日本を訪れる外国人観光客の多くは、空港到着後にまずターミナル駅へと向かいます。東京駅は、言わずもがな、多くの外国人観光客の方が初めて下車する場所。

東京駅の日本橋口を出てすぐの位置にある「TIC TOKYO(Tourist Information Center Tokyo)」は、JNTO(日本政府観光局)認定、東京都認定の観光案内所です。運営は、森トラスト・ホテルズ&リゾーツ株式会社。

2009年6月の開設以来、年間約43万人の訪日外国人観光客および、国内の旅行客が利用しています。

「TICTOKYO」
「TIC TOKYO」の様子

観光案内以外にも役割を担う「TIC TOKYO」

「TIC TOKYO」は、一口に観光案内所といっても、ただ日本全国の観光情報を収集できる場所、というわけではありません。

日本全国の地域とタッグを組み、年間約60本のイベントを開催するほか、訪日外国人観光客に対するWi-Fiルーターのレンタル、SIMカードの販売サービスなどを実施。観光スポットだけを紹介する従来の観光案内所のイメージを覆し、地域活性化に踏み込んだ事業を展開しています。

「これからの観光案内所は、期待値を超えるような仕掛けが必要」と語るのは、「TIC TOKYO」マネージャーの小澤敏弘(以下、小澤)さん。目指すのは「地域の交流人口や定住者を増やし、本質的な地域への貢献を実現すること」だといいます。

「TIC TOKYO」小澤さん
「TIC TOKYO」マネージャーの小澤敏弘さん

訪日外国人観光客を対象とした観光案内所は、日本全国で528ヶ所が認定されています(2015年3月現在)。

中でも「TIC TOKYO」が掲げる間近の目標は、全国で横展開できる礎(いしずえ)を築き、各地の観光案内所の情報の受発信を担えるハブ機能を持つこと。「『TIC TOKYO』の真似をするのではなく、地域に適したやり方で実践してもらえるような基礎モデルをつくりたい」と小澤さんは話します。

事実、「TIC TOKYO」にヒアリングしに来る訪日観光関係者は非常に多いのだそうです。

全国各地で新たに観光案内所を設立する際、また訪日外国人受け入れに関する研修会を開催する場合に、関係者の方々と「TIC TOKYO」の運営や収支、ノウハウについてリアルな状況を共有しています。

「TIC TOKYO」

全国の観光案内所のハブになり、広域の訪日観光ネットワークをつくる

では、今後「TIC TOKYO」のような、新しい形態の観光案内所が増えるとしたら、地域の案内所にはどんな役割が期待されるのでしょうか。

「地方では観光資源や地域資源を具体的かつ詳細に案内できなければいけません。そして地方だからこそ、地域同士の協力が必要になります。地域間の連携が交流人口の拡大につながりますから」

観光客といえども、日帰りもいれば連泊する人もいます。どの地域を経由するかをあらかじめ予想し、それに見合った宿泊場所や経由地を案内すれば、経済効果が期待できます。交流人口が増えることにより地域経済が活性化するのです。

そして地域間の連携をスムーズにするには、より広域で訪日観光客を受け入れられる土壌を、いち早く整える必要性があります

「TICTOKYO」小澤さん

「A地点でWi-Fiルーターをレンタルして、B地点で返せるような利便性のある仕組みを提案して、一緒に交流人口を増やしていく仲間がほしいですね」

決して資源が多くはない日本では、訪日・国内観光でお客様を奪い合うべきではありません。経済力の合理性から、目指すべき目標は交流人口を増やしてパイを拡大させ、経済を回して税金を落とし、行政はフリーWi-Fiやサインの設置などのインフラを整備する必要がある、と小澤さんは考えます。

「地域に外国の方を呼び込めると、訪日観光業は非常にいい循環をします。クモの巣状に広がった全国の観光案内所のネットワークが、より良いサービスの仕掛けになるんです。旅行中の感動をSNSや口コミで観光客Aさんが拡散すると、その情報を得たBさんが日本に来てくれることが期待できます。

つまりネットワークを活用してリピーター(Bさんを通したAさんの間接的なリピート)をつくり、外国から来るお客様の要望にどんどん応えられるようになっていきます」

「TIC TOKYO」小澤さん

事業の拡張性と発展性を求める観光案内所に

小澤さんが「TIC TOKYO」のマネージャーに着任したのは2012年の1月のこと。

振り返ると従来から国が掲げたビジットジャパン構想があり、東京オリンピック・パラリンピックの開催地決定を契機に、インバウンド向けの事業者が次々と観光事業や情報発信事業に参入しました。

同時に広まったのは、「自分たちの地域をおらがまちとして広める波」。「TIC TOKYO」はその波に乗ってWi-FiルーターやSIMカード等を取り扱いICT関連の事業拡張をしてきましたが、観光案内所事業だけではもったいないと考えたといいます。

「いま地域活性化事業まで踏み出さないと、東京駅に隣接する立地のポテンシャルを活かせないと感じたんです。民間の観光案内所が全国各地の自治体と組めたら化学変化が起きる。今後は、メディア化した観光案内所のネットワークが必要になると確信しました」

小澤さんらは、まずは地域の観光資源や伝統工芸品などの情報を、「TIC TOKYO」に集めることから始めました。この情報はローカルメディアとタッグを組むことで、より多くの人に届けられます。パートナー企業と協働すればイベントも開催も可能です。常に情報を組み合わせた、「事業の拡張性と発展性」を追い求めたのです。

TICTOKYO

TICTOKYO

訪日外国人観光客が求めているのは、知識ではなく課題解決力

訪日観光において「おもてなし」や「ホスピタリティ」は外せないテーマです。外国人が求めるものと、日本人が考える「外国の人が欲するモノ・コト」に、現場でギャップを感じることはないのでしょうか。

