毎日を豊かに生きようと思い、模索していたら「米を炊く」ことに行きついたというユニット「つながる米屋コメタク」。堀愛梨さん、井上有紀さん、吉野さくらさんのメンバー3人全員が、新潟県内野町に移住して活動しています。彼女たちは、なぜ移住し、「米を炊く」ことに焦点を当てて活動しているのでしょうか?
おもしろいお米屋さんと活動してみたらどう?
── 「つながる米屋コメタク」として、これまでのご活動を教えてください。
堀愛梨(以下、愛梨) 「豊かな米屋とはなんだろう」と参加者全員で考え、そのために必要なものをみんなでつくっていく「参加型米屋づくりワークショップ」、地域のお母さんたちの立ち振る舞いや生活の知恵を習う「料理教室」、米の貯蔵方法や精米方法、研ぎ方、炊き方を学ぶ「お米についての講座」を開催しました。お米を食べ比べる講座では、すべて新潟県産コシヒカリなのに産地が違うと味が変わってくるので、数種類用意して食べ比べるんです。
吉野さくら(以下、さくら) あとは毎週土曜日の朝に「朝ごはん会」の開催、地域のお祭りやマルシェで「おにぎり屋台」をしています。活動は私たちと同年代の若者の参加者が多いので、お米の販売だけでなく、活動拠点のお米屋「飯塚商店」と町の若者をつなげるような企画を進めています。
── みなさんどのような経緯で、コメタクとして新潟で活動することになったのですか?
さくら 学生時代、私たちが住んでいる新潟市西区内野町にある「ツルハシブックス」という本屋さんに出会いました。その店主さんに「内野町におもしろいお米屋さん(飯塚商店)があるから一緒に活動してみたらどう?」と誘われたのが、きっかけです。
- 参考:「コシヒカリの味の違いを感じる」新潟市内野町の馴染の米屋『飯塚商店』のこだわり
私と同時期に愛梨ちゃんと有紀ちゃんも声を掛けられていて、おもしろそうだから一度内野町で会ってみましょう、というのが私たちの出会いであり活動のスタートです。
愛梨 そうだね。
さくら 実際に内野町で(飯塚商店の)飯塚さんにお会いして、米への想いが強くて本当に共感したし、地域のお年寄りがフラッと遊びに来る飯塚商店という空間がとても好きになった。ここならお米の販売だけではなくて、お米屋としての新しい場を一緒に創っていくことができそうだと思いました。個人的には、居心地の良い九州を一度離れて寒いところに住んでみたいという気持ちもあったので、新潟に移住しました。
井上有紀(以下、有紀) 私はもともと農学部の研究室で地方農村の課題解決を扱っていて、個人的にも日本各地の農村を周っていたんです。そうしたら農村の文化や知恵にとても惹かれて、地域で何かしてみたいと思うようになりました。ただ、東京しか住んだことのない私にとって、地域で暮らしながら仕事をする感覚は分からない。まず肌感を得るために休学して何かやってみようと思っていたときに偶然、新潟に行って立ち寄ったツルハシブックスでオーナーの西田さん、飯塚商店の飯塚さん、そして愛梨ちゃんとさくらちゃんに出会いました。
お米を食べるではなく、「米を炊く」豊かさがある
── なぜ「米を炊く」活動をしているのですか? 活動の背景にある想いを知りたいです。
有紀 米を炊くことにたどり着いた理由は、「みんな一人で生きようとしているのではないか」という同世代の若者に違和感があったからです。
さくら 誰かと一緒に取り組めば、できることややりたいことが広がるとなんとなく思いつつも、なぜか一人で戦うことが自立であり、当たり前になっている節があると思います。そして、その波に乗らないといけないのではないか、と思っている自分自身に違和感を感じていたんです。
有紀 何か大切なものと共に生きることができる「余白」を持てば、みんな豊かに生きられるのではないか、という仮説を私たちは立てています。その余白を持つ方法のひとつとして「米を炊く」があると確信を持ったんです。確信を持った理由は間違いなく、飯塚商店の飯塚さんとお米の味に感動した経験がもとになっていると思います。
さくら 米づくりにかけるこだわりの話を聞いて飯塚商店のお米を食べると、よりおいしく感じるし、家に帰ってからもお米を食べるときに飯塚さんの顔が浮かぶようになる。たとえ一人の食事でも自分以外の誰かを思い出しながら食べる食事は幸せで、同じ時間に同じ空間にいなくても、「共にある」と思えることが豊さの源になり得るのではないかと思えた体験でした。
── お米を炊いて人とつながる、と。ユニット名の理由がわかったような気がします。
さくら だから「米を炊く」という行為が「○○と共にある暮らし」を体現していると思っています。「○○と共にある暮らし」を送るには、○○が入るだけの余白が必要。この○○には他人やモノだけでなく、過去や未来の自分も入ります。過去の自分が炊いてくれたお米を食べる、未来の自分のためにお米を炊く、それも立派な「○○と共にある暮らし」。「米を炊く」ことに、私たちなりの豊かさとそれを表現するヒントを感じているということです。
有紀 あと「日常的に誰もが実践できること」というのも魅力です。お米を炊くことで、そのお米に関わった人たち、お米屋さんや町の人、これから一緒に食べる人のことを思い浮かべられるかもしれない。
愛梨 「母さんはいつもどうやってお米を炊いているんだろう、おじいちゃんはどうやってお米を保存しているんだろう」と気がつけると、お米を炊く度に温かな気持ちになれる。それは「お米を食べる」ことの中だけでは、決してできないように思います。
地域の人々が40人参加。これからの米屋づくりワークショップ
── これまでの活動の中で一番印象的なことはなんですか?
