【島根県海士町】特集を組んできた『灯台もと暮らし』。現在、武蔵野大学と株式会社巡の環が協働で行う「海士ゼミ」の密着取材をしています。テーマは「都会と田舎の新しい関係を考える」。学生たちと共に、座学や、フィールドワークを交えながら、2015年6月から2015年11月の約半年間に渡って海士町の未来を探ります。
思考し、計画し、行動、そして発表する場を用意された、次世代を担う若者たちの想いはいかに? 講師を務めるのは、武蔵野大学の明石修(以下、明石)准教授と、株式会社巡の環(めぐりのわ)取締役の信岡良亮(以下、信岡)さんです。

講義一覧

【島根県海士ゼミ】概要

海士町の舟場

今回の舞台である島根県海士町は、隠岐諸島に浮かぶ、人口約2400人の島です。この10年間で、約400名のIターン者が移住しており、地域活性化のモデル地域としても有名な土地。

明石教授
海士ゼミの様子。写真中央:明石 准教授

「海士ゼミ」に参加するのは、東京都江東区の国際展示場駅が最寄りの、都心の大学・武蔵野大学環境学部環境学科の学生12名。全員が、それぞれの希望でこのゼミに参加しています。

教壇に立つのは、海士町に拠点を置く株式会社巡の環の信岡さんと、明石准教授。そして、全体の取材と成果発表の場として、『灯台もと暮らし』編集部が参画します。

「海士ゼミ」スケジュールについて

2015年6月開催の第1回ゼミから、2015年7月開催の第4回目までの講義前半で、まずは基本的な海士町についての知識と、信岡さんが提唱する「都市農村関係学」への理解、そして、地域で活動することへの思考を深めます。

それぞれの関心が定まったら、ゼミ内でチーム分けをし、「体験型」「発信型」など、実際にフィールドワークで行う「計画」を立てます。そして、東京での座学を終えた2015年9月、実際に学生が海士町でフィールドワークを実施。第5回以降の講義後半は、その調査・体験をもとに、チームで研究成果を発表するという流れです。

【第1回:都市と田舎の問題インプット】

  • それぞれの興味と問題設定
  • チーム分け

【第2〜4回:妄想・チームビルディング】

  • チームビルディング
  • アイスブレイク
  • 自分が島でトライしたいこと チーム内発表

【第3回】

  • 状況を妄想 どんな情報がどれぐらい必要か
  • 現地で何を聞かないといけないか
  • 帰ってからの自分のアウトプットを設定

【第4回】まで終了(2015年8月現在)

  • インタビューのやり方を学ぶ
  • 信頼関係をつくりつつほしい情報を聞く方法

【海士町訪問:フィールドワーク(9/7~9)】

  • インタビュー、情報収集等

【第5回-8回(9/29, 10/13, 10/27, 11/10)】

  • 授業時間外でプロジェクト活動
  • 授業時間は相談

【発表会】

序章:海士ゼミに参加する君たちへ

信岡良亮さん
株式会社巡の環の取締役の信岡さん。「海士ゼミ」の講師を務める。

信岡 こんにちは。島根県にある海士町で、「持続可能な未来に向けて行動するひとづくり」をミッションに活動している信岡良亮です。

今回の「海士ゼミ」では、みんなにも「持続可能な地域づくり」を考えてもらいます。「サステナビリティが改善されていくにはどうすればいいか」を考えると言うほうが、適切かもしれないね。日本……いや、世界のどこを探しても、まだ正解のない課題ですが、自分なりの仮説をぼくと一緒に探しましょう。

島の未来は、日本の未来

信岡 まずは、ちょっと想像してみてください。

5年後、10年後のぼくたちはどんな生き方をしているだろうか?

暮らしている土地はどういうところだろう?

地域とどのような関わり方をしているだろうか?

そして、これから日本の未来はどうなっていくのだろうか?

