地域のリアルな暮らしを、現地で暮らす人たちに聞いてみたい──そんな想いから、地域おこし協力隊の皆さんに14の質問をさせてもらう企画がはじまりました。
今回お話をうかがったのは、長野市戸隠地区で観光分野の活動を行っている栗原健さん。薪割りをする時のBGMはロッキーで気分をアゲる、里芋のアヒージョは個人的に最優秀おつまみ大賞、はたまた戸隠蕎麦が美味しすぎて「早く帰ってお蕎麦食べなきゃ」という禁断症状が出るなど、リアルな体験から紡ぎされた興味深いお話ばかり。最後には、これから地域で暮らそうしている人へのアドバイスもいただきました!
Q1:自己紹介をお願いします
栗原健(クリハラタケシ)です。長野市戸隠地区で活動し、1年目が終わろうとしています。
Q2:あなたが取り組んでいる活動を教えてください
1. 今取り組んでいること
戸隠地区の観光分野の活性を目指して活動しています。 戸隠にある観光資源としてはおおまかに、下記のようなものが挙げられます。
- 自然──登山、鏡池、バードウォッチング、キャンプ、紅葉、スキー場
- 歴史──戸隠神社(奥社、九頭龍社、中社、火之御子社、宝光社)、戸隠古道
- 生活文化──蕎麦、竹細工、高原野菜
これらの観光資源を新しい切り口や組み合わせで、戸隠の暮らしも含めた発信をしていくことがわたしのミッションです。協力隊としての活動の1年目は、それぞれの魅力を体感することが最優先の取組みでした。
2. これから取り組もうとしていること
伝統工芸品の「戸隠竹細工」において後継者不足が深刻な課題です。これからのメインの取組みは、わたし自身がその技術を習得して職人になることです。戸隠竹細工の特徴は、材料の収穫から加工、製品の完成までを1人の職人が責任をもって仕上げること。また、それが戸隠の自然や歴史と密接に絡み合って現在に至っていることです。(Q9.参照)
戸隠竹細工は、「伝統が引き継がれている」「自然素材である」だけではなく、意匠として優れています。幾何学文様の美しさや、しなやかで丈夫な製品としての機能性、職人の工夫と技術。これらの要素が複合的に重なりあって形になっています。そんな戸隠竹細工の伝統的なスタイルを踏襲しつつ、現代の生活に沿った製品を作ることにとてもワクワクしています。
3. いつかやってみたいこと
竹細工や各種工芸を作る職人、料理や材料となる食材を作る生産者、デジタルなコンテンツを作るクリエイター、それら全ての作り手による「ゆるい共同体」を作りたいです。
また、それぞれのスキルをシェアする「工場」を作り、高品質の「Made in Tgks」というブランド製品を作り、発信していきたいです。「Made in Tgks」として提案したいのは、製品そのものに限らず戸隠で過ごす時間や暮らしそのものです。豊かな自然の中でゆっくりとコーヒーを飲んで読書する時間はもちろん、そば打ちと蕎麦ざる作りの両方の挑戦や、地物の高原野菜の収穫と、それを使ったキャンプ料理教室などの戸隠での暮らし。
現在ある観光アクティビティに加えて、特定の個人のためにカスタマイズされた滞在型の観光プランを、提案・企画・発信をしてみたいです。
戸隠の四季を体感してみて、戸隠に流れる時間や暮らしの魅力に気づいたからこそ、共感してくれる人に、何とかして伝えたい。もちろんわたし1人だけでできることではないので、チームを作って取組みたいですね。
Q3:地域おこし協力隊をはじめたきっかけ(原体験)を教えてください
地域おこし協力隊に応募しようと思ったはじめのきっかけは、小学生の頃にスキーやキャンプをしに家族旅行で戸隠によく訪れていたからですね。それ以来、新幹線やそば、リンゴ、温泉などのわたしの「好きの要素」の多くは長野にありました。
自分が仕事を探しているタイミングで戸隠の地域おこし協力隊の求人が出ていたこともあり、淡々とした感覚で「行ってみようか」と決意しました。 熱い使命感に駆られての「行くか!」というインパクトのあるきっかけではありませんが、悪くないと思っています。
Q4:あなたの「地域暮らしの魅力」を教えてください
魅力:ないものをないなりに楽しむこころの持ちよう
(いとうせいこう「ボタニカル・ライフ」 より引用)
「薪割りをする時のBGMはロッキーで気分をアゲる」とか「飲み屋さんがないから、一品持ちよりで」など。都会に比べると不便なことも、それを含めて、戸隠の人たちが楽しんでいる風景を見ると、素直に『いいな』って思います。戸隠では「自分でできることは自分でやる」ことが当然です。最近では「生活力」みたいなものが育まれてきました。
