地域のリアルな暮らしを、現地で暮らす人たちに聞いてみたい──そんな想いから、地域おこし協力隊の皆さんに15の質問をさせてもらう企画。今回お話をうかがったのは、霧島連山の湧き水が湧く町として知られる、宮崎県小林市、須木地区で暮らしている勝本哲也さんです。
Q1:自己紹介をお願いします
勝本哲也です。宮崎県小林市の須木地区で地域おこし協力隊として活動しています。
Q2:取り組んでいる活動を教えてください
地域の農と食にかかわる活動をしています。事業者さんの商品開発や販売促進が主で、たとえばメロンが採れたら、メロンカクテルを商品開発して須木地区の花火大会で売ったこともありますね。ときには東京で営業もします。
また、耕作放棄地を借りて作物を低投与型の有機栽培で育てています。
須木地区では自生している「クマナ」という植物を、お雑煮やお浸しにして食べます。クマナが地域作物にならないかと思って、宮崎県の農業試験場の方と共同研究もしているところです。他にもテーブルビート、そら豆、かぶなどを育てています。
それから、イベントのお手伝いも積極的におこなっています。とにかく須木地区はイベントが多いんです。栗まつり、ほぜ祭り、花火大会、山菜たけのこ祭り、灯籠まつり、運動会……毎月何かしらのイベントがあるんじゃないかと思うくらいです。もちろん準備から後片付けまでやりますよ。最近では市民劇団に所属して、先人の日々の営みを描く演劇にも出演しています。
さらに須木地区にある保育園の食育にも、携わっています。具体的には菜園を管理しながら、子どもたちに種を播くところから食べられるようになるまでを、全て自分の手でやってもらいます。数えてみたら去年の1年間で30種類の作物を育てました。採れた野菜は、子どもと一緒にカレーなどに調理して、給食として食べています。
Q3:地域おこし協力隊をはじめたきっかけを教えてください
また農業と食品に関わる仕事がしたい
もともとネパールに青年海外協力隊として赴任している時期がありました。その時は「日本人をやめたい」と思うくらい日本が嫌いな20代を過ごしました。
バブルの時期、そこら中にポルシェが走っていてね。日本は資源のない国なのに、なぜこんなにお金を持っていて世界で1位の経済力があるんだろう、と腑に落ちないところがありました。さらに当時は、日本に自由を感じなかった。だからアメリカとか、やりたい放題できそうな国に憧れていたんです。
ところがネパールから帰国して年を経るごとに、日本のいいところも見えるようになりました。日本では青年海外協力隊を派遣する母体のJICA(国際協力機構)で1年弱働いて、それから長野県に移住してワイナリーでワインをつくる仕事をしたり、有機農業の資材を販売したり、スパイスやフェアトレードの会社で働いたり。振り返ると一貫して、農業と食品に関わる仕事をしています。
東京で食品の営業の仕事をしているときに、農業に戻りたいという気持ちが強くなったことが、小林に来た理由でもあります。そのときタイミングよく地域おこし協力隊の募集をしていた宮崎県小林市の中でも、野尻地区ではなく須木地区を選んだ理由は、須木地区は幹線道路からも離れた僻地だから。なるべくワイルドな場所に身を置くほうが、やりがいがあると思ったんです。
Q4:「地域暮らしの魅力」を教えてください
「自分の力で生きる土地」であること
仕事でも生活でも、ある程度のことは自分でできないと厳しい環境下では生きていけません。地域には知力、体力、技術をともなったひとが圧倒的に多い。軽トラに荷物を積んだらキュキュっと縛り、重機を軽々と操縦し、鹿や猪をさばき、山の恵みで食卓を豊かに彩る。単純にカッコイイです。
Q5:地域暮らしで心に残る出来事を教えてください