世の中の需要と供給のバランスは崩れ、生産物の価格は低迷し、大量にモノをつくり消費する社会になった結果、環境悪化や資源が枯渇していく。たとえば「水は買って飲むのが一般的だ」と、都会に住んでいるみんなは思うかもしれない。でも、おいしい井戸水を飲んでいた昔の人からすれば、そんな事実でさえ、信じられないことだと思う。

普段当たり前にあったものが、当たり前じゃなくなる。そうすると何が起こるのだろう?  人は「もっと」モノが(その奥にある安全が)欲しいと考えるようになるんだ。

当事者としてチームで未来を考えよう

信岡 だからみんなには、一度立ち止まって考えてほしい。「成長こそが唯一の正解」という今までの価値観に目を向けるのは、一旦保留しよう。

今から8年前の2007年、ぼくは都会から島に行きました。小さくても回る経済の世界を夢見て。

でも、世界から見ても裕福だと言える日本の島ひとつでさえ、現実には財政は負債が多く、規模を小さくしても経済が回っているとは言いがたかった。島根県の海士町という日本の縮図のような島は、今でも過疎や財政の問題を抱えている。

過疎というのは「田舎の魅力のなさ」から生じる問題と捉えられることが多いんだ。けれど、世界有数の裕福な国のほとんどの地域が、この問題を抱えている。それを実感したときに、俯瞰して日本全体を見ると、都会と田舎はつながっていて、その関係性の問題だと思ったんだ。田舎と都会を分けて考えるのではなく、構造の問題だ、と。田舎だけで解決できる問題ではないからね。

「海士ゼミ」に参加する一人ひとりが、海士町という島を考えるとき、「自分ごと」として、自分と地域の未来を重ねて考えてみてほしい。都会でどんな動きができるのか、チームで考えていきましょう。小さく一歩ずつ、ぼくもみんなと一緒に歩んでいきたいと思います。

はじめに、海士町のことと自分の問題を考えてみよう。そして、ふたつを重ねることによって地域の未来に「当事者意識」を持ってほしい。

───第2回に続きます。

(イラスト/Osugi)

【島根県海士ゼミ】講師陣について

講師:信岡 良亮(のぶおか りょうすけ)
取締役/メディア事業プロデューサー。株式会社巡の環の取締役。関西で生まれ育ち同志社大学卒業後、東京でITベンチャー企業に就職。Webのディレクターとして働きながら大きすぎる経済の成長の先に幸せな未来があるイメージが湧かなくなり、2007年6月に退社。小さな経済でこそ持続可能な未来が見えるのではないかと、島根県隠岐諸島の中ノ島・海士町という人口2400人弱の島に移住し、2008年に株式会社巡の環を仲間と共に企業。6年半の島生活を経て、地域活性というワードではなく、過疎を地方側だけの問題ではなく全ての繋がりの関係性を良くしていくという次のステップに進むため、2014年5月より東京に活動拠点を移し、都市と農村の新しい関係を模索中。【募集中】海士町でじっくり考える「これからの日本、都市と農村、自分、自分たちの仕事」

ゼミ主宰:明石 修(あかし おさむ)
武蔵野大学工学部環境システム学科准教授。博士(地球環境学)。京都大学大学院地球環境学舎修了後、国立環境研究所に勤務。地球温暖化を防止するための技術やコストをコンピューターシミュレーションにより明らかにする研究に従事する。その一方で、環境問題の解決において技術的対策は対症療法に過ぎず、社会を真に持続可能なものにするためには、社会や経済の仕組みそのものを見直す必要があるのではという問題意識を持つ。2012年に武蔵野大学環境学部に移ってからは、おもに経済的側面から持続可能な社会の在り方について研究を実施。物的豊かさをもとめる人類の経済活動は肥大化し、本来あるべき地球のバランスが崩れてしまった今、もう一度自然や地域コミュニティに根ざした社会をつくりなおす必要性を感じ、そうした場としてローカルな地域での暮らしや経済に関心を持っている。

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