例えば、外食するにも車じゃないと行けない距離なので、家で美味しいお酒を飲む研究をしています。料理のスキルは確実に向上しています。旬の食材を、いかにして簡単に美味しく食べるかを常に考えています。里芋のアヒージョなんかは個人的に最優秀おつまみ大賞ですね。
自分の中で「今日はいい仕事したな!」という日は、家で飲む缶ビールがとても美味しいって気づいたんです。金曜の夜にガンダムのDVDとかを観ながらビール、とか最高なんですが、地域暮らしは関係無いですね(笑)。
参照:【浅草ぶらりはらさんぽ2】昼間からビール、そしてレトロメトロバックパッカーズで沈むように寝る。 – inakalife
Q5:地域暮らしで心に残る体験・出来事を教えてください
「たくましくなった」と声をかけてもらった
活動を始めてからから半年くらいたった9月、地域の複数の方から「たくましくなったね」と声をかけてもらいました。個人的には「日に焼けたかな」くらいにしか考えていませんでしたが、自分でも感じていないことを、この地域の方たちは見てくれていたんだな、と嬉しかったです。 また、戸隠に来たばかりの頃は「そんなに頼りなく見えたのか」と複雑な気持ちになりました。 夏はキャンプをして、秋は山に入って竹細工の材料を担いで降りてきました。
ゲレンデが近いので積極的にスキーもします。体を動かす場面も多く、体が鍛えられたという意味では実際にたくましくなったと思います。 その他にも、戸隠に来た当初は人と話すことに苦手意識があったので、下を向いてボソボソと喋ることがよくありました。しかし地域の内外で人と話す機会がたくさんあるので「苦手」とも言っていられないし、地域の人とのコミュニケーションの部分でも鍛えられました。もちろん今でも苦手意識は無くなっていませんが、多少薄れたかと思っています。
Q6:町の面白い人を教えてください
芦澤延喜さん
草鞋やしめ縄の作り方を教わりました。鼻歌交じりでご機嫌に作業してる様子がとてもお茶目でおもしろくてクールでした。花を育てることと、ご飯を作って、人に喜んでもらうのが大好きな人です。わたしも大きいおにぎり(1個につきお米2合)やおはぎをごちそうになりました。
Q7:同世代でおもしろいことを言っている人はいますか?
曽根原功さん
おもしろいことを言っている人というか、やっている人です。竹細工、そば、スキー、などの戸隠にあるさまざまな資源を活かした職を営み、楽しみながら暮らしています。曽根原功さん以外にも地域を盛り上げようとしている同世代がいるので、戸隠は「これから面白くなりそうだ」と、漠然と感じています。
去年の秋に行われた「戸隠夜祭り」は、曽根原功さんを含む地元有志が集まり、企画したイベントです。戸隠の伝統的なスタイルを大事にしながら、新しい戸隠を自分たちの世代で作っていこうとしています。
Q8:地域での失敗談は?
赤鬼を演じ切れなかった節分
園児たちのいる部屋に乱入すると、ピュアな約 30×2 の瞳が憎しみや恐れを含んだ目でわたし(赤鬼)を睨んでいました あんなにたくさんの敵意を受け止めたのは初めての経験でした。これはなかなかにキツかった。頭は真っ白です。
”赤鬼として何を着るか”しか考えていなかったわたしは、”心の鬼としていかに振る舞うか”ということを、何も考えていなかったのです。 軽くパニックな園児たちを、声を上げて追い回すわたし(赤鬼)も軽くパニックでした。
引用:instagramで振り返る節分2015 | Tgks Life(※現在ドメイン停止中)
Q9:あなたが考える地域の課題を教えてください
観光分野での課題として、個性的な魅力があるけれど、有機的に繋がっていない印象です。 豊かな自然とアクティビティ、神社や神楽などの歴史、そばや高原野菜、竹細工などの生活文化。それぞれが影響しあってオリジナルな戸隠をつくってきました。
戸隠連峰の厳しく豊かな自然があり、そこに霊的なパワーを感じた人が修験の山を登ります。パワースポットとしても知られる戸隠の歴史は、山岳信仰からはじまります。日本全国から戸隠に訪れた修験者を、「ようこそお参りくださいました」と労うために蕎麦でもてなしました。
