「お茶を淹れる」……つまり、「急須でお茶を淹れる」という行為は、私たちの暮らしで当たり前のように受け入れられていること。しかし、どうして急須でお茶を淹れるのか? その理由を、知っていますか。
茶葉の味を楽しむことはもちろん、お茶を急須で淹れる方法や、魅力を伝えている「NAKAMURA TEA LIFE STORE(ナカムラ ティー ライフ ストア)」は、蔵前駅から歩いて約4分の場所にあります。
町の中央を走る国際通りから一つ折れた路地に入ると、オレンジ色の煉瓦で造られたレトロな外観に、青紫色の暖簾が映える建物が。同店は静岡県藤枝市で100年間お茶をつくり続けている「中村家」と、消費者をつなぐ役割を持っています。
お店を運営するデザイナー・西形圭吾さんに急須でお茶を淹れる魅力と、テイスティングの方法を中心にお話を聞きました。
急須で淹れると、一番おいしくお茶を飲める
ペットボトル飲料やティーバッグでお茶を飲む方法は、製造過程で茶葉を粉状にするため、味を最大限に引き出す方法ではありません。
「急須でお茶を淹れると、茶葉が持つ味や香りを存分に引き出せる。だから一番おいしくお茶を飲めるんです」(西形)
茶葉を生産する農家はお茶を急須で淹れるということを前提に生産しているそう。収穫後に茶葉を揉んで、乾かし、選別して撚(よ)って……などの一連の工程を経て、普段ぼくらが見慣れた茶葉の形状になるのです。
お茶は、朝から晩まで、そして翌日まで楽しもう
この日は一煎目から四煎目までを同じ種類の茶葉「GARDEN NO.02 」で、さまざまな味を体験させていただくことに。
一煎目は「お茶のエスプレッソ」
毎日店頭でおこなっているという「急須でお茶を淹れる」実演。一煎目は、「お茶のエスプレッソ」です。
「お湯の量は、だいたい一人分で80mlくらい。まずは、茶葉に常温の水を20mlくらい入れて、約3分待ちます」(西形)
この3分で、茶葉から濃厚な旨味成分を抽出。「お茶のエスプレッソ」のできあがりです。あたりが茶葉のいい香りに包まれます。濃厚な旨味成分は、甘くて、とろりとしていました。舌に残るその味は、普段なにげなく飲んでいるお茶よりも格別においしいですよ。
二煎目は「渋さが効いた、落ち着きのある味わい」
茶葉の旨味成分がたくさん抽出された一煎目。その次に淹れる二煎目は、渋さが効いた味わいがぴったりでしょう。
「一煎目は旨味が濃縮したお茶を飲んでもらいましたよね。だから二煎目は、茶葉から旨味成分が少し抜けています」(西形)
まだ茶葉の味の濃さが残っているからでしょうか。飲むと気持ちがとても落ち着きます。ちなみに一煎目から高温のお湯でお茶を淹れる(=旨味成分だけを多量に抽出せず、旨味と苦味成分をバランスよく抽出する)と、二煎目は渋味と旨味の調和がとれ、優等生タイプの味になるそうです。
三煎目は「口当たりが苦くなく、後味がすっきりした飲みやすい」お茶
三煎目ともなると、淹れ方によって味が変わるのを如実に自覚し始めているため、急須にお湯を注ぐ西形さんの様子を見ているだけで「次のお茶はどんな味になるのだろう?」と、わくわくする気持ちが湧きあがってきます。
「口当たりが苦くなく、後味がすっきりした味ですよ」(西形)
西形さんの言うとおりの、濃すぎず薄すぎずの飲みやすい味わいでした。二煎目が70℃、三煎目が80℃と温度に変化を加えて、細かな味の調節をしているそうです。
「『お茶の温度を調整するのが難しい』とお客さんによく相談されるのですが、今は細かく温度調節ができるポットが安く手に入るので、それを使うと便利ですよ。僕もAmazonさんで買いました(笑)」(西形)
四煎目は「冷蔵庫で一晩寝かせた」冷茶
煎を重ねていくとお茶は薄くなっていくので、四煎目は冷茶を。
「使い終わった急須のなかに、水をいっぱいまで入れて冷蔵庫で一晩寝かせるだけ」(西形)
茶葉をさいごまで絞り切るイメージで、朝から晩まで、そして翌日まで急須でお茶を淹れることを楽しみましょう。急須で淹れたお茶を、冷やしていただくなんてなんだか贅沢な気がします。
お茶の利用シーンを思い浮かべてみよう
[1]来客が来たときに、もてなす一杯
「客をもてなす」ということは、急須でお茶を淹れるというその動作自体に現れます。
「場面はお昼時です。来客の際には、お客さんの目の前でお茶を淹れると喜んでもらえる。それが『もてなし』になるのではないかと思います」(西形)
[2]朝眠いときに、シャキッと目を覚ます
朝起きてすぐは、まぶたが重いですよね。そんなときはシャキッと目を覚ますお茶を淹れましょう。
「ぼくは毎日起きたら沸騰したてのお湯で、すごく苦いお茶を淹れるんですよ」(西形)
一煎目はカフェインが多く抽出されるので、実際に目覚まし効果が得られます。
