【島根県海士町】特集を組んできた『灯台もと暮らし』。現在、武蔵野大学と株式会社巡の環が協働で行う「海士ゼミ」の密着取材をしています。テーマは「都会と田舎の新しい関係を考える」。学生たちと共に、座学や、フィールドワークを交えながら、2015年6月から2015年11月の約半年間に渡って海士町の未来を探ります。
思考し、計画し、行動、そして発表する場を用意された、次世代を担う若者たちの想いはいかに? 講師を務めるのは、武蔵野大学の明石修(以下、明石)准教授と、株式会社巡の環(めぐりのわ)取締役の信岡良亮(以下、信岡)さんです。
- この島は未来の縮図たり得るか【島根県海士町】特集、始めます。
- 【島根県海士町】ぼくが島に辿り着くまで− 巡の環 信岡良亮 −:第1回
- 【島根県海士町】ヒトが絶滅危惧種?日本を変えないと海士町は変わらない:第2回
- 【島根県海士町】巡の環が目指す、江戸時代の藩邸をモデルにした「島の大使館構想」:第3回
講義一覧
- 講義をはじめる前に
- 序章:「海士ゼミ」に参加する君たちへ
- 第1回:地域活性には4層のフェーズがある
- 第2回:君たちは「プランB」をつくっていく世代だ
- 第3回:「人間関係を重視する」「物事を進めていく」力の両方をインストールしよう
- 第4回:「モノ」や「お金」に心を乗せて「あなたに」贈ろう
【島根県海士ゼミ】概要
今回の舞台である島根県海士町は、隠岐諸島に浮かぶ、人口約2400人の島です。この10年間で、約400名のIターン者が移住しており、地域活性化のモデル地域としても有名な土地。
「海士ゼミ」に参加するのは、東京都江東区の国際展示場駅が最寄りの、都心の大学・武蔵野大学環境学部環境学科の学生12名。全員が、それぞれの希望でこのゼミに参加しています。
教壇に立つのは、海士町に拠点を置く株式会社巡の環の信岡さんと、明石准教授。そして、全体の取材と成果発表の場として、『灯台もと暮らし』編集部が参画します。
「海士ゼミ」スケジュールについて
2015年6月開催の第1回ゼミから、2015年7月開催の第4回目までの講義前半で、まずは基本的な海士町についての知識と、信岡さんが提唱する「都市農村関係学」への理解、そして、地域で活動することへの思考を深めます。
それぞれの関心が定まったら、ゼミ内でチーム分けをし、「体験型」「発信型」など、実際にフィールドワークで行う「計画」を立てます。そして、東京での座学を終えた2015年9月、実際に学生が海士町でフィールドワークを実施。第5回以降の講義後半は、その調査・体験をもとに、チームで研究成果を発表するという流れです。
【第1回:都市と田舎の問題インプット】
- それぞれの興味と問題設定
- チーム分け
【第2〜4回:妄想・チームビルディング】
- チームビルディング
- アイスブレイク
- 自分が島でトライしたいこと チーム内発表
【第3回】
- 状況を妄想 どんな情報がどれぐらい必要か
- 現地で何を聞かないといけないか
- 帰ってからの自分のアウトプットを設定
【第4回】まで終了(2015年8月)
- インタビューのやり方を学ぶ
- 信頼関係をつくりつつほしい情報を聞く方法
【海士町訪問:フィールドワーク(9/7~9)】
- インタビュー、情報収集等
【第5回-8回(9/29, 10/13, 10/27, 11/10)】
- 授業時間外でプロジェクト活動
- 授業時間は相談
【発表会】
序章:海士ゼミに参加する君たちへ
信岡 こんにちは。島根県にある海士町で、「持続可能な未来に向けて行動するひとづくり」をミッションに活動している信岡良亮です。
今回の「海士ゼミ」では、みんなにも「持続可能な地域づくり」を考えてもらいます。「サステナビリティが改善されていくにはどうすればいいか」を考えると言うほうが、適切かもしれないね。日本……いや、世界のどこを探しても、まだ正解のない課題ですが、自分なりの仮説をぼくと一緒に探しましょう。
島の未来は、日本の未来
信岡 まずは、ちょっと想像してみてください。
5年後、10年後のぼくたちはどんな生き方をしているだろうか?
暮らしている土地はどういうところだろう?
地域とどのような関わり方をしているだろうか?
そして、これから日本の未来はどうなっていくのだろうか?
