今、都会にいながら地域のことを考え、都会と田舎の関係性を捉え直す場が生まれています。それが2015年の5月からスタートし、「灯台もと暮らし」で密着取材をしてきた地域共創カレッジです。受講生は6か月にわたるカレッジの中で、どんな「共創」を見つけたのでしょうか。
(以下、アスノオトスタッフ 山崎麻梨子)
これまでの講義
- 【地域共創カレッジ】「3.11で世の中は変わらなかった」。都会と田舎の新しい関係をつくるために|第一回
- 【地域共創カレッジ】枝廣淳子「まずは夢物語でいい。理想が叶うとしたら、何がしたい?」|第二回
- 【地域共創カレッジ】未来を見据える5地域の「今」を知る―海士町・女川町・上勝町・神山町・西粟倉村|第三回
- 【地域共創カレッジ】暮らしながら「自分を受け入れる」力を身につける|第四回
新しい未来を共につくる、「地域共創カレッジ」が目指したものとは
まずは地域共創カレッジがイメージしているゴールからお話したいと思います。
人口減少の時代に突入した日本の社会に対し、できることは何なのか。競争社会ではなく、共に未来を創造していく共創社会を、都会と田舎でつくっていきたい。
そのために、地域の社会起業家たちとともに、自分自身が感じる課題に対してアクションを起こす「マイ・プロジェクト」に取り組む、プロジェクト・ベースト・ラーニングをおこなってきました。
都会と田舎の両者が、未来に向けて協力し合える感覚を「共創実感」と定義し、この共創実感を体感して学ぶためのステージを3つ用意し、行動へ落とし込んでいきます。
- ステージ1:都会側の視点から都会と田舎の“共創仮説”を考える
- ステージ2:田舎的視点が加わった新たな“共創仮説”を考える
- ステージ3:“共創仮説”を小さく試し、仕組みをつくっていく
3つのステージを経て「都会的」なビジネススキルと「田舎的」なヒューマンスキルを兼ね備えた人材として、都会と田舎を繋げる仕事に携わったり、ひとと地域の新たな関わり方を模索したり、都会と田舎の共創モデルをつくり上げること。それが、このカレッジのゴールイメージでした。
受講生「とことん心の声と向き合うような時間だった」
地域共創カレッジは“第一期”ということもあり、前例がない状態で参加した受講生。どのような思いを持って参加し、また講義を終えてどのようなことを思っているのでしょうか。
受講生A 「カレッジを受講する前は、自分の生き方に物足りなさを感じていました。もっと地元に関わってみたいけれど、移住とまではいかない。そんなふうに考えていた時、地域共創カレッジを知りました。
参加の決め手は、都会にいながら地域と関わっていく方法がイメージできなかったので、そのためのスキルや事例を得たいと思ったからですね。
毎週おこなわれた講義は、自分自身や他のひととの対話を通じて自分を見つめ直し、とことん心の声と向き合うような時間だったと思います。相手の話を聞く訓練……、心の筋トレだったようにも感じますね。これまでなかった経験で非常に新鮮でした」
最終発表で受講生たちは口をそろえて、この半年間のことを「自分を見つめ、自分と向き合う時期」だったと言います。
次に半年間にわたる講義を終え、受講生が起こしたチャレンジの事例を紹介します。
徳島・WEEK神山でイベント開催!五島列島で宿を開く夢を追いかけて
都市であくせく働いていると、忙しい時間の中で自分を顧みる時間がなかなか持てません。受講生の一人である長谷川雄生(以下、長谷川)さんもその一人でした。
最初は他人とのコミュニケーションしか考えておらず、一番大切な「自分自身」とのコミュニケーションを怠っていたことに気づいたそうです。
「気づいた時には、自分自身という存在が消えてなくなりそうでした。地域共創カレッジでは、自分自身を探す旅に出ようと決めました」 (長谷川さん)
講義では他のひとに自分のことを話していくうちに、気づいたことがあります。それは他人の評価でしか推し量ることができなかった、自分自身の存在でした。
