紙とウェブ。対立して語られることの多い、2つのメディア。ですが、本当にこれらは共存できないのでしょうか? 紙がすき、ウェブがすき、どっちもすき!なわたしたち。「普段はウェブ側にいるけれど、紙媒体を日常的につくっている方々はどう思っているんだろう」そう思ったから、今まさに働いている方々に聞いてみました。
記念すべき第一回は、エイ出版社の「Discover Japan」編集部の安藤巖乙さん。今年で6年目という編集者キャリアをもとに、感じたままをお話していただきました。
「編集者=惚れっぽい」?
── 今日は宜しくお願い致します! まず、編集者になられた経緯を伺っても良いでしょうか。
安藤巖乙(以下、安藤) 編集者になることがずっと夢だったわけではないです。ただ、大学4年目の時に休学をして、自転車で海外を旅行していて、中国からモロッコまで陸路で渡りました。その最中に、いろんな国の雑誌やフリーペーパーを見て、「雑誌っておもしろそうだな」って思って出版社を受けようと思ったんです。
── 現在は「Discover Japan」の編集部にいらっしゃいますが、今までどういったお仕事をされてきましたか?
安藤 最初1年間アウトドアの雑誌の編集部にいました。もともと旅行をしていたり、チャリダーだったこともあってアウトドアに興味関心はあったのでそれはそれで楽しかったんですけど、1年たって「Discover Japan」編集部に異動になりました。入社してからは、今年で6年目ですね。
── ずばり、編集者ってどうやったらなれますか?
安藤 正直、「編集者だ」って私みたいに会社員の場合は別として、資格職ではないので名乗ったもん勝ちだという部分はあります。ただ、名乗ったもん勝ちだからこそ、実力勝負だとも思います。
僕が編集部に配属されてからは先輩にいっぱい叱られたり助けられたりしながらハードな毎日を過ごしましたが、いろいろなことを教えてもらいました。自分が編集者だっていう自覚を持てるようになったのは、3,4ヶ月後くらいでしょうか。
── 編集って、つまるところどういうお仕事なんでしょう。
情報整理じゃないでしょうか。もっと愛を込めた言い方をするなら、そのものの魅力をうまく引き出すこと。
安藤 編集者気質の人って、すぐなんでも好きになっちゃうところがあります。知らなかったことでも、おもしろいところ、これってすごいなってところを発見して好きになる。その結果、魅力的な記事ができる。そういう意味で、編集者の男は止めておいたほうがいいかも知れませんけど。笑
── 「編集者=カッコいい」と思っていましたが、気をつけます。笑
安藤 尊敬している先輩の編集者の方々は、褒め上手なんです。編集者に必要な能力のひとつなのかもしれませんね。
枠組みがある難しさと良さ
── この連載は、紙媒体の編集者の方に紙とウェブの両方に対して思うことを語っていただこうという企画なのですが、安藤さんご自身は、ウェブ媒体で注目しているメディアなどありますか?
安藤 コレ!と決めて毎回トップページから閲覧するものは、今はパッと思いつかないですが、Facebookでシェアされている記事を読んだりしますね。
── 雑誌はどうですか?