世の中の需要と供給のバランスは崩れ、生産物の価格は低迷し、大量にモノをつくり消費する社会になった結果、環境悪化や資源が枯渇していく。たとえば「水は買って飲むのが一般的だ」と、都会に住んでいるみんなは思うかもしれない。でも、おいしい井戸水を飲んでいた昔の人からすれば、そんな事実でさえ、信じられないことだと思う。
普段当たり前にあったものが、当たり前じゃなくなる。そうすると何が起こるのだろう? 人は「もっと」モノが(その奥にある安全が)欲しいと考えるようになるんだ。
当事者としてチームで未来を考えよう
信岡 だからみんなには、一度立ち止まって考えてほしい。「成長こそが唯一の正解」という今までの価値観に目を向けるのは、一旦保留しよう。
今から8年前の2007年、ぼくは都会から島に行きました。小さくても回る経済の世界を夢見て。
でも、世界から見ても裕福だと言える日本の島ひとつでさえ、現実には財政は負債が多く、規模を小さくしても経済が回っているとは言いがたかった。島根県の海士町という日本の縮図のような島は、今でも過疎や財政の問題を抱えている。
過疎というのは「田舎の魅力のなさ」から生じる問題と捉えられることが多いんだ。けれど、世界有数の裕福な国のほとんどの地域が、この問題を抱えている。それを実感したときに、俯瞰して日本全体を見ると、都会と田舎はつながっていて、その関係性の問題だと思ったんだ。田舎と都会を分けて考えるのではなく、構造の問題だ、と。田舎だけで解決できる問題ではないからね。
「海士ゼミ」に参加する一人ひとりが、海士町という島を考えるとき、「自分ごと」として、自分と地域の未来を重ねて考えてみてほしい。都会でどんな動きができるのか、チームで考えていきましょう。小さく一歩ずつ、ぼくもみんなと一緒に歩んでいきたいと思います。
はじめに、海士町のことと自分の問題を考えてみよう。そして、ふたつを重ねることによって地域の未来に「当事者意識」を持ってほしい。
第1回:地域活性化への4層のフェーズ
信岡 地域の現状をきちんと把握するために、まず知っておきたいのは「地域活性には4層のフェーズがある」ということ。あくまでもぼくの仮説だけれどね。
イメージはつくかな? つまり、持続可能な仕組みを持った地域になることを町づくりの目的とすると、それを達成するまでに4つのフェーズがあるということなんだ。
具体的に4層のフェーズを見ていこう。(数字は信岡さんの肌感覚です)
- 困って動けない段階:80%
- なんとなく動きはじめた段階:15%
- 動きがいいスパイラルをつくっていける段階:5%
- 持続可能な仕組みになる段階:0%
人口減少が続き、田舎では過疎化が進む日本社会では、今いろんな地域がそれぞれの未来を明るくしようと努力しています。たとえば、B級グルメグランプリの開催や、ゆるキャラのブームは、その代表と言えるよね。
「各地域が新しい動きをはじめた」という報道が広まってきているけれど、何をしたらいいのかわからなくて困って動けない地域が、全体の80%くらいのイメージ。なんとなくでも「はじめよう」と動きはじめた地域は、15%ほど。活動が螺旋階段を上るように、いい流れをつくっている地域は5%ほどだけ。でも、持続可能な仕組みを実現した地域は、まだ存在しない。
というのも(4)は、ひとつの地域だけで成立する話でもないからなんだ。
地域の課題=「私」という、ひとりひとりの心の集合体
信岡 地域の未来を切り拓くために動くうちに、「私」という個人の人生を、地域と重ねて考えることができると思う。多くの人は、自分の人生に真剣に向き合っていない気がするから。そういう人が80%くらいなんじゃないかな。人生に向き合い、自分らしい道を歩みはじめてもがいている人が15%、その歩みを進めて、心に素直に生きるというサイクルをつくっている人は、全体の5%くらいだと思う。
試しに、騙されたと思って、1~4のそれぞれのフェーズの言葉の前に、「自分の人生を切り拓こうとして」と入れてみてほしい。自分の人生に置き換えて考えたとたん、1~4のどこに自分が当てはまるか、イメージしやすくなるんじゃないかな。
ぼくがこう考えるようになったのは、地域活性化のモデルとして海士町を紹介するときに、講演で訪れた地域によって話の聞き方の雰囲気がまったく違うからだった。
(1)の地域で話すと、「他の地域だからうまくいくんでしょ?」って素通りされる気がして、とても寂しい。自分ができない理由ばかり探しているようで。
(2)の地域に行くと、「自分たちの地域も何かやろう」と考えてくれる。でも、何をしたらいいのかわからない……と戸惑っている雰囲気。(3)の地域では、ぼくが話をすると「やりたいこと」「できること」を話しはじめて、どういうところなら自分たちが実現できるかという会話が生まれるんだ。
ぼくが同じことを話しても、地域によって当事者意識の持ち方は千差万別なんです。地域の課題は、「私」とシンクロしていることが伝わったかな? 多くの地域の課題だといわれている悩ましい形があるとすれば、それは「一人ひとりの心の集合体」だと思うんだ。地域をよくするためには、まずは自分の心をちゃんと覗いてみることが大切です。
そして自分自身を「なりたい未来の自分」へ変えていけると、ひとりの変化が「動けずに困っている地域を動かす」ための、ひとり分のエネルギーになるのではないだろうか。
第2回:君たちは「プランB」をつくっていく世代だ
新しいことをはじめるときは「怖さ」を覚えるもの
信岡 では、ぼくらは「なりたい未来の自分」の姿に、簡単に到達できるものなのだろうか?
