ペーパーレスの時代に危惧しているのは、紙という素材の可能性を見失ってしまうことです──そう語るのは、群馬県桐生市で和紙職人をする星野 増太郎(以下、星野)さん。アナログからデジタルの時代に移行しつつある現代において、大切なこととは。

群馬県で唯一の桐生和紙職人として

星野さんは和紙職人の家の子として生まれます。まだ幼かった昭和初期の頃、和紙はあまり見向きもされない存在だったそうです。父親が「生活に苦労するから」と和紙職人を勧めなかったことから、星野さんは地元の桐生市で繊維メーカーに就職します。しかし昭和40~50年代に入り、和紙の文化が見直されていきました。

この流れを受けて、星野さんは代々受け継がれてきた和紙の文化を繋げていこうと決心。星野家の7代目であり、県で唯一の和紙職人として、桐生和紙再生の道を引き継ぎました。

スタンダードは和紙から洋紙、そしてペーパーレスの時代へ

今でこそ日常的に使用する紙と言えば、真っ白な「洋紙」を想像します。しかし、江戸から大正の頃までは、紙のスタンダードは「和紙」でした

桐生和紙

昭和に入ると大量の新聞・書籍が印刷されるようになり、和紙はその需要に応じきれなくなりました。そのため洋紙が普及していきます。今日、森林資源の保全や環境問題から、文書の電子化が進み洋紙の需要も減少してきています。要するに、和紙から紙へ、紙からペーパーレスの時代へと移り変わっているのです。

既成品より素材を活かす暮らしを

「紙は筆記・印刷のための媒体」という一面だけではなく、「素材」としての用途があることを忘れてほしくないと星野さんは話します。

桐生和紙

例えば群馬県太田市の写真家が、和紙を使って日本画風の掛け軸額を作ったところ、展示は大好評だったそうです。表現の仕方で和紙の用途は本当に幅広いことを示す一例ですね。

このように、昔は人の背の高さほどある大きな和紙を買ったら、消費者が「紙の用途」を考え、生み出していました。簡単なものでは手紙や便箋、包み紙から壁紙まで。その他にも、軽くて光を通しやすい和紙の特徴を活かして、障子紙や灯籠の窓、提灯、ランプシェードとしての利用。また耐久性の高さ、水に濡れても強いという特性を活かし、柿渋で防水性を加えて和傘や渋うちわにする。軽さと保湿性の高さを活かして和紙から繊維を紡いで衣服にすることもできます。

2014年には和紙が無形文化世界遺産に登録され、日本の精神性を表すものとして評価されています。でも、世界が認めてくれたことを喜んでいるだけに終わらず、次は日本人が、日本の和紙で何か素晴らしいことを実現するステップに入っています。だからこそ素材を活かして新しいことを生みだす視点を持つことが、これから大切になってくると思います。」

取材後記

現代にはペーパーレスという言葉はあるものの、星野さんが仰るように、紙を含めアナログ素材を活用して暮らしていくべきなのだろうと思います。デジタルのメモやアイデア帳としてEvernoteをよく使うのですが、マーケットを覗いてみると、ペーパーレスを謳っているように見えながらもノートを販売しています。デジタルとアナログを組み合わせて、用途を創る、使い方を変えるなどがヒントになりそうですね。

桐生和紙

お話をうかがった人

星野 増太郎(ほしの ますたろう)
昭和12年、群馬県生まれ。生家は桐生市の郊外、梅田地区で代々和紙作りを営む。高校卒業後、地元の繊維メーカーに勤務。30歳代半ばを過ぎてから和紙作りを受け継ぐことを決意し、父から技術の伝承を受ける。昭和49年、一時中断していた和紙作りを父と共に再開。昭和59年以降、和紙作りに専念し、各方面で高い評価を受ける。平成12年「群馬県ふるさと伝統工芸士」に認定。星野家は現在、群馬県内で唯一の和紙生産者であり、市から重要無形文化財に指定されている。

桐生和紙
住所:群馬県桐生市梅田町五丁目7348番地
電話:0277-32‐0201
価格帯:二三判650円~、便箋480円~、封筒350円~、はがき240円~
営業時間:10:00~17:00
公式HP:桐生和紙

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取材協力

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