ここは、都会の喧噪から引き離された知る人ぞ知る老舗スナック。
夜な夜な少なの女性が集い、想いを吐露する隠れた酒場。

確かに近年、女性が活躍する場は増えて来たように私も思う。

自由に生きていい。そう言われても、

「どう生きればいいの?」

「このままでいいのかな。」

「枠にはめられたくない。」

私たちの悩みは尽きない。

選択肢が増えたように思える現代だからこそ、
多様な生き方が選べる今だからこそ、
この店に来る女性の列は、絶えないのかもしれない。

ほら、今も細腕が店の扉を開ける気配。
一人の女性が入ってきた……

編集者の徳瑠里香さん

徳 瑠里香(以下、徳) こんばんは〜。

── こんばんは、お入りなさい。今日はお仕事帰り?

 はい。

── お仕事は何を?

 編集者です。

── あら、そう。私も昔、編集者を目指していたわ。

 そうなんですか?

── 乙女が目指すものは、すべからく、ね。

 ……あ、はい(?)。

── ところで、年齢はおいくつ?

 今年で28歳を迎えます。

── いいわね……人生、たのしいときだわ。私も28歳の時は全力だった。あなたの見ている編集の世界を、私に教えてちょうだいな。シトラスとベリーのお酒を作ったから、まずはゆっくりとお飲みなさい。

編集者・徳がたどり着いた「ぼくらのメディアはどこにある?」というメディア

── 今は、具体的にどんなお仕事をしているの?

 株式会社講談社の現代ビジネスというウェブサイトで、編集者として働いています。編集者と言っても、人や媒体によってやることは様々。私の場合は、寄稿記事の編集、対談やインタビュー記事の企画・ライティングを担当しています。……って、これ、一般的かもしれませんが(笑)。

── いいわね、例えばどんな記事を担当しているの?

 うーん、いろいろです。できる限り、興味のあることをテーマにしたり、会いたい人に会いにいったり。最近だと、昔から本を読んでいて好きだった松浦弥太郎さんや吉本ばななさんにお話を聞きました。

── ふぅん……ありがとう、あとでじっくり読むわ。今の編集部には、新卒の頃からずっと所属しているの?

 いえ、以前は株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンという出版社で働いていました。1年目は営業として北陸の書店をめぐり、2年目から編集部へ。はじめての編集担当本として、25歳のときに25歳以下の若者に新しい働き方を提案する「U25 Survival Manual Series」を創刊しました。そこから独立してフリーランスに。

  • 『もっと自由に働きたい とことん自分に正直に生きろ』家入一真著
  • 『自分の強みをつくる “なりたい自分”を“自分”にしちゃえ。』伊藤春香(はあちゅう)著
  • 『冒険に出よう 未熟でも未完成でも“今の自分”で突き進む。』安藤美冬著 など他多数

── あら、あなた今はフリーランスなのね。若いのに偉いわ。そして私、あなたの手がけた本を持っていたみたい。ほら。「”美しい瞬間”を生きる」って、あなたが編集した書籍よね。

  • 『“美しい瞬間”を生きる』向田麻衣著

 そうです! 手にとっていただいて、ありがとうございます。

編集者の徳瑠里香さん

── 素敵な書籍だったわ。書籍の編集者から、ウェブの編集者へ。立場と媒体は変わったけれど、編集という仕事は続けているのね。編集の仕事は、好き?

 そうですね、好きです。ウェブの仕事を始めて今でもまだ模索中なんですが、じつは先日「ぼくらのメディアはどこにある?」という新しいウェブメディアを仲間と一緒に立ち上げました。

ぼくらのメディアはどこにある?
画像引用:ぼくらのメディアはどこにある?

── へぇ。どんなメディアなの?