新しく何かをはじめるとき、人は基本的に「怖さ」を覚えるもの。最初はうまくいかないし、大多数の人が持っている価値観とは違うから、馬鹿にもされやすいと思う。でも、時代は変化しているんだから、その変化が自分にとって必要なものだと受け入れて、諦めずにやれるかどうかがとても大事だよ。
「プランB」とは、次の時代を切り拓く新しい方法
信岡 ここでは、衰退していく既存のやり方を、「プランA」というのに対して、生まれたばかりだけど、次の時代のための新しい方法となる全く別の価値観を、「プランB」と呼ぼう。
たとえるならば、ラジオとテレビの関係はそれに当たる。まだラジオが情報源として主流だった頃は、ラジオ業界に発信力がありました。でも1950年代後半から多くのテレビ局が開設されて、一般に普及し始めたんだ。
2000年代を迎えた今、今度はテレビとインターネットの間でそれが起きている。インターネット黎明期は、有償無償の人が自分勝手なことを喋る場で、つまり「2ちゃんねる」が代表のようなイメージでした。でも今ではインターネット上にある情報が徐々に受け入れられて、メディアとしての力を持ってきています。
さて、このようにインターネットが台頭している状況で、もしみんなが今から就職活動をするとしよう。
成熟したテレビ業界に就職するのを「プランA」、そしてまだまだ成長の可能性が大きいインターネット業界で仕事をつくっていくのを「プランB」とすると、「プランA」の方が、「最初は安定して見える」んだよね。でも、誰かが次の時代のための新しい方法を切り拓いていかないと、「プランA」は衰退していき、他の方法がなくなってしまうでしょう。しかし、「プランA」の衰退をとどめて、今いる業界を少しでも持続可能な方向にする方法(=プランA)と、今からまったく新しく持続可能になるためのシステムをつくっていく方法(=プランB)がある。これらは、どちらも必要なんだよね。
でも、みんなは明らかに「プランB」をつくっていく世代だと、ぼくは考えています。これからは、今の常識だと「よくわからないこと」にたくさん挑戦しながら、新しいことを生みだしていくことに慣れる必要があるんじゃないかな。
これはすなわち、「地域のフェーズ1~3」を体験して、一人ひとりが少しでも変化に対応できるようになろう、ということ。変化に対応できるチームから「プランB」のコミュニティができあがっていくんだと思う。
第3回:「人間関係を重視する」「物事を進めていく」力の両方をインストールしよう
信岡 「プランA」と「プランB」について、ぼく自身はどんなことを考えているのか? みんなに話したいと思う。そのためには、まず「キャズム理論」の説明をさせてほしい。
田舎に馴染める人と馴染めない人
信岡 みんなはスマートフォンが市場に現れたとき、どんなタイミングで使ったかな?
