初めて東京で会った時の事を覚えていますか―?
わたしは、よく覚えています。色で覆われた4人で、初めて東京で出会った日。都会の喧騒をかきわけるようにして、わたしたちは静かに顔を合わせ、そのあと、何度も呼びよされるように合流しました。
それはまるで、冬眠から目覚めた森みたいに、いっせいに集まってきて、あなたたちと一緒に、わたしの新しい春は始まった気がします。
(「色ちゃん『初めて東京で会った時の事を覚えていますか?』」扉参照)
強烈なビジュアルとは裏腹に、表紙をめくれば色とりどりの刺繍糸で作られた衣装やインスタレーションの写真がずらり。これは何? 色ちゃんって何者……? はじめてこの本を手に取ったならば、一体何が書かれた本なのか、すぐには理解できないかもしれません。
このリトルプレスは、デザイナーとして独立した福岡南央子さんがアートユニットである「色ちゃん」をインタビューした作品であり、小さな本です。
色ちゃん「初めて東京で会った時の事を覚えていますか?」
タイトルの頭にどん、と名前が出てくる「色ちゃん」。この「色ちゃん」とは、イラストレーターやクリエイターのユニットの名前です。呼びかけ人であるイラストレーターの田中佐季さんを筆頭に、有本ゆみこさん、anccoさん、前田ひさえさんの女性4人で構成されています。
リトルプレス「色ちゃん『初めて東京で会った時の事を覚えていますか?』」では、福岡さんが「色ちゃん」の4人に、ものづくりにおける姿勢や作品に表現されている想い、そしてふだんの暮らしで気になっていること、考えていることを様々に聞き、インタビュー形式で掲載しています。
いつもは、それぞれ別々で活動し、作品を作っている彼女たち。福岡さんが「色ちゃん」に惹かれた理由は「言葉を大切にしている人たち」だと思ったということと、「覚悟を決めている」と感じたからだといいます。
絵の具を選ぶように言葉を選ぶ4人
── 「色ちゃん」のそれぞれのアートワークには文字はありませんが、なぜ「言葉を大切にしている」と感じたのでしょうか?
福岡南央子(以下、福岡) デザイナーとして仕事をしていると、視覚に訴えかけるものを作ることが多いんですが、私自身、昔から活字中毒みたいなところがあって。
田中さんとの出会いをきっかけに「色ちゃん」とやり取りをしたりDM作りの手伝いを請け負うようになったりして、彼女たちの言葉を聞いたり読んだりしてるうち、なんとなく行き当たりばったりではなくて、言葉をひねり出そうとしている印象を受けました。作品と同じように、絵の具を選ぶように言葉を選んでいるというか。
── 視覚的なものでは伝えきれないものまで意識しているのが「色ちゃん」だ、と。
福岡 言葉に関する感覚を共有できる人って、そんなに多くないと思います。論理的思考や整理された言葉というよりも、自分の思いを反映させようとしているというか、その姿勢が「色ちゃん」の4人にはあると思いました。
── 福岡さんが感じる「色ちゃん」の4人の方の魅力って何ですか?
福岡 有本ゆみこさんは、完成された孤高の人、という感じ。力強くて作品作りのたびに、自分に何かを課してエネルギーを爆発させていて、何度も驚かされます。
anccoさんは、一番若いっていうのもあるけど、すっごい揺れている女の子っていうか。イケメンが好きで楽しそうかと思えば、孤独な制作の世界にすっかり入り込んで出てこなかったりとか。リアルな今時の女の子が自分を反映できる存在だと思います。
福岡 田中佐季さんは、なんて言うんだろうな……とても丁寧な人で、いろいろなことに目をみはっている感じ。前田ひさえさんはバランス感覚がすごい人。柔軟だけど譲れない部分も持っていて、それは一貫した世界を守るためのバランスなんだろうなと思います。
── この本は「色ちゃん」紹介のリトルプレスという意味合いが強いのでしょうか。
福岡 そうですね。私自身が独立してデザイン事務所である「woolen press」を設立したタイミングで、自社発信をしているものを作りたいなと思いました。でも、自分の作品を見せるというよりは、いいなと思うものを誰かに教えてあげたいという気持ちが強くて。そこで浮かんだのが「色ちゃん」で、4人に相談して、インタビューしたものを冊子にまとめることにしました。
── タイトルが「色ちゃん『初めて東京で会った時の事を覚えていますか?』」なのは……。
福岡 それは「色ちゃん」呼びかけ人の田中さんの言葉で、すごく印象的だったんです。「色ちゃん」を紹介する時に、この4人の甘酸っぱい気持ちを表現したくて。
田中さんへの「色ちゃん」への思いを、そのまま本に投影したかったという目的もありますね。
詰めこみたいものをお弁当箱に盛り込むように
── 本の中身についてお伺いしたいのですが、4人のアートワークが掲載されていますよね。でも、インタビューページと連動していない構成になっています。例えば、有本さんの作品の後に田中さんのインタビューページが来るような。何か意図があったうえでこうしたんですか?
