すいとう、使っていますか?
「12年間かけて完成させた『&bottle(アンドボトル)』のこれまでを伝えたい。」
昨年「灯台もと暮らし」を運営するWasei代表の鳥井がイベントでご一緒した「Re:S(りす)」編集者の藤本智士さんから、こんなご相談をいただきました。
Re:Sがタイガー魔法瓶株式会社と組んで、12年もの歳月をかけて完成させた「&bottle(アンドボトル)」。一体、どんなすいとうなのか。
どのような過程を経て、つくり手のどんな想いが込められているのか。
1ヶ月後の発売を控えた8月上旬。
あたらしい〝ふつう〟のすいとう「&bottle」に秘められたストーリーを紐解くべく、大阪府門真市にあるタイガー魔法瓶さんを訪ねました。
製品化に携わった皆さんにお集まりいただきました
渡辺正弘(わたなべ まさひろ)
「あたらしい〝ふつう〟のすいとうをつくる」プロジェクト発足当時から現在に至るまでの12年間を走り続けた「&bottle」のプロダクトデザイナー。
田中慎二(たなか しんじ)
このプロジェクトへの情熱をずっと保温し続けるべく力を注いだムードメーカー。2010年の春に商品企画から異動し、現在物流チームのマネージャー。
岡本正範(おかもと まさのり)
商品化への道筋をつくった魔法瓶のブランド統括マネージャー。
竹内知子(たけうち ともこ)
2016年の4月から魔法瓶の企画担当。岡本正範さんとともに各部署と調整し、企画提案資料をつくり「&bottle」の企画を通した人物。氷削り器「きょろちゃん」復刻版の生みの親でもある。
道家幸人(どうけ ゆきと)
初期の頃からこのプロジェクトを見守り、現在もさまざまな調整を率先しておこなっている広報担当。
すいとう好きが見つけた『Re:S』すいとうのある暮らし特集
──「&bottle」をつくるきっかけから教えていただけますか?
田中慎二(以下、田中) きっかけは、2006年にたまたま『Re:S』の「すいとうのある暮らし」特集を社員が見つけて、こういうおもしろい本がでているよと買ってきてくれたんですね。
田中 商品企画チームにはすいとう好きな人間が集まっていましたから、その特集をおもしろいなと思ったんですよ。
しかもその特集のさいごに「メーカーさんへの提案」がありました。どなたか一緒に作りませんか? と。
渡辺正弘(以下、渡辺) その問いかけに対して、当時企画を担当していた井奥が藤本さんに「一緒にやりませんか」とお声がけさせてもらったのが事のはじまりです。
すいとうには、理想のコップがほしい
── 「あたらしい〝ふつう〟のすいとうをつくる」プロジェクトはどんなふうにスタートしたんですか?
田中 ステンレス製のボトルが主流になっていましたが、ガラス魔法瓶をもう一回見直そうという藤本さんからの提案がありました。「魔法瓶」というネーミングがすばらしいって盛り上がったんですよね。
岡本正範(以下、岡本) そもそもステンレスボトルが誕生する前に主流だったのが、ガラス魔法瓶です。性質上割れやすく、外側を樹脂で保護しているので外形がちょっと大きいんですね。でも、その樹脂の部分が独特のかわいさがある。さらに、飲み物に香りが移りづらく保温性が高いという利点もあります。
渡辺 そうそう。それで魔法瓶メーカーとしての存在に焦点を定めはじめたというか、我々魔法瓶好きに火がついたなと。
田中 そのあと、理想のコップをデザインするワークショップをやりました。藤本さんのお声がけで学生さんに集まっていただいて。数十人くらいかな。家にある愛着のあるコップを持ってきてもらったり、粘土で理想のコップをつくってみたり。なにがいいのか、そうでないのか。コップの可能性をいろいろ探ったんです。
渡辺 皆さんにコップについて意見していただいたんですけども、共通点を探ろうとすればするほど中途半端な妥協案のようなものになってしまって。いろいろ試行錯誤しましたけど、袋小路に入ってしまった(笑)。
それで結局「今からつくるぼくらのすいとうにコップはいらないんじゃないですか?」と、藤本さんがちゃぶ台をひっくり返した。なぜならコップは、使い手それぞれの使い心地のいいものが売っていると。
そこでガラス魔法瓶だけを用意して、好きなコップで飲むスタイルにしようと検討してつくったのがこの木型なんですよ。
田中 でも木型をつくってみたら、利便性を考えると日常使いしづらいだろうと。こんなに大きなものは毎日持っていけないだろうし、ガラス魔法瓶は落としたら割れてしまう。すいとうのスタイルとして現実味がないから、もう一度考え直すことになりました。
渡辺 あくまでも「すいとう」です。ガラス魔法瓶にこだわるものの、冷静に考えるとコップなしのすいとうは、すいとうから離れている。もう少し手軽に〝あたらしいふつう〟を提供できるプロダクトを探すことになりました。
長く使える「一生モン」を。愛着の湧くステンレスボトルでつくる
── その次に、コンパクトかつカラフルな木型になると。なぜこの形になったんでしょうか?