お世話になった方が亡くなられたこと
小林に引っ越して来てすぐに酒を飲んだ中間 傳(なかま つたえ)さんは、開口一番、「一緒にお酒を飲んだひとは友達です」と笑顔で言ってくれました。豪放磊落で地域のために尽力されましたが、先日他界されました。2016年1月におこなわれた「竹ハシラカシ(どんど焼き)」は傳さんが始めた行事です。今回は関係者による感謝と追悼の気持ちが込められていました。
Q6:地域の大好きなごはんを教えてください
猪肉の炭火焼き
囲炉裏に須木の樫炭を積んで火をおこし、網の上で厚めにスライスした猪肉をチリっと焼く。粗塩を少しつけて口に含むと、コリッとした歯ざわりの後に滑らかな脂が口内に広がります。そして焼酎をひとくちいただくのです。
Q7:町のおもしろいひとを教えてください
- 丸岡(5世帯からなる常会[小組合])の皆さん
丸岡は5世帯からなる常会(小組合)のひとつ。とても仲が良くて、毎月決まった日に必ず集まり、常会が異なるぼくも呼んでくれます。飲み会という意味の「のんかた」になると、皆はぼくに須木の方言を教えようとするわけです。しかも、同じ小林市内でも、須木地区だけで使われる方言とかね。
「ずんみよ、せめもせめど」ってわかります? 「詰めろよ!狭いだろ!」って意味です。
あと須木地区では生魚を「ぶえん(=無塩)」って言うんです。なぜかというとかつて生魚はなかなか手に入らず、塩を含む干物や塩さばが主流だったからです。刺し身を買うときに「ぶえんください」と言うひとは少なくなりました。地元のひとたちもあまり使わないような、須木ならではの方言を教えたがるひとがいます。
Q8:同世代でおもしろいひと
- 所属する消防団員
ぼくは、ここでは同世代との接触がとても少ないんです。2015年4月に入団した消防団は20名、新人なのにぼくが最年長です(笑)。みんな幼なじみですが、今は地区外で暮らす団員も多く、集まりは気の合う仲間との貴重なひとときです。話のぶっ飛び方やいじり方とか、なんともおもしろくて、独特のノリで終わりなく会話が続くんです。
Q9:尊敬している町のひとを教えてください
- 崎山明人さん(農家)
80代のおじいさんです。「栗のことなら明人さんに聞け」と言われるひとなんですよ。枝の剪定の仕方などどんな仕事でもものすごく丁寧。ご高齢でも田んぼや畑を管理しているのはすごいと思います。笑顔も素敵です。
- 櫻田哲郎さん(須木駐在所長)
ぼくより先に須木地区に赴任している、地区でたったひとりのおまわりさんです。
朝は小学生が登校しているときに問題ないよう、必ず道に立っています。地域の家々をくまなく回っているから、顔を合わせればお互いがわかるくらい地元の方々と仲良しで、住民としてお祭り事や草払いにも必ず顔を出す。外から来たひととして、ぼくは櫻田さんと立場が似ているから、地域への入り込み方は知らず知らずのうちに多くを学んでいます。
Q10:注目している地域おこし協力隊を教えてください
- 道前理緒さん(岡山県西粟倉村)
村内で酒屋「酒うらら」を営みながら、「出張日本酒バー」を各地で開催されています。お会いしたことはないのですが、大海原を回遊するような軽やかさ、のびやかさを感じます。受け入れ側の西粟倉村の人々の度量の大きさにも感服します。
Q11:ウェブでは知ることができない地域の情報は?
「須木米」がおいしい
須木はお米がおいしい。水が冷たくきれいで、寒暖差があり、ていねいにはざ掛けもします。昨年、ぼくは全国のコンクールに生産者さんのお米を出品してみました。流通量が少ないので知られていませんが、宮崎県内外の方々に「須木米」の魅力を知ってほしいと思います。
Q12:地域での失敗談は?