キャズム理論にのっとって、情報の受け取り手を分類分けしてみよう。
新しい製品や技術が世に生まれたときに、それを開発した人を「イノベーター」、最初に飛びつく人を「アーリーアダプター」、その次にトレンドに馴染みのある「アーリーマジョリティ」という。比較的トレンドからは遠ざかって関心がない層を「レイトマジョリティ」と呼び、最後に変化が嫌いな「ラガード」という層があるんだ。
みんなは、どこに当てはまるだろう? キャズム理論では、これら5つの分類の間には「深く大きな溝」があり、この溝を超えることができれば、新製品あるいは技術が爆発的に普及するというマーケティングの理論なんだ。詳しくは、ジェフリー・A・ムーアの著書『Crossing the chasm』に書かれています。
信岡 じゃあ、今日の本題です。この理論を田舎に当てはめて考えてみよう。
IターンやUターンで田舎に住みはじめると、「田舎に馴染める人」と「馴染めない人」に区分されて、その間には大きな溝がある。この溝を埋めていかないと、たくさんの人が関わって町づくりをしていくことが難しいんだ。
田舎にすぐ馴染める人というのは、地域の人との関わりをとても大切にする人間関係重視のA層。一方で田舎に馴染めない人は、物事を前に進めていくことが得意なB層なのです。
「どちらかの力だけ」だと、田舎で暮らしていけない
信岡 ここからは、実際に地域で起きている課題を話していくよ。
あくまでイメージの例だけど、地域おこし協力隊になる人のなかで、人間関係重視のA層の人は、移住後にすんなり田舎に馴染める。2、3年住んでみたら「ここが気に入りました!」と言う。でも、次のステップとして、田舎で暮らすには経済を回す力が必要になる。すなわち、田舎で新しいことを進めていく力が必要になるということ。そうなると、生活していくのが難しくなって住み続けられないという現象が起こる。ここに、ひとつの溝があるんだよ。
次に、物事を進めるのが得意なB層の人はどうだろう?
B層の人が田舎で暮らしはじめると、地域の人との人間関係をつくる間もなく、新しいことを始めようとする。その結果、地域の人がB層の人を拒絶してしまうんだ。地域に馴染めないまま、「あの地域は閉鎖的だ……」と言って、B層の人たちは都会に帰ってくることになります。
不足している力をインストールしよう
信岡 このような実際に地域で起こっている課題を踏まえたうえで、ぼくは、A層とB層の間にある溝を埋める──つまり、このふたつに分けられる人たちがチームになる必要があると思うんだ。
そうしないと、地域にたくさんの人が関わることができない、と思っています。もちろん、両者は互いに補完し合うだけではなく、相手が得意とする力をインストールしていく必要があるんだよ。
都市側のコーディネーターが必要?
信岡 人間関係重視のA層と、物事を推進することが得意なB層が、チームとしてタッグを組む――このイメージとして、地域の農家や移住関係者と、都会に暮らしている人で、プレイヤー同士が自然とマッチングすることもある。でもほとんどの場合、どうやって相手にたどり着いていいのか分からなくて、なかなかマッチングできない。
次のステップとして、地域側にも多くのプレイヤーが増えてきたので、地域の中にあるものを一定のまとまりして都会に届ける仕事がある。
たとえばぼくらは、「海士ウェブデパート」という島の特産品を束ねる場所をつくったり、企業側から依頼を受けて、挑戦する地域のモデルとして、海士町を視察しに来る人たちを案内しています。彼ら都会側の人たちが地域に求めているニーズを満たすような仕事をしているんだ。このような仕事を、「地域コーディネーター」とぼくは呼んでいます。フェーズ2の地域では、この人たちが現れてくるようになる。ぼくらもちょうどそういう人が必要になってきた海士町に、タイミングよく移住しました。
地域コーディネーターをしていると、都会側と田舎側のどちらの気持ちも集まってくるようになります。両者の要望は真逆なことも多く、板挟みになるから苦しくなってしまうこともあるけれど。都会にいるたくさんの人から、「あれもやりたい」「これもやりたい」といっぺんに言われてしまうと、田舎の人たちの声も届く地域コーディネーターは、頭がパンクしそうになってしまうんだ……。
それを解決するためには、「これはできるけど、これはできないね」と都会側でもセレクトして、意見を集約できる人が必要だと思う。都会と田舎のどちらにもコーディネーターがいるだけで、物事がスムーズに進むようになる。だからぼくは今、都会側のコーディネーターという機能として、島の大使館をつくろうと思っています。
第4回:「モノ」や「お金」に心を乗せて「あなたに」贈ろう
信岡 仕組みや考え方について話してきたけれど、海士町にフィールドワークに行く前に、最後にどうしても伝えたいことがあります。