道家幸人(以下、道家) 当時はガラス魔法瓶の生産はどんどん減っているいっぽうで、世の中の流れとしてステンレスのものが支持されていました。
田中 あくまでも「すいとう」であることを軸にして、耐久性、扱いやすさ、軽さやシンプルさ、コストをふまえると、このすいとうもステンレス製がいいという話になったんです。
田中 安価に売られることなく長く使っていただけるようなテイストとは何か。当時はそういう話をしょっちゅうしていましたよね。
渡辺 それで藤本さんが言っていたかな。「昔のタイガーさん、いいのありましたよね?」って。
田中 探しだしてきたこれをデザインの参考にしたわけです。
渡辺 軸は、長く使える「一生モン」で愛着の湧くもの。
岡本 この5つの大切にしたいことは、そのとき考えたんですか?
Re:S×タイガー魔法瓶 あたらしい“ふつう”のすいとうプロジェクト 5つの大切にしたいこと。
1)ガラス魔法瓶時代の商品たちから、その佇まいの温かさや、情緒溢れるものづくりの豊かさを学ぶ。
2)価格競争に巻き込まれることなく、長く愛され続けるような商品とその流通の仕組みについて考える。
3)くらしに愛をおとどけする、タイガー魔法瓶。かつてのキャッチコピーに込められた思いをプロダクトに。
4)メンテナンスしてもらいながらずっと使い続けてもらえる、シンプルな道具としてのボトルを目指す。
5)単なるノスタルジーではなく、いまの技術がきちんとこめられた商品を世の中に提供する。
田中 そうです。ずーっと藤本さんと話してきたことをまとめると、こういう感じやったな。
渡辺 当時は、便利でシンプルでスタイリッシュであることが小売業者に選ばれる基準でした。けど、もうちょっと使い心地のよさを大切にしたい。
田中 安価なものがどんどん出てくるから、想いのこもっていない使い方をして簡単に捨てる。いい商品がなかなか生まれにくい環境にある中で、本当に自分らのつくりたいもので、且つみなさんに喜んでもらえる商品とはなんだろうと考え続けた結果、こういうすいとうをつくりたいなと。
しかし、2011年3月11日に起きた東日本大震災によって、商品化への動きが一時ストップしてしまいました。
ずっと温め続けてきた想いに、社内や市場の風が吹きはじめた
── プロジェクトがまた走り出すきっかけはなんだったんですか?
竹内知子(以下、竹内) ある日、本社に「きょろちゃん」はありますか? ってお問い合わせがあって。38年前に商品化した氷削り器のことだったんです。
竹内 それがきっかけで2016年に氷削り器の「きょろちゃん」の復刻版を商品化しました。きょろちゃんを売り出すときに、多機能・高性能ではなくて、感情に訴えるものをテーマにしたんです。
そうしたらきょろちゃんがすごくヒットして。ボトルもひとの感覚に響くようなものがいいんじゃないかという話になり、そういえば中断していたコップ付きのすいとうプロジェクトがあった! って。
田中 「一生モン」のコンセプトで階段を登ってきたこの木型と、性能やシンプルさだけでは言い表せない感覚を大切にしたいという会社の考えが、このタイミングでやっと噛み合った。
岡本 ちょうどボトルが市場的に伸びていて、うちもボトルの業績がよかった。そういう追い風に乗って、このすいとうの商品化を決断しました。
それまでデザインの渡辺が木型を毎年持ってきていたわけですよ。次の商品を企画するときに、これどう?って。まぁしぶといからね(笑)。
── 熱量が高かったんですね。
田中 それはねぇ。震災後も渡辺は藤本さんとコンタクトをとりながら、いつかやりましょうという思いを持ち続けた男です。井奥も海外赴任して、私も物流チームへ。ずっと渡辺が残って、あとは「頼むぞ」と。
竹内 想いをずっと温め続けてきたものに、社内や市場の風が吹きはじめた。いろんなことがちょうど重なったんですね。
そして2018年9月1日。あたらしい〝ふつう〟のすいとうプロジェクトの発足から約12年の時を経て、ついに「&bottle」が発売。
「&bottle」(アンドボトル)誕生
一本のボトルが与えてくれるちょっと贅沢な時間と気持ち。ボトルそのものというよりも、そんな豊かさこそ商品にしたい。このボトルが生まれたのは、そんな思いからでした。
だから「&bottle」。
渡辺 これを持ってベランダに出ただけで、そこがもうカフェになるような使い方ができるのかなと。そういう話をしながら藤本さんが考えてくれたのが「&bottle」という名前です。
── &bottleをつくる過程で、男性ばかりの商品企画開発チームの中で竹内さんがいつも率直な感想をお話されていたと伺いました。
竹内 そうですね。私が入社したときには商品企画チームには男性しかいなくて、企画会議に出ても女性1人のことが多くて。ただ、使ってくれるひとには必ず女性がいる。だから女性のライフスタイルを知ってもらえるように心がけていますね。
── &bottleにもそういう視点が反映されているポイントはありますか?
