【島根県海士町】特集を組んできた『灯台もと暮らし』。現在、武蔵野大学と株式会社巡の環が協働で行う「海士ゼミ」の密着取材をしています。テーマは「都会と田舎の新しい関係を考える」。学生たちと共に、座学や、フィールドワークを交えながら、2015年6月から2015年11月の約半年間に渡って海士町の未来を探ります。
思考し、計画し、行動、そして発表する場を用意された、次世代を担う若者たちの想いはいかに? 講師を務めるのは、武蔵野大学の明石修(以下、明石)准教授と、株式会社巡の環(めぐりのわ)取締役の信岡良亮(以下、信岡)さんです。

講義一覧

信岡良亮(以下、信岡) これまでの講義では持続可能な暮らしの仕組みや考え方について話してきたけれど、海士町にフィールドワークに行く前に、最後にどうしても伝えたいことがあります。

それは、人から何かを買うとき、モノを渡すときに「心」を乗せて贈ろうということです。

物々交換はモノに「心」が乗っている

海士ゼミ・心と心の交換

信岡 物々交換をしたことはある? 貨幣経済だと、モノとお金を交換するよね。ぼくらがよく慣れている取引です。昔はモノとモノをやりとりしていました。都会ではほとんどないかもしれないけど、島では今でも、物々交換が当たり前のようにおこなわれているんだよ。

たとえば、ぼくが島で暮らしていたときは、別の地域からたくさんの贈り物が届くので、島でとてもお世話になっていた方におすそ分けしていたんだ。「別の地域の特産品をあげる代わりに、料理をつくってほしい」という下心あっての行動ではなくて、「いつもありがとう」という感謝と好意の気持ちと一緒に、目の前の「あなた」に渡しています。

プレゼントは心を交換している

信岡 すなわち、おすそ分けする「モノ」の上に、「心」が乗っているということ。みんなが想像しやすいのは、家族や恋人に誕生日プレゼントを贈る感覚に近いです。その感覚の80%は心を交換することで、モノを「欲しい」と思う気持ちが20%くらいというイメージ。

でも「お金」と「モノ」を交換しはじめると、「心」が乗っていないな……って、感じることが多いのが残念なんだ。気持ちのやりとりを感じても、その感覚は薄いと思う。農家と消費者の顔が見える関係であれば、その人からいただいた野菜、という感覚があるけれど、流通経路が複雑になればなるほど、「お金」と「モノ」しか動いていない状態になってしまう。

田舎と都会のやりとりに「心」が乗っている状態をつくれれば、両者の関係性はよくなっていくんじゃないかな。

(イラスト/Osugi)

【島根県海士町ゼミ】講師陣について

信岡良亮さん

講師:信岡 良亮(のぶおか りょうすけ)
取締役/メディア事業プロデューサー。株式会社巡の環の取締役。関西で生まれ育ち同志社大学卒業後、東京でITベンチャー企業に就職。Webのディレクターとして働きながら大きすぎる経済の成長の先に幸せな未来があるイメージが湧かなくなり、2007年6月に退社。小さな経済でこそ持続可能な未来が見えるのではないかと、島根県隠岐諸島の中ノ島・海士町という人口2400人弱の島に移住し、2008年に株式会社巡の環を仲間と共に企業。6年半の島生活を経て、地域活性というワードではなく、過疎を地方側だけの問題ではなく全ての繋がりの関係性を良くしていくという次のステップに進むため、2014年5月より東京に活動拠点を移し、都市と農村の新しい関係を模索中。【募集中】海士町でじっくり考える「これからの日本、都市と農村、自分、自分たちの仕事」

明石教授

ゼミ主宰:明石 修(あかし おさむ)
武蔵野大学工学部環境システム学科准教授。博士(地球環境学)。京都大学大学院地球環境学舎修了後、国立環境研究所に勤務。地球温暖化を防止するための技術やコストをコンピューターシミュレーションにより明らかにする研究に従事する。その一方で、環境問題の解決において技術的対策は対症療法に過ぎず、社会を真に持続可能なものにするためには、社会や経済の仕組みそのものを見直す必要があるのではという問題意識を持つ。2012年に武蔵野大学環境学部に移ってからは、おもに経済的側面から持続可能な社会の在り方について研究を実施。物的豊かさをもとめる人類の経済活動は肥大化し、本来あるべき地球のバランスが崩れてしまった今、もう一度自然や地域コミュニティに根ざした社会をつくりなおす必要性を感じ、そうした場としてローカルな地域での暮らしや経済に関心を持っている。

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