暮らしを楽しむ共創コミュニティ「SUSONO」。
佐々木俊尚「21世紀の教養を身につける議論型コミュニティLIFE MAKERS」と松浦弥太郎「くらしのきほん」×「灯台もと暮らし」×「箱庭」のメディア集合体「スチーヴ」が一つになり、始動したプロジェクトです。
いろんな価値観を持つひと同士がゆるやかにつながることができる、新しい暮らしの文化圏をつくりたい。そんな想いで発足したSUSONOのローンチイベントが、12月3日、東京・目黒で開催されました。
イベントでは「はじまり」をテーマに、SUSONO発足の経緯から、さらに広げてこれからのコミュニティに期待することまで、運営メンバーによるトークセッションが繰り広げられました。
登壇したのは佐々木俊尚さん、松浦弥太郎さん、森史子さん、藤田華子さん、鳥井弘文さんの5名です。
この記事では、当日のトークの様子をお届けします。
佐々木俊尚(ささき としなお)
作家・ジャーナリスト。1961年生まれ。毎日新聞社の記者、月刊アスキー編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。ITから政治・経済・社会・文化・食まで、幅広いジャンルで、綿密な取材と独自の視点で切り取られた著書はベストセラー多数。Twitterのフォロワーは80万人と日本でもトップクラス。著書に『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『そして、暮らしは共同体になる』(アノニマ・スタジオ)など。
松浦弥太郎(まつうら やたろう)
エッセイスト。㈱おいしい健康・共同CEO。2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年にWEBメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。
森史子(もり ふみこ)
1981年生まれ、石川県金沢市出身。建材メーカーの企画販促、ネットリサーチディレクターを経て、2015年よりWebメディア「箱庭」に加入。現在は責任者として企画・プランニング、編集、ライティング、撮影などを行っている。
藤田華子(ふじた はなこ)
1987年、栃木県出身。立教大学卒業後、株式会社ロッキング・オンにて音楽雑誌の編集を担当。2014年にRIDE MEDIA&DESIGN株式会社入社。コンテンツマーケティング、広報、「LIFE MAKERS」のコミュニティ運営を務める。
鳥井弘文(とりい ひろふみ)
株式会社Wasei代表。1988年、北海道函館市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。日本全国の地域を取材しながら、これからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」を運営している。
異なる価値観・属性のひと同士と混ざり合うと、自分が変わっていく
藤田華子(以下、藤田) 今回「LIFE MAKERS」、「くらしのきほん」、「灯台もと暮らし」、「箱庭」と、4つの異なるコミュニティから発足したSUSONOです。そもそもどうしてSUSONOを始めることになったのかというお話からしていきたいです。
鳥井弘文(以下、鳥井) もともと、僕たち灯台もと暮らしとくらしのきほん、箱庭で「スチーヴ」という暮らしのプラットフォームをつくろうという企画を1年くらいやっていたんですよ。
運営していく中で気づいたのは、やっぱりコミュニティって「リアルの場でイベントをやったときにいちばん盛り上がる」ってことだったんです。ちょうどその頃、灯台もと暮らしがコネクトメディアのような形で関わっていた、佐々木さんの運営するLIFE MAKERSがリニューアルを考えているというお話を聞いて。
じゃあ一緒になって、もう一度なにか新しい形のコミュニティをつくろうということになって立ち上がったのがSUSONOの原点です。
