木を植え、育てて伐採し、また植える──このサイクルを長い年月をかけてつくりあげてきた北海道下川町。
町全体で、この循環を守りつつ端材まで余すことなく使う「ゼロエミッション」をモットーにしており、下川町森林組合も基幹産業を支える一役を担っています。
下川町の場合、森づくりの未来は、町の未来と重なるところも多いです。
現在の下川町森林組合組合長の阿部勇夫さんは、下川生まれ下川育ち。
70年以上、下川を見つめて来た阿部さんに、森と町に託す想いを伺います。
(以下、阿部勇夫)
人口減少はネガティブなものではなく、新しい未来へのステップ
人口だけを考えると、僕が見てきた今の下川町の歴史で言えば、今はどん底です。昭和35年の約1万5,500人がピークで、そこからずっと減って今は約3,400人。
当時を知っているもんだから寂しいと感じることもありますが、どん底ということは、あとは登るだけだということでもあります。
僕は今、森林組合の組合長だけれど、役員自体は30年やっとります。森の中で育ったようなもんだから下川の森づくりは、つねに身近なものでした。
ただ……僕はもともと、鶏飼いだからね。「阿部養鶏場」をずっと運営してきて卵をつくっとったんです。だから、役員ではあったけれど森林組合の仕事をしっかり見ることができなかった。
でもある日、当時の組合長の山下さん(*1)が「阿部さん、組合長を頼むよ」と。僕も、生まれ育った下川の森のためにも養鶏場をやりながらで良いなら、と引き受けました。今は養鶏場を新会社に譲渡し、今年(2017年)に入ってようやく森のことや事業のことを落ち着いて見られるようになりました。
(*1)現・下川フォレストファミリー株式会社の代表取締役山下邦廣社長。参考:【北海道下川町】川上から川下まで地域内で循環するのが誇り|下川フォレストファミリー株式会社
養鶏場を引き継いで時間ができて森づくりのことを考えたり地域のイベントに出席したりすると、見えなかったことが見えてきた。下川には、思いを持った新しいひとが必要だなと感じるようにもなったんです。単純に人口減少を防げば良いというわけではなくて、下川の森づくりに共感してくれるひと、森林組合の事業に興味があるひとに来てもらいたい。
新しいひとが来れば今までとは違ったことができるはずで、そのおかげで人口が爆発的に増えなくても、下川にとってはプラスになると思っとるんです。
「売れないから止める」のは簡単。伝えたいのは炭を通した森づくり
実際に下川の森づくりに共感して、ここに来てくれるひとも徐々に増えてきたと感じます。
特に下川の森林組合は、枝や葉まで使い切る「ゼロエミッション」を大事にしていて、そこが特徴でもあり、誇りでもある。だからなんとかその姿勢を守りたいと思っています。
中でも、炭づくり。30年以上続けてきた炭づくりだけど、始まった当初と比べると、時代も生活もだいぶ変わった。その中で事業として残したいという一心で、なんとか炭づくりを続けてきたけれど、現状は採算が合っているとは言えません。
組合が持っている機械も古くなってきているし、ただ炭をつくっても、もう売れない。けど時代が変わっても、炭づくり事業は、下川からなくしちゃいけないと思っとるんですよね。
今まで森林組合が売ってきた炭は、キャンプなどに使う野外レジャー用です。下川町の炭はカラマツ炭と言って、火が早くつきやすいのが特徴。しかも、カラマツやトドマツの木炭は日本で下川町森林組合でしかつくっていないんですよ。
野外で火を使うとき、今ではカセットコンロを選ぶひとが多いみたいだけど、炭火で豪快に焼くと雰囲気がいいし、気分も違うんじゃないかなと思います。
レジャーだけじゃなくて、炭は暮らしの中でも昔っから大事なものです。エネルギー需要が石油や天然ガスにとって変わってからは、炭はだんだんと追いやられてきた。
でも、今はちょっと注目されているものでもあるんですよ。それに、本当にいろいろな使い道があるんです。微生物の住処をつくって土壌を耕すために土に混ぜたり、住宅の壁の中に入れて湿度の調整をしたり、水の浄化もできる。家畜の餌に混ぜたり炭火焼きのコーヒーがつくられたり、最近だと石鹸だとか歯磨き粉だとかにも炭が使われているでしょう。
