西荻窪(以下、愛をこめて西荻)で食器や調理器具などを扱う「雑貨食堂 六貨」のオーナー、竹内由紀さん。2011年にオープンした同店は4年半、この町で営業を続けています。地域に愛されるお店になる秘訣は、「かわいい雑貨ではなくて、道具を売っている」と語る、竹内さんのモノとの向き合い方にあるのかもしれません。

西荻で4年半、お店を続けられる理由

雑貨食堂六貨

── 4年間もお店を続けることって、すごいと思います。

竹内由紀(以下、竹内) お客さまから見ると、たしかに長く続いているように見えるかもしれないですね。逆に私からすると、営業するために必死であっという間だった4年半なんですよ。

── そうなんですね。

竹内 飲食店をやる皆さんが「西荻はお店をやるには難しい場所」といいます。隣の駅の吉祥寺や荻窪に行けば、欲しいものなんでも揃えられます。わざわざ西荻で買わなくてもいい環境だからこそ、西荻で食べたり買ったりする意味がないと、お店としては持続できません

ですから、来るお客さまの眼が肥えていると感じます。私も開店当初と比べると、物の選び方や仕入れる商品数の微調整をしてきました。

── どんなことを考えながら商品を仕入れるんですか?

竹内 お客さまを想像して商品を仕入れます。例えば、この商品は質がいいけれど、この価格だと「あの」おばあさんは買わないだろう、とか。4年間付き合ってきたお客さまたちが買う・買わないの感覚がわかるようになってきたと思います。町の人が好む商品と、私の仕入れる商品が、少しずつフィットしてきたかもしれないですね。

雑貨食堂六貨

── この4年間で、ご自身の変化はありましたか?

竹内 この春先は出産のためにお休みをいただいていました。代わりの人がいないので悩ましかったんですけれど、約3ヶ月半の休みをもらって気づいたのは、待っているお客さまがいるということ。そういう関係性を築けたことが、4年半続けてきたご褒美だと思いました。

休みの間に西荻の人たちにはご迷惑をおかけしていましたが、新しくお客さまと話ができるポイントが作れたので、町の小さなお店にとって長い目で見ると、プラスに働く経験だったと思います。

── というのは?

竹内 お客様のなかには出産を経験されている大先輩の女性がいたり、自分よりも少し年上の、子供が大きいお母さんたちがいたり、出産したばかりの方、もうすぐ出産する方たちもいます。赤ちゃんや子どもがいるお客さまと会話するときに、自分も実感を持って話ができるようになりました。

六貨・竹内由紀さん

── なるほど。

竹内 たとえば「離乳食始まりましたね。食器や調理器は何を使っていますか?」「食品を細かく潰すのが大変ですよね」って。自分が道具屋なので、わたしが使っている道具について話すと、「じゃあそれを使ってみようかなあ」と六貨の道具を選んでくれることもあります。逆に、「こういうグッズを買ってみたら便利だった」というを情報を教えてもらうこともある。お客様とお互い情報交換しています。

── 今まで気づかなかったところに目が向いて、仕入れ方や商品の提案に新しい要素が加わったんですね。

竹内 テレビのチャンネルがひとつ増えた感じがしますね。店にある道具を、育児のための道具として使ってみたら、意外と使いやすいこともあるんです。それを子育てするお母さんに、情報として提供できます。

── 最近は、専用のベビー用品が山ほど売られています。

竹内 そうですよね。でもじつは、専用品ではなくても代用できることが多いです。赤ちゃんが大きくなったら捨ててしまう道具を買うより、何か他の道具で代用すれば、台所のものは増えません。これから子どもが成長するにしたがって、学校生活で必要なものや便利なものを私自身が試して使って、六貨で紹介していくことができそうです。

ずっと使いたくなる、道具の定義とは

雑貨食堂六貨

── 「雑貨食堂」と店名にあるので、雑貨店としてのイメージが強かったんですが、お話を聞くと竹内さんの中では雑貨ではなく道具、なんですね。

竹内 そうです。食堂は、その日仕入れた新鮮な食材を使ったごはんを提供する場所だと思いますが、オースドックスな日替わり定食が、なんだかんだ一番おいしいことが多いと思います。店名に「食堂」と入れたのは、食堂のように特別なものではなく毎日通っても飽きない、日常の一部になるようなお店にしたかったから。

無理なく手に入る日用品を、毎日の生活で上手に使ってもえるよう、手助けをするのが六貨です。だから、かわいい商品をかわいく見せるよりも道具そのままの持ち味や良さを伝えたい。そのためにもなるべく包装はせず、家で使うイメージができるように陳列しています。

── 竹内さんにとって、道具の定義ってなんですか?