 「私たちの時代のメディアは一体どこにあるんだろう?」と問いながら、その答えや今のあり方を探しにいくメディアです。

いきなり語ってしまって恐縮ですが、今って、SNSやオウンドメディア、コミュニティなどなんでもメディアになって、日常に溶け込んでいる時代だと思うんです。情報を発信したり、受け取ったりするものって、昔よりも多様になってきていますよね。

── たしかに、最近は新聞やラジオ、雑誌や本だけが情報の担い手ではなくなってきているわ。

 そんな中で、既存のメディア論を語っても、いまいちしっくりきません。

だから、「メディア化する個人」「メディア化する場所」「メディア化する企業」と銘打って、今はメディアのあり方が多様になっているよね、という部分を探り出すコーナーを設けました。また、「往復書簡」というシリーズで、メディアの第一線で活躍するこれまでの歴史を築いてきた人と、これからの時代をつくっていく人の双方の意見を聞き出します。

── ふぅん。なんだか面白そう。

 ぜひのぞいてみてください。

「メディアとはなにか?」と言うと、とても大きな問いに聞こえるかもしれませんが、でも私たちは、これからのメディアや編集のあり方を探ってみたいなと純粋に思っていて。自分たちのやりたいことを、サイボウズさんにスポンサーになってもらい、「ブランデッドメディア」という新しい広告の形で実現できたというところにも、これからのウェブメディアのあり方のヒントがあるかもしれません。

── 「ぼくらのメディアはどこにある?」には、あなた自身の疑問や葛藤も反映されているの?

 そうですね。ウェブの編集をする中で、メディアの形式って、新聞や書籍、ウェブやイベントという既存の枠組みにじつは限らないのでは? と思うようになったんです。

「こんなに面白い人がいる」「こんなに楽しいことがある」と伝える手段は、いわゆる文章を書いて編集するということだけではないかもしれない、と。何かを体験したり、実際に街や店を訪れて人と話したりするのもひとつのメディアと言えるかもしれません。そうとらえてみると、私たち編集者の道や可能性、できることって、さらに拡がりを見せるのではないかなと思うんです。

── ふぅん……。私は、ウェブ編集の世界にそこまで詳しくないから、まだ少し不明瞭な部分があるけれど、とにかくあなたは楽しそうに語るのね。それだけで、あなたの手がけていることが魅力的に映るわ。

 ふふ、ありがとうございます(笑)。

メディアに関わる方には、メディアの未来を考えるきっかけになったらいいな、と。そして、そうでない方には、「こんなおもしろい人や場所、企業があるんだ」、「自分だってメディアになり得るんだ」と思ってもらえたらうれしいですね。

── これから更新されていくのよね。続きを、楽しみにしているわ。

小さな頃から本を読むのが好きだった

── 編集者になるのは、小さい頃からの夢だったの?

 うーん、どうでしょう。いろいろなことに興味を持つ好奇心旺盛な子どもだったので、将来の夢を聞かれても、複数出てくるような感じだったと思います(笑)。でも、文章を読むことと書くことは昔から好きでした。

編集者の徳さん

 

── へぇ。

 愛知県の田舎出身なので、ほら、娯楽がそこまで多くないので、本ってやっぱりわくわくする対象だったんですよね。

── 分かるわ。ここにはない世界が広がっている感じがして、書籍はもちろん、雑誌や漫画、すべてがキラキラして見える時期ってあったわ。今でもそれは変わらないかもしれないけれど……。そんな感じかしら?

 そうだと思います。私の場合は、エッセイや伝記など、人の考え方や生き方を知るのがおもしろいなぁという感覚がありましたね。

── うんうん。

 中高生くらいになると、作文を書いて入賞したり、新聞にコラムを投稿して掲載されたり。自分が書いた文章に人が反応してくれることに驚きと喜びを覚えるという経験をし始めた記憶があります。

── なるほどね。じゃあ、そのあとは一直線に編集者の道を?

 いえ、お恥ずかしながら、じつはそうでもなくて。

── そうなの?

