2015年11月14日(土)に、表参道「VACANT」、そして「IKI-BA 粋場」の2会場で開催された表参道ごはんフェス。私たちの日常にいつもあるお米の底力、おいしさ、楽しさを生活者・企業・行政・生産者など多様な主体で見直すことを目的としています。主宰は日本の人と食を伝えるプロデュース集団「honshoku」さん。
当日はゲストを招いた「コメトーク!」、おにぎりをアートにする「フードイベント」、ほぼ日刊イトイ新聞さんが協力した「ワークショップ」や、信級玄米珈琲を含めた10の出展者が集った「マルシェ」など、内容が盛りだくさん。
全国からお米を愛する人たちが集まった今回のイベントのオープニングトークに、灯台もと暮らし編集長の佐野知美も登壇しました。
今回のイベントレポートでは、ホクレン農業協同組合連合会の南章也(みなみ しょうや)さんと、イベントの仕掛け人であり「honshoku」発起人でもある平井巧(ひらい さとし)とのトークセッションを紹介します。近年じわじわと注目を集めている北海道米の不振からの逆転劇と、これからのお米の楽しみ方、ブランディングを中心にお話が展開されました。
おいしくなった、北海道米の逆転劇を聞きたくて
平井巧(以下、平井) 近頃、北海道米はメディアでたびたび登場します。北海道米は、個性が丁寧にデザインされ、ぼくらにお米の楽しみ方を提案してくれます。
そんな北海道米ですが……じつは、一昔前はおいしくない、というイメージが強かったそうです。けれど、そこからの逆転劇の立役者がいると聞きつけまして。マツコ・デラックスさんを起用したCMや、北海道米のパッケージデザインやブランディングの全体を取り仕切っている、と。
知り合いづたいに探り、札幌を訪ね、今回ゲストでお招きした南課長と出会わせていただきました。今日はホクレンの南さんといっしょに北海道米の最近の盛り上がりについて、ゆっくり考えてみようと思います。
南章也(以下、南) みなさんこんにちは。北海道米の販売を担当している南と申します。
南 「ゆめぴりか」は2009年に北海道で発売し、2011年に全国に展開しました。全国で流通させるときには、北海道では知らない人がいないくらいのブランド米として成長していましたが、本州では10人にひとりが知っているくらいでしたね。
平井 ちょうど約5年前となると、基準米よりも特に良好なお米の基準「特A(*1)」を獲った年ですね。
(*1)食味試験のランクは、複数産地コシヒカリのブレンド米を基準米とし、これと試験対象産地品種を比較しておおむね同等のものを「A’」、基準米よりも特に良好なものを「特A」、良好なものを「A」、やや劣るものを「B」、劣るものを「B’」として評価を行い、この結果を、毎年食味ランキングとして取りまとめ、発表しています。引用:本穀物検定協会
南 そうですね。2011年に「ゆめぴりか」は北海道で初めての「特A」のお米になりました。
平井 そのときは「ゆめぴりか」と「ななつぼし」が特Aを獲って、さらにいうと「ふっくりんこ」というお米も「特A」を獲りましたよね。北海道米にはいろんな品種のお米があると思うのですが、一番歴史があるお米は?
南 平成元年(1989年)にデビューした「きらら397」です。このお米ができる前までは、「北海道米はおいしくない」と散々の言われようで(笑)。
平井 でも、今や北海道米は飛行機の機内食でも使われていますよね。
南 JALの国内線のファーストクラスで「ふっくりんこ」を使っていただいます。ANAの国際線のビジネスクラスでは、「ゆめぴりか」や「ななつぼし」を使っていただいた実績もありますね。
平井 すごいですね。これだけ多くのブランド米があると、北海道に住んでいる人たちが、普段どんなお米を食べているのか気になります。
南 たった20年前までは、北海道民が北海道米を食べる割合は4割を切っていました。北海道の農作物はおいしいけど、お米だけは「おいしくない」と言われていたんですね。
ですから、東北や北陸、関東のお米を食べていました。茨城のコシヒカリはすごく北海道の人に受け入れられていたんですよ。
平井 意外です。そうだったんですねえ。
「お米をCMでPRして売れるのかよ」と、冷ややかな反応でした
平井 現在ではお米のCMにタレントを起用する事例は増えましたが、「ゆめぴりか」のCMにマツコ・デラックスさんを起用したのが、そのさきがけだと思っています。お米のテレビCMを打とうと考えたきっかけは何だったんですか?
南 「ゆめぴりか」を全国で販売させたいとき、状況としては「北海道米はおいしくない」というイメージがあり、本州での認知は1割にも満たしていなかったんです。それでも北海道米の高級米として「ゆめぴりか」を売り出したいから、テレビCMを仕掛けようと考えたんです。
平井 一番はじめにこのCMを企画したときの反応はどうでしたか?
南 「お米をCMでPRして売れるのかよ」と、冷ややかな反応でしたね(笑)。無理やり名前を押し出すPRは下品になりがちですが、高級ブランドとして知ってもらう必要があります。インパクトがありながらも知的であることを大切にしたいと思いました。
南 そこで2011年に桐島かれんさんを起用して、「ゆめぴりかって何ですか」と問いかけるCMを放映したら関東での認知度が50%まで伸びたんです。続くスザンヌさんのCMで、80%まで認知されました。
平井 テレビCMはどんな経緯で作られたんですか?
