ここは、都会の喧噪から引き離された知る人ぞ知る老舗スナック。
夜な夜な少なの女性が集い、想いを吐露する隠れた酒場。

確かに近年、女性が活躍する場は増えて来たように私も思う。

自由に生きていい。そう言われても、

「どう生きればいいの?」
「このままでいいのかな。」
「枠にはめられたくない。」

私たちの悩みは尽きない。

選択肢が増えたように思える現代だからこそ、
多様な生き方が選べる今だからこそ、
この店に来る女性の列は、絶えないのかもしれない。

ほら、今も細腕が店の扉を開ける気配。
二人の女性が入ってきた……

***

── こんばんは。

荒川 萌(以下、荒川) こんばんはー!

飯泉 友紀(以下、飯泉) 私、スナック初めてかも。

荒川 私も!

── そう。失礼だけど、お2人はおいくつ?

荒川 25歳です。

── 同い年なの?

飯泉 はい!

── 仲良しなのね。

荒川 私たち、移動式フード・ドリンクユニット「Uchila(うちら)」ですから!

── ……そう。「オレンジとレモンのスウィーティー」を作ったわ。まずはゆっくりとお飲みなさい。ゆっくりとね。

移動式フード・ドリンクユニット「Uchila」とは?

── 移動式フード・ドリンクユニット「Uchila」って何なの?

荒川 「Uchila」とは……
「思わず笑顔になっちゃう美味しい時間を届ける」フードドリンクユニットです。どうもどうも~!

フード・ドリンクユニット「Uchila」

── ……で、何のユニット?

荒川 クリエイターの飯泉と、ディレクターの荒川の2人組で、ご飯やドリンクを使って、その場にいる誰もが「楽しい」と感じる時間を生み出し、お届けしています。

「Uchila」が全面に出るというよりも、「ご飯たち」が人と人とをつなげてくれる、というイメージを持っています。

── これまで、具体的にどんな活動を?

荒川 「ビリヤニ」という、インド国民食を日本で広めるイベントでドリンクブースを出したり、日本中央競馬会さんのイベントでドリンクを提供したり、「編集女子」イベントでのフード・ドリンクケータリング、自主イベントなどの企画運営をしてきました。

フード・ドリンクユニット「Uchila」

── 飲食関連の活動だからと言って、お店があるわけではないのね?

飯泉 そうですね。「移動式」フード・ドリンクユニットとして、イベントのケータリングや、出店、ワークショップなど、今は拠点を持たずにフットワーク軽く活動しています。

フード・ドリンクユニット「Uchila」

── ふぅん。いいわね、私もそうしようかしら……。あなたたちにとって「Uchila」は、お仕事なの?

飯泉 いえ、じつは二人とも本業が別にあるんです。

荒川 私は都内のIT系企業勤務を。

飯泉 私は都内で、小学校の給食を作っています。

── では、2人とも副業として?

荒川 そうですね。でも、最近よく2人で言っている、お気に入りのフレーズがあるんだよね。

飯泉 うん。

── なぁに?

荒川 飯泉 天職に、転職ー!

フード・ドリンクユニット「Uchila」

── ……「Uchila」の活動が天職だと思っている、という理解でいいかしら?

荒川 すごい、ママ天才! そうです。

「天職に転職」その真意を探る

── いつかは、今の本業を離れて、「Uchila」を仕事にしたいと思っているの?

荒川 「好きなことを仕事にする」っていう話ですよね。うーん、そうですね。憧れますし、それができたらどんなにいいかと思いますが、でも一方で、「好きなことを仕事にすることで失うこと」もあるのかなと思っていて……。

「Uchila」結成は、2014年の冬。まだ活動を始めて1年も経っていないんです。人との出会いや、ご縁に支えられて、結成当初に想像していた以上の活動ができているのがこの数ヶ月だったのですが、進み方ややり方は、相変わらず模索中です。

だから、仕事にしたいかと問われると、まだはっきりと「はい!」と答えられないのが正直なところですが、でも「天職なのでは……?」と思うほど、心から楽しく活動できているのはたしかです。

飯泉 楽しいよね!