当時、戸隠の自然環境では米や小麦を栽培できなかったこと、朝晩の寒暖の差が、美味しい蕎麦を育てるのに適していたからです。また、修験者たちはそば粉を利用した携行食を持って、山に入りました。
標高が高いこと、積雪が多いことから山には根曲がり竹が自生し、それを材料に竹細工が発展しました。 現在、修験の山には登山を楽しむアルピニストが訪れます。夏でも冷涼な気候はキャンプに最適です。また、夏の日較差(にちかくさ)が高原野菜の味と艶を引き出します。
冬、湿り気の少ない粉雪は、良質なゲレンデとなり、ウィンタースポーツを楽しむ人を惹きつけています。戸隠連峰と戸隠神社の神聖なパワーはいっそう際立ち、訪れた人はハッと背筋を伸ばします。そんな人たちを、戸隠竹細工の蕎麦ざるに盛られた美味しい蕎麦でもてなすのです。
戸隠に古くから存在してきた資源を適切に組み合わせ、ストーリーに乗せて発信していけばさらに楽しめる地域になると思っています。
Q10:地域の大好きなごはんを教えてください
戸隠蕎麦
東京では「そば=ファストフード」の印象が強いですが、戸隠蕎麦はおもてなしの料理です。竹細工のざるに「ぼっち盛り」という独特のスタイルで盛られ、小鉢などが付きお客さんを楽しませてくれます。戸隠の冷たい水で引き締まった蕎麦は、とても爽やかで美味しい。出張などで3日間くらい戸隠を離れると、「早く帰ってお蕎麦食べなきゃ」という禁断症状が出ます。
Q11:尊敬している地域の人々
- 田辺智隆さん(戸隠地質化石博物館館長補佐)
戸隠の自然や歴史を、科学的な視点でわかりやすく教えてくれます。保科五無斎先生をリスペクトしています。
- 井上栄一さん(竹細工職人・井上竹細工店主)
戸隠周辺の山のことならなんでも質問しに行きます。「仕事をしているよりも山にいる時間が長い」ともっぱらの噂です。鏡池に一緒に行きました。
- 原山昭俊さん(竹細工職人・原山竹細工店主)
いつもニコニコしていてバードウォッチングとお酒が好きな職人さんです。蕎麦ざる講習でお世話になりました。
- 常盤朗さん(兼業農家)
寂しくひとりで暮らしているわたしを、食事やスーパー銭湯に連れてってくれます。ご家族も含めて、大変お世話になっています。
Q12:注目している地域おこし協力隊を教えてください
- 長野県麻績村 田中(祥子、美沙)さん
長野市の隣、麻績村で地域の伝統工芸品「草木染」「機織り」「紙漉き」の復興に携わっている田中さんたちです。先日会った時にお土産をくれました。とてもいい人たちです。
- 北海道羽幌町 焼尻地区 奥野真人さん
離島好きが高じて北海道の離島「焼尻島」の協力隊になった奥野さん。昆布に詳しいです。先日、東京のイベントで会ったときに、がらめ昆布をくれたので、いい人です。
- 福井県南越前町 荒木幸子さん
「冷やかしツアー」とか「流動創生」とか「キャラバン」とか、一見ちょっとよくわかんないけど、面白そうな活動をしています。先日会ったときにおにぎりをくれたのでいい人です。
Q13:これから地域おこし協力隊へ応募しようと思っている人へのアドバイス
協力隊になる前は、地域に受け入れてもらえるだろうか……という不安がありました。それは今でも不安に思っていることです。けれど、自分を良く見せたり、着飾ったりするといつかボロが出ます。背伸びをせずにフラットな自分で暮らしていけば、けっこう大丈夫なもんですね。わたしは手先が器用で、工作が好きで、オタク気質な性格なので、戸隠の竹細工に携わる活動がとても好きです。
自分の「得意」「好き」「性格」などをよく考えて、それが活かせるのはどこか、そこで自分はどんな暮らしをするのか、具体的に想像することが必要だと思っています。そして、そのイメージから生まれる直観を大事にして欲しいです。 そんなマッチングが各地域で発生していけば、今まで現れなかったような地域おこし協力隊が登場するのではないかと楽しみにしています。
栗原 健(クリハラ タケシ)
Twitterアカウント :@kurit3(クリハラタケシ)
1985年12月19日東京生まれ。射手座B型独身。フォトライター/園芸家。作ったり撮ったり、文章を書く人です。主にPENTAXとSIGMAのカメラを使います。ポートフォリオはこちら。植物とビールが好き。撮影/執筆など、お仕事のご依頼は kurihara.t3@gmail.com まで
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