百貨店もセレクトショップも、モノは売れないと言われる時代。
しかしじつのところ、クリエイターが直接ファンとつながる方法を模索し、実践しているところが業績を伸ばしているといいます。
クリエイターやブランド、店舗の運営者にとって、全国に向けて何を発信し、どうやってファンをつくり、どのように市場に商品を流通させていくのか?
これは全国的に直面している大きな課題です。
東京のような市場が集積している土地が有利であるわけではありません。今や東京だけではなく、全国や海外まで市場は広がっています。
つまり、これまでの「発信」と「流通」の常識が崩れてきているのです。
新たなビジネスとアートが生まれ続ける都市と地域の共創関係をつくる「CREATORS CAMP」。
前編に引き続き後編は、台東区のクリエイターのハブとして活躍する台東デザイナーズビレッジ(以下、デザビレ)村長の鈴木淳さん、まちづくり会社ドラマチック代表の今村ひろゆきさんが、滋賀県長浜市の作り手を訪問。
長浜市と台東区がタッグを組むと、いったいどのような取り組みができるのでしょうか。
地域とモノづくりの「発信」と「流通」における課題を解決する術を探るべく、長浜視察を終えたメンバーは座談会をおこないました。
竹村 光雄
「湖北の暮らし案内所 どんどん」の運営等をおこなう長浜まちづくり株式会社の風景プランナー。長浜市に惹かれて移り住み、町の内と外をつなぐ役割を担いたいと考えている。
小林 雅弘
代々続く家業のもぐさ、お灸、よもぎ製品の製造販売をおこなう株式会社小林老舗の7代目。また新しく株式会社ゼネラボを設立し、豊臣秀吉や小堀遠州など、お茶文化の歴史もある長浜市に、薬草茶も含めたお茶の未来を考える研究所「レルブロイヤル・ティーハウス」を設立した。
鈴木 淳
株式会社ソーシャルデザイン研究所代表取締役。ものづくり企業のマーケティングが専門。カネボウファッション研究所勤務を経て独立。平成10年NPO法人ユニバーサルファッション協会を設立。平成16年日本で唯一のファッション・モノづくり系デザイナーの創業支援施設「台東デザイナーズビレッジ」の村長に。クリエイターや小さな企業の事業コンセプトやマーケティングの指導を行っている。
今村 ひろゆき
『まちづくり会社ドラマチック』代表。商業施設の開発・再生コンサルの仕事に従事後、独立。現代の公民館『SOOO dramatic!』、コワーキング&シェアアトリエ『reboot』『インストールの途中だビル』等の立上げ・運営を行う。公共施設再生などPFIやPPP案件の事業コンセプトの立案・賑わい創出の運営支援、企業や団体のコンテンツ戦略の立案、地域での協働コーディネート等を行う。拠点運営と合わせて人材や資源に注目したプロジェクトを展開し、町にユニークな人材や活動が根づき広がる土壌をつくる。
新たな生き方を模索するひとたちが増えている
鈴木淳(以下、鈴木) 長浜市のまちおこし活動は、最終的にどんな状況になるといいと思いますか?
竹村光雄(以下、竹村) 長浜市の旧市街は年間200万人の方が観光で町に来てくれるようになりましたが、その反面暮らすひとの数は減ってきていて、地域経済を下支えしてきた小規模な事業所の空洞化が進んでいます。心臓の部分がないと、観光客が来なくなってしまった時に町は散ってしまいます。
生活に根付いたビジネスが町の中心にあり、いろんなものが集まってきては絶えず動いている町はずっと続いてくと思っていて。
鈴木 つまり長浜市で働いて、稼いで、生活するひとを増やすというイメージ?
竹村 そうですね。
小林雅弘(以下、小林) 今また、今村さんとか僕ら34~5歳くらいから下の世代から、ようやく「就職して企業に勤めるのが当たり前」という考え方から一転して、自分で仕事をつくるひとが増えてきているように感じます。
自分で事業を起こしたりする、新たな生き方を模索するひとたちが増えることによって、地域内外から「ここに面白いやつがいる」と思ってもらいはじめている。
もちろん土地の力というのもあるんですけど、何かアクションを起こす力や誰かを魅了するひとの力が、結局ひとを連れてきて、町が活性化するんだと強く思います。
30代以下の世代は「潔さ」を持てるのだろうか?
