「ママ、このお店、いつも閉まってるけど、今日は開いているんだね、珍しいね」と言う子どもに、お母さんが「いいのよ、西荻はそういう町だから、空いていなくて当然なのよ」と返す。そんなゆるやかな町の雰囲気の中に溶け込むお店がこちら。

マッテとポッケ

西荻窪(以下、愛を込めて西荻)で、“マテポ”の愛称を持つ「マッテとポッケ」は、秋山麻衣子さんと秋山佑太さんの、夫婦ふたりが営むお店。金土日の週末のみオープンしていた、ギャラリー兼カフェ兼イベントスペース兼雑貨屋……と変幻自在のお店です。

また、2016年からは店名と業態を改め「カイテン」としてリニューアルさせました。

秋山佑太さんと秋山麻衣子さん
秋山佑太さんと秋山麻衣子さん

目的に合わせて自由に姿を変えるお店

── 「マッテとポッケ」って、不思議な名前ですね。

秋山佑太(以下、佑太) もともとはぼくが洋服を、もうひとり別の友人がバッグを作っていて、工房兼ショールームとしてオープンしたんです。洋服のブランドが「ポッケ」で、バッグのブランド名は「マッテ」。いまは彼は神保町でお店をやっていますが、バッグはうちでも販売しています。

秋山麻衣子(以下、麻衣子) ふたりのアトリエではなくなったけれど、当時から知ってくれている人もいるし、名前も浸透していたから「マッテとポッケ」という名前のまま、営業を続けることにしました。

マッテとポッケ

── 以前、少しだけお邪魔したときと、内装が変わっていますが……。

麻衣子 内装は、不定期に変えています。販売するものも、海外で買い付けてきた雑貨や洋服を置くこともあれば、デザイナーさんやイラストレーターさんの作品の展示・販売をすることもあります。休日や空いた時間を使って、自分たちのやりたいことや好きなことを表現するお店なんです。

佑太 もともと夫婦でインテリアデザイン事務所と工務店を営んでいて。仕事では依頼された店舗や家のデザインから施工まで、すべてふたりでおこなっているんです。彼女が経理や総務を手伝ってくれて、ぼくは物件のデザインや施工管理をしています。

マッテとポッケ

── 具体的にはどんなことを?

麻衣子 雑貨の販売もしていますし、お茶やお酒を出せる、人が集まる場所にもしたいと思ってカフェとして営業したり、イベントを開催したりしています。

佑太 仕事は仕事で別物で、お客様が望むものをきっちりつくります。でもマテポでは自分が望む、やりたい空間づくりを表現したい。ペンキも思うままに塗るし、ドアも隙間が空いているし、釘を打ち付けて跡が残っていることもあるけど、ここはそのままでもいい。自分でメンテナンスしながら生活スタイルや気分に合わせて流動的に使うことが、一番魅力的でその人らしい空間になると思うから。

西荻はマスメディアに左右されないマイペースな町

── 「マッテとポッケ」はリノベーションされたお店なんですね。

佑太 そうです。もともとタバコ屋さんだった物件をリノベーションしました。10代の頃から、古いものを再利用してものづくりをしたり、DIY精神に共感したりしていて、商売としては別物としてつくっていますね。だから「マッテとポッケ」をオープンした時も内装は完成していなくて改装中でした。

麻衣子 彼は過激なので(笑)。ダサいものはキライなんですよ。

佑太 「センスが良い=万人ウケする」ものではないと、ぼくは思っています。自分の感性や思考が現れているのが、センスの良さなんじゃないかって。ただ、それはビジネスになりにくい。でもマテポはライフワークの場だから、利益や誰かのためだと気張ることなく創作できる。お客様のためとか、お店に来る人のためというよりは、自分たちの場ですね。だから入りづらいっていう(笑)。

麻衣子 週末しか開いていないこともあって、何のお店か分からず入ってくる方もいますね。だからこそ、入りにくい雰囲気の場所へ「えいっ」と来てくれるお客様は、好奇心旺盛な方が多い気がします。私も、どういう活動や仕事をされている方なのか気になるし。ある時はお店に来てくれた男性と話していたら突然「ぼくニートなんです」って告白してきて、そのままお店で3時間話し込んだこともありましたね。

── たしかに西荻は、小さい入口で中が見えない、何屋さんか分からないようなお店が多いイメージです。

麻衣子 そうですね。目立たないけど魅力的、というところも多いんですよ。お店同士のつながりもあるんですけど、思ったよりも村っぽくなくて、居心地がいいです。私たちも、自分のやりたいことを自由にできます。

佑太 マイペースなひとが多いよね。マスメディアの価値観や流行、会社の思想やペースに流されない人が多い気がします。

マッテとポッケ

マッテとポッケ

── カイテンしかり、インテリアデザインや工務店の仕事もおふたりでされているんですよね。ご夫婦で仕事をする際のストレスというか……ぶつかることとかないのでしょうか?