佐々木俊尚(以下、佐々木) SUSONO発足前から、ネットが普及すればするほど会うことの愛おしさが増すんじゃないかってことはずっと考えていたんです。ネットが普及してあらゆることが便利になったからといってすべてがネットで済むわけじゃなくて、やっぱり僕たちは会いたいんじゃないかな、と。
でもじゃあ実際会うとなったら、その手段がフェスだったりサロンだったりになるわけだけど。その瞬間盛り上がるけどそれ以上のものがなかったり、出世やお金儲けが目的になって自分のやりたいことと微妙にズレてくることもある。
佐々木 もうちょっと、自分の生活とか人生とか考える上で「なにが楽しいんだろう?なにが気持ちいいんだろう?」ってみんなで考える場があってもいいのかなって思いがあったんです。
松浦弥太郎(以下、松浦) 「僕たちは会いたい」というお話、まったくその通りだなぁと思いました。僕なんて普段から本当にひきこもりなんですけど、でも頑張ってひとに会いたいって思う。それはどうしてかって言うと、やっぱり僕自身が変わりたいからなんですよね。
話飛んじゃうんですけど、僕ランニングが趣味なんですよ。ランニングでだいじなのは、呼吸です。この吐くことっていうのは、コミュニケーションで言うところのアウトプットなんです。自分がなにに感動したとか、なにを発見したとか、こう思ったとかをアウトプットする習慣をつけると、自然とインプットの習慣も身につく。
松浦 そして、ちがう業種や、趣味趣向のひとたちと会ってアウトプットとインプットを繰り返しながら混ざっていくと、新しい世界を知ったり自分自身が変わったりできるんだと思っています。
そういう習慣とかライフスタイルを実現できる場が、僕にとってのコミュニティであり、SUSONOに期待することです。
森史子(以下、森) これは私の個人的な感想なのですが、女性はとくに、「ママ友」や「既婚者」など、属性がはっきりしているコミュニティが多いなぁって日頃から感じていました。
だけど、ちがう属性のひとたちと関わることも単純にいいなと思っていて。LIFE MAKERSもくらしのきほんも灯台もと暮らしも、私たち箱庭とはちょっとタイプがちがうけれど、でもだからこそ刺激を受けたりします。
属性はちがうけれど、「好き」「面白そう」が起点になってつながることができるコミュニティが生まれればいいなと思っていました。
いいコミュニティにはゆるさと、見守ってくれるひとがいる安心感があるんじゃないか
藤田 そんなみなさんの思いを乗せて始まったSUSONOですが、どんなコミュニティにしていきたいか、ということをお聞きしたいです。
森 SUSONOという名前は山麓の緩やかな傾斜地、裾野に由来してます。栃木県の黒磯という町に取材に行ったときに、「山の麓の小さな町だけど、そこからゆるやかに広がって行きたい」というお話を聞いて、それが素敵だと思ったことがきっかけだったんですけど。
森 このコミュニティにも、出世したいとかフリーになりたいとかあるいはひっそり暮らしたいとか、とにかくいろいろなことを目指したり思ったりするひとがいる。
だから、ひとつの目的に向かって一直線に向かうというよりかはちょっと周りを見渡したときに美しい景色が見えるようなコミュニティになればいいなと思っています。
佐々木 目的じゃなくて感覚でつながるというのは、ひとつの鍵なのかもしれないですね。
僕は、SUSONOがどんなコミュニティになったらいいかについて考えたときに、自分の新聞社員時代のことを思い出しました。新聞社は肉食系の考えのひとが多くて、とくダネを自分の手柄にしたがる先輩とかがいるんですけど。それに対して「くそう」と思っても、声の大きい方にやっぱり光が当たっちゃうんですよ。
でもそんなとき、ポンポンと肩を叩いて「佐々木、見てくれているひとは見てくれているから」って言ってくれるひともいたんです。そういう関係って、すごく昔の日本の会社のよかったところだと思います。生きるのがそんなに上手じゃないひともちゃんと見てあげるコミュニティっていいな、とつくづく思います。
鳥井 僕個人でブログを書いていたりとか地域のコミュニティに入ったりして思うのは、横にちゃんと見ていてくれる存在がいるひとって、ちゃんとそのまま愛情表現できたりするんです。でも、誰も見てくれないとなると見てもらうために尖ったり、あるいは辞めちゃったりしてしまう。