小林 「黒壁」は町衆が数千万円を出しあって、投資して会社をつくったと聞きますが、その財力と、行動力と、覚悟がすごい。そういう力は、70とか80歳以上の世代のひとたちがすごく持っているような気がします。
僕の実家の集落でも、昔は今よりもお寺や神社の修繕など地域のために百万千万単位で寄付する方が多く、自分の生活が苦しいはずなのに地域のために喜んでお金を出す方が多かったと、父親から聞いています。
はたから見たらぶっ飛んでるんですけれど、自分のことはとにかく、地域のためにポンとお金を出す「潔さ」みたいなものがあったんだろうなぁと。
僕らの世代が今後、その潔さをはたして持てるのかどうか。そんな懐の余裕はないと、自分の生活を守るだけの行動へ向かう事のほうが多いかもしれない。
鈴木 バブルの頃に現役で稼いでいたひとたちは、お金に余裕がかなりあったので寄付できたのだと思います。でも、バブル以降に仕事を始めた40代以下の世代は、ものすごくお金にシビア。
稼げないことを前提に、どうやって生活しようかと考えている。僕からすると、その前の世代よりも、たしかに賢くて地道な感じがします。
おそらくその次の(30代以下の)世代が、自己承認と自己実現のために動く。町のためやひとのためにアクションを起こしたいひとたちがだいぶ増えていて、まさに今まちづくりプレイヤーになってきてるんじゃないのかな。
自分の生活を放っておいてでも、町のために尽くしちゃうようなイメージを僕は持っています。
今村ひろゆき(以下、今村) つまり長浜市にかっこいい大人の先輩がいるということは、すごくいい背中を見ているということ。着実に稼げるビジネスモデルを見つけることができれば、きっと黒壁をつくってきた先輩たちと同じように共同出資するだとか、町衆で協力して町をつくっていく若いひとたちが現れるんでしょうね。
鈴木 台東区では“町のために”といっても、地域のひとたちが多額の出資をするほどのことはなかなかありません。長浜市は、町のため、ひとのために、上の世代が動ける。それは羨ましいな、すごいなって思います。
これからの地域のプレイヤーって「何をする余地があるんだろう」って思うんです
鈴木 あの、話が変わるんですけど、これからの長浜市の若手プレイヤーって何をする余地があるんだろうかって思うんですよ。
竹村 そうですよねぇ……。
鈴木 観光分野は、結構もうやっているじゃないですか。そうすると、飲食なのかと思いつつ、もう1つは僕らがやっているようなモノづくりなのかなと。
竹村 そうだと思います。
小林 長浜は産業として工業が強く、大企業の拠点や工場も多く構える地域です。けれども世界全体の大きな風潮として、ラインで車のパーツだけをつくるようなものづくりよりも、1から100までをつくってモノを売りたいと思う若い世代が増えています。
鈴木 その土地でつくって、外貨を稼いで、地域にお金を持ってくる若いひとたちですよね。
小林 そういう仕事を若い世代の多くが求めてきている中で、たとえば自動車メーカーの部品をつくっている工場で、給料は安定的にもらえるけれども、やりがいとしては物足りなくなってきているひとたちがいる。
長浜だけじゃなく他の地域でも、ゼロからつくってエンドユーザーに届けるものづくり企業ができると、ものづくりの面白さをもっと体験できるので、やりがいを求め、そこに勤めたいひとも集まってきます。そういう企業が3つ4つできたら、地域は大きく変わりそうですよね。
今村 ワインで、風土を味わうという意味の「テロワール」という言葉があるらしいんですね。いろんな地域で小さな民間組織の動きが出てきているけども、大切なのは、その地域らしいところが見えてくるようなテロワールなんでしょうね。
テロワールとは:場所、気候、土壌など、ブドウが育つための全ての自然環境の特徴のこと。
竹村 米原市本市場という地域には「ナンガ」という高機能な国産ダウンのメーカーがあります。そういう「あれは湖北でつくっているものなんだ」って思ってもらえるようなモノがいくつか出てきて、それを訪ねてくる方が、集えるといいのかもしれない。
表面的なデザインよりも「ひとを巻き込む」デザイン
竹村 モノづくりと地域の関係でいうと、マルシェが全国各地で盛んになっていますよね。いろんな思いを持って動き始める方が増えています。何かをつくりだしていくというとても強いエネルギーが集まる場の雰囲気が人気を呼んでいるのだと考えていますが、それが地域の中でもあちこちに散在してしまいがちだと感じています。
