4月の終わりの、華金の夜。Nagatacho GRID(永田町グリッド)には、なんと200人もの人々が駆けつけてくれました。
お目当ては、ゲストにお迎えした「ほぼ日刊イトイ新聞」を主宰する糸井重里さんと、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さんによるトークセッション。
この日は「灯台もと暮らし」も参加・運営する、暮らしをもっと楽しむためのコミュニティ「SUSONO(すその)」のイベントでした。
テーマは「働くこと」。
今のあなたは、仕事をともにする仲間と「冒険」できているでしょうか。
仲間とパーティーを組み、ゴールを目指して山を登る。その道中、疲れたり休みたくなったりすることもあるかもしれません。そんな時に仲間に「疲れちゃった」と思い切って打ち明けられますか?
がむしゃらに山を登って行くだけではなく、休憩できる、失敗しても受け入れてもらえる、緊張せずに助け合い「このメンバーなら、できるような気がする」──そんな思いを持てる仲間とキャッチボールをしながら新たな気づきを得ていくことが、仕事という冒険を楽しむということではないでしょうか。
第一線で活躍しているお二人の考える「一緒に働くこと」をお届けします。
「今でも働くのは好きじゃないです」
佐々木俊尚(以下、佐々木) 糸井さん、いろいろ本を出されてますが、『はたらきたい。』がありますよね。しばらく前に読んでたら、小学生のときに就職する日のことを思って、夜に布団のなかで泣いたっていう話があって。
佐々木 俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。著書に『新しいメディアの教科書』(ちくま新書)、『多拠点生活のススメ』(幻冬舎plus+)、『広く弱くつながって生きる』(幻冬舎新書)など。電通総研フェロー。SUSONO運営。総務省情報通信白書編集委員。東京長野福井の3拠点を移動生活中。
糸井重里(以下、糸井) あぁ、泣きました。今でも働くのは好きじゃないです。でも、今年は「ほぼ日刊イトイ新聞」創刊20周年で、来年で働き始めてもう50周年です。これまでも何度か「糸井はもう終わりだ」って言われてるんですよ。
糸井 重里(いとい しげさと)
1948年生まれ。コピーライター。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。広告、作詞、文筆、ゲームやアプリの製作など、多岐に渡る分野で活躍。1998年にウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設してからは同サイトの活動に全力を注いでいる。近作に『思えば、孤独は美しい。』など。
佐々木 世間から(笑)。
糸井 その都度、(ぼくの耳まで)ちゃんと聞こえてくるんです。で、言われると嫌だなって思うんですよ。おまえに何がわかるんだよって思う。
佐々木 そうですよね。
糸井 その嫌だなっていう気持ちが、自分をちょっと頑張らせる動機にはなりますね。
佐々木 それはやり返してやろうとか、そういう話ではなくて。
糸井 全然違いますね。目にもの見せてやろうということはなんにもない。だけど、おまえが思っているのは違うぞっていうことを、肩を叩いて言ってあげたいな、と。
佐々木 なるほど。それはプライドがあるからですか。
糸井 一種のプライドだと思います。それから、自分が自分に多少期待しているんじゃないでしょうか。
何かを一緒に探しに行く冒険をしている
佐々木 つまり根拠はなくてもいいから、なんでも自信を持つのは必要だという話なんですかね。
糸井 自信というのは、よく質問されるテーマなので何度も考えたことがあるんです。自信という形があったことはないんです。あるのは、その都度の問題に対して「できるような気がする」っていう思いだけ。
佐々木 なるほど。
糸井 たとえば、ぼくが佐々木さんと対談をしますっていう場面で、できるかな、できないんじゃないかな?って思ったら、ここに来られなくなっちゃいますよね。
佐々木 萎縮しちゃいますね。
糸井 「緊張しています」という台詞から話を始めるひとがものすごく多いんだけど。なんで緊張してるの?って。
佐々木 その疑問は大舞台に立つ時も?
糸井 えぇ。緊張する必要がないと思うんですよ。何か特別なことをしようとしているわけじゃないから、失敗してもいいわけだし。
佐々木 そうですねぇ。
糸井 「できるような気がする」という思いで、僕はいろんな仕事に向かっているんだと思います。「もっとうまくできるんじゃないか」って、絶えず思っているような。
佐々木 逆を言えば「失敗するんじゃないか」と思うから緊張するんですよね。とはいっても緊張しないというのは、ある程度自分に自信がないとできないんじゃないですか?
糸井 自信があるからではなくて、バカにされてもかまわないということだと思うんですよ。
佐々木 はぁ。
糸井 それから、オレとおまえの比べっこじゃなくて、ふたり(または複数)で登る山の話をしているわけだから、一緒に登っていく道中で「疲れちゃったね」って言ってもかまわない。
佐々木 例えば、僕がしどろもどろしたり無知だったりすると、バカにするひとがいるじゃないですか。そういうひとがいるから、みんな緊張しちゃう。
糸井 それは、そのひとがバカだからですよ。
(会場 笑い)
糸井 ふたりで何かを一緒に探しに行くパーティーを組んでいるわけですから、登っている途中で仲間をバカにしたりするひととは、いっしょに登れない、役立たずですよね。
佐々木 そもそも、そういうひとと一緒に仕事をしてるのが問題だと。
糸井 そう思います。ぼくは、自分の言いたいことを全部言うタイプのひととは、会わないようにしているんです。引き出しの中のものを順番に出すひとって、世の中に山ほどいる。
佐々木 (会場の)みんな、うんうんって、頷いてますね。
糸井 つまり、それは頭のなかに持っているものを置いているだけ。例えば「働き方」っていうテーマでも、すでに考えてあることを順番に並べていくだけのひとは、どれだけ詳しくしゃべっても、なにかを一緒に探しに行けないんです。
佐々木 キャッチボールになっていない。
糸井 だから、いっそ何も知らないひとと僕とで、何も知らないテーマについて、南太平洋の人魚についてでも、なんでも、しゃべりだせば何か見つかるわけで。
佐々木 一緒に仕事をするっていうのは、そういうことなのかもしれないですね。
糸井 そう思います。
佐々木 相手からやりたいものを提示されて、ひたすら「やれ」って言われるんじゃなくて、お互いのいいところをぶつけ合いながら一緒に山に登って見えるものを探すのが、理想的な仕事のあり方。
糸井 この場でも、知らないことがわかるという瞬間が一番うれしいわけです。きっと(佐々木さんと僕の)思考のルートはお互い違うはずですから、「僕はこう思ってるんだけど、糸井さんはどうですか?」って聞かれても、「うわーっ、わかんねえ!」っていうことがあるんですよ。
佐々木 そりゃそうですよね。
糸井 たとえ理解できても、相手の言うように結論づけられないな、って思うこともある。そうしたら僕は結論を出せずにユラユラしていることを、たぶんそのまま伝えますから。
佐々木 そうやって伝えていくと、もう一歩先で新たな気付きを得られたりするわけですもんね。
(2/2)へ続きます──。
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文・写真/小松崎拓郎