「こんな田舎いやだ」と思って地元を出てきたはずなのに、いつしか大人になって地元をもう一度見てみたら、時の移り変わりなのか何なのか、昔よりもすごく魅力的に見えてしまった……という経験が私にはあります。

たとえば春のひととき。友だちと遅めのランチをしてたっぷりと話した帰り、家の近くの田んぼをふと見たら、雲ひとつない空の中、夕陽が稜線の向こう側に沈んでいくのが見えました。

「こんなの、昔は毎日見ていた」

そう思いつつも車を停めて、空の色、田んぼの色、徐々に出てくる星を見つめてしまう私は、疲れていたのかただ懐かしくなっただけなのか。それとも年齢を重ねて、些細なことに感動しやすくなっただけなのか。

些細なこと? ううん、きっとそんなことはないでしょう。

新潟県の春の始まりは、雪解けから。田植えの開始を告げるのは水を張ったその日で、カエルの鳴き声が眠りを邪魔する頃には暖かな風が吹き。

「東京で暮らしたいの」と言って街を出た私。きっとあなたは、10年という時を超えて家族が暮らす街の魅力に気がつく。

どこで生きるのか、誰と生きるのか。迷ったら一度、足元を見つめたり、過去を振り返ってみたりしてもよいのだと思います。なんといっても、「灯台下暗し」ということばがあるくらいですから。