”ほしい未来”をつくるためのヒントを発信するウェブマガジン『greenz.jp』勤務を経て、ロハスピープルのための快適生活マガジン『ソトコト』の編集の職に就いた木村 絵里(きむら えり)さん。
ウェブと紙媒体での経験を通して感じたそれぞれの利点や仕事の内容、そして生き方や働き方に興味を持っているという彼女のこれからの目標についてお聞きしました。

責任の重さは、雑誌作りを楽しくさせる

ソトコト

── 3月号の特集は「アイデアにあふれる社会貢献プロジェクト」ですが今朝、校了したそうですね。お疲れさまでした。

木村絵里(以下、木村) ありがとうございます。

── 木村さんが担当されているページはどちらですか?

木村 パーマカルチャー(*1)を広めているソーヤー海(カイ)さんの紹介です。

ソトコト

(*1)パーマカルチャー:エコロジカルデザイン・環境デザイン分野の用語であり、自然のエコシステムを参考にし、持続可能な建築や自己維持型の農業システムを取り入れ、社会や暮らしを変化させる総合的なデザイン科学概念 引用:Wikipedia

木村 グリーンな感じを紙面に押し出したいと思いました。撮影に適した緑のある場所を考えたものの、冬のせいで枯れていたところもあって。カメラマンさんになんとか雰囲気を出していただくようお願いしました。

── 担当ページは6ページなんですね。

木村 ページ数は月ごとで変わりますが、「アイデアにあふれる社会貢献プロジェクト」の特集は全部で10ページを担当しています。それぞれ一人で編集するので、責任の重さをすごく感じますね。(※ソーヤ海さんのページは6Pですが、この号では他に「プロジェクト70」のページを4P担当。)

たとえば誤字が見つかれば、それは全て私の責任です。私が校了しないと印刷が始まらないので、万が一校了が遅れて印刷ができないと発売日も遅れてしまうかもしれません。そう思うと気が気ではなくて、締切前は夢の中でデザイナーさんに謝ることもありました(笑)。

── 取材から校了までのスケジュールはどうなっているんですか?

木村 取材はだいたい月末から翌月上旬の間に行っています。その後、1〜2週間ほどかけて原稿と写真を合わせたレイアウトを作成していきます。校了日は毎月25日前後なので、そろそろ校了という時にまた次の取材の準備を始める、というサイクルです。

── ウェブは1ヶ月単位で企画があるわけではなく、いろんな企画が並行して進んでいるのに対して、月刊誌はある程度決められたスケジュールと締切があるんですね。

木村 ウェブよりもリズムが作りやすいと思います。忙しい時は忙しいけど、いつ何が起こるという予測がしやすいですね。オンとオフの切り替えもはっきりしています。

── 取材に行くのは木村さん、ライターさん、カメラマンさんですか?

木村 そうです。取材後は、はじめに全体のラフを作成します。写真のレイアウトを決めたらダミーの文章を配置して、ライターさんに「見出しは20字、本文が1200字でお願いします」というように原稿の依頼をします。

── 入稿された原稿などの素材をもとに、デザイナーさんにレイアウトの相談するんですよね?

木村 そうですね。希望するラフの相談や写真の選定をします。「この写真のほうがインパクトが強い」といったアドバイスをデザイナーさんからもらいます。

ソトコト

── ラフを書くのは難しそうですが、イメージどおりに仕上がりますか?

木村 近い時もあれば全く違う時もあります。どちらにせよ、最終的にデザイナーさんがラフよりも完成度の高いデザインに仕上げてくれます。例えばこのページは、インタビューしたメンバーを1ページ内で全部まとめようとしていたんですけれど、2ページに横に並べたほうが見やすいレイアウトになりました。

ウェブと紙媒体それぞれの利点

木村絵里

── おそらく『greenz.jp』と『ソトコト』での仕事はかなり異なると思うのですが、ウェブ媒体だからこその利点はどこにあると感じますか?

木村 ウェブは最短で取材当日に記事の公開ができるくらい、スピードが早いですよね。『greenz.jp』で実際にクラウドファンディングの記事を公開して、その日に「支援しました!」と声を聞くこともありました。即効性と影響力があると感じます。

あとは特集やテーマに限らずに、取材・執筆して今伝えたいことを紹介できるのも利点だと思います。

── ということは、今取材したい人のストックがたくさんあるということですね。

木村 そうなんです。いくら取材したい人がいても、紙の枠内には収まりません。ウェブの場合、取材したい人がいればすぐに実行できるのがいいですね。

── 逆に紙媒体の利点はどうでしょう?

木村 紙媒体であれば本屋で売っているので、誰の目でも確認できるところに価値があると思います。ウェブだとSNSで広まりやすくていろんな人に見てもらえる一方で、1,000人に読まれている記事でも、私の同級生は知らないこともあります。でも紙媒体の場合、「今月号だよ」と家族や友人に渡せますよね。

特集のテーマによって、目に触れる可能性が広がるのも魅力です。例えば喫茶店の特集をした時には、カフェに置いてあるのを見つけて読んでくれるかもしれません。ウェブから情報収集しない人や、ある特定のテーマが好きな人などの、媒体そのものに興味を持っていないような大多数の人にも伝えられるメリットがあると思います。

── 木村さんは、既に個人で『ELLE STORY』というウェブメディアも運営されていますが、より多くの人に届けるためにやりたいことはありますか? 

木村 『ELLE STORY』は5〜10年後にやりたいことを叶えるために、今できる形で実行しているメディアです。

いつか女性ファッション誌で、女性の働き方や暮らし方をテーマにした連載を持ちたいと思っています。『ソトコト』も『greenz.jp』も読者は増えていると思いますが、まだ社会の中では一握りです。だからこそもっと多くの人たちに、それも特に女の子たちに、いろんな生き方や働き方を伝えられたらと思います。

「何に」「誰に」対してお金を払っているのかを考えるきっかけを

── 3月5日に発売した号についても教えてください。

木村 特集は「あたらしい経済」と銘打って、地域通貨やギフト経済など、今までとは異なるお金を評価する視点やお金の使い方を紹介しています。

── 取材をしてみて、どんな感想を持ちましたか?

木村 私は地域通貨やギフト経済はそれぞれが別々のものだと思っていましたが、通じることがあるなと。というのは「何に」「誰に」対してお金を払っているのかを、改めて考えるきっかけになりました。

木村絵里

現代は機械の自動化やシステム化によって、人の働きが見えづらくなっています。例えばSuicaでピッとタッチした時は、駅員さんや電車を掃除してくれている人にお金を払っていますが、普段そういうことを意識することはほとんどないですよね。

そうした話を聞いて、私もSuicaでタッチする度に駅員さんたちに「ありがとう」と思えるようになりました。

── 素敵ですね。最新号を拝読するのが楽しみです。一人でも多くの方に読んでほしいですね。

お話をうかがった人

木村絵里
1989年東京生まれ。編集者。ウェブマガジン『greenz.jp』の編集アシスタントを経て、2014年より月刊ソトコト編集部に所属。個人のメディア『ELLE STORY』では、柔軟で多様な暮らし方・働き方を実践している女性たちのインタビューを紹介している。
ELLE STORY