荒川 うん、楽しい。

社会人として働いて、数年経ったときに、順調なはずなのにどこかなぜか満たされない自分がいました。「私らしく」生きることや、自分がやりたいことをやっているんだと自信を持って言えることを、そのときの自分の生活以外のところに持ちたいという気持ちがあって。

「Uchila」はまさに、それが形になったものかなと感じています。私は、ディレクターとして広報や、ウェブまわりのこと、当日の進行の諸々などを担当しているのですが、飯泉は本当に料理が好きで、そして上手。イラストも描けるんですよ!

フード・ドリンクユニット「Uchila」

荒川 私たちに共通するのは愛とノリ、そして笑顔かな……? ユニットとして活動するのは楽しくて、そしてその活動を通してみなさんに楽しい時間を提供できるのなら、こんなに幸せなことはないなと思っています。

── そう。好きなことを仕事にする。私はとてもいいことだと思うわ。それなりに覚悟や、努力は必要になるけれど、でもその苦労ができることも幸せだと感じられるものよ。あなたたちが笑うと、空気がぱっと華やぐわね。ビタミンが飛ぶみたい。……褒めているのよ。もう少し、あなたたちの過去と内面の話を聞きたいわ。

出会いは新潟県長岡市、雪深いあの町で

── 2人の出会いを聞かせて頂戴。

荒川 6年前に新潟県長岡市の栃尾という場所へ、同じ時期に中越地震の復興ボランティアに参加したことがきっかけで出会いました。偶然同じインカレサークルに所属していたので、そのつながりで。

私が富山県出身で、飯泉が神奈川県出身。私が教育学部で、彼女が国際関係学部。出身地や大学などいろいろと違ったのですが、当時からなぜか気が合って、ボランティアの一貫として、地域の拠点づくりや土地の開墾などを一緒にしていました(笑)。

── 土地の開墾。栃尾は私も好きよ。油揚げが美味しいから。じゃあ、出会ったときから「Uchila」をやろうと思っていた?

飯泉 いえ、じつはまったく……。インカレサークルは日本全国から2,000人以上が参加する巨大な組織だったので、どちらかと言うとその仲間、お祭り騒ぎを一緒にする友達のひとり、という感じに近かった気がします。

東京に戻ってからも、関東に住んではいたのでプライベートで遊ぶことはありましたが、でも特に仲良くなったのは、社会人になってからです。

── 何かきっかけがあったの?

飯泉 きっと、私が転職の相談をした時だよね。

荒川 うん、そうだと思う。

フード・ドリンクユニット「Uchila」

飯泉 大学卒業後は国際関係の仕事へのステップとして、暮らしに1番身近だったスーパーに就職しました。でも、じつはまだそのときは、食にどっぷりはまろうという気持ちはまったくなくて(笑)。

仕事はもちろん楽ではなかったけれど、それよりも「自分が本当に作りたい食事」ではないものを売ることに対しての、違和感や罪悪感がすごく強くて。それに潰されそうになってしまった時期がとても辛かったんです。

荒川 辛そうだったよね。

飯泉 うん。すぐにでも辞めたかったけれど、辞めたからと言って何をすればいいのか分からず、望まない仕事を続ける日々。

いっそ、仕事を辞めて、何もしない時間を作ろうかな……と思い始めたときに、厳しく諭してくれたのが荒川さんだったんです。

荒川 「未来のことを考えないで、ただ仕事を辞める、休む期間を作る、という選択をするよりは、無理矢理にでも前を向いて、次の道を探す努力をした方がいいんじゃない?」みたいなことを言った気がします。

飯泉 「現実を見なよ」ってね。そのあと私はもう一度仕事と、自分の気持ちに向き合おうという気持ちになれて、その上で退職を決意。別の職場で働きながら、調理師免許を取得することにしました。

あのとき、悩んでいた私を鼓舞してくれた彼女には、やっぱりさすがだな、と思うと同時に、とても感謝をしています。ありがとうね。

荒川 いえいえ(照)。

衝撃の「レモネード事変」から「Uchila」へ

── 「Uchila」結成の直接のきっかけって、あるのかしら。

荒川 2014年の夏に、2人でマルシェに遊びに行って、レモネードの屋台に出会ったことです。その日は、とても暑くて。喉が渇いたから、「生レモンがたっぷり!」なんて謳い文句がついているレモネードを売る屋台に、すでに20人くらいの列ができていたけれど、炎天下の中並ぶことにしました。

