2014年から「場づくり」のチームとして、偶然にも同姓だった鈴木一史さんとともに「鈴木工芸社」を設立した鈴木崇之さんは2010年にフリーランスのデザイナーとして独立し、持続可能なサービスや場づくりのデザインをテーマに活動を開始しています。「メイカーズムーブメント」においての伝え手、と話すご自身の活動の展望についてお聞きしました。
ものづくりの成功体験を得やすいメイカー製品に感動した
── デザイナーとしてこれからやりたいことや、今好きだと思うことについても教えていただけますか。
鈴木崇之(以下、鈴木) 去年、縁があって関わらせていただいたあるプロジェクトがきっかけとなり、新しい出会いがありました。そのプロジェクトというのは、メーカー企業の本社屋内に、ものづくりのためのスペースを作るというもので、基本的には社員の方のコミュニティスペースなのですが、そこにはレーザーカッターや3Dプリンターなどの機材が設置されていて。
要は、何かアイデアを思いついたらすぐに形にできる、ものづくりのためのインフラが整っている環境です。あわせてセミナーなどの公的なイベントを開催するためのスペースにもなっています。僕も設計者として頻繁に出入りをしていましたし、開催されたイベントにも何度か参加させていただいたのですが、そこでいわゆるメイカーと呼ばれるような方々とたくさん知り合うようになり、同時に見たこともないワクワクする製品があることを知って、興味を持つようになりました。
── 例えばどんな製品があるのでしょうか。
鈴木 例えば、この「littleBits」とか。これはすごく簡単に言うと、ひとつひとつが機能を持っている基板です。モジュールと呼ばれているのですが、マグネットで各モジュールをつなげるだけで、機能をどんどん付け足していけるんですよ。
── すごいですね。
鈴木 この基板をひとつ作る場合でも、配線やハンダ付け、プログラミングなどいろんな作業が伴いますが「littleBits」ならマグネットでつなぐだけなのでとても簡単です。 仕組みがとてもシンプルなので、本当に手軽に「電子工作」を体感できて、なおかつ回路の仕組みまで学べてしまうすごいツールなんです!……ちょっとお見せしたいものがまだあってですね……。
(鈴木さんが席を立ち、ダンボールをガサゴソしている)
── 他にもあるのですか?
鈴木 紙に描くだけで電子回路ができる「AgIC」というメーカーの「回路マーカー」です。ペンのインクの中に銀が入っているので、専用用紙にこのペンで描くことで回路が作れます。自分で好きなように絵を描くように回路となる線を引いて、そこにLEDとボタン電池を貼ってブレスレットやブローチにするというワークショップで、AgICさんとご一緒させていただいたことがあります。
5歳くらいの子でも簡単に光る回路を作れる、ということに感動しましたね。回路作りといういかにも難しそうな作業なのですが、驚くほど簡単なので成功体験が得やすいんです。
── やってみたいです。「AgIC」はどうやって買うのでしょうか?
鈴木 Amazonで買えますよ。僕はたまたまワークショップでこの製品に実際に触れられたから良いけど、Amazonでこの製品の情報だけを見て買う人って、いますかね? どんなものか知ってからでないと、ちょっと買いづらいですよね。
── 買いづらいですね……。
鈴木 まずは触れてみたい。そういう製品ですよね。でも実際に触れることができるのは、ごく限られた一部の店舗だけで、あとはMaker Faireのような、年に数回開催されるイベントに行くしかないというのが実情で。
駄菓子屋の世界観で伝える「たのしいSTORE」
── いい製品があっても、知ったり触れたりする機会がないんですね。
鈴木 そうなんです。製品に触れられる機会がまだまだ少ないんですよね。それにまだ、いわゆるこういったテック系の製品を集めたお店もなかったので「じゃあ、自分でやってしまおう」と、いくつかの製品を集めたセレクトショップ「たのしいSTORE」をはじめました。
── あ、既に始まっているんですか。
鈴木 実店舗はまだなくてポップアップショップという形態なのですが、5月のゴールデンウィークに、渋谷ヒカリエさんではじめて出店させていただきました。
── へえー。「たのしいSTORE」。駄菓子屋みたいですね。
鈴木 駄菓子屋のような世界観で、ひとつひとつの製品をまずは目で見て面白いと感じてもらい、さらに手に取って体感してもらえたらと考えました。オモチャっぽく見えるけれど、「実はこういうことができるんだ、すごいな」と実感してもらうことができたらいいなと。
── 素敵ですね。
鈴木 あとは、テック系のものって、小難しく考えられたり語られたりしがちじゃないですか。専門用語だらけで実際に難しいところもあるので、「自分には縁がない」と思われている方も多い。僕自身も超がつくほどの文系タイプなので、最初は縁のない世界なのかなと思っていました。
ですが、先ほど紹介させていただいた製品のように、成功体験が得やすかったり、簡単にものづくりができる製品なら間口も広く、誰にでも接してもらえると思っています。例えば、自分でも作れたという経験が自信を持つきっかけになったり、興味をもってさらに技術を追求していくようになる、そういう可能性がたくさんある、とても魅力のある素晴らしいものなんです。
「使い方」と「活かし方」を提案していきたい
── たしかにテクノロジーには縁がないと思っても、数十年経てば、当たり前のように過去の技術になると思います。
鈴木 そうですね。今だから最新テクノロジーですけど、例えば50年経ったら、「工芸品」として定着しているかもしれません。かつての柳宗悦さんらによる「民藝運動」のように、「メイカーズムーブメント」から生み出されたものが別の誰かに見出され、そこから一気に世に広まるようになる、そういう可能性は大いにあると思っています。今はとにかく変化のスピードが早いので、もしかすると50年もかからないかもしれないですね。
── 鈴木さんが空間を手がけている部分とメイカーズムーブメントがどうつながるのだろうと考えていましたが、この小さな運動が進展すれば、生活者の暮らしにまで浸透する可能性は十分ありますよね。
鈴木 場をつくり、また機会をつくるデザイナーという立場から、「作り手」というよりかはむしろ「伝え手」として、STOREでの活動を通じて製品の活用方法を提案したり、製品開発をされている方々と一緒になって、さまざまな技術や要素をどうすれば生活の中で使えるようになるのかを考える「活かし方の提案」と、実際に手掛けている空間に製品を取り入れていく「使い方の提案」にも、今後は積極的にトライしていきたいと考えています。
僕も会社もまだまだこれからという段階ですが、ありがたいことに、新しいプロジェクトにタイミングよく声を掛けていただいたり、縁を感じたりするような出来事が最近、本当に多いんです。この先どんなことが起こるのか僕自身とても楽しみですし、今後の盛り上がりにも期待しています。
(写真一部引用:たのしいSTORE)
お話をうかがった人
鈴木 崇之(すずき たかゆき)
1981年生まれ。東京都板橋区出身。2004年多摩美術大学環境デザイン学科卒業。現ディアンドデパートメント株式会社での勤務を経て、2010年フリーランスのデザイナーとして独立。2011年株式会社ブランチ設立。店作りに於ける内側と外側の経験をもとに「持続可能なサービスや場づくりのデザイン」をテーマに活動を開始。2014年からは、これまでの領域から更に「場づくり」という部分を強化していくために鈴木一史とともに、「鈴木工芸社」を設立。