それは、人から何かを買うとき、モノを渡すときに「心」を乗せて贈ろうということです。
物々交換はモノに「心」が乗っている
信岡 物々交換をしたことはある? 貨幣経済だと、モノとお金を交換するよね。ぼくらがよく慣れている取引です。昔はモノとモノをやりとりしていました。都会ではほとんどないかもしれないけど、島では今でも、物々交換が当たり前のようにおこなわれているんだよ。
たとえば、ぼくが島で暮らしていたときは、別の地域からたくさんの贈り物が届くので、島でとてもお世話になっていた方におすそ分けしていたんだ。「別の地域の特産品をあげる代わりに、料理をつくってほしい」という下心あっての行動ではなくて、「いつもありがとう」という感謝と好意の気持ちと一緒に、目の前の「あなた」に渡しています。
プレゼントは心を交換している
信岡 すなわち、おすそ分けする「モノ」の上に、「心」が乗っているということ。みんなが想像しやすいのは、家族や恋人に誕生日プレゼントを贈る感覚に近いです。その感覚の80%は心を交換することで、モノを「欲しい」と思う気持ちが20%くらいというイメージ。
でも「お金」と「モノ」を交換しはじめると、「心」が乗っていないな……って、感じることが多いのが残念なんだ。気持ちのやりとりを感じても、その感覚は薄いと思う。農家と消費者の顔が見える関係であれば、その人からいただいた野菜、という感覚があるけれど、流通経路が複雑になればなるほど、「お金」と「モノ」しか動いていない状態になってしまう。
田舎と都会のやりとりに「心」が乗っている状態をつくれれば、両者の関係性はよくなっていくんじゃないかな。
講義前半を終えて:海士町に行く学生たちの意気込み
ここまでの講義が、前半となります。これから実際に、「海士ゼミ」の学生たちは、現地に入ります。海士町でのフィールドワークをするにあたって、意気込みを教えてもらいましょう。
寺崎宏希
私がこのゼミに参加しようと考えたのは、はじめはただ純粋に地方や田舎が好きで、将来的に地方に何か役立つことがしたいという漠然とした思いからでした。しかし、4回のフィールドワークを重ねるうち、田舎が抱える過疎化や経済の問題の解決は、多くの人が考えているものとは全く違う形で成されるものではないかと思うようになりました。このゼミでは、そういった意味でも多くの視点を得ることができると考えています。まだ分からないことばかりですが、現地での生活に触れることが非常に楽しみです。
工藤誠人
海士町で神社や資料館を訪れる予定なので、そこでお話を聞いたり見てまわるなどして町についての知識を深めたい。町を散策する時間も用意されてるそうなので、離島、はたまたその生活や環境に触れることも楽しみだ。「経験したいこと」について考えたが、海士町での二泊三日はその全ての工程・時間が経験したいことであると同時に、良い経験にもなるだろうと考えている。
大森遥介
今回の海士ゼミに関して、今まで自分ひとりでは決してできなかったこと、東京ではできない体験をしっかり学びたいと思う。このような体験をしたことはもちろん今まで一度もなく、これまでのゼミの時間で考えた案や意見をしっかり持って行って活かしていきたい。また向こうで手に入れた経験をこれからの学生生活やその先の社会人としての生活にも使っていきたい。
服部健一
今回、海士町を訪れることによって、田舎が都市に頼らない発展のためになる情報を手に入れられたらと考えています。その手に入れた情報を発信して、少しでも発展したいと考えている田舎の力になれたらと考えています。また、発展できないと思ってしまっている田舎の発展への1歩につながる情報も発信できたらと考えています。〈個人として〉海士町に訪れることと、このプロジェクトを行っていくことによって、自分の成長につながる経験ができたらと考えています。
福本明花
海士町に行かないと見られないもの、聞けないこと、食べられないもの、何もかも全力で感じて吸収したいです。私は長野県の限界集落と言われている地域に行くようになり、信岡さんのような地域を元気にするお手伝いができる存在になりたいと思うようになりました。地域を元気にするノウハウを海士ゼミを通して学び、学んだことを別の地域に活かしたいです。
渡辺陽介
海士町に行くことの目的はたくさんあります。まず調査の目的は、人が都会に流れていくなかで、都会から海士町に流れていく人が多い理由を知ることであり、海士町の魅力とは何かを知ることです。そして、調査後、地域おこしの一環として都会と海士町をつなぐことです。他にも自身の目的としては、今まで特に何もしてこなかった自分にはない新たな人との出会いや、新たなものの考え方など、その地域に行くことでしか得ることのできないものを得ることです。
廣嶋一暁