何分くらい待ったかなぁ。やっと手に入ったレモネードをごくりと一口。飲んだ瞬間、あまりの美味しくなさに、愕然としました。

飯泉 大きすぎる氷が入ったカップに、炭酸をいれて、で、少しだけレモンを絞っただけなんじゃ? って想像しちゃうくらい、美味しくなかったんだよね。しかも値段設定が高かった! たしか、700円とか。

荒川 うん、高かった。

飯泉 期待値が高かっただけに、悲しかったんです。楽しみに待っている人に、楽しさを提供できていないという現実。

荒川 誰もが「美味しい」という体験ができる社会ってできないのかな、と漠然と思いました。語弊があるかもしれないけれど、そこまで美味しくない飲み物に、対価として少なくないお金を払うなんて……!

飯泉 そこから、2人の中で想像が膨らんでいったんだよね。

「700円の真逆をいこう!」
「無料とか?」
「いいね! どうやって売る?」
「……いっそのこと、配る?」
「いいね! アメリカでは、6歳の子どもが道端でレモネード売ってたりするもんね。100円とかで。」
「6歳が出来るなら、25歳(当時の「Uchila」)だってできるかも!」
「飲み物を配る……。あ、もしかして、浜辺や河原なら可能性がある?」
「たしかに! じゃあ、2週間後の週末実行で。」

荒川 ……って感じだったかな?

── へぇ。すごい展開だわね。

荒川 そのあとは、ユニット名を決めて、真夏の湘南のビーチで無料でレモネードを配る「FREE LEMONADE」を実行したり、真冬に二子玉川の河川敷でチャイを配ったり。

uchila結成当初の様子
「Uchila」結成当初の様子

飯泉 そしてその後、2015年3月に、「灯台もと暮らし」主催の編集女子イベントに出会って、さらに活動の場を広げていくに至ります。

フード・ドリンクユニット「Uchila」
「編集女子が”私らしく生きるため”の紙コンテンツ作戦会議」イベントの様子
フード・ドリンクユニット「Uchila」
「編集女子が”私らしく生きるため”の食コンテンツ作戦会議」イベントの様子
フード・ドリンクユニット「Uchila」
「編集女子が”私らしく生きるため”の食コンテンツ作戦会議」イベントの様子

「Uchila」で繋がった人たちが幸せになるお手伝いを

── 今は、楽しく暮らせている?

荒川 楽しいですね。本当に楽しい。

フード・ドリンクユニット「Uchila」

飯泉 美味しいって言われることもうれしいのですが、じつはこれまで活動してきた中で一番いただいた感想は、「楽しかった」なんです。私たちも、フード・ドリンクユニットとは銘打っていますが、じつはフードやドリンクは「楽しい時間をお届けするための手段のひとつ」なのかなと思っていて。

── へぇ。あなたたちは、これから何を目指す? 活動の継続?

荒川 これからも、食を通じた楽しい時間作りはしていきたいと思っていますが、ほかにもいろいろやれることはあるなあ、なんて妄想中です。最近では、「勝手に女子力が上がるシリーズ」イベントや、ご飯を使って、ちょっとした新しいチャレンジをするイベントを企画・実行したりしています。

でも根本にある想いは、「Uchila」の活動を通して知り合った方々が、少しでも前向きに生きてくださるためのお手伝いがしたいなということ。受け身でも、消費するだけでもなくて、自分から何か動いてみようかなと思える人を、もっともっと増やしていきたい。人を変えたい、なんて偉そうなことは全然思っていないのですが、でも間接的にでもそのきっかけになれたらいいなと。

飯泉 そうだね。「Uchila」って名前は、もともと私たちが自分たちのことを「ウチラ」と呼ぶことが多かったから。「ウチラ」みたいな「ウチラ」が増えていくと、いいなぁと思っています(笑)。

── ふぅん。

人並みに落ち込み、人並み以上に明るく生きる

── そういえば余談だけど、あなたたちって、落ち込むこととか、ないの?