有紀 夏の「米屋づくりワークショップ」の最終日ですね。一見お米屋さんに見えなかったり入りづらかったりする飯塚商店をみんなでDIYしたり掃除したり、すこしでも入りやすく心地いい空間にする、というワークショップだったんです。
さくら 私たちだけではなく、もっと地域の住民や若者、大学生に飯塚商店と関わって欲しくて、一緒にこれからの米屋を考えるワークショップをおこないました。まずは、どんな米屋があったらよいかを話し合い、そこで出たアイデアをもとに、机や椅子、棚や装飾品などをつくりました。全4回のワークショップに合計40名以上の方が参加してくださったんです。
さくら 最終日は参加した15人で分かれたグループ内で「自ら考えて話し合い、実行する」ことを、みんながわくわくしながら見事にやっていて、たった半日でしたが、感動しました。
有紀 米屋づくりのワークショップでたくさんの人に協力してもらえた理由は、自分たちだけではできないことが多かったからだと思います。でもやりたいことはたくさんあるので、コメタクは他の誰かと一緒に何かをつくっていく形が向いているのかもしれないと思いました。できないならできないなりに頑張ることと、できないことを受け入れて一緒につくってくれる誰かを探すことも大事だなと。
愛 私たちは、力もお金も経験もない。その分、「届けたい相手」と同じ目線で同じ経験ができている。それがすごく大事だなあと思います。
暮らしの中に「好き」と「隙」を増やしていきたい
── これからコメタクがやりたいことを教えてください。
堀 「米を炊くって豊かだなあ」と思える仲間を増やしていきたいです。
さくら 暮らしの中に「好き」という気持ちと、他の誰かが入ることのできる、もしくは他の誰かに頼ることのできる「隙」を増やしていきたい。私たちは米屋ですが、ただ米を売っているだけではありません。コメタクでの活動も暮らしの一部。私たちの「暮らし」が根本にあり、その中に米屋としての活動があります。
だからこそ、町との関わりも大切にしたいですし、私たちが暮らす内野町のことをいろんな人に好きになってほしい。何かあったら頼りたくなるような関係を築いてほしいと思っています。その為に、これからも米の販売以外にも町と関わりを持てる企画を進めていく予定です。
有紀 もっと具体的にいうと、直近で考えているのは大きく3つあります。1つ目は飯塚商店のさらなる改装、2つ目は町の人たちの知恵を集めて形にする知恵集めプロジェクト、3つ目は飯塚商店を含めた商店街の仕事を体験するプランづくりです。どれも大学生くらいの人たちがもっともっと豊かに暮らすきっかけをつかめるようなアクションにしていこうと思っています。
大切にしたいものを、次世代に伝えられる地域に
── 地域の未来についてはどのようなことを考えていますか?
有紀 私は、人口が増えて町に活気が戻って……というのが必ずしも理想の地域の未来ではないと思っています。「もともといる人」も「あとから来た人」もわくわくしながら豊かに暮らせるなら、人口増加率や移住者数などは関係ないのかなと。
さくら 自分たちの町に今あるものと今ないもののどちらも受け入れて、進み続ける現状維持も大切かなと。変わらないためには、変わり続けないといけないですから。
そのうえで地域で大切にしたいものをちゃんと大切にできる、次世代に伝えられる地域であってほしい。だから残したい!と思ったときに起こる行動、チャレンジを受け入れられさえすればいいのかも。そうだとすると、町に住んでいる人一人ひとりが価値あるものを残すためのチャレンジをしている地域は、すごく素敵だなと思います。
── 地域の未来を踏まえたうえで、コメタクはどのようなことをしていきたいですか?
さくら 私たちは今の内野町が好きです。そのことを町の人たちに伝え続けることも私たちの役割なのではないかと思っています。変わらないために変わり続ける。そのためにも今まで内野町を支えてきた人々が、今の内野町を肯定できるようなアプローチをしていきたいです。コメタクのミッションである「好き」を増やすことは、地域の中で「大切にしたいな」と思う感情を増やすことでもあるから。地域と共に暮らし、豊かな感情のきっかけをつくりたいです。
(写真:池トヒロクニ)
お話をうかがったひと
つながる米屋コメタク
堀 愛梨(ほり あいり)、井上 有紀(いのうえ ゆき)、吉野さくら(よしの さくら)
毎日を豊かに丁寧に生きようと思い模索していたら、『米を炊く』ことに行きついた3人組。『米を炊く』ことから、人と人が「つながる」、異世代が「つながる」、そんな米屋を目指しています。新潟市西区内野で活動中です。
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