「今までずっと、周りの目を気にして、“できる自分”であることばかりに執着していました。カレッジでの講義を通じ、“できない自分”を認めてもいいんだということを学びました。そうすると、もう他人を頼るしかない。他人を信頼できると不思議と安心でき、自分がやりたいことを集中してやり遂げる覚悟ができたんです」(長谷川さん)
できないを認めること、それが「共創」なのかもしれない。それなら、自分ができることはただ一つ。長谷川さんはあるイベントを立ち上げました。「GOTO NIGHT IN KAMIYAMA」です。
講義のなかで訪れた徳島県神山町で、自分の故郷である五島列島の魚を捌く。神山町は山に囲まれているため、魚を捕れる地域ではありません。そこで、神山町のひとたちに島の魚を振る舞うことにしました。
「このイベントは、神山町にただ魚を運んで振る舞うイベントではなくて。魚と一緒に、五島で魚を捕ってくれる大好きな漁師さんの想いや五島の豊かな海という物語を運んだんだって、イベントを終えて思いました」(長谷川さん)
長谷川さんが五島列島で捕れた魚を運び、神山町で捌く。神山町で採れた野菜をWEEK神山のスタッフが調理する。会場の準備など長谷川さんができないことを、応援に駆け付けた友人が担う。テーブルの上には、確かに共創関係が生んだ物語がありました。
「将来も、いろんなひとに物語を届けていきたい。例えば、宿を開いて、お客さんにご飯と一緒にたくさんのことを伝えたい。それから、次は神山町の物語を五島(列島)に運んできて欲しいと思っています。地域と地域を繋ぐ、きっかけの宿になったらいいなと考えています」(長谷川さん)
神山五島ナイトを開催したとき、五島では魚が売れ、神山町では捌かれた魚を食べ、それに対しお金を支払うという、小さな循環が生まれました。そうした小さな循環を大きくしていく。神山町だけではなく、同じく山に囲まれた徳島県上勝町や岡山県西粟倉村などにも、関わっていくと面白いかもしれない。
長谷川さんは、今春には五島列島に移住します。地域共創に向けた新たなステージが始まります。
自分だけのドキドキ・ワクワクを見つけ、次の一歩を踏みだす場所に
2016年の夏、受講生は連携先の地域──島根県海士町、宮城県女川町、徳島県上勝町、神山町、岡山県西粟倉村──に地域訪問をしました。
地域共創カレッジに参加するからには「地域と一緒にプロジェクトをしなければならない」「地域の役に立たなきゃいけない、立ちたい」と感じていた受講生は少なくないでしょう。
しかし最終的には、無理にプロジェクトを立ち上げなくても良いと、いい意味で開き直っていました。自分を内省することで見えてきたドキドキやワクワクにしたがい、小さな一歩を踏みだす受講生がたくさんいたのです。
地域共創カレッジの最終講義は、自分自身が今後も取り組んでいきたいプロジェクト(マイ・プロジェクト)を受講生が発表しました。熱気のこもる話を聞いた特定非営利活動法人アスヘノキボウの代表理事であり講師の小松洋介(以下、小松)さんは、受講生にこんな話をしてくれました。
「皆さんの発表を聞いていてとてもワクワクしました。地域のために何かしなきゃ、という気負いがなくなったのかもしれないですね。色々なものを背負うと肩に力が入りますが、このカレッジを通じて、だんだん自然体で物事を語れるようになっている印象を受けました。さらに、もう一歩アクションを起こしていこう!という勢いが感じるから、ワクワクするんでしょうね」(小松さん)
こんなにたくさんの大人たちが悩み、葛藤し、前に進んでいこうとする姿をそばで見てきた半年間。自分のやりたいことは何なのか? そう悩んでいるのは自分だけではないのだと、事務局スタッフである私も、彼らの姿に勇気づけられました。
地域共創カレッジは、都会と田舎の関係性を育むための種を蒔く時間だったように思います。受講生が蒔いた種がどんな花を咲かせるのか、今から楽しみで仕方ありません。