田舎生まれではあるけれど、長年の都会暮らしを経た後に移住を決意、数年前にこの徳島県神山町で暮らし始めたのだという瀧本さんご夫婦。今回は、草木染め職人の妻として生きる瀧本えみさんに、田舎で子育てがしたいと思う理由について伺いました。

近年、神山町に家族で移住する人が増えている

徳島県神山町,移住
── 2015年2月に男の子をご出産予定だとか。とても楽しみですね。

えみ そうなんよ、すごく楽しみ。私は実家が静岡なので、出産前後は1ヶ月くらいそちらに帰ろうかなと思っています。その間夫はどうするのか、ですか? 夫は染めの仕事があるし、それに愛犬のしげがおるから大丈夫。彼の相棒やけん、2人暮らしや。寂しくないと思う(笑)。

── いわゆる「ママ友」はいらっしゃいますか?

えみ 結構いますね。最近、移住者の方が増えていて。妊婦の方や子供連れの方などが、この3〜4年で大分増えたなという印象があります。特に同世代の方が多いかなぁ。

徳島県神山町,移住

── なぜみなさんこの神山町にいらっしゃるのでしょうか。

えみ きっかけはウェブにあるんじゃないかな。神山町は、ITの町であると共に、移住の成功例としてメディアで取り上げられることが多い町。だから、そういった移住の情報を求めてアンテナを張っている人には届きやすいんだろうなって。

NPO法人グリーンバレーの存在も、入り口があるって意味では大きいと思います。仕組みが全く無い場所だと、全てを自分たちだけでやらなければいけなくなる。家を探して、地域の方との関わり方を模索して……。それって結構体力が必要だよね。神山町にはその土台があるから、入りやすいって面がある。

子育てに関して言えば、最近は町役場が子供を持つ家庭を積極的に受け入れようって姿勢になったことも影響してると思う。保育園の費用が安くなったり、二人目からは無料になったり。出産お祝い金制度も充実してきたんよ。親としてはありがたいよね。子供がいるご家庭の方が、ここで子育てしたいなって思う制度が整ってきているんだと思います。

あとは、単純に一度この町を訪れたら住みたくなるんだよね、きっと。神山町は田舎だけど、町へのアクセスは悪くないし、何より人が温かい。あ、あとそもそも家賃が安いしね(笑)。

自然のサイクルで生きられたら気持ちいい

── 子育てをする環境としては魅力的に聞こえます。

えみ 魅力的だなと思いますよ、金銭面的にも、環境的にも。環境って言うのは、自然が多いことだったり、同じ意識を持った人たちが集まる場所だということだけど。

徳島県神山町,藍染

そう言えば、よく私の夫は「自然のサイクルで暮らせることが動物として一番健康的だと思う」って言うんですよね。私もそれはよく分かるんです。

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神山町にいると、自然に近い生活ができるし、自然に寄り添って生きているんだという実感が得られます。人間も動物だからね。そういった暮らしが気持ちいいだろうなっていう感覚を私たち夫婦は共有しているから、子供にも当たり前に山で遊んだり、河で遊んだりっていうことが出来る環境で育って欲しいと思ってるんよ。

私も都会で暮らしたことがあります。でも神山町での暮らしの方が気持ちいいんよね、やっぱり。これは人によって違うんだろうなとは思うけれど、私たちは2人とも小さい頃に田舎で育って、それが楽しかったなって記憶があるから。子供にもそれを体験させてあげたい。神山町は、それが実現出来る場所だなって思うんよ。

日常と遊びの境界線が無い暮らし

徳島県神山町,移住

── お子さんが産まれたら何をして遊びましょうか。

えみ 私に聞いてくれて良かった。夫に聞いたら、絶対「キャッチボールやな! まずはキャッチボール!!」って言うから(笑)。ほんと、気が早いよなぁ。まぁ、私も「弟子にしたらいいんちゃう?」って思っていますけどね(笑)。

でも、そうですね。真面目な話、生活と密着した感じで育てたいな。「じゃあ遊ぼうか」というよりも、日常的に一緒に居て、それが遊びになるような。言ってみたら、畑で土いじりするのも遊びだし、生活でもあるし。ちょっと火を付けといてとか、薪を割っといてーとか、そんなこともやらせたいな。

田舎で暮らすって、本当にすることがいっぱいあるから、そういうのもしてもらわないと私も困っちゃうしね。

でも、改めてそんなことを意識しなくても、ここに居たら自然とそういう生活になっていくとは思ってるんよ。実際、今神山町で育ってる子たちは、きっともうみんな薪や畑が当たり前にある生活をしてると思うしね。

遠い未来、意味を理解してくれればいい

── いつか都会とのギャップが生まれるかもしれない。

えみ そうですね、子供は外に出て行くタイミングが必ずあると思うから。都会で育つ子とのギャップがいずれは出てくるかもしれませんね。

徳島県神山町,移住

夫にもそういった経験はあるようで、「初めて故郷を出た時はびっくりしたで。まず都会は言葉が通じんのよ。方言が当たり前で生きてきた自分にとっては、ショックやった。」と話しているのを聞いたことがあります。

でも、実はそれも楽しみなんです。それでいいと思う。神山町の環境がベースで育って、大人になってから、自然と共に生きていたことの意味や、親である私たちの価値観が分かってくれれば、それで。

親のしつけじゃなくて、自分の経験で学んで欲しいから、いつか気付くって方がいいんよ。

この町では子供は宝だから

徳島県神山町

──  失礼ながら、田舎での子育ては面倒を見てくれる人が少なくて寂しいんじゃないかと思っていました。

えみ 逆なんちゃうかなぁ? 最近は、地域のお母さん方と、自然学校などの自主保育をしたいって話も出てるし。

そもそも、この町では子供は宝なんよ。神山町で子供を抱いて歩いてたら、もうほんとに宝。じいちゃんばあちゃんが寄って来ちゃうよ(笑)。

みんなが自分の孫みたいな感じで見てくれるから、ちょっと会えないと「どうしてたん〜? 元気やったんか〜?」みたいな会話がすぐ始まるんよね。

── 都会とは何が違うのでしょうか?

えみ 根本的に、都会は人が多いからね。対して田舎はそうじゃない。神山町では子供が貴重な存在なんよ。だから、一人一人の存在感が大きいってところもあるんやろうね。

今は、日本各地で過疎化が進んでますよね。でも、これからもっと若い人が田舎に住むようになったら、神山町みたいな光景が珍しくなくなる。都会に集まりすぎないで、人が色んな場所に散らばっていって……。そしたら、幸せな暮らしが増えて行くんじゃないかな。そうなって欲しいと、私たちは思っとるんよ。

瀧本夫妻
(写真:【徳島県神山町】今必要なのは、リアルを知るきっかけと、感謝の意識を持つことより)

── えみさん。今、幸せですか?

えみ ふふ。うん、幸せよ。家族が増えるの、楽しみだな。

お話を伺った人

瀧本 えみ(たきもと えみ)
(昭和59年生)新潟県生まれ。父親の仕事の関係で富山県に移り思春期を過ごす。京都に移り、興味のあった料理の勉強・修業を積む。結婚を機に神山に移住。草木染め職人の夫の胃袋を掴んでいる。2015年2月に第一子出産予定。

天然染料の染めもん屋「染昌-そめしょう-」

染昌
藍や柿渋の他、様々な草木を使って染める染めもん屋。天然染料と、麻、絹、木綿などの天然繊維にこだわって自然の色目を大切に、自然体に染め上げている。

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