竹内 実容量が300mlって聞くと、男性陣は「300mlなんか足りひんやん」って言うんですよね。でも女性はすいとうを容量で選ばない。見た目のサイズ感や自分のカバンに入るかなとか、そういう基準で選びます。
あとは細かい点ですが、持ったときのすいとうの太さや手触りも大切にしましたね。男性の手と女性の手って違うんです。爪の長さも違う。蓋を回すときに爪が当たらないかとか、数値ではあらわせない感覚に頼るところも多いので、男性が気づかないだろうというところを見て提案します。
「一生モンにとどまらず、次の世代につながってほしい」
岡本 うちは企画をとおして商品化するのがむずかしいんですよ。コンセプト、ストーリーはもちろん、当然なんですけど儲かるのか儲からないか数字の話が重視されるから。原価も計算してなんぼ売ってどんだけ利益回収できるかって、どうしても企画会議ではそこもポイントになるんです。
岡本 ただやっぱり、僕からすると10年以上デザインし続けてきた渡辺の想いを叶えたい。みんなで決めてつくる商品よりは一人が本当にこだわったものを商品化するほうが、価値がある気がするし、そうするほうが楽しい。
田中 たとえプロジェクトの灯火が小さく細くなったとしても、想いを持ち続けて、人と人をつなげてバトンタッチしたりキャッチボールしたりしながら最後のさいごに本当にいいものをつくる。その想いをいかに伝えていくか、そしてつなげていくかが大切だと思っていまして。
さっき久しぶりに『Re:S』を読んでいたんですよ。12年前に始まった企画のフィナーレとして、メンバーが代わりながらもこんなすいとうができるなんて夢にも思わなかった。ひとつの商品を通じて想いが受け継がれていくことは非常にすばらしいなと今回つくづく思います。
次は商品をとおしてお客さんに喜んでいただいて、「一生モン」とは言わず、またさらに次の世代につながってほしい。僕らが80歳になっても、じつはこれは僕がタイガー魔法瓶にいるときにこうやってつくられたものなんだって、話せていたら嬉しいですよね。
プロジェクト発足から12年。奇跡のすいとうが生まれた理由
渡辺 通常を考えたら12年のスパンでつくるものはありえないですよ。
竹内 こういう木型も傷だらけですけど(笑)、商品化されなかったら2〜3年くらいで「もうこれやらへんのやったら捨てるで」って破棄するんです。
渡辺 &bottleより後に企画して形になっていない商品も山のようにあるんです。
── じゃあ、&bottleの木型は渡辺さんが捨てないでいたんでしょうか。
渡辺 そうですね、木型は僕が管理しているので。その中でなぜかこれだけは残していました(笑)。
── つまり&bottleは、普通だったら捨てられてしまっていたものが形になったのですね。
田中 魔法瓶は創業以来つくり続けているものだから、他の商品とは思い入れも存在感も、ちょっと違う。ひょっとしたらいつか使うかもしれんなという何かが、&bottleにはあるんやなぁ。
コップを使って飲む所作が、あたらしい
── すいとうを持ち歩いていないひとも多いと思います。そんな昨今の現状を肌で感じてきたタイガー魔法瓶さんが提案するあたらしい〝ふつう〟のすいとうは、どんなふうに日常に寄り添ってくれるんでしょうか。
道家 なによりも&bottleにはコップがあります。忙しいときにも蓋を開けたらあっという間に飲めるのではなく、コップに飲み物を注いで飲むまでのちょっとしたワンアクションがある。コップを使って飲むという所作を、新しいと感じてもらえる。
コップがあるからほっこりできる雰囲気とスローな時間を楽しめる。切れ目のない日常からすこし離れた時間に自分を連れて行ってくれる道標となって、動物としてのDNAのなかにある大切な何かを思い出すきっかけになれればと。
田中 プロジェクトが動き出したはじめの頃に理想のコップがどうのこうのと考えていましたが、最後コップに話が戻っているよなぁと。
道家 プロジェクトが動き出すきっかけになった藤本さんの想いが形になっていて、その形を想いが手伝っている。それが、&bottleだと思っています。
── 最後に、みなさんと&bottleを撮らせてください。
「&bottle」のこと
品名:ステンレスボトル<サハラ>
品番:MSK-A030
実容量:0.30L
サイズ :(約)幅7.1×奥行7.1×高さ20.8cm
本体質量:(約)240g
色:ショコラ<TC>/ブリックレッド<RB>/スモーキーブル<AS>/グレイッシュホワイト<WG>
&bottle(アンドボトル)特設サイトは「こちら」。
写真提供/Tiger Corporation & Re:S
文・写真/小松崎拓郎
(この記事は、タイガー魔法瓶株式会社・有限会社りすと協働で製作する記事広告コンテンツです)