 地元のことは大好きだったけれど、やっぱり一度は地元を出て都会で暮らしてみたいという想いがあったので、東京の大学へ行きました。当時は、普通にキャンパスライフを楽しんでいました。

職業としての編集者を意識し始めたのは、大学2年生の頃。出版社でアルバイトするかたわら通い始めたライティングスクールで、「自分の興味関心があることを取材する」という課題に取り組んだときです。

── 大学生の頃から、出版社や編集の仕事に近づいてみようとはしていたのね。

 最初は社会見学のような気軽な気持ちだったんですけれどね。たまたまそのときに興味を持っていた助産師さんにインタビューをしたんです。取材のいろはも分かっていなかったので、とにかく足を運んで、人に会って、話を聞いて。それを文章にしたら、記事がその年の最優秀賞に選ばれました。

── すごいわね。

 いえ……たぶん偶然。でも、自分が書いた記事が雑誌に掲載されたのはうれしかったですね。さらにうれしかったのは、私には5つ離れた妹がいるんですが、妹がその記事を読んで、「助産師になりたい」って言ったんです。

── あなたの文章が、身近な人の心を動かしたのね。

 大きな問題と比べたらちっぽけなことかもしれないけれど、自分の書いた文章が誰かの心を動かすという素晴らしさを体験した気がしました。じつは、あれから6年、妹が今年本当に看護師デビューして……(泣)。

── 本当にその道を歩むことになったのね。感慨深いわ。

 はい、とてもうれしいですね。頑張ってほしいな。

人と人をつなぐ仕事を、これからもずっと

── あなたの考える、編集者の魅力ってなぁに?

 編集者の定義っていろいろあるけれど、私はいまは人と人の隙間を埋める、「つなぐ人」だと思っているんですよね。どんなに面白い人や事象があっても、ただそこに存在するだけでは、なにも変わらないし物事は動いていかないと思うんです。それってとてももったいないことだよなぁって思って。だから、編集者として温度を加えたい。

編集者の徳瑠里香さん

 私はもともと、人に会って話を聞くのが好きだし、自分がそれでわくわくしたり、生き方や考え方の幅が拡がっていったりする感覚も好きです。そういう感覚を少しでも多く人に伝えて、共有できたらいいなぁという気持ちもあります。

書くことは続けていきたいですが、究極、それは手段なので、伝えるための方法は書くという行為じゃなければいけないとも思っていないんです。今は「つなぐ」方法が書籍やウェブ、イベントなだけであって、将来もずっと同じことをし続けたいとか、し続けなければいけないと気負っているわけじゃなくて。

編集者と呼ばれることも、しっくりきているような、きていないような(笑)。いや、ただいつでもフラットでいたいと思っているだけかもしれませんね。肩書きの範囲内で仕事が決まってしまうのは面白くないので、可能性を残しておきたいというか。

── ふぅん。あなたの興味関心や問題意識は、どこから生まれるものなの?

 家族や、友人、大切な人たち。身の回りにいる人がきっかけになることが多いですね。

等身大の自分のフィルターを通して物事をとらえるというスタンスって、もしかしたら世の中のすべての事象をとらえることはできないかもしれません。でも私の場合は、自分の個人的な関心ごとが起点になって、エンジンがかかっていくというか……集中していくケースが多いんです。

反対に、自分の関心ごとが起点にない場合は、そこまでのパフォーマンスができないケースもある。これは少し問題だなぁと思って悩みどころでもあるのですが、でもやっぱり自分の問題意識に近いことを扱う方が、同じ悩みを持った人たちに伝えられることが大きいんじゃないのかなとも思っていて。

── うんうん。

 「U25 Survival Manual Series」も、きっかけは自分の周りにいた友人でした。25歳って、働き始めてから少し経って、働き方や生き方に悩み始める時期。こんなことで悩んでいるとか、こんなときに迷うよねとかっていう話を、普段の会話の中でしていて……。リアルな友人を読者に設定して、この子にはこんなことが答えになるかなとか、そういったことを考えながら作っていました。

── 自分の問題意識と、等身大だからこそ入ってくる情報をベースに課題を設定して、ひとつずつ乗り越えていくのね。アンテナを張り続けるために、何か意識していることってある?

