西荻窪(以下、愛をこめて西荻)には古い家具や雑貨、いわゆるアンティークを扱う「Northwest-antiques(ノースウエストアンティーク)」というお店があります。

日中、喫茶店の店主がコーヒーを片手に遊びに来るほど、町の人にも親しまれている同店。お店づくりの秘訣とは? そしてアンティークの魅力とは? 店主の平山哲也さんと望月拓男さんにお話をうかがいました。

Northwest-antiques

流行の起源はアンティークにある

Northwest-antiques
左から、望月拓男さん、平山哲也さん

── お店の経営は、おふたりで役割分担して営業されているのでしょうか?

望月拓男(以下、望月) ぼくは家具の修理が主ですね。

平山哲也(以下、平山) ぼくは接客、販売がメインの仕事です。家具を修理できないので、自分ひとりでは「Northwest-antiques」は成り立たないんですよ。前に勤めていたお店で、望月さんとずっと一緒にやってきた積み重ねがあったので独立できました。

── お店がオープンしたのは2014年の5月ですね。「Northwest-antiques」は、どのような経緯で始めることに?

望月 突然西荻にお店を出したのではなくて、ぼくは17年、彼は5年ほどの間、この店の道路をはさんで向かい側にある「アンティーク慈光(以下、慈光)」という屋号のお店を任されていたんですよ。個人経営の会社だから、社長がお年寄りになって、重い家具を持つのも疲れたし、君らもうち(慈光)で長く働いているから、自分たちでお店をつくったらどうだい、と提案されました。

Northwest-antiques 望月拓男さん

── 社長からの提案だったんですね。

望月 そうです。「慈光」で働いていたときも、この店があるスペースで販売や修繕を行っていたんですけど、独立すると同時に今の店舗の場所をぼくらで契約して、名前を変えて「Northwest-antiques」が始まりました。ですから、やっていることも人間も場所も、ほぼ変わらないままです。

自衛官から家具のリペアマンに

Northwest-antiques

── そもそもアンティーク業界におふたりが入るきっかけは?

平山 望月さんは「暇なら手伝え」と社長に言われて、「慈光」の手伝いを始めたのがきっかけですよね。

望月 そうです(笑)。もともと西荻出身なんです。航空自衛隊で5年ほど勤務してから、西荻に帰ってきてからしばらくはふらふらしていたら「慈光」を手伝うことになり、仕事柄、工具を扱えるので、いつの間にか家具修理の業務がメインになっていました。

平山 自衛官からリペアマンに。

望月 そうです。

平山 ぼくはずっとアパレル業界で働いていたんですけど、30歳を超える頃に「長く就ける仕事がしたい」と思い「慈光」で働きはじめました。だからふたりともアンティーク家具がどうしてもやりたかったとか、地道に修行をしてきたわけではないんです。たまたまかもしれませんが、出会いがあってこの業界に入ることになりました。

── 「慈光」の社長に独立しなさいと言われて、びっくりしませんでしたか?

平山 「慈光」では「いずれ独立することを前提に働いてほしい」と言われています。だから漠然と一生ここにはいられないんだろうという気持ちは、働いていたメンバーはみんな持っていたと思います。独立が社長の言葉で具体的になり、いよいよ期日が決まった。でも正直、何の準備もしていませんでした。

── 自分で選んだタイミングではないですもんね。

望月 だから他の仕事に転職してもよかったんです。でもずっとやってきた仕事だったし西荻だったから、またアンティーク家具と雑貨を扱うお店をやってみることにしました。

平山 「慈光」は、働いている間は望月さんとぼくが中心になって営業していたので、西荻のお客さんはぼくらのことを知ってくれていたのがお店をやる大きな決め手ですね。

望月 実際には2013年の10月くらいに、社長から独立するように言われて、翌年の春に店をオープンさせました。

西荻との付き合いは、店の隣のマンションがネギ畑だった頃から

Northwest-antiques

── おふたりは西荻ご出身ですか?

望月 生まれも育ちも西荻だから、店の隣にあるマンションがネギ畑だった頃から住んでいます。

平山 隣、ネギが育っていたんですね。

── ネギ畑(笑)。西荻にずっと暮らしていると、町の変化を感じますか?

望月 店に来てくれるお客さんはそんなに変わらないですかね。「慈光」で働いているときからずっと付き合いのあるお客さんは、年齢とともに家具に使える金額が変わっていく。お客さんとずっと生活を共にしていた気がするなあ

Northwest-antiques 望月拓男さん

── 一緒に歳を重ねていけるコミュニティというか、人間関係があるんですね。

望月 この間49歳になったのに、未だにぼくが生まれたときに「おしめ変えたのよ」って言うおばさんが西荻にいますからね。もういい加減にしてほしいくらいです(笑)。

── そうなんですね(笑)。 平山さんも西荻出身ですか?

平山 ぼくは八王子で、毎日地元から通っています。

望月 たぶん八王子から西荻までの通勤時間は、彼が大好きな『週刊少年ジャンプ』を読むのにちょうど良い距離なんですよ。

── 西荻に住むご予定は?

