2015年12月11日に、上野のいいオフィスで「『田舎には仕事がない』という幻想を打ち破る会議。」が開催されました。
登壇したのは、高知県長岡郡、本山町で暮らす、現役地域おこし協力隊の川端俊雄さんやNPO法人れいほく田舎暮らしネットワークの事務局長を務める川村幸司さん、新卒で高知の山奥に移住し、ブログ「自由になったサル。」を運営するフリーライターの矢野大地さんなど、田舎の仕事の現状を知る人々です。
イベントの目的は、「田舎には仕事がない」と思っている人たちのイメージを覆すこと。近々、第3期の地域おこし協力隊の募集も予定されています。地域暮らしに興味がある人や移住を考えている人に対して、高知県本山町の仕事と暮らしを赤裸々に語りました。イベントの様子をレポートします。
林業とカフェで起業? ミッション型の地域おこし協力隊
現役の地域おこし協力隊の川端 俊雄(かわばた としお)さんは、大阪府出身の42歳。2013年に本山町地域おこし協力隊に着任して、現在3年目を迎えた隊員です。協力隊員への応募の目的は、地域おこしではなく「山で生業を持つこと」。
「前職は深夜に勤務をしていたのですが、その仕事を一生続けられるとは思えなくて。40歳を機に、新しいことを始めようと考えて地域おこし協力隊の求人に応募しました。
じつは一時、奄美大島に住んでいたことがあります。害虫駆除の仕事をして山で働く気持ちよさを実感していたので、林業であれば一生続けられると思いました」(川端さん)
地域おこし協力隊の求人には、おおまかに2タイプあるそうです。
林業振興活動で応募した川端さんは、観光資源や地域資源を活用して、周辺地域を活性化させる活動を担う①地域支援型ではなく、②ミッション型の地域おこし協力隊になりました。ミッション型とは、農林水産業などの1次産業従事者となり、活動を通して移住した地域で起業、定住を目指すタイプです。
「地域おこし協力隊としての活動内容は、林業の職に就くために必要な資格を13種類取得したり、山に入って木材の間伐をしたり、地域の森林や山で仕事をしています。
具体的には9月〜4月までの8ヶ月間は、森林の木々の一部を間引く、間伐という作業をします。その後、加工しやすい木材にするために木々を搬出します。5月〜8月は自分が間伐した木材を活かすための仕事をします。フリーパネルにするなど、地元の企業と連携して動くことを計画中です」(川端さん)
川端さんいわく、林業の仕事は「恩送り」。川端さんをはじめ林業に従事する人が切る木々は、40〜50年前に地域の方々が植えてくれたからこそ、間伐できる。
「次世代まで伝えられる仕事に誇りを持っている」と川端さん。3年間、地域おこし協力隊としての任期後は、本山町での起業を考えているそうです。
「JOKI COFFEE(ヨキコーヒー)」代表の大下健一さんは、結婚のタイミングで、奥さんの実家である高知に移住。「D&DEPARTMENT」のカフェで働いていましたが、「飲食ではない仕事も経験してみたいけれど、食には関心がある」という気持ちから、定住するために仕事を探して、本山町の地域おこし協力隊に着任したそう。
地域によっては、やりたい仕事や相性のいい働き口が見つからないこともあるため、起業を想定したうえの「ミッション型」の地域活動をスタートした大下さん。モデレーターを務めた矢野大地さんから「人口4,000人の町でお店を開業する不安はなかったのか?」という質問を受けて、「本山町含む、嶺北地域だけを相手にお店をしているつもりはない」と話します。
「嶺北地域の飲食店を観察していたので、飲食業を始められる感覚がありました。良質であれば、人は来てくれる。嶺北地域だけで考えると人口約1万人ですが、高速道路を使って約50分の高知市から来てくださるお客さまが、じつはたくさんいるんです。だからぼくは地元だけに向けてコーヒーを淹れているというよりも、今は東京から高知にどうやってコーヒーを飲みに来てもらえるかをひたすら考えています」(大下さん)
地域おこし協力隊の制度のメリットについては、役所に所属して得られる地域での信頼性によって、生業を始める初期の投資リスクを軽減できる点を挙げました。JOKI COFFEEは最大で100万円支給される創業支援金の制度の利用や、県が行っているまちづくり支援事業を介して、建物の改修支援を受けているそうです。なお2016年2月には、東京・笹塚の十号坂商店街に2号店として、コーヒースタンドをオープン予定です。
移住支援者が語る、地域暮らしの「結・職・住」とは
イベントで移住の実情を語ったのが、移住者による、移住を支援するNPO法人「れいほく田舎くらしネットワーク」の事務局長を務める、川村幸司さん。川村さんは「灯台もと倶楽部」第1回のゲストでもある、妻のヒビノケイコさんと結婚し、子どもが産まれたことをきっかけに、地元にUターン。嶺北地域の土佐町で暮らし始めました。
「移住後は自然派菓子工房『ぽっちり堂』というカフェとネットショップを運営していたのですが、移住者が少なくて、さみしくなったんです。移住前の京都で暮らしていた頃のような仲間も増えたらと思って、ボランティアで移住支援の活動をはじめて、2007年12月にNPO法人化しました」(川村さん)