ぼくは酒を飲んで失敗したことがあります(笑)。最近はこのふたり(徳永さん、井野さん)にハチ酒をむちゃくちゃ飲まされました。スズメバチを浸けこんだ酒は滋養強壮に効くそうで、スナックに置いてあったんです。
次の日は、とんでもないことになりました。頭痛は止まらないし、体温が上下動するんです。寒いと思ってストーブをつけたら暑くなって、ストーブを切ったらまた寒くなる……の繰り返しでした。もう二度と飲まさないでね(笑)。
Q13:あなたが考える地域の課題を教えてください
若者と一緒に仕事ができる環境をつくろう
若い世代が流出しているのは、この地域の課題でしょう。その上、ご高齢の方々が安全かどうかもわからないようなことになりかねない状況にあるかなと。できれば若いひとたちが須木地区に住んで、一緒に地域活動や祭り、仕事ができる環境をつくれたらと思っています。
須木地区のインターネット環境は改善する余地があると思いますよ。ここは光ファイバーが通ってなければ、Wi-Fi環境も良くない。ぼくもiPhoneの回線を使ってテザリングをしている状況では、通販事業を起こそうとは思いません。そういうインフラ整備は必要だと思いますね。
Q14:任期後の進路を教えてください
新しい農作物を育て、加工し、販売まで担いたい
須木地区で1年暮らしてみて良いところもたくさん知ることができたので、できればここに定住したいと思っています。須木地区は、仕事を求めて若いひとたちが区外へ出て行く土地なので、定住は簡単なことではないと思いますが。実験農園みたいな畑をやっていても、それで食えるわけがありません。山深く、耕地が限られる土地に住み、農業だけで食べていくことは本当に大変なこと。地元のみんなもそれは重々わかっています。
須木地区は栗の産地なんです。みんな栗を育てている。昔は栗が採れて良い値段で売れた時代もあったけど、今は農業の担い手が高齢化して、生産量も落ちて管理もできない。だからそのひとたちが畑で農作物を栽培するのをあきらめることもあるんですよ。耕作放棄地の管理を地域で技術あるひとたちと一緒に請け負って、栗を育てて生きていく方法もあるだろうし、全く新しい作物を育てることに挑戦して、高い値段で売ることだってできます。
あと、イチジクを育てたいと思っているんです。イチジクってあんまり手に入らないし求められている。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の発効で海外から農作物が輸入されるとしても、イチジクの生果は傷みやすいですから生果のまま輸入して流通するのが難しいんです。2016年の早春から、イチジクの苗を買って挿し木をしようと計画中です。
ここ宮崎県小林市や須木地区の中でも、周囲のひとがやっていないこと、出まわっていないけど気候的には栽培に適している作物をどんどん育てたいと思っています。
なんにせよ農作物を育て、加工し、自分で販売することまでの全体を見られるような仕事ができたらいい。さらに派生して、カフェを併設したり、WWOOF(ウーフ)のような外国人も滞在できる仕組みをつくったりできればいいなあ。須木地区のひとたちって、複数の仕事を掛け持ちしているんですよ。だからぼくも、地域で定住を図るなら最初はそうなるんじゃないかな。
Q15:これから地域おこし協力隊へ応募しようと思っているひとへのアドバイスをお願いします
勝本哲也(以下、敬称略) これはみなさんに聞きたいですねえ。地域おこし協力隊としてどんなひとに地域にいてほしいと思いますか。
徳永篤(以下、徳永) うーん、飲みにケーションができれば。
勝本 まあお酒を飲めなくてもね、コミュニケーションをきちんと取れることが1番重要です。話しかけられるのを待つのではなくて、どんどん地域のひとに話しかけて欲しい。
徳永 宮崎の田舎では外から来たひとに自分から話しかけることは、あまりしたがらないですね。話しかけてくれると基本的に抵抗なく受け入れるんですけれど、こちらから移住者に対して気を遣って話しかける、ということはあまりしませんね。
鸙野裕貴 どこの田舎も同じだと思うんですけど、付き合いが苦手なひとは結構大変だと思います。ただ田舎に暮らしたいだけで来るとキツイですよ。
勝本 あとは地域おこし協力隊としての任期が3年間と決まっている中で、地域おこしに一生懸命取り組んでほしいと地元の方が思うのか、とにかく末永く住んで欲しいというふうに思われているのかも観察して、把握することが大切。ぼくはその両方とも大事に活動しているつもりですけれど、定住する覚悟があるひとのほうが受け入れられるかもしれないですね。
徳永 そりゃあ、末永く須木に住んで欲しいですよね。
勝本 地域で一生懸命仕事に励んでいても、3年後には地域を出て行く前提で住まわれてもちょっと寂しいですよね。「ありがとう、またいつか」とお別れするのはあまり求められていないと思う。
地域おこし協力隊として着任した地域で、5年、10年後の自分のイメージをもちながら仕事をしているほうがいい。それは地域の方々にも伝わるし、きっと本人のためにもなるでしょう。結果がどうなってもいいじゃないですか。
(この記事は、宮崎県小林市と協働で製作する記事広告コンテンツです)
お話をうかがったひと
勝本 哲也(かつもと てつや)
1969年岡山県倉敷市生まれ、京都で育つ。地図が好きで、小学生の頃に高校生向けの世界地図を買ってもらったことがその後の人生に影響を与える。進学で北海道に渡り、ネパール、長野、埼玉、神奈川を経て、西の血が騒ぎ小林市に移り住む。スパイス会社では南インド、フェアトレード会社ではケニアでも仕事をしたが、先進国は未知なる世界である。そろそろアメリカを見ておこうと思っている。
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