「移動する編集部」。僕ら「灯台もと暮らし」編集部は、特定のオフィスを持たず、様々な場所をお借りして、毎月異なるオフィスで日々仕事をしています。

2016年12月から開始したこの取り組み。第一弾は、世田谷区の世田谷代田・代沢にあるHi Monsieur(ハイムッシュ)さんでした。

ハイムッシュさんの内観1

ハイムッシュさんの内観2

今回はそのハイムッシュのオーナーである、大石護さんにお話をうかがいました。

大石さんは、カフェ空間とコーヒーに魅せられ、大学卒業後は地元の喫茶店で修行をしたのち、25歳からは大学で学んだ建築の知識を活かしてインテリア関連の仕事に就きます。

30代になって独立した大石さんが目指したのは、「どこよりも美味しいコーヒーを出すお店」や「インテリアを極めたお店」ではありませんでした。

もちろん、手を抜いているわけではありません。何かひとつのものにこだわり、極めるのではなくて、トータルなカフェ空間とそこで過ごす時間をお客さんに楽しんでもらうこと。それが大石さんの目指す空間づくりだったのです。

世田谷代田・Hi Monsieur(ハイムッシュ)大石護 from 灯台もと暮らし on Vimeo.

「心地いい」から世田谷代田でお店を始めた

──  最初に、ハイムッシュを始めるまでの経緯を教えてもらってもよいでしょうか?

大石 僕は大学が建築学科なんです。建築の中でも構造系を学んでいたんですけど、デザインとか模型とかつくっても「こんなデザインじゃ建物が建たないよ」とか、言われてしまって(笑)。構造は苦手だったので、デザインばかり中心に考えていたんですね。同時に、建物を見るのが好きだったのでいろんな街を見ていて。ちょうどその頃、今から10年前くらいですかね。カフェブームがありました。

インテリアの勉強のためにいろいろとカフェも見ていたんですけど、そのうちコーヒーが好きになって。大学は4年で卒業して、25歳までコーヒー屋さんで修行させてもらいました。そのお店は地元では有名な、豆を自分で焙煎しているお店で、昔ながらの喫茶店ですね。

その間に、ゆくゆくは自分のお店が持ちたい、自分の空間をつくりたいなぁとぼんやり考え始めました。で、25のときにインテリアの撮影業界の会社に就職して、その後独立してこのハイムッシュをつくりました。

大石 護(おおいし まもる)さん
大石 護(おおいし まもる)さん

──  撮影はどんなお仕事なんでしょうか?

大石 家具や小道具を使って、撮影のためのいろいろなシチュエーションの空間をつくります。アパレルの展示会のブースをつくったりとか。その仕事は8年間やりました。今もこのハイムッシュとは別に撮影の仕事は続けていますね。

Suchmosの2ndアルバム「THE KIDS」のリード曲「A.G.I.T.」のMVのプロップ・空間のスタイリングを担当しました
廃墟のロケーションにあわせた90‘sのロックをイメージしたスタイリングとCGやアニメーションを使用してスケール感のある内容となっています
引用元:Hi Monsieur(ハイムッシュ)公式ホームページWorksページより

──  お店の場所を、世田谷代田の代沢に選んだのはどういった理由があったんでしょうか?

大石 僕は生まれが神奈川の横浜市で、小学校3年から海老名で過ごしていました。コーヒー屋さんは地元の海老名近辺だったのですが、25歳で就職したときの勤務地が目黒だったんですね。そのときに一人暮らしをしていたのがこの近く(代沢近辺)なんです。当時の暮らしが、すごく心地よくて。この辺りで自分のスペースを持てたらいいなって考えて、独立したときにこの辺りを最優先で物件を探していました。

で、この物件が見つかって、角地だし、大家さんが外壁も内装も自由にリノベーションしていいよと言ってくれたので、この場所に決めました。都会のど真ん中なのにのんびりしているところだし、歩いていろんなところにも行けたし、緑道もあって暮らしやすかったんですね。近所のひとたちとのんびりするにはちょうどいい場所だなぁと思って。

もともとはもっと薄暗い、怪しい感じでやろうかなって思ってたんですけど(笑)。角地ですごく明るい感じだったんで、白基調の気持ちいい空間にするのがいいのかなというのは、物件を見て決めました。

ただただ好きなものを集めている

──  僕がお聞きしたかったのが、お店のこういうテイストってどういうふうに考えたらできるんだろうということで。僕が今から勉強してもこういう空間ってつくれないと思うんです(笑)。

大石 コーヒー屋さんで働いたあとの会社員時代に、買い付けで海外に行く機会もたくさんあったし、夏休みも海外を回っていたんですね。やっぱり空間が好きだったから、海外のカフェを1日中見て回ったりとか。その影響はすごく大きいんだろうなって思います。

1個1個のアイテムも、なんとなくでは選びたくなくて、どこかの真似はしたくない。いろんな影響を受けつつ、ちゃんと自分のフィルターを通して、自分がどうしてこれを選んだのか、ちゃんと言えるものしか選ばないようにしています。

本当に自分の気に入ったものしか飾っていないから、こういう空間になりました……。いや、本当に、ただただ好きなものを集めて、空間をつくっているだけなんですけどね(笑)。

──  今は、来られるお客さんは地元の方、電車に乗って来られる方、どちらが多いですか?