町がちゃんとこの受け皿になることができたらというのが本音です。でも今のところ、それはできていないんですよね。ここをクリアーしていくことは「どんどん(湖北の暮らし案内所 どんどん)」を運営するひとつの目標です。
一方で自分自身もつくり手として挑戦していることがあるんですが、仕事として取り組むように意識しています。趣味の延長で考えていてはうまくかないと実感しています。
鈴木 そうですね。
竹村 そもそもの着想はもちろんとても大切なのですが、どうやってそれを形に落としこむかという商品化のプロセスと、さらにそれをどうやって伝えていくかという流通のプロセス、ここがとても重要だと感じています。
鈴木 流通面で今は本当にクリエイターさんには厳しい現状。国内生産と言いつつ外国人研修生を雇って安くものづくりをする方法も話題になり、趣味で商品を作りネットで販売するハンドメイド作家も増えている。これらのクリエイターの単価を下げる圧力はものすごくあります。
つまりこれからクリエイターが食べていくには、さらに厳しくなる。そこのところはデザビレの課題でもあります。
竹村 都市部でグラフィックをやっている方にパッケージをリデザインしてもらって、もっと幅広く流通させられるような可能性はあるんですか?
鈴木 商品をリデザインして売れるようになることもありますが、東京でデザインを変えて成功している事例は、担当したデザイナーやプロデューサー自身が販路を持っている場合が多いです。どちらかというと流通を押さえるほうを優先すべきです。
竹村 なるほど。
鈴木 なので、流通に影響力のあるひとを巻き込むのは、もしかしたらいいのかもしれないですね。
竹村 どんなものをつくるかよりも、どうやってそれを伝え、届けるかが重要。
鈴木 デザインに頼るよりは、その商品で、いろんなひとを巻き込む仕掛けをつくってみるのはどうでしょう。都心であろうと地方であろうと、その商品を応援したいというひとを増やすために、どうしたらいいか?というところがモノづくりのいちばんの課題です。
発信できる地域のスタープレイヤーを目指せ
竹村 消費者やバイヤーさんとの関係性をつくるというところが、これから僕らが目指すべきところでしょうか。
鈴木 百貨店もセレクトショップも売れない時代と言われています。できるだけ直接お客さんとつながる方法を模索して、それができたクリエイターがファンを獲得し、業績を伸ばしています。
竹村 モノを流通させて発信する拠点は、これまでは産業集積している都市が強かったですよね。でも今はインターネットの発達でその前提は崩れてきているので、地方が一概に不利ではないはずです。
鈴木 そうそう。自分が食べる分だけのお客さんを、どうやって確保するかって考えると、東京ではなく全国各地や海外に目を向けてもいい。
流通と発信のあり方が変わっているというのはつまり、10年、20年後に、地域に発信できるスタープレイヤーがどれぐらいいるかで、その地域の将来が変わってくるだろうということです。
竹村 そうですね。岡山の西粟倉村でベンチャー企業が何社か立ち上がっている様子を見ると、“できるまちなんだ”というイメージはみんな持ち始めますよね。
鈴木 前回もお話しましたけど、パリやミラノ、ニューヨークみたいに、カチクラは世界中からファッションを求めにひとが集まって来る町になったらいいなと思っています。現状クリエイターが地元に定着し、発信し、ちょっとずつ町を好きになってくれるひとが増えつつある状態。
小林 カチクラはどんな町にしたくて、どんなプレイヤーが必要だと思っているのか聞いてみたいです。
鈴木 ファッション業界だとアントワープ・シックスという先例があります。ベルギーのアントワープという場所に王立アカデミーで勉強した天才的デザイナーが6人現れた時期があって。彼らがパリコレでものすごく活躍しました。6人の活躍によって、世界的に「アントワープってすごいファッションの都だね」というイメージに、ガラッと変わりました。つまりスターが6人いるだけで、都市や国のイメージを変えられるんです。
竹村 すごい。
鈴木 だったらそういうひとが現れるといいなと、当時思っていましたね。
今村 そういう意味でいうと、長浜市には近江商人という先人がもうすでにいるわけですよね?