[3]蒸し暑い夏はよく冷えた緑茶を
寒い季節に、熱いお茶をすするのもいい。同様に、蒸し暑い夏に冷茶を飲むのもまた気持ちがいいでしょう。「NAKAMURA TEA LIFE STORE」が愛用する丸いフォルムとオリジナルロゴが描かれた水出し用の冷茶ボトルは、ガラスメーカーのハリオ製です。このボトルの注ぎ口の部分にはフィルターがついており、茶葉を入れて冷蔵庫3~6時間おくと、苦味のない冷茶ができあがります。
急須でお茶を淹れる魅力は、味をコントロールできること
「急須でお茶を淹れる魅力は、味をコントロールできることです。お湯の温度と茶葉や水の量、そして急須のなかで茶葉を浸けておく時間の組み合わせによって、つまり同じ茶葉でも淹れ方次第で、味がすごく変わるんですよ」(西形)
お茶の味は苦味と旨味で構成されますが、とりわけ影響が大きいのが、お湯の温度。温度が高ければ高いほど、お茶の苦味成分が溶け出しやすいのです。対して茶葉に含まれる旨味成分は、お湯の温度に関係なく一定の割合で溶け出しています。
つまり、かなり高温でお茶を淹れると苦味が全面に出てしまい、旨味が苦味に負けて苦いだけのお茶になってしまうということ。このような味の基本を知るだけでも、急須でお茶の入れる奥深い魅力を知ることができますね。
だからこそ「NAKAMURA TEA LIFE STORE」では、店頭に立つ西形さん本人が実演しながら、急須でお茶を淹れる方法や楽しさをお客さんに伝えています。一種で豊富な味を持つ茶葉の淹れ方を知るためのテイスティング(味聞き)を体験できるのが、こちらのお店の特徴と言えるでしょう。
「言葉の説明だけでは伝えきれないから、実際に店でお茶をテイスティングしてもらいたい」
「もしかしたら、言葉の説明だけでは伝えきれないから、僕は、実際にお店でお茶を飲んでもらっているのかもしれませんね」(西形)
味の感じ方は人それぞれ好みがあります。だから、同じ種類の茶葉でも、淹れ方次第でさまざまな味を楽しめるお茶の魅力に気付いてもらいたい。利用シーンに応じたお茶を自分で淹れられるようになってほしい。若者をはじめ、多くの人にお茶を身近な飲み物として感じてほしいという願いを、店頭でお茶をテイスティングできる体験に込めているそうです。
「NAKAMURA TEA LIFE STORE」の商品ラインナップ
「NAKAMURA TEA LIFE STORE」の煎茶は、収穫した茶園の名前がそのまま茶葉の商品名になっています。30年の歴史ある無農薬有機栽培の茶葉は、茶園によって味の個性がさまざまです。
Organic Sencha Garden No.01
茶葉を高温・高圧の蒸気で蒸して出来上がった力強い煎茶です。旨味と香りのバランスが良く、長期間保存していても味が落ちません。
引用:TEA NAKAMURA
「『Garden No.01』は、若い芽だけを選んで摘んでいるので、旨味が引き立つお茶です。おすすめの淹れ方は60℃あたりの低温でじっくり淹れること。このとき旨味が凝縮されるように、茶葉に対しての水量は少なめに。小さな湯のみで旨味を楽しみましょう」(西形)
Organic Sencha Garden No.02
お茶の葉の成長と、自然の摘み取り時期に細心の心配りをして仕上げられたお茶は、ちょっと贅沢をしたい時のご家庭用として最適です。
引用:TEA NAKAMURA
「『Garden No.02』は、ちょっと贅沢な日常、というような使いやすい位置づけの茶葉ですね。淹れ方によって味が変わるのもわかりやすいです。渋みがおいしいので、高温で淹れて飲むのがおすすめです」(西形)
Organic Sencha Garden No.03
寒さが厳しい場所にある茶園で栽培されたお茶です。新芽が出る時期も遅く、寒さに耐えて辛抱強く育つので味にコクのあるお茶になります。
引用:TEA NAKAMURA
「『Garden No.03』はすっきりした味ですから、料理の味を消しません。食事と一緒に飲むお茶としてどうぞ」(西形)
(一部画像提供:NAKAMURA TEA LIFE STORE)
お話をうかがったひと
静岡県藤枝市出身。デザイン会社や映像編集スタジオ勤務を経て
2012年にInc.1981LLCを設立。デザインや映像制作業務と並行して
2013年よりオーガニック日本茶ブランドNAKAMURAの運営を開始。
このお店のこと
住所:東京都台東区蔵前4丁目20-4
アクセス:東京メトロ大江戸線蔵前駅から徒歩約4分。
電話:03-5843-8744
営業時間:火曜〜日曜日 12:00-19:00
定休日:月曜日
公式サイトはこちら
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