大石 電車で来る方のほうが多いですね。インスタグラムとか、SNSを見ましたって言ってくれる方が多いです。

──  へぇ! じゃあ訪れるのは、若いひとが多いんでしょうか?

大石 若い子たちが多いですね。地元のひとたちは営業時間が11:00〜19:00なので、なかなか来づらいかもしれません。平日は、おじいちゃんおばあちゃんが来たり、本読んだりしてくれています。「友だちがインスタに写真あげてるの見て来ました」とか、それこそフォロワーが何千人とかいるひとがアップして、翌日たくさんお客さんが来てくれるなんてこともあります。「あのひとの見て来たでしょ?」って言うとだいたい当たるくらいですよ。

──  海外の方も来られることが多いですか?

大石 近くにゲストハウスがあるんです。だから朝はヨーロッパ系の方とか来てくれることが多いですね。

楽しめる空間と時間を提供したい

ハイムッシュさんの内観3

──  こういう場をつくって、ご自身が満足したいポイントというか、どう思ってもらえるのが一番嬉しいんですか?

大石 それはたぶん建築をやっていた頃からそうなんですけど、SNSで写真を見てもらえることも嬉しいのですが、やっぱり実際に来てもらって、空間を楽しんでもらうことが嬉しいことですね。

それこそ、カフェブームのときにいろんな場所を見て回ったんですが当時のカフェは、今ほどコーヒーが美味しいわけでもなく、料理が食べられるおしゃれな空間です、というお店が多くて。そういう時代にカフェのことを勉強したから、当時の影響はあるのかなって感じますね。もちろん美味しいコーヒーを楽しんで欲しいのですが、コーヒーもあっていい音楽もあって、空間がある。そこで過ごす時間を、トータルで楽しんでもらえたらいいなっていうのはずっとあるんです。

海外のカフェとか行くと、現地のお客さんが、ここが自分の居場所だ!ってくらい、すっごいゆったりくつろいでいるんですよ。その印象が強くありますね。正直めちゃくちゃコーヒーが美味しいわけではなくても、ひとが集まってワイワイ楽しくやってる。そういうものをつくりたいなっていうのはありますね。業態としてはカフェなんだけど、入り口としては「コーヒーを提供したい」じゃなくて、「楽しめる空間と時間を提供したい」っていうのが僕の根底にあるんだと思います。

これからやりたいこと

──  大石さんご自身は今後の目標とか想像している暮らしってありますか?

大石 僕にとって「できること」「やりたいこと」はあくまで「空間づくり」なんです。イメージとしては、もうちょっと規模を大きくしてやっていきたいというのはあって。たとえば、もっと広い敷地で、屋外の公園や広場を持ちながら、ゲストハウスとかギャラリーとか、カフェとか併設させられるような空間をつくれたらよいなって考えています。イメージとして自分の中にあるんですけど、たぶん規模的に東京では無理なので。今は葉山とか、そっちのほうで物件を探しています。

──  へぇー! それは行きたいですね。

大石 ただ、撮影の仕事もあるので、東京から車で1時間の範囲で探していますね。できれば2017年中には、ある程度このエリアにするんだと決めて、リサーチしながら、2、3年後には物件をちょっとずつ自分たちの手でつくり始めて5年後には形にはしたいというストーリーを考えています。

──  自分たちでつくる、みたいなイメージなんですか?

大石 そうですね。それができたらいいなぁっていう、今は願望だけですけど。

──  すごく、楽しみです。ありがとうございました!

お話をうかがったひと

大石さんが仕事をする姿

大石 護(おおいし まもる)
1982年、神奈川県横浜市生まれ。大学卒業後、喫茶店での修行時代とインテリア撮影の会社での会社員時代を経て、ハイムッシュをつくる。ハイムッシュは「世界のいろいろな場所から“ムッシュ”の好きなモノを集めたお店 コーヒーを飲みながら、雑貨や本、花を見て買える 特別な面白いお店です」(公式ホームページより)。