炭をつくるときの煙で円柱を燻して木酢液もつくっているんだけど、その木酢液に木材を浸けると黒い木材ができます。それをおしゃれな構造材だとかデザインの一部として取り入れてくれる方もいます。炭そのものはもちろん、炭をつくる過程で生まれるものも役に立っているということです。
それだけ、人間の生活と関わっている……そういう資材なんだけども。なかなか、使うひとは増えない。
30年前と、今の状況とでかなり変わってきている中で、なんとかして(炭を)維持していきたい。炭と人間との長い関わりの中で、今の時代にどうやったら炭の価値が発揮できるのか。それを考えてくれるひとが必要なんです。
どんなに良いものでも問屋さんに任せっきりでは、もう売れない世の中だと思っとるんです。生産者が炭のストーリーを語れるようにならなくちゃ。
僕も任期があるし、組合長としてずっと役職についているわけではないし年齢や体のことも心配で……。だから炭や下川の森づくりに愛のあるひとに受け継ぎたい。ゼロエミッションや炭事業に共感する仲間や応援隊が、今こそ必要なんです。
やりたいこと、好きなことができる地域になるといい
炭事業だけじゃなくてね、誰かにとってのやりたいこととか好きなことが実現できる町が、下川町だと良いなって思っとるんです。
日本全体が人口が減っていく中で産業規模だけを維持しようとしたら、どこも人手が足りなくなるのは当たり前です。だから、大規模でなくても個人のやりたいこととか好きなことを実現できる世の中の方が幸せなんじゃないかって、僕は思うんですけどね。
この地域やひとに魅力を感じて商いをしたいっていうひとを、一人ひとり受け入れて支援していけば、町としてもっと魅力的になると思います。
下川で生まれ育って下川しか知らないというひとだけが住んでいる町よりも、いろんな世界を知っているひとたちが集まる町の方が、広がりが出る。今、若いひとたちが下川に来てくれるのも本当にうれしい。あなた(編集部・立花)も、やりたいことがあって来たわけでしょう。
下川にとって、あなた方のようなひとは必要だ。少なくとも僕はそう思っているもんだから。
本州と違って、北海道っていうのは歴史が浅いからね。下川も開拓されて117年くらい経つかな。もともと、いろんなとこから来たひとたちでつくってきた町だから、誰かを受け入れる文化がある。よそから来たひとたちと、長く下川で暮らしているひと、一緒に頑張っていこうやっていうね。
僕が一番うれしいのは、ここで暮らしているひとが自分のやりたいことを、下川で実現してくれること。たくさんのひとが、自分の夢を叶えるために下川で希望を持って、目を輝かせて生活してくれたらね。そういうひと、一人ひとりを応援できる町でありたいなと、僕は思っとるんですよ。
文・写真:立花実咲
(この記事は、北海道下川町《下川町産業活性化支援機構》と協働で製作する記事広告コンテンツです)
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仕事内容
- カラマツの木炭生産業務で原木をブロック窯に入れ着火から燃焼管理、製品を生産し、木酢液の回収業務
- 木材を加工した際に出るオガコを副産物として利用し、素灰を生産する業務
- カラマツ木材を生産するときに採取した木酢液や排煙を利用した燻煙材で枕木や二脚鳥居支柱生産
- 低湿木材でオガコを生産し家畜などの敷料の生産
- 円柱加工した木材を加工し、校倉加工して土木資材の加工生産
- 森林組合の事業全般
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お話をうかがったひと
阿部 勇夫(あべ いさお)
昭和16年(1941年)北海道下川町で生まれ。22歳から75歳まで下川町で阿部養鶏場を経営し、2013年に森林組合組合長に就任。経営していた養鶏場は現在札幌の株式会社イーストンが引き継ぎ、直営場として運営している。