 あまり意識していませんが、普通に生活すること、ですかねぇ(笑)。私は、本当に凡人なんですね。でも、編集の仕事をしていると、気付けば周りにすごい方々がたくさん、ということもあって。その時に、勘違いをせずにフラットな感覚を保つということは、意外に重要かもしれないと思っていて。

だから、仕事ももちろん頑張るけれど、家族や旧友と話す時間も私は大切にしたいなと思って過ごしています。例えば母親って、時折驚くような気付きや疑問を投げかけて、私の心を落ち着かせてくれるときもあるから。

── ふぅん、なんだか不思議。あなたと話してると、周りの空気がクリアになっていくみたい。対峙する人の心をほどくと言うか。

 それはうれしいです。私、一対一で人とじっくり話すことが好きなんです。だから、大人数の飲み会とかパーティーとか、ちょっぴり……苦手です(笑)。

── そんな風には見えないけれどね。

身近な人を幸せにして、徐々にその輪を大きくできたら

── あなた、結婚はしているの?

 はい。

── いつ?

 2015年2月なので、最近……。

── まだ新婚じゃない。

 そうですね。

── 楽しいわね。

 楽しいです(笑)。

── 結婚して、何か意識は変わった?

 そうですね、変わったというより、大切な人が増えたっていう感覚が近いかもしれません。

よく結婚すると、仕事と家庭、どっちを優先するのか、という話になると思うんですが、私の場合は仕事と家庭をきっちり分けるという意識も、家庭のために仕事を、仕事のために家庭を犠牲にするという意識もあまりないので……。優先度はその時々によって変えればいいと思うし、とにかく自然体でいたいなぁと思っていますね。

── なるほどね。徳さんが、これからやりたいことって何になるの?

 うーん、色々あるけれど、身近なことで言えば、自分と自分の周りの人たちが幸せに暮らせたらいいなぁって思います。

仕事で言うと自分のライフステージやその時々の問題意識に合わせて、テーマを変えて「つなぐ」ことをしていきたいかな。子どもを産んだら母親としての目線が加わるかもしれないし、30歳を過ぎたらまた違う世界が見えるようになるかもしれない。

それを続けて、いつか、誰かの心の支えになるような、寄り添えるものが作れたらいいなぁ。それは一冊の本でも、一本の記事でも、例えばお店でも、形はなんでもいい気がするけれど。

── いいわね。あなたならきっと何でもできるわ。夢を描くだけじゃなくて、それを実行して、形にして、世の中の人に広く届ける力を持っているもの。応援しているわ。

【かぐや姫の胸の内】明日、月に帰ってしまうとしたら

── 最後にひとつだけ聞かせて。かぐや姫は月に帰ってしまった……。あなたがもし、明日月に帰らなければいけないとしたら、最後の日はどう過ごす?

 自分の好きな人、今であれば家族や、友人、あとは仕事でお世話になっている方々などに集まってもらって、ただただ一緒にご飯を食べたいですねぇ。普通ですみません。

── いいえ。好きな人たちと、好きな時にご飯を食べるって、幸せなことだものね。

 そうなんです。食いしん坊なので(笑)。

── 食べることと眠ることは誰にでも、特に編集者にとっては必要なことよ。今日は足を運んでくれてありがとう。あなたと会えてよかったわ。また、新しいことを始めたら知らせに来るのよ。気をつけてお帰りなさい。

— 立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花 —

(トップ画像提供:岡村隆広)

お話を伺った人

徳 瑠里香(とく るりか)
1987年愛知県生まれ、慶應義塾大学法学部政治学科卒。(株)ディスカヴァー・トゥエンティワンにて、「U25 Survival Manual Series」創刊、企画編集ときどきライティング。現在は講談社のウェブメディア「現代ビジネス」に所属。

【かぐや姫の胸の内】多様な生き方が選べる現代だからこそ、女性の生き方を考えたい──