平山 休日はグダグダのスウェット上下を着たまんまの日もあるじゃないですか……。お客さんとコンビニで遭遇することを考えると、引っ越しするのは避けたいなと。

望月 町の人に隙を見せたくない派だったんですね。

平山 店主として、お客さんに気を遣いたいんですよ。

望月 ぼくは生まれたときにおむつを変えられているから、いつもありのままでいられるんだけど。

── 確かに(笑)。隠すものが何もないですね。

敷居は低く、間口は広く

── アンティークの家具や雑貨を扱う楽しさとは、どのようなものでしょうか。

望月 ぼくは過去に大事に使われてきた道具をきれいに修復して、また使えるようにするとお客さんに喜んでいただけるのがうれしいですね。あとはその家具や雑貨の背景にある、いろんなストーリーを知れるのも楽しいです。

平山 流行って、必ずルーツがあるんですよ。人気に火が付いている商品は、用途は違っても過去に似たようなデザインのものがあったりする。今あるものの起源を辿ると、ものとしての原点につながります。アンティークは本物のオリジナルを手にできる。これが楽しいんだと思います。

── たとえばリーバイスの501はいいですよね。

平山 そう。現行の501もいいけれども、ビンテージがあってこその良さですよね。オリジナルがある生活はすごくカッコいいことではないかなあと思います。

Northwest-antiques

── 平山さんはアパレル業界出身でありながら、なぜアンティークの世界に来たのでしょう?

平山 ぼく、事務所やオフィスでもなくて、店舗という形態をとった空間が好きなんです。だからぶっちゃけ、お店という形であれば扱う品はなんでもいい。かといって自分が好きではないものを売るのは嫌です。自分が好きなものを並べて自由につくったお店にお客さんが来て、それらを買ってくれた人とのつながりができて、自分たちも生きていけるのがぼくの理想。

望月 ひとこと、フリーダムって言えばわかりやすいね。

平山 自分の理想をアンティーク業界であれば叶えられそうだと思ったんです。

── なるほど。お店にコンセプトはあるんですか?

平山 ジャンルで絞って商品をセレクトしているわけではないから、なんとなくピンぼけながら、ぼくらが好きなエッセンスが詰まったアンティークが集まっています。ふたりの性格柄、世界観を強く提案したいわけでもなくて。

望月 打ち出しの弱さは尋常じゃないですよね(笑)。

平山 世界観が明確でないのも、西荻らしさかなって思うんです。ここがもし目黒通りだったら「Northwest-antiques」に来ないと、この雰囲気の家具や雑貨はないよね、と言われるような尖ったお店をやらないといけない。西荻でお店を営業することは、感度の高い人たちをターゲットにするよりも近所の人たち相手にしている感覚です。そうすると必然的に、敷居は低く、間口も広いほうがいい

望月 家具を探しに行く人の選択肢の一つに「Northwest-antiques」が入っているのが理想ですね。

西荻は「Northwest-antiques」がある町

Northwest-antiques 平山哲也さん

── 今後は西荻にとって「Northwest-antiques」は、どんな存在になっていきたいですか?

平山 たぶん望月さんと似たようなことを考えていると思いますけど、 近くにあるトンジョ(東京女子大学)の子に来てほしい……、ねえ?

望月 「ねえ」って、それは平山くんの切なる願望ですけど、トンジョの子がうちにアンティーク家具を買いに来てくれるくらい若い女の子でもふらっと立ち寄れるお店にしたいとは思っています。俺に「ねえ」って言われても、俺はそんなこと知らないよ。

── なるほど(笑)。では望月さんの主張をぜひ。

望月 これは野望ですけれど、西荻在住の人が「きみ、どこ住んでんの?」って聞かれたら「西荻……あっ、『Northwest-antiques』がある町だね」って言われるくらいの存在になりたい。

平山 存在感を高めるためには、うちでアンティーク家具を買う人が増えないといけない。そしてその人たちが家を建て替えたり引っ越したり、いろんな条件で一度買った家具を手放したり、買い足すときにうちの店を使って欲しいと思います。

望月 人も物も、ぐるぐる西荻の中で回っていくんです

Northwest-antiques

── たしかに。

望月 そういう物の循環がどんどん増えていって、西荻の絶対王者になれたらいいですね(笑)。

── 野望ですね(笑)。

望月 自分で言っておきながら、野望なんて似合わないなあ。

平山 なにせうちは町のみなさんがアンティークを気軽に楽しめるくらい、変に尖らず、身近であれるように意識している。超低空飛行が売りですからね(笑)。

望月 でも絶対、墜落はしない。

平山 ちょっと足が地面に着くこともあるけれど(笑)。マイペースに、アンティークがいろいろな人の手に渡って愛されるといいなと思います。

Northwest-antiques

Northwest-antiques

Northwest-antiques

Northwest-antiques

Northwest-antiques

お話しをうかがった人

Northwest-antiques

平山 哲也(ひらやま てつや)
1980年 東京都八王子市生まれ。アパレル業界から30歳を機にアンティークの世界へ。小売業の経験を活かしてお店の顔を目指す。漫画とアニメと洋服が好き。

望月 拓男(もちづき たくお)
1966年 杉並区西荻生まれ。航空自衛隊勤務を経て、アンティーク業界へ。これまで20年にわたりアンティーク家具のリペアを専門とする。酒とロックをこよなく愛し、アメリカンニューシネマの世界に生きる男。

このお店のこと

Northwest-antiques
住所: 東京都杉並区西荻北4丁目18−
営業時間:10:00~18:30
定休日:水曜日
電話:03-3396-2040
公式サイトはこちら

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