荒川 めちゃくちゃありますよ……。

飯泉 もうヘコみまくりだよね。

── 例えば、どんな時に?

飯泉 イベントの後とか、落ち込むことばっかりだよね。もっと動線を工夫すればよかったとか、下準備が足りなかったかなとか、反省することもとても多いですし。私たちは「場」に合わせてフードやドリンクをお出しすることに全力を尽くしていきたいから、「空気感の違い」などにはとても敏感に反応してしまいます。

「ちょっとテンションが違ったかな……」「ユーザー層と、想定が少しずれてて悔しい。もっとこうした方がよかったかな……」とか、ほかの人なら気にしないようなことまで、くよくよ悩んでしまったり(笑)。

荒川 イベント前日に、大げんかすることもあるよね。

飯泉 あるある。

荒川 2人とも緊張しすぎて、ぎくしゃくしたりね(笑)。

飯泉 あと、1人のときは結構落ち込みがち!

荒川 そうかも! 2人のときは200%以上の元気なのに、1人だと、30%くらいの力しか発揮できないよね……。あれは、なんで?

── カップルみたいね。そういえば、あなたたち、恋愛や結婚には興味がないの?

飯泉 いえ、もちろん恋愛も結婚もしたいです!

── まだ独身?

荒川飯泉 はい……。

── 恋愛は、夢の邪魔にはならない?

荒川 ならないですね。かえって頑張れる気がします。私は、一緒に頑張れる、何か夢を追いかけている人が好きだから、成果を発表しあったり、刺激し合える人だといいな。

飯泉 私は自分にないものを持っている人にとても惹かれます。違う世界を見せてくれると、また自分も新鮮な気持ちになれる。

── 今は、いい恋をしている?

荒川飯泉 ……企業秘密です♡。
フード・ドリンクユニット「Uchila」

【かぐや姫の胸の内】いつか月に帰ってしまうとしても

── 最後にひとつだけ教えて。かぐや姫は月に帰ってしまった……。もし明日、月に帰らなければいけないとしたら、2人はどうする?

荒川 私は、意外に1人でいたいかもしれません。いつも誰かと一緒にいるから、最後の日くらい、1人でゆっくりと過ごしたいかな。オーストラリアに行って、サーフボードに乗ってゆらゆらと揺られながら、空でも眺めるかなぁ……。

飯泉 私は、山に行きたいな。山、大好き。だからきっと、最後の日は山に登っていると思います。あとは、好きな人に会いに行く!

荒川 あ、それいいね。私も行くかも! サーフィンしてから行こうかな。

飯泉 オーストラリアは、遠いね……。

荒川 同じ地球だもん、大丈夫。

── ふふ。あなたたち、楽しそうでいいわね。いつも機嫌よく笑っていられるのは、とてもいいことよ。笑顔と美味しいごはんは、人を幸せにするの。でも、いつも笑っていなければいけないということはないのよ。辛くなったら、いつでもこのお店にいらっしゃい。あなたたちよりも美味しいレモネードが作れるように、私も毎日修業しておくから。

来てくれてありがとう。気をつけておかえりなさい、今夜はよく眠るのよ。

— 立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花 —

Uchila

お話を伺った人

荒川 萌(あらかわ もえ)ディレクター
Webマーケティング/社内スタートアップ/サーフィン。みんなで子育てしながら生きれる社会の仕組み、構想中。

飯泉 友紀(いいいずみ ゆき)クリエイター
小学校給食調理師/ウェディング会社調理インターン/登山/人は食べるものから作られる。”大人の給食”プロジェクト進行中。

Uchila(うちら)」について

各種イベント・懇親会などへのケータリング承っております。お気軽にご連絡ください。また、ご飯を使った楽しく美味しい時間を作りたいと思っています。「こんな事が得意なんだけど…なんか一緒にやろうぜ!」くらいのテンションから、一緒にブレストしていきませんか?
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(一部写真提供:Meiko Ito/@MeikoIto)

【かぐや姫の胸の内】多様な生き方が選べる現代だからこそ、女性の生き方を考えたい──