地域に移住して幸せに暮らすためには、3つの要素「結、職、住」が必要だと、川村さんは気が付きました。結はコミュニティ、職は仕事、住は住むところ。この3つがバランスよく整っていると、その地域に馴染んで暮らせます。その中でも、移住者が地域暮らしで一番イメージしづらいのが、「結」の要素だそう。
「移住者が地域のコミュニティの関係性がうまくつくること、保つことができないときに、移住しても地域を出て行ってしまうことがあります。だからぼくらは『結』をどうやってつくっていくのか考えて、定期的に移住者の交流会を催したり、元気がないなあと思ったら、その移住者と親しい友人に『最近、元気ないけど大丈夫?』って声をかけてもらったりします」
「あとは地域の人が、最近移住者が家から出ていないから『ニートちゃうかあ?』って勘違いすることもあります(笑)。そこで『まじめに仕事をしている人ですよ』と、出回った噂を処理するんです。こんなふうにセーフティーネットを移住者同士で張ることで、暮らしやすくなっているんだと思います」(川村さん)
また、川村さんは人口約4,000人の本山町で、毎回600人もの人々が集まる「土佐れいほくお山の手づくり市」を主催しています。野菜づくりやものづくりをしている移住者の発表の場にしたいという思いがあるといいます。
「嶺北地域は四国の中央に位置しているので、四国の各県からアクセスしやすいんです。高知市内から約50分、高松からも1時間半しかかからない。四国の真ん中に出展者同士が集まって知り合い、移住者が地域の人たちとつながれる場になればと思っています。
最近は子どもたちが、自分でつくったものを販売したり、店員として働く体験ができる『こどもマルシェ』を始めました。手作り市に出展している親の姿を見て、お店をやりたくなった子どもたちにも挑戦してもらおうと。子どもたちが頑張っている姿を見て、お年寄りも元気になる。コミュニケーションができる場になっていることが嬉しいですね」(川村さん)
「地域への移住は、子育てのためにする人も多いです。だから子どもマルシェの存在は非常に大きいですよね。『こどもマルシェ』のように移住者が創りだして生み出したものを、認めてもらやすい環境になっています」(矢野さん)
土地でやる仕事は、土地勘やつながりをつくろう
高知県本山町で暮らす人々が共通して言及したのは、地域で暮らしていくためのリアルな情報収集するのに、地域おこし協力隊はとてもいい仕組みだということ。見知らぬ土地に移住して、農業や林業をいきなり始めるのはハードルが高いものです。
「その場所でしかできない仕事をするなら、その土地の土地勘や地域の人との繋がりをつくることが大切です。地域おこし協力隊の報酬は16万5千円。正直、10万円あれば地域で楽しく暮らせますし、本山町の隊員は兼業もできます。3年間地域内でいろんなアクションを起こして、生業をつくっていきましょう」(矢野さん)
2009年に総務省で制度化された地域おこし協力隊制度は、地域、個人、地方公共団体の三方良しを考えた取組みです。本山町は制度化された翌年の2010年に、高知県内で初めて地域おこし協力隊を導入した地域。これまで任期を終えた隊員の6割は、本山町に定住しているそうです。
現在は6名の隊員が活動中。第3期となる地域おこし協力隊は、2016年の1月29日まで締切に、計5名を募集中です。
お話をうかがった人
川端 俊雄(かわばた としお)
専門学校、中の島美術学院卒。印刷業・DTPデザイン・塗装業・造形業を経て、高知県本山町の地域おこし協力隊に。任期終了後に現在活動中の任意団体「もとやま森援隊」を事業体に転換し、起業することが目標。中山間地における林業で地域を盛り上げようと活動中。
大下 健一(おおした けんいち)
1977年生まれ。大阪のカフェやレストランで勤務を経て上京。東京ではD&DEPARTMENTのダイニング事業部に勤務。結婚、出産を機に2010年高知県本山町に移住。本山町地域おこし協力隊として3年間の任期を終え、2013年12月に自家焙煎珈琲店「JOKI COFFEE」を立ち上げる。
矢野 大地(やの だいち)
2015年3月、高知大学卒業後、プロブロガーのイケダハヤトのアシスタントとして活動する。自身もブログ「自由になったサル」を運営しながら、高知県のPRなどの記事を書くフリーライターとして活動。同年10月、本山町にある標高800mの古民家(だいちハウスと命名)に移住し、古民家活用なども手掛けている。
川村 幸司(かわむら こうじ)
1976年生まれ。立命館大学卒。2006年土佐町へUターンし「れいほく田舎暮らしネットワーク」にて移住者の受け入れサポート、田舎に住んでからの「地元の人と移住者をつなぐ」活動をしている。 人口1万2千人程度のれいほく地域への移住者は、2012年からの3年間で212名。子供のいる家族連れが多い。『田舎暮らしの本』(2013年9月号)では、西日本の移住支援団体TOP3に選ばれた。