竹内 飽きないこと、そして用途が限られていないこと(専用ではないこと)でしょうかね……。

たとえば「レンジでゆで卵をつくるための」商品があるとします。とても便利だけど、レンジでゆで卵をつくる以外の用途では使えないんです。そういう用途が一つだけに特化した道具が、今はたくさんあります。でも私は、鍋で茹でればいいじゃんって思う(笑)。

── はい(笑)。

六貨・竹内由紀さん

竹内 もちろん子供と一緒に楽しめるようなキッチン道具は、アトラクション的な楽しさがあるからいいと思うんです。けれど日本の台所は広くありません。きちんと収納できたり、用途が広かったりするほうが、道具として長く使えます。いい食器を買ったにもかかわらず、気軽に使えずお蔵入りしていると、その食器分のスペースがもったいないです。

── 仕入れはどうしているんですか。

竹内 問屋さんから仕入れる一般的なやり方です。ただ、モノを選ぶときは問屋さんの新商品のコーナーは全然見ませんね(笑)。よく商品を探すのは、コーナーの隅っこに置いてある道具や業務用のお皿です。

── イメージで言うと、どんな道具ですか?

竹内 「おばあちゃん宅にはあった」とか「実家にはあった」と言われるような「見覚えはあるんだけど、じゃあ、今どこで売ってるのかな?」って思われるような、使いやすくて丈夫な道具です。各メーカーさんには、昔からつくり続けている良品があります。けれどそれらはなぜか、大手の雑貨店には選ばれない。目の付け所が変わっているのか、私がへそまがりだからなのかもしれないですけど(笑)。

西荻のピンクのゾウが、「雑貨食堂 六貨」の定番

雑貨食堂六貨

── 最近はどんな商品を仕入れましたか?

竹内 「GRILLER(グリラー)」は、ガスコンロの魚焼きグリルで使われる道具です。最近ではオーブンがある家庭も多いですが、この道具は魚焼きグリルで、オーブン料理ができる寸法になっています。調理器具としても、フタなしで普通のお皿としても使えます。食卓の上は白くて丸いお皿が多いので、四角い黒のお皿は引き締め効果があっていいですよ。

雑貨食堂六貨

竹内 あとね、これは「プラスチックバスケット」。麻紐や竹細工で編んであるように見えますが、素材が樹脂でできているためレンジにかけられるんです。あと、食洗機にもかけられます。

── えー! それはすごい。

竹内 こういう雑貨箱は、通常であれば自然素材を加工したものが多いですよね。これは樹脂であることを逆手に取ったカラフルさと、レンジにかけられる利点があります。パンを温めてそのまま食卓に出せるし、スナックバスケットとして使ってもいい。汚しても水で洗えるので、多少お菓子をこぼしても気になりません。

雑貨食堂六貨

── じゃあ、このお茶筒はどういう理由で仕入れましたか?

竹内 一般的な茶筒は、和紙がバシッと貼ってあるものが多いです。この「ブリキの茶筒」は、お茶屋さんが和紙に店名を入れて使うための加工前の元の状態なんです。問屋さんで見つけたときに、この状態でも色のバリエーションがあってかわいいと思いましたし、和紙じゃないから洗えるところがいい。

── たしかに。

竹内 台所にずっと置いておくとホコリや油をかぶるので、キュキュッと拭けると、掃除がしやすいです。サイズや色の違いで緑茶、ほうじ茶、中国茶……と使い分けもできます。茶筒は職人さんが手で吹いて色を付けているので、たまに色ムラが出ていたりもするんですけど、それも含めておもしろいかなと。

雑貨食堂六貨

── (店内奥の棚を指差して)これは……?

竹内 最近、西荻の駅前にあるピンクのゾウをアイコンに、イベントが開催されたんです。そのイベント開催プチ記念として、茶筒にピンクのゾウを描いたら、人気者になりました(笑)。

雑貨食堂六貨

── 隣にあるヤカンのマークの茶筒もかわいいですね。

竹内 茶筒にヤカンのマークを描いたきっかけも、西荻のイベントです。毎年6月にチャサンポー(西荻茶散歩)という、町のみんながお茶を振る舞うイベントがあるんです。チャサンポーに合わせてアイコンを描いた茶筒を作ってみたら、イベントに来てお土産を探している方もいて、すごく喜んでくれました。西荻にちなんだピンクのゾウやヤカンのアイコンは、六貨の定番の商品になっています。

── 西荻にちなんだ、ものの売り方ですね。

竹内 茶筒に絵や柄が入ることで、より楽しいとか使いたいと思ってくださるといいなあと思って。店の作業の合間に少しずつ、手作業で描いています。

これからも地域の方々や西荻に遊びに来る人たちに、日々使う道具を知ったり選んだりできる場として親しんでいただきたいです。

雑貨食堂・六貨

お話をうかがったひと

竹内 由紀(たけうち ゆき)
販促企画、雑貨の企画などの職を経て2011年より「雑貨食堂 六貨」店主。西荻の住人として地域の「役に立つ」店であることを大切にしつつ日々右往左往しながら営業中。

このお店のこと

雑貨食堂 六貨(ろっか)
住所:東京都杉並区松庵3-1-11
営業時間:13:00〜18:30、土曜日13:00〜19:00
定休日:水曜日、不定休
電話:090-8491-7618
公式サイトはこちら

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