小林 そうですね。
竹村 近江商人は、百貨店をつくってきたひとたちで知られていますが、もともとは天秤棒をかついで全国を行商した方たち、つまり鈴木さんが仰っていた流通を任されたひとですよね。
小林 結局交通の便がいいから、商人なので長浜市を出て大きく成長していくんですけど、出ない形もあっていい(笑)。
竹村 都会のひとたちに“来てもらう“というような発想の転換はできますよね。長浜市は町の空間を大切に維持し続けてきたので、来てもらえるだけのテロワールがある。風土性、滋味深い食を担っているプレイヤーたちも豊富にいます。
小林 台東区の近江商人のような方々に来てもらって、こちらの面々と交流してもらうと。
長浜市の交流のハブを担いたい
竹村 2月8日のオープンディスカッションはどんなテーマになりそうでしょうか。
鈴木 地域のモノづくりの流通と発信の方法。ローカルの色が、その中で強みとしてどう活かせるのか。
竹村 ひとのつながりを最も優先して、応援してくれるひと、関わってくれるひとがどれだけ増えるか。町が蓄積してきた文化資本、つまりテロワールをどう組み立てられるのか……あたりを議論したいですね。
今村 まちづくりをやっていて“いい町だ”と思えるのは、思いを持って活動しているひとたちがたくさんいる地域。
その町に加わったら、自分も後押ししてもらえたり、あるいは仲間のひとりになれたりするかもしれないという希望がもてるんですよね。
カチクラもそうだし、長浜市もすぐにそういうふうになっていくだろうと感じます。そういう雰囲気になってくると、ひとの循環が起きて活動人口が増えていきます。
小林 僕が「どんどん」をきっかけに「ティーハウス」を構えるようになったように、この場所から新しい流れが生まれてきていると感じている方は少なくないように思います。
竹村 思いをもって活動してくれるひとが増えてきている機運に、「どんどん」のような場所が交流のハブであり、長浜市に興味のあるひとたちの入り口になっていってほしいですね。
イベントのご案内/詳細はこちら
東京都台東区×滋賀県長浜市
地域を通じた人の出会いから描くこれからのまちとクリエイション
-CREATORS CAMPに向けて-
■ 日時:平成30年2月8日(木)19:00-21:30(18:30開場)
■ 会場:長浜曳山博物館 伝承スタジオ(元浜町14-8)
■ 参加:無料(途中参加可)
■ ゲスト:台東デザイナーズビレッジ 鈴木淳さん
まちづくり会社ドラマチック 今村ひろゆきさん
ホスト:レルブロイヤル・ティーハウス 小林雅弘
湖北の暮らし案内所どんどん 竹村光雄
進 行:牧貴士、植田淳平
■ 主催・問合:長浜まちづくり株式会社(元浜町8-24)
電話/0749-65-3935
メール/info@nagamachi.co.jp
*参加申込みについて*
開場設営の都合上、上記主催者宛に参加される方のお名前と人数をご連絡ください。
電話・メールまたは事務所まで
引用:地域を通じた人の出会いから描くこれからのまちとクリエイション
(この記事は、長浜まちづくり株式会社と協働で製作する記事広告コンテンツです)