手仕事を生業にしたいと願った時、あなたはどうしますか? 「まず始めてみる」。それも選択のひとつです。

では、壁にぶつかった時はどうでしょう。先が見えない、方向が定まらないと感じた時に、先輩の声を聞きたい、同じような悩みを乗り越えた人に相談したい、そう思うのではないのでしょうか。

手仕事で食べていきたいけれど足踏み状態だという人へすすめたい、「手仕事に生きるすべての者たちへ」と謳うリトルプレスを見つけました。東京都渋谷区のオフィスから発行されている、「Crafter(クラフター)」という自費出版の雑誌です。

生業としての手仕事を考える「Crafter」

リトルプレス「Crafter」
左:創刊号 右:第2号

「Crafter」は、編集・執筆担当の菅村大全さん、デザイン・撮影を担当されている高橋克治さんの2名でつくっているリトルプレスです。コンセプトは「生業としての手仕事を考える雑誌」。

クラフト界の先人たちの知恵と仕事術に学び、作り手に無理なくステップアップしてほしい……そんな願いから、この専門誌を創刊しました「Crafter」公式サイトより引用

現在の発行部数は累計4,000部、創刊号は増刷したものが売り切れるほどの人気ぶり。ハンドメイド・クラフト・手仕事品の販売・購入を手がけるサイト「iichi」や、全国の手仕事に関連するギャラリー、ショップなどで購入することができます。

手仕事に生きる人の「仕事観」や「人生観」を伝えたい

創刊号の特集は「クラフトフェア、ふたたび」。2号目の特集は「はじまりのグループ展」で、続く3号目は「ショップとつきあう」の予定です(*1)。

(*1)Crafter VOL.3 特集「ショップとつきあう」は2015年7月発売予定です。

もの作りをテーマにした雑誌やメディアは多くありますすが、「Crafter」は「モノ」よりも、それらを作る「ヒト」や「仕事」に焦点を当てた、少し珍しい雑誌です。

クラフター「はじまりのグループ展」
画像:「はじまりのグループ展」より

「手仕事にまつわるインタビューマガジン」と菅村さんが表現するとおり、この雑誌は様々な「仕事観」や「人生観」に触れることができる構成になっています。

「縦のつながり」を持たない若い作り手へ

なぜ、今「仕事」に焦点を当てた雑誌作りをするのか。菅村さんに理由を伺ってみました。

「Crafter」編集発行人の菅村さん
「Crafter」編集発行人の菅村さん

「今は、昔よりも簡単に個人が手仕事を始められる環境にあります。クラフトフェアやインターネットを使えば、『売る』という行為はすぐにできる。

私が評議員として関わっていた『クラフト・センター・ジャパン(*2)』主催の『CCJクラフト見本市』にも、過去数年で若い方の出店が非常に増えました。でも、しばらくするとみんな同じ悩みを抱えるんです。『どうやって続けていけばいいのかわからない』と。」

(*2)「クラフト・センター・ジャパン(Craft Center Japan)」:優れたクラフト商品を発掘し、日々の暮らしの道具として広く浸透させることを目的として1960年に設立された一般財団法人のこと。2014年6月に解散した。

「なぜかと考えた時、やはり先程申し上げた環境の変化があるかなと思って。

昔は、モノ作りを生業として生きていきたいと思ったら、工場や産地に赴いて、ある程度の経験や修業を経てから独立するといった流れが一般的でした。

今はその『縦のつながり』が無いままスタートを切ることが可能な時代です。でも『始める』ことのハードルは下がっても、『続ける』ことのハードルは下がっていない。『縦のつながり』がないから壁にぶつかった時に相談できる相手もいない……。

そんな状況にある若い作り手を応援したいなぁと思ったのがきっかけですね。」

一方で、1960〜70年代に個人で工房的なモノ作りを始めた、第一世代の方々の声を残したいという危機感もあったと菅村さんは言います。

「あと、すごく個人的ですが、長く取材記者として仕事をしてきて、作り手の話を聞くのが一番楽しいと感じたことも理由かもしれません。

個人の作り手は、仕事と暮らしがひとつになる生き方をされている方が多いんです。そこから枝分かれしていく仕事観や人生観が、僕にとっては非常にためになる。いっそ、彼らのことを伝えるのが自分の仕事になったらいいなと、と漠然とですが思っていましたね。」

「Crafter」編集のこだわり

「Crafter」のデザイン・撮影を担当されている高橋さん
デザイン・撮影を担当されている高橋さん

「奇をてらうことなく、誠実な誌面づくりを心がけている」と言うのはデザイナーの高橋さんです。

じつは高橋さんは、ご自身でも民芸の器ギャラリーを運営されていたこともある方。だからこそ「作り手に近い目線で写真を撮り、伝えることができるのかもしれません」と言います。

一番の肝は「取材対象者」。誰に、どんな話を、なぜ聞くのか。時には本番の取材前にプレ取材に足を運ぶことすらあると言うから、そのこだわりは半端なものではありません。

手仕事の良さを伝えるクラフターの写真
(画像提供:高橋克治)

時間と取材費をかけて全国に点在する実力派の作り手に会いに行く。一部の作り手の声だけではなくて、幅広く色々な価値観を誌面に映し出したいという菅村さんは、特集テーマも「できるだけ論議を起こしやすいものにしたい」そうです。

たしかに、創刊号の「クラフトフェア」も「グループ展」も、個性派揃いの作り手に向けた雑誌でもある以上、賛否両論が巻き起こりそうなテーマです。「仕事観」や「人生観」が垣間見られる雑誌だからこそ、そのいろいろな生き様は例え手仕事に関わらない人にも参考になりそうです。

手仕事の暮らしに寄り添う、温かなリトルプレス

1号にひとつ、大きなテーマを掲げて特集を組む「Crafter」。これからも継続して発行する予定なのでしょうかと問うと、「年に2回発行のペースで、まずは10年続けようと話しています」と笑う2人。

「でも、雑誌には寿命や使命みたいなものがあると思っています。だから、取り上げるべきテーマがなくなったら、その時にCrafterは終わりを迎えるんだと思いますよ」と菅村さんは言います。

今後の夢は、異世代、異分野の作り手が実際に交流できる場を持つこと。地方の作り手が上京してきたときに、ふらりと立ち寄って長居ができる場所を提供したいのだと言います。

「読者はあえて限定していません。クラフトだけでなく、民芸やファッション工芸の人にも読んでもらいたい。意外だったのは、デザイナーやショップの方にも読まれているということ。作り手の気持ちに近い立場ゆえだろう」と語る菅村さんと高橋さん。

手仕事に関心のある方も、ない方も「作る」ことを仕事にして生きる誰かの想いを知って、次に進んでいくために「Crafter」を手に取ってみるのはいかがでしょう。

(トップ画像及び一部画像提供:Crafter)

お話を伺った人

クラフターの菅村さんと高橋さん

菅村 大全(すがむら たいぜん)
編集・執筆担当。1973年ケニア共和国生まれ。有限会社モノ・モノ取締役。情報誌のライターを経て、2014年にリトルプレス『Crafter』を創刊。2009〜2014年までクラフト・センター・ジャパンのメンバーとして「CCJクラフト見本市」の運営を担当。

高橋 克治(たかはし かつはる)
デザイン・撮影担当。1973年埼玉県生まれ。eats&crafts代表。グラフィックデザイン事務所「サーモメーター」、民芸の器ギャラリー「SML」を経て、2012年にフリーランスとして独立。

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