これまでの講義では頭を悩ましてばかりいましたが、ついに現地へ行くことができます。私は、海士町の魅力や文化を体験したいです。そのためにも地域の方々とたくさん交流したいと思います。また、海士町では地域活性化の取り組みとして、実際にどのようなことが行われているのかこの目で確かめたいです。二泊三日と短い期間ですが、海士町の良さを余すところなく知り、他の人にその魅力を伝えられるようにがんばります。
柏原麻人
私は東京生まれ東京育ちの、いわゆる都会っ子として育ってきました。自然に触れることは少なく、地元もそこそこに栄えた所だと思います。今回海士ゼミでは、自分が今までに考えた事のないような大きな問いと向き合っています。今思うことは実際に海士町に行く事はただただ楽しみです。どんな発見や気付きがあって、それを受けて自分にどんな変化があるのか、今回の訪問では自分の考え方は価値観に何か刺激を与える事が出来たらいいなと思っています。
坂本果桜
私は、都会の人や島以外の人が島へ来て、「地域おこし」をすることに対して、島の人はどう思っているのか、地域おこしをする側とされる側の温度差をどうなくしていったのかを、島の人々や自然と触れ合いながら、楽しみながら、学びたいと思っています。そして将来、海士ゼミでの経験を私の地元にも活かせたらなと思っています。「伝える」チームとしては、良い意味で、みなさんの田舎のイメージを覆すのが目標です。
田中麻有
町おこしで有名な海士町を訪れて、みんなが惹かれる海士町の魅力を実際に感じたいです。そして、海士町を知らない人に海士町の魅力を伝えられるように、海士町を支えて、盛り上げている方々とたくさん交流して、お話を聞きたいと思います。Iターンで海士町にきた人にも、なぜ海士町を選んだのか聞いてみたいです。
斉藤大嗣
私たちが生活している中で普段食べられているものがどのような過程を経て手元に届いているかを考える人は少ないと感じる。ゼミを通してその地域で生産されている物が、どのように生産されているか、どのような気持ちで生産されているか、その背景を知ってもらった上で消費者に食べてもらえるようにする。生産者と消費者を繋ぐ事でその物に乗った気持ちを知ってもらう。そして、今回は個人的に興味を持った漁業に焦点を当てて活動を行います。
シュローガル・テオ
私は様々な理由から海士町に興味があります。まず、田舎のイメージ……特に田舎の無限な可能性を今までよりも活かすために、私のグループと海士町のことを詳しく、日本そして世界に伝えたいと思います。その上、運良く海士町の水面下での調査は、私の大学院で研究したいことと密接な繋がりがあります。こうした理由から、具体的にどうやって海士町の市民は持続可能な発展を達成することができるのか、詳細に理解したいと思います。なぜなら、海士町という離島で地域が成り立つ仕組みに大きな興味があるからです。海士の漁業や農業といった、島の資源だけで経済が循環する理由を、詳しく具体的に理解したいと思います。
【島根県海士町ゼミ】講師陣について
講師:信岡 良亮(のぶおか りょうすけ)
取締役/メディア事業プロデューサー。株式会社巡の環の取締役。関西で生まれ育ち同志社大学卒業後、東京でITベンチャー企業に就職。Webのディレクターとして働きながら大きすぎる経済の成長の先に幸せな未来があるイメージが湧かなくなり、2007年6月に退社。小さな経済でこそ持続可能な未来が見えるのではないかと、島根県隠岐諸島の中ノ島・海士町という人口2400人弱の島に移住し、2008年に株式会社巡の環を仲間と共に企業。6年半の島生活を経て、地域活性というワードではなく、過疎を地方側だけの問題ではなく全ての繋がりの関係性を良くしていくという次のステップに進むため、2014年5月より東京に活動拠点を移し、都市と農村の新しい関係を模索中。【募集中】海士町でじっくり考える「これからの日本、都市と農村、自分、自分たちの仕事」
ゼミ主宰:明石 修(あかし おさむ)
武蔵野大学工学部環境システム学科准教授。博士(地球環境学)。京都大学大学院地球環境学舎修了後、国立環境研究所に勤務。地球温暖化を防止するための技術やコストをコンピューターシミュレーションにより明らかにする研究に従事する。その一方で、環境問題の解決において技術的対策は対症療法に過ぎず、社会を真に持続可能なものにするためには、社会や経済の仕組みそのものを見直す必要があるのではという問題意識を持つ。2012年に武蔵野大学環境学部に移ってからは、おもに経済的側面から持続可能な社会の在り方について研究を実施。物的豊かさをもとめる人類の経済活動は肥大化し、本来あるべき地球のバランスが崩れてしまった今、もう一度自然や地域コミュニティに根ざした社会をつくりなおす必要性を感じる。そうした場としてローカルな地域での暮らしや経済に関心を持っている。
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