鳥井 だから、いいコミュニティに属しているひとはちゃんといい発展をしていくのだろうと感じていて。
SUSONOは「共創」をキーワードにしているクローズドコミュニティなので、メンバーのみなさんにはできるだけ自分の考えていることや感じたことを言葉にしてみる機会にしてほしいですね。
松浦 たとえば、なにかを発表したり共有したりするときトークショーや講演みたいになると「気軽さ」が薄れちゃうと思うんです。
もっと、公園のベンチに座って、なにを話すわけでもないんだけど「ちょっと話そうよ」くらいの気持ちで話ができる空間のほうがいい気がします。それくらいリラックスしているほうが、なにか面白いことや暮らしや仕事に役立つようなアイディアが行き来するんじゃないかなぁと。
だけど自由すぎても時間だけが経ってしまったりするので、そこは運営側がきっかけをつくっていきたいですよね。SUSONOは月に2回のイベントや部活動を企画しているけれど、みなさんにはなにより、リラックスした気持ちで集まってもらえればいいんじゃないかと思います。
これから大切なのは「友だちをつくる力を養うこと」と「新しい共同体のあり方を考えること」
藤田 今日のイベントには参加者の方々から質問も寄せられています。SUSONOのこれからのことについての質問が多かったので、運営メンバーが見ている未来についてお聞きしたいです。SUSONOの活動を通じて、子どもたちやその次の世代のひとたちに、なにを伝えていきたいと思いますか?
松浦 これから先、どんな未来になるのかは正直わかりません。だけど、未来の子どもたちになんとなくでもだいじにしてほしいのは「友だちをつくる力」ですかね。
今は、友だちをつくることがだいじだと思えるような時代でもあると思うんです。スマホで友だちはできる時代なんだけど、でもそれとは別の、もっとそうじゃない友だちづくりを知ってほしい。
松浦 やっぱり友だちがだいじということを忘れたらいけない、いつだって友だちがとても大切じゃないですか。そう思ってもらえるような発信とコミュニケーションをSUSONOからしていきたいし、ぼくらの活動を通じて、未来の子どもたちが友だちのために自分がどうあるべきかを考えられるようになってもらいたいというのは、心の中にありますね。
佐々木 これはSUSONOというよりもっと大きな話になるのですけど、今の日本社会にいちばん不足しているのは「共同体」だと思うんです。歴史的に見ると、90年代くらいまでは農村や会社……江戸時代から現代まで、形は変わっても共同体は存在していました。
だけど現代は、終身雇用もなくなって非正規雇用も4割に到達した世の中だから、共同体に属している感覚が薄くなってきている。そこでもう一回新しい共同体が必要とされているんじゃないかと思います。やっぱり人間は共同体なしには生きてはいけないから。
佐々木 その共同体が無縁でもいいじゃんって僕は思うんですよ。まったく縁もゆかりも、地縁も血縁もなくたって、そこから先になにか生まれるならそれでいいんじゃないかって。
そういう新しい共同体のあり方をこれから日本の社会は10年、20年、あるいはもっと時間をかけてつくっていかないといけないのだけれども。SUSONOがそのひとつの実験の場というか、ここをきっかけにして共同体について考えていくことができるのではないかと思っています。
「食」「暮らし」「仕事」「メディア」「旅」「写真」「デザイン」「移住」「家族」「ファッション」「オーガニック」「映画」「音楽」「お金」「マインドフルネス」
など、活動テーマが多岐にわたるのがSUSONOの特徴。
たくさんのコンテンツや価値観に触れることで見えてくる景色はきっと、山の裾野のような、広がりある美しいものなのではないでしょうか。
そして、バックグラウンドや目的が違っても、「楽しく、気持ちよく生きたい」という気持ちひとつで仲間になれるのが、新しい共同体の形なのかもしれません。
これからの心地よい暮らしや社会について考えたい、そして暮らしをもっと楽しみたい。そんな方は、ぜひ一度SUSONOのサイトをのぞいてみてください。