南 もともと北海道米のパッケージデザインは、デザイナーの佐藤卓さんにお願いしていて、10年ほどお付き合いさせてもらっています。佐藤さんにテレビCMを打つとお話したら、CMディレクターの中島信也さんを紹介していただいて、中島さんが企画からキャッチコピーなど、全てを考えてくれました。
ちなみに佐藤さんがデザインしてくれた例を挙げると、「おぼろづき」という北海道米があります。パッケージを「八十九」とデザインしてくれました。
平井 「八十九」という数字に込めた意味が気になります。「米」の字を分解すると八十八とも読めますし、農作業も八十八の行程があるために「八十八の神が宿る」と言われていますよね。
南 もともと「八十八」というデザイン案を佐藤さんからいただきましたが、「八十八」が商標の関係で若干問題があったので、いい案だけど、ボツという意味で差し戻したんですよ。
そしたら、「一」を足して案があがってきました。「今までのお米のひとつ上に立っていることを表現しました」と言うんです。日本人的なトンチが効いているので、すごくおもしろいですよね。
平井 クリエイティブな世界で生きている人たちのトンチの効いた返しを、素直に受け入れられることもすごいことだと思いますよ。パッケージを刷新するにも、社内で企画を押し進めるにはかなりパワーが必要だったのではないでしょうか。
南 10年前は北海道米がなかなか売れなくて、本当に困っていました。だからできることは何でもやるし、今までと同じことをしていたらダメだというスタンスだったので、上司はなんでもやらせてくれたんですよ。
平井 そうなんですね。トライできるだけ自分に責任があるわけだから、ドキドキも大きいですね。
これからのお米の楽しみ方と、ブランディング
平井 2014年に放映された「マツコ ふたまた篇 特A」では、「いつもはななつぼしなんだけど、今夜はゆめぴりかの気分」と、マツコ・デラックスさんが言っています。この15秒間に、これからのごはんの楽しみ方が詰め込まれているような気がします。
南 そうですね。あっさり系の「ななつぼし」が好きと言っていたマツコさんが、晩ごはんに、甘みの強い「ゆめぴりか」が食べたいと言う。これからはシチュエーションや気分に応じて、お米を楽しんで食べてもらいたいですね。お米は無くてはならない大事な食料という価値観に加えて、お米をおいしく食べようとする考え方を普及できればと思っています。
南 たとえば、さまざまな種類のお米を食べ比べてみたり、お米の種類によって合わせるおかずを変えてみたり。パスタのように見た目が違うわけではありませんが、お米も種類ごとの味や食感の違いがあるので、食べる楽しさも変わります。
平井 ぱっと見で分かる外見よりも、お米は内側に個性が宿るところも日本人っぽいと思います。さいごに、お米に関わる人たちに、PRやブランディングに関するアドバイスをお願いします。
南 お米のブランドを発展させるためには、自分たちのお米はどのような特徴があり、何が強みなのか、しっかり考えることが大切です。ぼくの場合は先輩たちが作ってきた仕組みのなかで、たまたまCMを企画することをやらせていただいていますが、じつはものすごく低予算なこともやっています。
“サラダ感覚で食べたい玄米”というコンセプトで、「あやひめ」というお米を販売してみたりね。この商品は北海道で、年間で約200トン売れる商品になっています。
平井 すごいですね。
南 お金がなくてもできることはたくさんあります。人と繋がって、みんなと連携して、自分たちのお米を見つめればきっと、答えが出てくると思います。お米の価値を最大化するために取り組むべきことを、確信を持てるまで考えて、あとは実行するのみですね。強い意志を持ってやりきることが大事です。
平井 なるほど。ぼくは……いつか札幌でごはんフェスをやりたいと思っています。そのときはぜひご一緒させてください。
南 お待ちしています。(会場に向かって)みなさんも遊びに来てくださいね。
おわり。
お話をうかがったひと
南 章也(みなみ しょうや)
ホクレン農業協同組合連合会、米穀事業本部主食課課長。1993年3月関西学院大学卒業後、ホクレン農業協同組合連合会へ入会。米穀事業本部主食課に配属。2008年に札幌支所米麦農産課、課長を経て現職。
平井 巧(ひらい さとし)
「honshoku」代表、トータルフード・プロデューサー。東京農業大学非常勤講師。SP広告代理店、IT関連会社を退社後、トータルフードプロデューサーとして活動開始。ごはんの祭典「表参道ごはんフェス」の企画運営/フードロスを考える新しい食スタイルの提案「サルベージ・パーティ」プロデュース/若手シェフユニット「EPICOOK」プロデュース/原宿に三代続く「小池精米店」ブランディング/個性豊かなケータラーを発掘し体感できる「ケータリングフェス」など。2014年4月より東京農業大学にて多摩川流域のブランディングに取り組む「Resources Project」を立ち上げる。