安藤 昔から読んでいるのは漫画雑誌とか週刊誌くらいでしょうか。今は他誌研究も兼ねてBRUTUSやPenを読んでいますが、フライデーの連載とか、ニュースをわかりやすくおもしろく書いていて「らしさ」が出ていておもしろいですね。それぞれの雑誌の色とかおもしろさは、連載を見るとわかる気がします。
── もし、同じカメラマン、コンセプト、取材先でウェブと紙で特集を組むとなったら、どういう違いが生まれると思いますか。
安藤 情報は、ウェブの方が詰め込めると思うけど、紙だと、決められた文字数にしなきゃいけない。まとまった特集をひとつ作るにしても、区切り方が変わると思います。紙だと80文字しか説明文のないコンテンツを取り出して、ボリュームのある記事にできる。ウェブだと文字数や写真の枚数の制限がないですからね。
── ただ、紙はまとめて見ることができますよね。
安藤 雑誌だと1回で出し切らなきゃいけないから、厳選はしますね。あと注目して欲しい部分をピックアップすれば、まとまりのなかでそれが浮き立つから、伝えたいことが何か、というのは読者にはわかりやすいかと思います。
でもウェブで特集を組むにしても、紙をそのまま掲載しようとは思わないし、もう一回編集が必要なんですよね。
安藤 デザインだと紙のほうが多様で、文字数だとウェブのほうが自由度が高いです。そうすると、ウェブのものをそのまま紙にうつしても、間延びしてしまいますね。あえて80文字におさめる、というのも紙の難しさであり良さだと思います。発信したいものは、その時々によって変わってくるとは思いますけどね。
── ウェブと紙の編集者って能力やセンスの違いってあるんでしょうか。
安藤 あるんですかね?笑 向き不向きはあると思いますが、誰にでもできる素質はあると思います。でも努力は必要かな。
── 逆に編集者という仕事上で共通していることって何でしょうか。
安藤 先輩たちから学んだのは、編集者はその企画のディレクターでありながら「現場では常に一番下っ端」ということですね。自分で作って実行する企画ですが、いろんなひとがいてようやくできあがるものだから。関わる人たちが、いかに仕事をしやすい状況を作るかということも、編集者の仕事のひとつだと思います。小さなことかもしれないけど、カメラマンさんの荷物を持ってあげたり、細々動くっていうか。それはウェブでも紙でも変わらないし、編集者だからっていうことでもない気もします。
僕は、自分に才能とかセンスがあるとは思っていなかったし、それでも踏ん張れるのは、ある意味誰にでも出来そうなことをやり続けてきたからかもしれません。
とりあえずやってみよう!がすぐできるウェブの強さ
── 紙の雑誌は今後どうなっていくと思いますか。なくなってしまうんでしょうか。
安藤 なくならないと思いますよ。ただ、それでビジネスが回るかは別の話だと思っています。小さい雑誌やZINEは、今後どんどん増えてくると思うし、そこに対してファンはついてくると思うんですが、100万部売れる雑誌、というのは難しいんじゃないかな。
── 安藤さん個人の意見として、ウェブで何かを発信することに興味はありますか?
安藤 個人として興味はありますね。紙はもちろん好きだし、紙ができることって、きっとまだいろいろあると思います。でもウェブの可能性もおもしろそうだなと。コンテンツは自分のやりたいこと、その時々に求められていることになるでしょうが、ウェブで発信するノウハウは、今後必要だと思います。
── もし自分が好きな特集を組めるとしたら、何をやりたいですか。
安藤 個人的にやりたいなって思うのは、天然記念物。イリオモテヤマネコとか。笑
最初は、猫とか犬とか、もふもふしたビジュアルで攻めつつ、後半になるとヘビやキノコが入ってきちゃうような。ただ、案はたくさんあるけど、そこから振り落とされるものも多くて、天然記念物とか、特集にするとマニアックになっちゃうんですよね。
そういう意味では「とりあえずやってみよう」で記事が作りやすく、発行スパンも自由にできるウェブはいいなあって思いますね。おもしろモノとか。
── 企画を練って形にするまでの即効性は、やはりウェブの方が強いですね。
安藤 そうですね。ウェブの記事でも紙なら絶対できないような体当たり企画も、載せられますしね。ニュースをやっているわけじゃないから、きちんと練らなきゃいけないけど、そういう形が成立するのも、ウェブの良さだと思います。
お話を伺った人
安藤 巖乙(あんどう いわお)
1987年新潟県生まれ。編集者。2011年よりエイ出版社「Discover Japan」編集部配属。最新号の「Discover Japan」は「目利きが選ぶ日用品。」。2月号は1月6日発売予定。特集は「ニッポンの美味しいパン」。
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