最終日は15:00まで
会場:オリンパスプラザ大阪 クリエイティブウォール(大阪市西区阿波座1-6-1MID西本町ビル)◇トークイベント
日時:2019年3月9日(土) 13:00-14:00
出演:MOTOKO 写真家
長浜ローカルフォトアカデミーメンバー(2)長浜展
会期:2019年3月17日(日)~24日(日) 10:00-16:00
※会期中無休
会場:湖北観光情報センター(滋賀県長浜市元浜町14-12)◇トークイベント
日時:2019年3月23日(土) 13:00-15:00
内容:「写真とまちと商店街」
地域の商店街を取材して各店舗のユニークなポスターを作り、まちおこしを図る「商店街ポスター展」プロジェクトの仕掛け人・日下慶太さんと、写真家・MOTOKOさんによるトークイベント。
出演:日下慶太 コピーライター・写真家(電通関西支社)
MOTOKO 写真家
長浜ローカルフォトメンバー
文/菊池百合子
写真/土田凌
(この記事は、滋賀県長浜市と協働で製作する記事広告コンテンツです)