福岡 ページがモノクロかカラーかで分けていった結果、そうなった、という感じです。
でも、この本は読みたいところから読んで欲しいなと思って。べつに最初から順番に読まなくても、インタビュー内容自体が作品に関する解説するというよりは、普段から考えていることとかに焦点をあてているので、連動していなくてもいいかなと思いました。
詰め込みたい内容がこれだけあって、それをどうやってこの容物の中に入れたら、お弁当箱みたいに綺麗に入るかなって考えながら決めていったらこうなりました。
── どれから食べてもいいけど。
福岡 うん。どれから食べてもいいけど、きちんと全部入れたいなあって。
── 全部入れるうえでこだわった部分はありますか?
福岡 4人の作品を色味までしっかり掲載するというのは、絶対譲れなかったですね。
例えば田中さんの作品はトレーシングペーパーで描かれているんですけど、この白の色合いなんて、特にきちんと伝えたいなと思いました。他にも有本さんの刺繍糸の風合いとか、前田さんの筆使いの質感も。予算としては、作品の印刷代に一番つぎ込みました。
女の子のなかにいる男の子、男の子の中にいる女の子
── 掲載されている「色ちゃん」の作品には必ず女の子が出てきますね。福岡さんがあえてそういう作品をチョイスしたのでしょうか?
福岡 わざわざ選別したわけではないです。でも4人とも女の子の方が対象として作品にしたくなる、という話はしていましたね。
あとは私が、女の子が女の子についての作品を作るってどういう心理なのかなと気になっていたこともあります。
── インタビューの中で、共通した話題がいくつか出てきますが、その中で福岡さんが「『色ちゃん』は、女の子のことは熟知している印象だけれど、男の子に対してどう思っているか気になる」と4人に聞いていますね。
福岡 取材中に気になって聞いたら、盛り上がったので全員に聞いてみました。
── 福岡さんご自身は女の子と男の子、それぞれどう思っているんですか。どういう生き物か、というか……。
福岡 うーん、私はそのへんは、まだ悩み中です。なんとなく、性的な分離って後付けでしかないのかもなって思いますし、私自身が女の子らしさへの外圧みたいなものをとても疎ましく感じる瞬間があります。
誰かに対して惹かれる瞬間はあるけど、それは男性的か女性的かってハッキリ分けられるものではないと思うんです。誰にでも女の子の中に男の子がいたり、男の子の中に女の子がいると思います。
── たしかに、白黒はっきり分けられるものではないですね。
福岡 はい。無理に線引きをしようとすると傷つけあってしまう。それなら、一見バラバラに見えるものが、やんわり溶け合っていく状態がいいなって思うし、そういう世界を夢見たりします。
揺れている「今」がリアル
── このリトルプレスは、最終的に誰へ向けられたものなのでしょうか。
福岡 年齢は様々に、モノづくりをしている人のなかには、今やっていることが正しい道なのか、本当にやりたいことなのか不安になる人もいると思います。未知なる地平を切り拓いていくような。
そういう、今何かを作っている人が読んで「ああ、こんなふうに考えているひとがいるんだ」って思ってもらえるような言葉を、4人から引き出したいという気持ちがありました。だから、同じようなモヤモヤを抱えた人とその不安を共有して一歩先に進めるようなものを作りたいなと思いましたね。
4人は若いけど、覚悟を決めているから何かしらの考えを聞けるという確信がありましたし。
福岡 それに、明日になったら変わってしまう気持ちだってあると思います。だから、背伸びをせずに今考えていることを書き留めるような気持ちで作ろう、というのは「色ちゃん」の4人とも話しました。立派な言葉を残すのではなくて、作りながら揺れている人の言葉を、残しておけるような。
覚悟を決めた子は一人でもどんどん歩いていく。その途中を、このリトルプレスで残せたかなと思いますし、同じような道の途中の人には、ぜひ読んで欲しいなと思います。
この本のこと
色ちゃん『初めて東京で会った時の事を覚えていますか?』
価格:3,980円
販売エリア:※在庫状況は各店舗へお問い合わせください。
・北海道 しまりすや
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企画・デザイン:
取材・編集:
公式サイト:色ちゃん
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