最小文化複合施設として、東京下町の谷中にうまれたHAGISO。かつてアパートだったところを、建築学科の学生が改築し、1階にはカフェとギャラリー、そして2階には美容院やオフィスが入っている施設に生まれ変わりました。

HAGISOに入ると、中廊下をはさんで左手がカフェスペース「HAGI CAFE」になっています。一人読書をする男性、おしゃべりに花を咲かせる若い女性、中には地元の中学生くらいの制服を着た女の子たちも楽しそうに輪をつくっています。

HAGISO,カフェ

シェアハウス「萩荘」から「HAGISO」へ変わる時には、既にカフェを併設させると決まっていたと言います。HAGISO企画運営担当の顧さんに、カフェとしてのHAGISOの魅力を伺いました。

生活のうちの「食」を大切にしたい

決して駅からは近くない立地のHAGISO。平日は子ども連れのママ会が開催されたり、週3回必ず来てくれるご老人がいたり、夜は仕事帰りのサラリーマンの方が夕飯や一杯のコーヒーを飲みに立ち寄ることも多いそうです。

「もともと萩荘に住んでいたメンバーが芸大出身ということもあって、表現する場としてギャラリーをつくることは決まっていました。けれど、ギャラリーだけだと来る人も限られてしまいますし、文化を育む場所として食を入れることはとても大事だと思うんです。食べることで、輪ができるというか。だからギャラリーで発信したものを受け取って、味わう場所、そして話のできる場所としてカフェをつくりました。」

HAGISO

ただ、カフェと言っても単にギャラリーに併設された喫茶スペースではつまらない。どちらもメインで、どちらも付属品にならないように、そしてそれぞれがクオリティの高いものになるよう、企画やメニューを考えていると言います。

「座ってコーヒーを飲んで休憩するだけではなく、生活の一環の食べる場所としても機能させたくて。立ち上げるときにメニューは料理研究家の方に相談しながらつくりました。

メニューをつくる際は、お客さんのターゲットを決めるというよりは、自分たちの食べたいものや季節感を表現出来るものをベースに考えてきました。ですからはじめは、ランチ、カフェ、ディナータイムと時間帯を区切ってメニュー構成を分けていました。」

HAGISO,カフェ

「ただ、オープンして半年くらいして、だんだん谷中の人の生活スタイルが見えるようになってきました。オフィス街と違ってみんな来る時間はバラバラ、食べるもの人それぞれだったんですね。だから、誰がいつ来ても心地よく過ごせるようにサンドイッチやマフィンなどに軽食もメニューに加わるようになりました。よくお店にくる地元の方の声を参考に、少しずつ変えていきました。

お酒もだいぶ増えましたね。オープン当初は少なかったんですが、ギャラリーを見ながら飲む方もいらっしゃるので。」

古いものから新しいものを生み出すストーリー

プロセスを作り手と受け取る側が一緒に楽しむ、というHAGISOのバックグラウンドはHAGI CAFEの運営にも反映されています。中でも、コーヒーは中身よりも先に使いたいカップが決まったと顧さんは教えてくださいました。

「このカップは、デザインが古かったり壊れた陶器をリサイクルしてサンドブラスト加工という砂をふきつける加工でできたカップなんです。知り合いの方がつくっているカップなんですけど、HAGISOのできたストーリーと似ているから、このカップで飲み物を出したい、と思って。」

 2周年を迎える3月からは新しいマグカップが登場するとのことです。
2周年を迎える3月からは新しいマグカップが登場するとのことです。

「手に取ると分かるんですが、このマグカップは他と比べるとけっこうたっぷり入るんです、200ミリリットル入ります。だから、カフェも飲み物をかきこむように飲むんじゃなくて、時間をかけて飲むような場所をイメージしようと思いました。コーヒーも、200ミリリットル飲んでも重くない味にしようと思って選んでいます。」

コースターになっている木版は、萩荘時代にあった棚を切り刻んで作ったもの。いたるところに、HAGISOのストーリーの片鱗がちりばめられているのが分かります。

偶然の出会いを、カフェからも

顧さんは、普段デザインのお仕事をされていますが、カフェの店員さんとしてお店に立つこともあるそうです。自分がカフェで接客をするとは思ってもみなかった、と笑う顧さんに、HAGISOが今後カフェという食の場をつかってやっていきたいことなどをお聞きしました。

「カフェのお客さんには、HAGISOが出来た経緯や、展示されている作品の話などを積極的に話すようにしています。たまたまふらっと立ち寄ってくれた方にそんな話をするととてもおもしろがってくれますし、ただケーキを食べるだけでなくもうひとつ話題を持ち帰ってくれたらいいなといつも思っています。

過去のパフォーマンスカフェの様子
過去のパフォーマンスカフェの様子(HAGISO公式HPより)

「また、カフェでやるイベントとしてパフォーマンスカフェというものがあります。これは、HAGISOレジデンスパフォーマンスプロジェクト『居間theater』のメンバーが企画しているイベントなのですが、ある特別な日だけ、カフェのメニューに混じってパフォーマンスのメニューがあって、コーヒーを注文するようにパフォーマンスもオーダーできるという仕組みです。

パフォーマンスを頼むと、おもむろにダンサーや音楽家がやってきて、3分間だけ踊ったり歌を歌ったりしてくれるんです。メニューには「ひとりじめ」「おすそわけ」「窓の外」という種類があって、パフォーマーとの距離が選べるようになっています。自分だけに何かやって欲しい場合は「ひとりじめ」、みんなとシェアして楽しみたい人は「おすそわけ」を頼みます。あと、HAGISOには庭もあるので、「窓の外」というオーダーもできるんです。

普通のカフェはお客さんそれぞれが自分たち時間の流れをもっていて個々の世界感に浸っていて、それが心地よさでもあると思います。ただ、パフォーマンスカフェはあえてそこを少しだけ紐解いているんです。たとえば、私はヨーロッパを旅したときに、夕暮れの広場のあちこちで踊りや音楽が奏でられていて、そこにいるととても幸福感に包まれるんです。パフォーマーが現れる3分間だけ、客席に突然小さな舞台が立ち上がり、それを見て隣の席や知らない人同士が顔を見合わせてくすっと笑ってしまう。すこし奇妙な時間だけど、その場にいた人とある瞬間を共有する。そんな時間がHAGISOにも立ち上がるんですよ。」

パフォーマンスカフェでは、踊りだけでなく音楽や朗読、写真撮影などもあるそうです。様々な人が出会い、物語の紡ぎ手になるような場所がHAGISO。「HAGI CAFE」では、今日もコーヒーのいい香りが漂い、HAGISOに集う人々をそっと包んでくれるでしょう。

お店の情報

HAGI CAFE
住所:東京都台東区谷中3-10-25 HAGISO
電話番号:03-5832-9808
営業時間:12:00~21:00
定休日:月曜日(祝日の場合火曜)
※イベントによって臨時休業あり
公式HP:HAGISO

この記事の裏話をnoteで限定公開中!