高知県嶺北地域・土佐町を通る国道16号線から細い道に入り、くねくねと曲がった道を、上へ、上へとあがっていきます。すると急に視界が開ける見晴らしの良い場所があって、そこへ来ると、飛行機に乗ったときのように、耳に圧がかかります。
それだけ、標高が高くなっているのです。ここに立ち、里山の風景を見渡すと、今たどってきた道は棚田と棚田の間にあるんだ、と気づきます。
土佐町はお米どころ。山から湧き出る水をひき、朝晩の寒暖の差が大きいので、おいしいお米が育ちます。炊きたてのごはんは、ひと粒ひと粒がぴかぴかと光り、甘いかおりがして、思わずおかわりをしてしまうほど。
日本には観光名所としての棚田もありますが、土佐町では、棚田と棚田の間に、道があり、家があり、畑があり、人びとが暮らしています。
ずっとずっと昔から、受け継がれてきた暮らし。
春には苗を育て田植えをし、夏の間は草取りをし、秋になったら黄金色に輝く稲穂を収穫します。それぞれの季節の中に、細やかな、数え切れないほどのたくさんの仕事があるのです。
「田んぼに足音を、たくさん聞かせてあげなさい」と言われたことがあります。そのことに、田んぼはちゃんと応えてくれる、と。
今日も、この地に暮らすあの人もあの人も、田んぼに足音を聞かせていることでしょう。その姿がはっきりと目に浮かぶことが、「この地で暮らしている」という実感です。