佑太 ぼくは生まれてこのかた、仕事とプライベートを分けて考えたことがないので、そういう摩擦で苦労することはないですね。

麻衣子 私は「え?!」と思うこともあったけれど、最近は免疫がついてきました(笑)。

佑太 ぼく、基本ダメ人間なんで(笑)サラリーマン生活は向いていないんです。だから学生時代から個人事業主として10年間で働いていました。ただ、仕事の幅を広げたり、規模を拡大するとなると経理作業や処理まで手が回らなくなる。そこは、彼女にお願いしています。

麻衣子 私は大学を卒業してしばらく、OLだったんです。でもこの会社でずっと働き続けるイメージがわかなくて、前から興味があったインテリアやデザインを勉強するために、会社勤めをしながら専門学校に通っていたんです。そろそろ転職しようかなという時期と、結婚が重なって。結婚した日は、会社を辞めた次の日で、その数ヵ月後には会社を立ち上げました。

「マッテとポッケ」から「カイテン」へ

── 以前お店に来たときに、長野に拠点を置こうと思っているという話を少しだけ伺いました。

佑太 はい、ちょうど今、施工が始まったところで。そこもボロ屋をリノベーションしようと思っています。今後は、暮らしの拠点は長野につくり、仕事やプロジェクトのために時々東京へ出てくる、というスタイルにしたくて。自分自身の価値観や世界観をきちんと確立するために、創作にも集中したいし、東京で東京の感覚のまま暮らしていてもつまらないなと。

麻衣子 それに伴い、お店をリニューアルすることにしまして。

佑太 さっき決めました(笑)。

── そうなのですね! どんなふうに変わるのでしょうか。

麻衣子 ええっと……ちょっとカンペを見ながら話しますね。「『カイテン』とは、複数業種が集まり、曜日や週替わりで屋号が回転し、開店するシェア型ショップです」。金土は2dayギャラリーとして様々な作家さんや表現者が回転します。その他の日は曜日や週替わりでお店が変わります。2階は作家さんの作品や骨董、衣類、生活用品を扱うショップになります。

マッテとポッケ

佑太 長野に移住してしまうので、マテポを通じて出会ったひとたちと、共同運営したいなと思って。それに、ぼくらだけでやるよりも、この場の目的にも合っている気がするんです。

麻衣子 マテポでイベントをやったり展示をやったりした人たちは、本気でそれを生業にするかはわからないけど、新しいことチャレンジしたいというひと。試しにやってみよう、というひとの始まりの場になるといいなと思ったんです。

佑太 自分に自信がないと、思い切れないこともあるけど、自信がないほうがふつうですからね。何かやりたくて、くすぶっている人はたくさんいます。でも自分に自信がなくて思い切れない……でも、挑戦してみないことには何も変わらない。それに女性の場合、ライフイベントによって、ふたつのことを並行してやるのは今後当たり前になっていくだろうし、仕事だけでなく別にあるやりたいことを「カイテン」で実践してもらえたらなと。

麻衣子 それに、いつも閉まっている店だと言われていたから、これからはいつも開いているお店にしたいんです。そういうメッセージも、じつは込められているんですよ。

── 「カイテン」に出店する条件など、どんな方々に来て欲しい、などありますか?

佑太 ぼくらと価値観が合って、半年以上お店に立てるひとを募集していて……あとは飲み会により決定します(笑)。

麻衣子 出店したい方、ご連絡お待ちしてます!

※お問い合わせはこちらまで:info@mtp-shop.com

お話をうかがったひと

秋山 佑太(あきやま ゆうた)
高校より建築インテリアデザインと大工職人の技術を学び、19歳で独立。作れるデザイナーとして、店舗デザインや住宅リノベーションなど建築内装の設計施工の業務を行う。職人の世界とデザイン世界を横断できる人材こそ業界にとって最も重要というメッセージのもと活動。現在は長野アトリエにて木工を中心とした作品や小屋の制作も行う。株式会社サウンドオブアーキテクチャ代表取締役社長。参画工務店組合を主管する。

秋山 麻衣子(あきやま まいこ)
インテリア・プロップスタイリストとして、作家の作品から企業商品まで様々な物をスタイリング撮影を行っている。夫と株式会社サウンドオブアーキテクチャを立ち上げ、インテリアのデザインやスタイリングまたバイヤーとして活動。10人以上の女子が参加する実験的なプロジェクト「Me alice GRANDMA Project」の発起人でもある。

このお店のこと

カイテン
※元「マッテとポッケ」
住所:東京都杉並区上荻4丁目6番6号
電話番号:03-6324-7070
営業時間:不定期
定休日:不定期

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