「最近の傾向として、文化財や歴史などに加えて、もっと生活に根ざした日本を知りたいという人が増えています。いわゆる王道ではなくて、日本人が食べるラーメン屋さんや居酒屋に行きたいという要望も多いんですよ。

そして同時に、『みんなが知っているところはお腹いっぱい』と、はっきり主張する外国人観光客の方もいらっしゃいます」

雷門に行き、スカイツリーを観て、新宿でショッピングをする──わかりやすい旅のコースで満足できない人がいることを示しています。

「ぼくらは案内所に来てくれた方の趣味や嗜好と旅に当てられる時間を聞きます。お客様のニーズを汲み取り、限られた時間で行き帰りができるスポットをピックアップしてご提案しています」

さらにはノープランで来日し、計画を立てるために毎日来るリピーターの方が多い「TIC TOKYO」。主にFIT(Foreign Independent Tour)という海外個人旅行者が多く、「TIC TOKYO」のような観光案内所に来て、当日の計画を立てるといいます。彼らは翌日にも「今日はどこに行こうか」とリピートしてくれるそうです。

「TIC TOKYO」

「TIC TOKYO」は、コンシェルジュが2~3人常駐し、日本語に加えて英語・中国語・フランス語に対応しています。しかし外国人の要望は深化しており、言語を使いこなせるだけでは高い満足度を得られません。コミュニケーションを取って相手の意図、要望を汲み取るのは想像以上に困難だと顔を曇らせます。

「お客様が求めているのは、ぼくらの頭の中にある知識ではありません。『お客様が知りたいこと』を伝えなければならない。自分の知識だけに頼ろうとすると、お客様のニーズには応えられなくなってしまいます」

「TICTOKYO」

だからこそコンシェルジュは、外国人の方の要望に応えるための課題解決能力を身につける必要があるのだそうです。要望を叶えるためには、どこに聞き、何を調べるのか明確にすることが重要です。「TIC TOKYOでは取り扱っていない情報だから相手の質問に答えられない、ということは絶対にしません」。

徹底して外国人へ歩み寄る理由は、ここが「東京駅だから」。羽田や成田空港に到着して、はじめの頼りとして「TIC TOKYO」へ来る訪日外国人観光客の方も多いのです。

彼らにとってTIC TOKYOのコンシェルジュは、もしかしたら初めて接する日本人かもしれません。つまり日本を象徴するような存在として見られるということ。最初の印象が良くないと、そこからひっくり返すのは大変ですよね」

だからこそこれからの観光案内所のビジネスでは、実際に外国人と接するスタッフが「宝物」になるのです。

「TIC TOKYO」小澤さん

お金ありきではなくて地域の方々の想いを届けること

また、「TIC TOKYO」は民間の観光案内所であるため、公的な補助金を受けないことが特徴です。

高価な商品を売らない観光案内所で、ビジネスをやること。それは人件費や家賃といった費用がかかり、収支を黒字化させるのは一見とても難しそう。「観光や地域活性化に対して、行政からお金は出ています。しかし補助金を受けて観光に力を入れた町おこしの例がありますが、打ち上げ花火のように1度で終わる取り組みが多い。大切なのは施策を継続し、浸透させていくことです」。

2012年から毎年夏に、岡山市が産品である白桃の販売と試食のイベントを「TIC TOKYO」の店舗前で開催しています。丸の内のいくつかのカフェで白桃のオリジナルパフェを調理する、他企業・団体と協同する取組みとのコラボ企画です。

「やるからには最低でも5年間は継続させないと、消費者に取り組みは浸透しない」という彼らの言葉に、強い意思を感じます。去年より今年、今年より来年と、参加者の期待をさらに超えるよう仕掛け続けているのです。

「TICTOKYO」

地域の取り組みだけでなく、観光案内所ビジネスにあたっても同じことがいえます。「ビジネスにつながるような道筋をつくるには、5年が必要です。TIC TOKYOの運営において、根本的な目的はお金儲けではなく、地域の方々の想いを観光客と日本全国へ届けることです」。

「想いを共にする各地の観光案内所がだんだん集まってきて、全国のネットワークが影響力を伝播させる。そういうイメージなんですよ」

理想とは、夢物語ではなく実現させるもの。そのために「TIC TOKYO」は常に発信し続けます。

「5年後なのか10年後かわからないけど、言い続けることによって1人、2人と仲間が増えていくはず。現時点では、ぼくの話は大風呂敷に聞こえるかもしれないけれど、あきらめていません。訪日外国人観光のあるべき姿を目指して、仕事を楽しまないとね」

お話をうかがったひと

小澤 敏弘(おざわ としひろ)
1971年生まれ。山梨県出身。信州大学を卒業後、森トラスト・ホテルズ&リゾーツ株式会社に勤務。都内で働き始めてから「地方生まれ地方育ちのよさ」に気づく。観光業という仕事を楽しみながら地域活性化事業に取組む。公私ともに知り合った全国各地の友人・知人とその地で会い、その土地の美味しいものを食べるのも趣味の一つ。

TIC TOKYOについて

TIC TOKYO(ティーアイシートウキョウ
住所:東京都千代田区丸の内1-8-1 丸の内トラストタワーN館1階
JR線:「東京駅」日本橋口より徒歩1分
地下鉄:「大手町駅」B7出口より徒歩2分、「日本橋駅」A3出口より徒歩4分
電話番号:03-5220-7055
営業時間:10:00〜19:00
定休日:なし
公式サイトはこちら

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